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第四章「昔語り」
第44話 昔語り
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「落ち着いた。その、ありがとうなマナカ。すごく楽になった」
「ううん、わたしはぎゅってしただけだもん」
「……まぁ、言われてみればそうかもな」
「むむっ、そこは否定するところではありませんか、流れ的に。否定するところではありませんか、流れ的に。大事なことなので2回言いましたよ!」
場を和ませるためだろう、分かりやすくぷんすかしてみせるマナカに、
「ごめんごめん、感謝してる。ありがとうマナカ。あれをやったあとはさ、いつもは少なくとも数日は気分が滅入るっていうのに、今は自分でも不思議なくらいにすっきりしてるんだ。それもこれも全部マナカのおかげだ」
俺は改めて素直な感謝の気持ちを告げた。
心の中の正直な想いをマナカに伝えたいと、そう思ったから。
「うえっ!?」
だっていうのにマナカは素っ頓狂な声をあげると、ぴょこんと小さく飛び上がってまで驚いたのだ。
「いやどんな反応だよ……」
思わず尋ねた俺に、
「だってユウトくんだよ!? てっきり『なんだ、今度は親切の押し売りか? お里が知れるな』とか言われると思ったのに」
「さすがにこの状況でそんなことは言わねーよ……本当に感謝しているんだ。ありがとうな、マナカ」
「えへへ、それほどでも、あったりなかったり?」
何度も感謝の言葉を投げかけられて、てれりこするマナカは本当に可愛いくて。
「――俺には仲のいい姉さんがいたって話はしただろ? 昔よく動物園に連れて行ってもらったんだ」
「あ、だから動物園が好きだったんだね。納得なのです」
――だからこれは自然な流れだったのだろう。
昔語りを聞いてほしい、なんて思ってしまったのは。
マナカのことを知りたいと思うと同時に、自分のこともマナカに知ってもらいたいと、そう思ってしまったのは――。
マナカも俺の自分語りしたいオーラをなんとなく察してくれたのか、にこにこ顔で続きを待ってくれている。
「俺の生家は武器の『剣』に部活の『部』って書く《剣部》っていう千年続く名門退魔士の、しかもその宗家でさ」
「剣に部で剣部? 鶴木辺じゃなくて? むむむ……??」
「それについてはあとで話すよ。で、姉さんは《剣部》の歴史でも1,2を争うほどの天才だって言われてて。だから次に生まれた俺も、最初はすごく期待されていたんだ」
「うんうんわかるよ。ユウトくんってば、すっごく強いもんね。そりゃ期待もされるってなもんだよね」
「……だったら良かったんだけどな。残念ながら俺には、退魔士としての才能が全くと言っていいほどなかったんだ」
「――え?」
よほど意外だったのか、鳩が豆鉄砲を食ったようにきょとんとマナカが首をかしげた。
「《剣部》宗家の人間には代々 《心剣》――自らの魂を具現化した想いの刀――を作り出す力があったんだ。《想念獣》と対等以上に戦うことができる異能の力。一族を退魔士の中でも名門中の名門へと押し上げたその《心剣》を、俺はついぞ作り出すことができなかった。そして俺は10歳になる前に、遠縁の分家筋である鶴木辺――今の名字のところに養子に出された」
「えっ――」
「おいおい、そんな顔するなよ。親と不仲だったとか勘当されたとか、別にそういうわけじゃなかったんだ。ただ『宗家の人間たるもの十を迎えた後は先陣を切って戦うべし』ってしきたりがあってさ。両親は《心剣》を生み出せない俺が、戦う力も持たないまま戦場に立つことがないようにと、俺を比較的安全な分家に入れたってわけだ」
「でもそんな――二十一世紀にもなって、そんな時代錯誤なしきたりなんて――」
「しきたりとか家訓とか、今でも古い家系にはわりとよくある話なんだよ。で、一門を率いる宗家の頭領として体面を守らざるを得ない両親に代わって、事あるごとに分家に顔を出しては、俺の面倒を見てくれたのが姉さんだったんだ」
「素敵な人だったんだね、ユウトくんのお姉ちゃんって」
「ああ、俺にとっては間違いなく日本一の姉さんだった」
「やっぱりシスコン――もごもご」
マナカが何事か言いかけて、慌てて両手を口に押し当ててわかりやすく口をつぐんだ。
まぁ察しはつくけどな……。
「それにさ、分家の生活だって別に悪いものじゃなかったんだ。いい人ばかりだったし、《心剣》に頼らない戦い方だって教えてもらった。なにより姉さんが頻繁に会いに来てくれたからな。その時の俺は、間違いなく幸せだったんだ」
そう、奴が現れるまでは。
「ううん、わたしはぎゅってしただけだもん」
「……まぁ、言われてみればそうかもな」
「むむっ、そこは否定するところではありませんか、流れ的に。否定するところではありませんか、流れ的に。大事なことなので2回言いましたよ!」
場を和ませるためだろう、分かりやすくぷんすかしてみせるマナカに、
「ごめんごめん、感謝してる。ありがとうマナカ。あれをやったあとはさ、いつもは少なくとも数日は気分が滅入るっていうのに、今は自分でも不思議なくらいにすっきりしてるんだ。それもこれも全部マナカのおかげだ」
俺は改めて素直な感謝の気持ちを告げた。
心の中の正直な想いをマナカに伝えたいと、そう思ったから。
「うえっ!?」
だっていうのにマナカは素っ頓狂な声をあげると、ぴょこんと小さく飛び上がってまで驚いたのだ。
「いやどんな反応だよ……」
思わず尋ねた俺に、
「だってユウトくんだよ!? てっきり『なんだ、今度は親切の押し売りか? お里が知れるな』とか言われると思ったのに」
「さすがにこの状況でそんなことは言わねーよ……本当に感謝しているんだ。ありがとうな、マナカ」
「えへへ、それほどでも、あったりなかったり?」
何度も感謝の言葉を投げかけられて、てれりこするマナカは本当に可愛いくて。
「――俺には仲のいい姉さんがいたって話はしただろ? 昔よく動物園に連れて行ってもらったんだ」
「あ、だから動物園が好きだったんだね。納得なのです」
――だからこれは自然な流れだったのだろう。
昔語りを聞いてほしい、なんて思ってしまったのは。
マナカのことを知りたいと思うと同時に、自分のこともマナカに知ってもらいたいと、そう思ってしまったのは――。
マナカも俺の自分語りしたいオーラをなんとなく察してくれたのか、にこにこ顔で続きを待ってくれている。
「俺の生家は武器の『剣』に部活の『部』って書く《剣部》っていう千年続く名門退魔士の、しかもその宗家でさ」
「剣に部で剣部? 鶴木辺じゃなくて? むむむ……??」
「それについてはあとで話すよ。で、姉さんは《剣部》の歴史でも1,2を争うほどの天才だって言われてて。だから次に生まれた俺も、最初はすごく期待されていたんだ」
「うんうんわかるよ。ユウトくんってば、すっごく強いもんね。そりゃ期待もされるってなもんだよね」
「……だったら良かったんだけどな。残念ながら俺には、退魔士としての才能が全くと言っていいほどなかったんだ」
「――え?」
よほど意外だったのか、鳩が豆鉄砲を食ったようにきょとんとマナカが首をかしげた。
「《剣部》宗家の人間には代々 《心剣》――自らの魂を具現化した想いの刀――を作り出す力があったんだ。《想念獣》と対等以上に戦うことができる異能の力。一族を退魔士の中でも名門中の名門へと押し上げたその《心剣》を、俺はついぞ作り出すことができなかった。そして俺は10歳になる前に、遠縁の分家筋である鶴木辺――今の名字のところに養子に出された」
「えっ――」
「おいおい、そんな顔するなよ。親と不仲だったとか勘当されたとか、別にそういうわけじゃなかったんだ。ただ『宗家の人間たるもの十を迎えた後は先陣を切って戦うべし』ってしきたりがあってさ。両親は《心剣》を生み出せない俺が、戦う力も持たないまま戦場に立つことがないようにと、俺を比較的安全な分家に入れたってわけだ」
「でもそんな――二十一世紀にもなって、そんな時代錯誤なしきたりなんて――」
「しきたりとか家訓とか、今でも古い家系にはわりとよくある話なんだよ。で、一門を率いる宗家の頭領として体面を守らざるを得ない両親に代わって、事あるごとに分家に顔を出しては、俺の面倒を見てくれたのが姉さんだったんだ」
「素敵な人だったんだね、ユウトくんのお姉ちゃんって」
「ああ、俺にとっては間違いなく日本一の姉さんだった」
「やっぱりシスコン――もごもご」
マナカが何事か言いかけて、慌てて両手を口に押し当ててわかりやすく口をつぐんだ。
まぁ察しはつくけどな……。
「それにさ、分家の生活だって別に悪いものじゃなかったんだ。いい人ばかりだったし、《心剣》に頼らない戦い方だって教えてもらった。なにより姉さんが頻繁に会いに来てくれたからな。その時の俺は、間違いなく幸せだったんだ」
そう、奴が現れるまでは。
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