上 下
12 / 83
第一章「ボーイ・ミーツ・ガール」

第12話 ガラケー

しおりを挟む
「あ、そっか……そういえばユウトくんって、ガラケーだったよね。ピンクで、ストラップもピンクのクマさんが付いたの」
 マナカが、俺の腰ポケットから顔を出しているクマさんストラップを見た。

「ユウトくんってピンク好きなの? なんか意外? っていうかガラケー男子って初めて見たかも。クラスの男子もみんなスマホだよ? 女子とライン交換したいとか思ったりしないの?」

「思う思わない以前に、そもそもそんなに仲のいい女子がいないし、作ろうとも思っていない」

「ユウトくんってガチのボッチなんだね……」
「ボッチ言うな。俺には必要がないというだけだ」

「ふーん」
「なんだこら、言いたいことがあるなら言えよ」

「べーつにー? あ、じゃあさ。携番とアドレス交換しようよ?」
「え?」

「えっと、それも、だめ、かな……?」
「いや、だめっていうか……」
 今のご時世、携帯番号やキャリアメールは普通の友達程度では教えないのが普通だ。

 マイルドブロックがしづらく、変更にも手間のかかる携帯番号やキャリアメールを教えることは、一定以上のリスクを生むからだ。

 それこそ、ある程度以上に仲良くなった特別な相手にだけ教える、それ自体が親密度の証の証明ともなりうる、そんな大切な行為なのである。

 そして俺の番号にはたいした価値はないが、それが愛園あいぞのマナカのものとなれば話は大きく変わってくる。
 おそらく男子で知ってる奴はほとんどいないだろうし、知りたい奴は山ほどいるだろう。

 マナカのような可愛い女の子が、こんな風に携帯番号やアドレスをほいほいと教えてしまって大丈夫なのだろうか?

 袖擦り合うも多生の縁じゃないが、マナカのガードの甘さは他人事ながらちょっと心配になるぞ。

「俺は別にかまわないけど――マナカはいいのか?」

 普段の俺なら、間違いなくノータイムで断っていただろう。
 しかし今の俺は、やや普通ではなかった。

 マナカが可愛いから?
 いや、そういうことではない。

 仲良くなれば、もしかしてまたこの美味しい唐揚げを食べれるかも、というさもしい下心があったからだ。

 それほどまでにこのミュンヘン風の唐揚げは美味しかったのだ……!

「……? 問題ないよ? あ、でもガラケーとスマホってどうやってアドレスやり取りすればいいんだろ? ガラケーには赤外線、だっけ? みたいなのがあるんだよね……?」

 よく分かってない風のマナカだが、実は俺もよくはしらない。
 というかスマホを触ったことがほとんどないから、分かりようがない。

 ――と、くればだ。
 手っ取り早いのはもっとも原始的かつ確実な手段だろう。

「ちょい、アドレスみせてくれないか?」
 そう言って、俺はちょっと身を乗り出してマナカの携帯を覗き込んだ。

 必然、顔が触れ合うような距離になってしまい、甘い女の子の香りが漂ってくる。
 そのことに少しだけドキッとさせられながらも、俺は素知らぬふりを保ちつつ、マナカのスマホに映る文字列に目をやった。

 そしてまずは携帯番号を。
 ついでアドレスをと、自分のガラケーに手際よく打ち込んでいく。

 もっとも原始的で確実な手段、それはいつの時代も目視&手打ちである。

「うわ、はやっ!? 実はユウトくんってば携帯早打ちの専門職なの!?」

 驚くマナカをよそに、1コールしてから空メールを送信し、マナカから確認の返信をもらって無事にアドレス交換は終了した。

「アドレス打ち込むの、めっちゃ速かったね」

「携帯の早打ちなんざ単なる慣れだろ。毎日メールをしてれば勝手に早くなる」

「友達いないのにいったい誰に向けて――あ、ううん、なんでもない、なんでもないよ? わたし、なにも、きかなかったから! アイ・アム・ノー・リッスン!」

「マナカってセンシティブなところに、割とストレートに踏み込んでくるよな。あとなんだそのとても高校生とは思えない貧相な英語は。ちゃんと勉強しろよ。……まぁあれだ、姉に送ってるんだよ、その日あったこととかを」

「うわっ、こんなところに重度のシスコンさんがいます!」
「シスコンじゃない、家族愛だ」

「そだねー……いいと思う……」

 こうして女の子との初めてのお昼ご飯&アドレス交換はつつがなく終了した――のだが。

 その後しばらくの間。

 俺は学園のアイドル・愛園あいぞのマナカに土下座をさせたクズ野郎として、学校中のヘイトを集める一躍有名人となってしまったのだった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

処理中です...