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第四章「昔語り」
第41話 トラウマ
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そしてその間にも続く一方的な遠距離攻撃。
「ああもう、いろいろ面倒くせぇ……よし、マナカ、跳ぶぞ。いいって言うまで、絶対に喋るんじゃねーぞ」
「え!? いやそのちょっと、待って。まだ心の準備がふぁぁぁぁああああ――」
「喋んなって言ってるだろ――」
フェイントをいくつも重ねて幻惑しておいてからの大ジャンプだ。
《魔術師型》との距離を一気に離すと、俺はいったんマナカを木陰へと降ろした。
「しゃあねぇ。あれやるか。マナカはいつも通りここでじっとしてるんだぞ」
俺の言葉にマナカがこくんと頷いた。
「ユウト、大丈夫?」
「短時間なら大丈夫だ。その代わり、二の太刀要らずだ。一撃で決めるぜ――あああぁぁぁっっっ!」
俺の咆哮とともに、《魔術師型》が突如としてあらぬ方向を攻撃し始めた。
クロの力は《認識阻害》。
その《認識阻害》を強烈に一点照射することで、相手に質量すら感じさせる本物そっくりの幻影を見せるという俺のとっておきだ。
その代償として心臓を掴まれるような恐怖感とともに、急激な動悸と息切れが俺を襲ってくる。
速まりすぎた呼吸を少しでも落ち着かせるようにと、一度大きく大きく息を吸って、吐き出した。
高ぶる動機をほんのわずか落ち着かせると、俺は死角へと回り込むようにしながら慎重かつ迅速に《魔術師型》との距離を詰めていく。
そしてニセの俺に飛び道具を放ったその隙を狙い澄まして、
「ハ――ッ!」
まさに《魔術師型》の目の前、敵の懐へと飛び込んだ――!
いきなり出現した俺の姿に、慌てて後ろに下がろうとする《魔術師型》。
だが――、
「悪いが、そいつも偽物だ――」
《魔術師型》が跳び下がったちょうどその先で、本物の俺は右足で強烈に大地を踏みしめていた。
立ち昇る反発力を、溜めの連鎖でうねらせ強化しながら横回転へと増幅変換していく、それは必殺必倒の討滅奥義――!
「《螺旋槍》――!」
その完全無防備な背中側から、俺は容赦ない一撃を叩き込んだ。
必殺の一撃を喰らい、抵抗する間もなくさらさらと粒子となって霧散していく《魔術師型》。
最後に残った《想貴石》を空中でキャッチして回収した俺は、
「かは――っ、あ、ぐぁ、が――」
そのままその場に、文字通り崩れ落ちてしまっていた――。
はぁはぁと呼吸が荒い。
頭がガンガンして、目の前がぐるぐる回っている。
「ぐ、あぐっ……、かっ、は――っ」
呼吸が乱れ、体が震えて立ち上がることすらおぼつかない――。
そして、真っ黒に焼け落ちた剣部の屋敷が、悲鳴のような叫び声が、「お守りだよ」と言った姉の最後の言葉が。
取り返せない過去が俺の目の前に走馬灯のように浮かんでは消え、浮かんでは消えるを繰り返し始めた――。
過換気症候群と呼ばれる心因性の過呼吸だ。
俺の場合は《想念》の使用強度を上げすぎた時に、過去のトラウマのフラッシュバックという形で発症してしまうのだった。
「さすがに今のは……ぐっ、力を、使いすぎたか……」
息が苦しくて、気分が悪くて――俺は四つん這いにはいつくばったままで、痙攣するように震えながら、苦しみが過ぎ去るのをじっと静かに縮こまって耐え忍ぶ。
大抵のことなら相棒のクロが元気づけてくれるのだが、ことが《想念》使用による過剰な負荷が原因なだけに、大元の《想念》であるクロが出てくるわけにはいかず、俺を刺激しないようにと引っ込んだまま黙っているしかなく――。
俺はただ一人、夜の闇に這いつくばって――、
「そうだ……携帯、携帯を――」
「ああもう、いろいろ面倒くせぇ……よし、マナカ、跳ぶぞ。いいって言うまで、絶対に喋るんじゃねーぞ」
「え!? いやそのちょっと、待って。まだ心の準備がふぁぁぁぁああああ――」
「喋んなって言ってるだろ――」
フェイントをいくつも重ねて幻惑しておいてからの大ジャンプだ。
《魔術師型》との距離を一気に離すと、俺はいったんマナカを木陰へと降ろした。
「しゃあねぇ。あれやるか。マナカはいつも通りここでじっとしてるんだぞ」
俺の言葉にマナカがこくんと頷いた。
「ユウト、大丈夫?」
「短時間なら大丈夫だ。その代わり、二の太刀要らずだ。一撃で決めるぜ――あああぁぁぁっっっ!」
俺の咆哮とともに、《魔術師型》が突如としてあらぬ方向を攻撃し始めた。
クロの力は《認識阻害》。
その《認識阻害》を強烈に一点照射することで、相手に質量すら感じさせる本物そっくりの幻影を見せるという俺のとっておきだ。
その代償として心臓を掴まれるような恐怖感とともに、急激な動悸と息切れが俺を襲ってくる。
速まりすぎた呼吸を少しでも落ち着かせるようにと、一度大きく大きく息を吸って、吐き出した。
高ぶる動機をほんのわずか落ち着かせると、俺は死角へと回り込むようにしながら慎重かつ迅速に《魔術師型》との距離を詰めていく。
そしてニセの俺に飛び道具を放ったその隙を狙い澄まして、
「ハ――ッ!」
まさに《魔術師型》の目の前、敵の懐へと飛び込んだ――!
いきなり出現した俺の姿に、慌てて後ろに下がろうとする《魔術師型》。
だが――、
「悪いが、そいつも偽物だ――」
《魔術師型》が跳び下がったちょうどその先で、本物の俺は右足で強烈に大地を踏みしめていた。
立ち昇る反発力を、溜めの連鎖でうねらせ強化しながら横回転へと増幅変換していく、それは必殺必倒の討滅奥義――!
「《螺旋槍》――!」
その完全無防備な背中側から、俺は容赦ない一撃を叩き込んだ。
必殺の一撃を喰らい、抵抗する間もなくさらさらと粒子となって霧散していく《魔術師型》。
最後に残った《想貴石》を空中でキャッチして回収した俺は、
「かは――っ、あ、ぐぁ、が――」
そのままその場に、文字通り崩れ落ちてしまっていた――。
はぁはぁと呼吸が荒い。
頭がガンガンして、目の前がぐるぐる回っている。
「ぐ、あぐっ……、かっ、は――っ」
呼吸が乱れ、体が震えて立ち上がることすらおぼつかない――。
そして、真っ黒に焼け落ちた剣部の屋敷が、悲鳴のような叫び声が、「お守りだよ」と言った姉の最後の言葉が。
取り返せない過去が俺の目の前に走馬灯のように浮かんでは消え、浮かんでは消えるを繰り返し始めた――。
過換気症候群と呼ばれる心因性の過呼吸だ。
俺の場合は《想念》の使用強度を上げすぎた時に、過去のトラウマのフラッシュバックという形で発症してしまうのだった。
「さすがに今のは……ぐっ、力を、使いすぎたか……」
息が苦しくて、気分が悪くて――俺は四つん這いにはいつくばったままで、痙攣するように震えながら、苦しみが過ぎ去るのをじっと静かに縮こまって耐え忍ぶ。
大抵のことなら相棒のクロが元気づけてくれるのだが、ことが《想念》使用による過剰な負荷が原因なだけに、大元の《想念》であるクロが出てくるわけにはいかず、俺を刺激しないようにと引っ込んだまま黙っているしかなく――。
俺はただ一人、夜の闇に這いつくばって――、
「そうだ……携帯、携帯を――」
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