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第一章「ボーイ・ミーツ・ガール」
第16話 民主主義? お年頃?
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「つーか、いきなり口出してなに勝手なこと言ってやがる」
「ここで問答していても生産性がないでしょ? さっきも言ったけど、マナカは何らかの力を持ってる可能性が高いよ。《認識阻害》を無効化しただけでなく、ユウトの居場所をなんとなくで探し当てたんだから」
「まぁそれはそうだが……」
「マナカがどんな力を持っているかも知りたいし、説得は難しそうだよ。悪い子じゃないのは間違いない。ならいっそ、ユウトの目の届く範囲にいてもらった方が、結果的に安全なんじゃないかな?」
いちいちもっともなクロの言い分に、
「うんうん、まったくだよ」
大げさにうなずいてみせるマナカ。
「2対1だね」
「民主主義だよ!」
「民主主義ってのは突き詰めればただの多いもん勝ちだ。決してベストなわけじゃない、あくまでベターなシステムにすぎないんだ。今のこれはただの数の暴力、衆愚政治だ」
「なんか言ってるけど?」
「難しいこと言ってカッコつけたいお年頃なんだ。察してあげて」
「なーんだ、そっかー」
「つっけんどんに見えて、意外と可愛いところもあるでしょ?」
「あははー、そだねー」
「にゃははー」
「おまえらな……」
――だが。
マナカについて興味があることは否定できない事実だった。
それに、
「戦闘を経験することで、今度こそ怖くなって一緒にくるのをやめるかもしれないか……」
単純に何も起こらなすぎて、暇で飽きるってこともあるだろう。
となれば最大の問題は、やはり安全面だ。
怪我をさせないように最大限の注意はするつもりだが、しかし時に何が起こるか分からないのが戦場の怖いところだ。
義の心にあふれた南北朝の英傑・新田義貞も、不運としか言いようのないたった一度の遭遇戦であっけなく命を落としてしまった。
人は――どんないい人であっても――本当に簡単に死んでしまう。
今日までのなんでもない日常が、ある日を境に突然、明日のこない絶望へと変わり果てるのだ。
マナカにそんな非日常への覚悟があるとは思えない。
だから――そんなマナカを一緒に連れて行くと決めた以上は、他の誰でもない、マナカを守るのは俺の義務であり、絶対の責任であり、違えることがゆるされない使命だった。
「俺はもう逃げない。絶対にだ。ちゃんと守るから、安心しろ――」
誰に聞かせるでもないかすかな呟きは、他の誰でもない、俺自身への誓いの言葉だった。
「うんと、なにか言った?」
俺のかすかなつぶやきをわずかに拾ったマナカが尋ねてくる。
「分かった。ただし、離れたところで見ているだけだ。もし戦闘になったら近づくことは絶対に駄目だ。俺はマナカに怪我だけはさせたくない。それだけ約束できるなら、一緒に連れていってやる」
「やった! 約束するする、スルッとkansai!」
その軽くてチャラい返事に一抹の不安を覚えつつ「今はPiTaPaだろ、いつの時代の人間だよ」と突っ込みたくなるのを、こぶしを握って必死に堪える。
「前に言ったっけ、わたしってば、こう見えて凄く頑丈なんだよ? 子供のころ木登りしてて、けっこう高いところから落ちて救急車で運ばれたことがあったんだけど、全然怪我とかなくてピンピンしてて。お医者さんもびっくりしたくらいだし」
「そういや昼飯の時にそんなことを言ってたな」
「しかも! 今まで風邪だってひいたことないのですよ。小中学校はなんと9年連続の皆勤賞! これには8年連続首位打者のイチローもびっくりだね!」
「日本野球史に残るレジェンド・オブ・レジェンドにクソ失礼なことを言ってんじゃねぇよ。ああもうわかったから、ほらいくぞ――よっと」
「うにゅ――」
俺は自己アピールに余念のないマナカを有無を言わさず抱きかかえると、右足を強烈に踏み込んで、一気に跳んだ――!
「ここで問答していても生産性がないでしょ? さっきも言ったけど、マナカは何らかの力を持ってる可能性が高いよ。《認識阻害》を無効化しただけでなく、ユウトの居場所をなんとなくで探し当てたんだから」
「まぁそれはそうだが……」
「マナカがどんな力を持っているかも知りたいし、説得は難しそうだよ。悪い子じゃないのは間違いない。ならいっそ、ユウトの目の届く範囲にいてもらった方が、結果的に安全なんじゃないかな?」
いちいちもっともなクロの言い分に、
「うんうん、まったくだよ」
大げさにうなずいてみせるマナカ。
「2対1だね」
「民主主義だよ!」
「民主主義ってのは突き詰めればただの多いもん勝ちだ。決してベストなわけじゃない、あくまでベターなシステムにすぎないんだ。今のこれはただの数の暴力、衆愚政治だ」
「なんか言ってるけど?」
「難しいこと言ってカッコつけたいお年頃なんだ。察してあげて」
「なーんだ、そっかー」
「つっけんどんに見えて、意外と可愛いところもあるでしょ?」
「あははー、そだねー」
「にゃははー」
「おまえらな……」
――だが。
マナカについて興味があることは否定できない事実だった。
それに、
「戦闘を経験することで、今度こそ怖くなって一緒にくるのをやめるかもしれないか……」
単純に何も起こらなすぎて、暇で飽きるってこともあるだろう。
となれば最大の問題は、やはり安全面だ。
怪我をさせないように最大限の注意はするつもりだが、しかし時に何が起こるか分からないのが戦場の怖いところだ。
義の心にあふれた南北朝の英傑・新田義貞も、不運としか言いようのないたった一度の遭遇戦であっけなく命を落としてしまった。
人は――どんないい人であっても――本当に簡単に死んでしまう。
今日までのなんでもない日常が、ある日を境に突然、明日のこない絶望へと変わり果てるのだ。
マナカにそんな非日常への覚悟があるとは思えない。
だから――そんなマナカを一緒に連れて行くと決めた以上は、他の誰でもない、マナカを守るのは俺の義務であり、絶対の責任であり、違えることがゆるされない使命だった。
「俺はもう逃げない。絶対にだ。ちゃんと守るから、安心しろ――」
誰に聞かせるでもないかすかな呟きは、他の誰でもない、俺自身への誓いの言葉だった。
「うんと、なにか言った?」
俺のかすかなつぶやきをわずかに拾ったマナカが尋ねてくる。
「分かった。ただし、離れたところで見ているだけだ。もし戦闘になったら近づくことは絶対に駄目だ。俺はマナカに怪我だけはさせたくない。それだけ約束できるなら、一緒に連れていってやる」
「やった! 約束するする、スルッとkansai!」
その軽くてチャラい返事に一抹の不安を覚えつつ「今はPiTaPaだろ、いつの時代の人間だよ」と突っ込みたくなるのを、こぶしを握って必死に堪える。
「前に言ったっけ、わたしってば、こう見えて凄く頑丈なんだよ? 子供のころ木登りしてて、けっこう高いところから落ちて救急車で運ばれたことがあったんだけど、全然怪我とかなくてピンピンしてて。お医者さんもびっくりしたくらいだし」
「そういや昼飯の時にそんなことを言ってたな」
「しかも! 今まで風邪だってひいたことないのですよ。小中学校はなんと9年連続の皆勤賞! これには8年連続首位打者のイチローもびっくりだね!」
「日本野球史に残るレジェンド・オブ・レジェンドにクソ失礼なことを言ってんじゃねぇよ。ああもうわかったから、ほらいくぞ――よっと」
「うにゅ――」
俺は自己アピールに余念のないマナカを有無を言わさず抱きかかえると、右足を強烈に踏み込んで、一気に跳んだ――!
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