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第一章「ボーイ・ミーツ・ガール」
第15話 リトルマナカ
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クロの言うことは、いちいちもっともだった。
いつも的確な助言をくれる素晴らしいパートナーと言えるだろう。
……本能の赴くままにちゅ~るをむさぼってさえいなければ、な。
両手でちゅーるを抱えて鼻息荒くがっつくさまは、まさに畜生の所業であった。
ただまぁなんにしても、だ。
「とりあえず俺が言えるのはだ。俺のことは気に掛けないでくれ。もう夜も遅い。マナカは早く家に帰るんだ、な。なんなら送っていってもいいぞ。今日だけ特別サービスだ」
なるべく優しく聞こえるようにお願いしたのだが、
「いやだもん」
「分かってくれたか……っておい」
徹頭徹尾、
「いやだもん」
断固拒否の姿勢を貫くマナカだった。
「……あのな、俺は真面目な話をしているんだぞ。最近この辺りはちょっと物騒なんだ。実際、マナカも昨日怖い目にあっただろう?」
「でもちゃんとユウトくんが助けてくれたよ?」
「あのなぁ、いつもすぐに俺が近くにいるわけじゃないんだぞ」
「いないの……?」
「あ、いや……なるべくいれたらいるようには……いやそうじゃなくてだな。だいたい、なんでそんなに俺にかまおうとするんだ?」
「わかんないけど、なんとなくそうしたいんだって思うんだよ。わたしの中のリトルマナカがそうささやくの」
……リトルマナカってなんやねん?
「はっ、それも女の勘ってやつか?」
「うん」
俺の皮肉に、素直にこくんと頷いちゃうマナカ。
ああもう調子狂うな……。
「わたし、引き下がらないから」
議論がたどるは完全な平行線。
だがマナカに戦う力が有るとは思えない。
女の子らしい細くてやわらかいその手を見れば、武道未経験なのは火を見るよりも明らかだ。
「ああもうわかった。勝手にしろ」
ならばもう置いていくしかない。
一応この近辺に限っては安全確認済みだ。
《想念獣》は近くにはいない。
少なくとも俺と《想念獣》の戦闘に巻き込まれなければ、死ぬことはないだろう。
「わかったよ、勝手にする。誰かさんが一緒に連れてってくれないなら、ずっと探し回って危ない夜の街をうろつくから。悪い人に捕まっちゃうかも」
「なっ!?」
きょ、脅迫だと!?
この女、可愛い顏をして俺を脅そうとしているのか……!
「だからここ最近、夜出歩くのは危ないって言ってるだろ? な?」
「つーん、勝手にするもーん。ユウト君が言ったんだもーん」
「何が『つーん』で『もーん』だ。てめぇは小学生か」
しかもそのわざとらしい仕草がまた、やたらと可愛いのがムカつく。
「てめぇじゃないもーん、マナカだもーん。名前で呼ぶって約束したもーん」
「くっ……!」
「いいじゃん、連れていってあげなよ」
ふいに、ずっと黙っていたクロが口を開いた。
もちろん口を挟まなかったのには意図があったわけではなく、
「なんだクロ、もう食べ終わったのか? ちゅ~る3本も食わしてもらったんだ、そりゃ腹もふくれたし、マナカの味方だってしたくなるよなぁ?」
単に食い意地が張っていただけに過ぎない。
「ノンノン! 食欲は睡眠欲、性欲と並んで三大欲求の一つだよ? ユウトもお昼はマナカの作った唐揚げにたいそうご満悦だったじゃないかい? 食欲は決しておろそかにはしちゃあいけない、というのがボクの意見だね」
俺の冷たい視線なんてどこ吹く風。
「そーだそーだー、ダブスタだぞー!」
マナカの援護射撃を受けながら、与えられたちゅ~る3本をしゃぶりつくして完食したクロ。
舌なめずりをしながら顔を洗う姿は、むかつくほどにご満悦だった。
いつも的確な助言をくれる素晴らしいパートナーと言えるだろう。
……本能の赴くままにちゅ~るをむさぼってさえいなければ、な。
両手でちゅーるを抱えて鼻息荒くがっつくさまは、まさに畜生の所業であった。
ただまぁなんにしても、だ。
「とりあえず俺が言えるのはだ。俺のことは気に掛けないでくれ。もう夜も遅い。マナカは早く家に帰るんだ、な。なんなら送っていってもいいぞ。今日だけ特別サービスだ」
なるべく優しく聞こえるようにお願いしたのだが、
「いやだもん」
「分かってくれたか……っておい」
徹頭徹尾、
「いやだもん」
断固拒否の姿勢を貫くマナカだった。
「……あのな、俺は真面目な話をしているんだぞ。最近この辺りはちょっと物騒なんだ。実際、マナカも昨日怖い目にあっただろう?」
「でもちゃんとユウトくんが助けてくれたよ?」
「あのなぁ、いつもすぐに俺が近くにいるわけじゃないんだぞ」
「いないの……?」
「あ、いや……なるべくいれたらいるようには……いやそうじゃなくてだな。だいたい、なんでそんなに俺にかまおうとするんだ?」
「わかんないけど、なんとなくそうしたいんだって思うんだよ。わたしの中のリトルマナカがそうささやくの」
……リトルマナカってなんやねん?
「はっ、それも女の勘ってやつか?」
「うん」
俺の皮肉に、素直にこくんと頷いちゃうマナカ。
ああもう調子狂うな……。
「わたし、引き下がらないから」
議論がたどるは完全な平行線。
だがマナカに戦う力が有るとは思えない。
女の子らしい細くてやわらかいその手を見れば、武道未経験なのは火を見るよりも明らかだ。
「ああもうわかった。勝手にしろ」
ならばもう置いていくしかない。
一応この近辺に限っては安全確認済みだ。
《想念獣》は近くにはいない。
少なくとも俺と《想念獣》の戦闘に巻き込まれなければ、死ぬことはないだろう。
「わかったよ、勝手にする。誰かさんが一緒に連れてってくれないなら、ずっと探し回って危ない夜の街をうろつくから。悪い人に捕まっちゃうかも」
「なっ!?」
きょ、脅迫だと!?
この女、可愛い顏をして俺を脅そうとしているのか……!
「だからここ最近、夜出歩くのは危ないって言ってるだろ? な?」
「つーん、勝手にするもーん。ユウト君が言ったんだもーん」
「何が『つーん』で『もーん』だ。てめぇは小学生か」
しかもそのわざとらしい仕草がまた、やたらと可愛いのがムカつく。
「てめぇじゃないもーん、マナカだもーん。名前で呼ぶって約束したもーん」
「くっ……!」
「いいじゃん、連れていってあげなよ」
ふいに、ずっと黙っていたクロが口を開いた。
もちろん口を挟まなかったのには意図があったわけではなく、
「なんだクロ、もう食べ終わったのか? ちゅ~る3本も食わしてもらったんだ、そりゃ腹もふくれたし、マナカの味方だってしたくなるよなぁ?」
単に食い意地が張っていただけに過ぎない。
「ノンノン! 食欲は睡眠欲、性欲と並んで三大欲求の一つだよ? ユウトもお昼はマナカの作った唐揚げにたいそうご満悦だったじゃないかい? 食欲は決しておろそかにはしちゃあいけない、というのがボクの意見だね」
俺の冷たい視線なんてどこ吹く風。
「そーだそーだー、ダブスタだぞー!」
マナカの援護射撃を受けながら、与えられたちゅ~る3本をしゃぶりつくして完食したクロ。
舌なめずりをしながら顔を洗う姿は、むかつくほどにご満悦だった。
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