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第四章「昔語り」
第40話 腹の肉
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「ね、ねぇユウトくん。今の状況ってってもしかしなくても、やばくない?」
俺はマナカを小脇に抱えたまま、
「そうだな」
と短く応じた。
同時に後方に意識を向けつつ、右に左に次々とステップを切ってゆく。
砲撃が近くに着弾して風圧でバランスを崩しかけるものの、どうにかこうにかこらえると、体勢を立て直して再び走りはじめた。
「くそっ、好き勝手バンバン撃ちやがって……これだから遠距離攻撃タイプってのは嫌なんだ……」
「接近戦しかできないユウトにとって、《魔術師型》は一番相性が悪い相手だからね」
「しかもできたばっかりにしては固着度が高すぎだろ。ったく、最近はアニメやソシャゲでこういうのに触れる機会が多いから――」
「どうしても《想念》が固着化しやすいよね。質の面に加えて、分母が増えれば当然、出現頻度も上がるし、世の中が便利になるのも困りものだねぇ」
この日、俺は苦手としている遠距離タイプ相手に大苦戦を強いられていた。
《魔術師型》と呼ばれるこの《想念獣》は、主に物語の中に登場する、惚れ惚れするような登場人物への憧れと、それに比して魅力のない自身へのコンプレックスが結びついた時に生まれやすい《想念獣》だと言われている。
かつてはほとんど出現しない非常に珍しい《想念獣》だったものの、近年、漫画やアニメ、ソシャゲの隆盛と相まって、飛躍的にその出現頻度が上がった《想念獣》の一つだった。
そして特徴として飛び道具を持っていることが多く、近づかなければ何もできない俺にとっては、最も苦手な相手なのだった。
それと、今回は苦戦してる理由がもう一つあって、
「きゃうーーーーん」
今、俺はマナカを小脇に抱えたまま逃げ惑っていたのだった。
なんせいつものように安全地帯にマナカを退避させる前に、遠距離砲撃によって戦端が開いてしまったため――かなり遠距離からいきなり狙い撃たれた――いつものようにマナカを逃がす暇がなかったのだ。
「ボクたちが気付く前にいきなり攻撃してきたし、まるでユウトを狙って待ち伏せしていたみたいだよね」
「最近多いよな。《想念獣》の行動の不可解さが気になるな」
「なんかこう組織立ってるというか、まるで誰かが糸を引いているみたいというか。なんにせよ少し警戒の度合いを上げたほうがいいのかも」
そうだ、気になると言えばもう一つ。
「マナカ」
「ん、なに?」
「おまえちょっと太っただろ」
「うにゃーっ!? い、いいい、いきなりなにを言い出しますかっ!!??」
「いや明らかに腹の肉付きがいいからな。抱いたらすぐわかったぞ」
「女の子に腹の肉付きとか言うなし! あと抱いたとかも言うなし! このセクハラ大魔王ユウトくんめ!」
抱えた腕の中でぎゃーすか暴れるマナカだが、
「ああもう落とすから暴れるなってば。ったく、どんな人間も図星を突かれると途端に攻撃的になるんだよな。その反応だと、どうせ心当たりがあるんだろ」
俺が視線をやると、マナカの目が分かりやすーく泳いだ。
「ううっ……じ、実は先日、半額クーポンを貰って……2日続けてちーゃんたちと駅ビルの人気ケーキバイキングに……チーズケーキとモンブランがすごく美味しくて、つい食べ過ぎた、ような気が、しなくもないかもしれない……」
「それだな」
「はうぅ……」
「でもこれくらいなら許容範囲だろ? 1キロなんて何もしなくても増減するもんだしな。まぁ、しばらくカロリーを控えめにするなり運動するなりすれば、すぐに腹の肉も落ちるさ。あんまり気にするな」
俺なりに元気づけたつもりだったんだけれど、
「気にするよ!? 女の子にとって体重は死活問題なんだよ!? っていうか言うに事欠いて腹の肉、腹の肉って! 酷い! わたしのこと女の子として見てないの!?」
マナカはうがー!とがなり立ててきた。
「まぁなんだ、今のは俺が悪った」
女の子に体重の話をするとか、これはまた後でクロから正座&説教のコンボを喰らうことは間違いない。
《魔術師型》による後ろからの攻撃に気をとられすぎてて、会話のチョイスを完全に間違えたようだ。
俺はマナカを小脇に抱えたまま、
「そうだな」
と短く応じた。
同時に後方に意識を向けつつ、右に左に次々とステップを切ってゆく。
砲撃が近くに着弾して風圧でバランスを崩しかけるものの、どうにかこうにかこらえると、体勢を立て直して再び走りはじめた。
「くそっ、好き勝手バンバン撃ちやがって……これだから遠距離攻撃タイプってのは嫌なんだ……」
「接近戦しかできないユウトにとって、《魔術師型》は一番相性が悪い相手だからね」
「しかもできたばっかりにしては固着度が高すぎだろ。ったく、最近はアニメやソシャゲでこういうのに触れる機会が多いから――」
「どうしても《想念》が固着化しやすいよね。質の面に加えて、分母が増えれば当然、出現頻度も上がるし、世の中が便利になるのも困りものだねぇ」
この日、俺は苦手としている遠距離タイプ相手に大苦戦を強いられていた。
《魔術師型》と呼ばれるこの《想念獣》は、主に物語の中に登場する、惚れ惚れするような登場人物への憧れと、それに比して魅力のない自身へのコンプレックスが結びついた時に生まれやすい《想念獣》だと言われている。
かつてはほとんど出現しない非常に珍しい《想念獣》だったものの、近年、漫画やアニメ、ソシャゲの隆盛と相まって、飛躍的にその出現頻度が上がった《想念獣》の一つだった。
そして特徴として飛び道具を持っていることが多く、近づかなければ何もできない俺にとっては、最も苦手な相手なのだった。
それと、今回は苦戦してる理由がもう一つあって、
「きゃうーーーーん」
今、俺はマナカを小脇に抱えたまま逃げ惑っていたのだった。
なんせいつものように安全地帯にマナカを退避させる前に、遠距離砲撃によって戦端が開いてしまったため――かなり遠距離からいきなり狙い撃たれた――いつものようにマナカを逃がす暇がなかったのだ。
「ボクたちが気付く前にいきなり攻撃してきたし、まるでユウトを狙って待ち伏せしていたみたいだよね」
「最近多いよな。《想念獣》の行動の不可解さが気になるな」
「なんかこう組織立ってるというか、まるで誰かが糸を引いているみたいというか。なんにせよ少し警戒の度合いを上げたほうがいいのかも」
そうだ、気になると言えばもう一つ。
「マナカ」
「ん、なに?」
「おまえちょっと太っただろ」
「うにゃーっ!? い、いいい、いきなりなにを言い出しますかっ!!??」
「いや明らかに腹の肉付きがいいからな。抱いたらすぐわかったぞ」
「女の子に腹の肉付きとか言うなし! あと抱いたとかも言うなし! このセクハラ大魔王ユウトくんめ!」
抱えた腕の中でぎゃーすか暴れるマナカだが、
「ああもう落とすから暴れるなってば。ったく、どんな人間も図星を突かれると途端に攻撃的になるんだよな。その反応だと、どうせ心当たりがあるんだろ」
俺が視線をやると、マナカの目が分かりやすーく泳いだ。
「ううっ……じ、実は先日、半額クーポンを貰って……2日続けてちーゃんたちと駅ビルの人気ケーキバイキングに……チーズケーキとモンブランがすごく美味しくて、つい食べ過ぎた、ような気が、しなくもないかもしれない……」
「それだな」
「はうぅ……」
「でもこれくらいなら許容範囲だろ? 1キロなんて何もしなくても増減するもんだしな。まぁ、しばらくカロリーを控えめにするなり運動するなりすれば、すぐに腹の肉も落ちるさ。あんまり気にするな」
俺なりに元気づけたつもりだったんだけれど、
「気にするよ!? 女の子にとって体重は死活問題なんだよ!? っていうか言うに事欠いて腹の肉、腹の肉って! 酷い! わたしのこと女の子として見てないの!?」
マナカはうがー!とがなり立ててきた。
「まぁなんだ、今のは俺が悪った」
女の子に体重の話をするとか、これはまた後でクロから正座&説教のコンボを喰らうことは間違いない。
《魔術師型》による後ろからの攻撃に気をとられすぎてて、会話のチョイスを完全に間違えたようだ。
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