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第三章「約束」

第31話 カーネリアン=アルマミース

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 ケンタウロス戦翌日の土曜日。
 学校が休みだった俺は、しかしとある場所に忍び込んで──こほん、やって来ていた。

「あのですね、正規の手続きをして入るように、いつも言っているはずですが☆」

 俺の対面にいるうら若き白衣の女性が、げんなりした顔でイスを回しながらこちらへと向きなおった。

「ここに入る手続きは面倒くさいんだよな。いくつも専用ゲートを抜けないといけない上に、やれIDがどうの、金属探知機を通れだの、アポイントを確認するだの、いちいち事細かに確認してきやがる。でもほら、《認識阻害》を使えば実質フリーパスで便利だろ?」

「なにが『でもほら』ですか☆ 面倒なのは当たり前です☆ ここは日本政府と自衛隊、在日米軍、退魔士協会が共同でレベル5セキュリティ――国家機密級の共同研究を行っている極秘の研究施設ですよ☆」

「知ってるよ。《想念》や《想貴石そうきせき》のエネルギー利用や軍事転用を研究してるんだろ?」

「当然、核施設並みに厳重なセキュリティなのですが☆」

「ふうん、核施設のセキュリティってのも意外とたいしたことないんだな」

「後であなたのゲート通過記録を捏造しないといけない私の身にもなってくださいね☆」

「ならいっそのこと、あんたの権力で俺を顔パスにしてくれよ? あんたここの研究所の所長だったか主任だったか、なんせすごい偉い立場なんだろ? そうしたら捏造する手間もなくなってウィン-ウィンじゃないか」

「そんな無理難題ばっかり言ってると、私もいい加減キレちゃうぞ!☆」

「おっと――」

 言葉とともに、白衣の女性はデスクに置いてあった飲みかけのペットボトルを、俺の顔付近に向かって投げつけた。

 うん、さすがにちょっと言いすぎたようだ。
 俺は少し反省しつつ、投げられたペットボトルを苦もなくつかんで防いでみせると、

「悪い悪い、冗談だよ。なんだかんだで、俺は博士には感謝してるんだ」

「とてもそんなふうには見えませんが……☆ やれやれまったく、あなただけですよ☆ この私カーネリアン=アルマミースにそんなふざけた口をきいてくるのは☆」

「敬語で話すようにと仰るのでしたら、今後はそのように致しますが? 島村練子ねりこ博士?」

「あなたに敬語で話されるのはすこぶる気持ち悪いので即刻、止めてください☆」

「おい」

「あとその名前で呼ぶのは金輪際止めなさい☆ その名前にはいい思い出がありませんので☆ 私はカーネリアン=アルマミースです☆ 2度は言いませんよ☆」

「へいへい」

 島村=SIMAMURAを逆から読むと、ARUMAMIS=アルマミース。
 練子=ねりこを語呂合わせでカーネリアン。

 ――なのでカーネリアン=アルマミースと名乗っているらしい。

 ちなみに日本人の工学研究者の両親から生まれ、育ちも戸籍も第一言語もバリバリの黒目黒髪な日本人である。

 幼いころから両親の研究所に入りびたっていた彼女は、恵まれた環境でその天賦の才能を余すところなく開花させた。
 大学卒業時には世界的企業や米軍などから、三顧の礼でスカウトされるほどだったというから驚きだ。
 まったく、人は見かけによらないもんだな。

「ま、あなたとは知らない仲でもありません☆ 今まで通りで構いませんよ☆」

「そりゃどうも。それで早速だけど、持ってきた《想貴石そうきせき》鑑別してほしいんだが」

 言って俺は小袋から《想貴石そうきせき》を取り出した。

「拝見しましょう☆ どれどれ――おや1つもの凄いのがありますね☆ サイズは普通の3倍くらいでしょうか☆ 純度も高そうです☆ これはこれは、いい研究材料になりそうですね☆ 私はプラスが好きなのです☆ グッドですよユウト」

「ちょうど昨日倒した奴から出てきたんだ。二つ以上の想念が合わさってできる《幻想想念獣》――ぬえだってクロは言ってたけど」

「なるなるな~るほど☆ そんなのとチームも組まずに単独で戦って倒してみせるなんて、さすがは最強の退魔士一族剣部つるぎべの本家筋ってところですかね☆」

「俺は鶴木辺つるぎべユウトだ。それ以上でもそれ以下でもない――」

「おっとおっと、『今は』そうでした☆ これは失敬☆ 忘れてください☆」

 くそっ、イチイチわざとらしい言い方だな。
 さっき名前のことでからかった意趣返しか?

「ったく……金はいつものところに頼むぞ」
「後で正式な鑑定をしてから、遅くとも来週末までには振り込んでおきましょう☆」

 ――とまぁ以上が、俺の生活費&活動資金の獲得方法なのだった。
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