6 / 83
第一章「ボーイ・ミーツ・ガール」
第6話 古い記憶
しおりを挟む
――僕は、夢を見ていた。
まだ何も知らない子供だったころの、古い記憶だ――。
目の前には一面の赤、朱、紅。
緋に染まる海が広がっている。
熱い熱い炎の海だ。
見慣れた柱や梁が焔にまかれては、見るも無残に燃え落ちてゆく。
太陽が中点を頂いてもなお、寒さ残る啓蟄の晴れ空を、重々しく塗り替えてゆく黒煙は、見るものすべてに更なる凶兆を予感させるものだった。
炎の奥では剣戟が鳴り響き、怒号と悲鳴が交錯する。
そんな真っ赤な地獄絵図の中に、時おり混じるは蒼い焔。
幽鬼のようなそれは、悪鬼羅刹のごとく縦横無尽に暴れまわっては、次々と命を散らしていった。
《蒼混じりの焔》を前に、大切な人たちの命の灯が一つ、また一つと散ってゆく。
そんな惨状の中、物陰に隠れた僕は、必死に息を殺して縮こまっていた。
手の中には、
「お守りだよ」
そう言って大好きな姉から渡されたピンクの携帯電話。
僕はただ、それを握りしめて、握りしめて――握りしめつづけた。
全てが終わって取り返しがつかなくなる、その時まで、ずっとずっと。
僕は隠れながら、携帯電話を握り続けた――。
――俺は、夢を見ていた。
まだ何もできない子供だったころの、もう2度と取り戻せない、古い記憶だ――。
「か――はっ――ぁぐ――っ」
トラウマに誘発された心因性の過呼吸がおこって息が苦しくなり、それによって意識が覚醒へと向かい始める。
この夢を見た時はいつもそうだった。
医者の見立てによると、過換気症候群と呼ばれる心因性のものらしい。
――今日もまた、1日が始まろうとしていた。
《蒼混じりの焔》を討滅するために、ヤツの手掛かりを求めるための1日が――。
まだ何も知らない子供だったころの、古い記憶だ――。
目の前には一面の赤、朱、紅。
緋に染まる海が広がっている。
熱い熱い炎の海だ。
見慣れた柱や梁が焔にまかれては、見るも無残に燃え落ちてゆく。
太陽が中点を頂いてもなお、寒さ残る啓蟄の晴れ空を、重々しく塗り替えてゆく黒煙は、見るものすべてに更なる凶兆を予感させるものだった。
炎の奥では剣戟が鳴り響き、怒号と悲鳴が交錯する。
そんな真っ赤な地獄絵図の中に、時おり混じるは蒼い焔。
幽鬼のようなそれは、悪鬼羅刹のごとく縦横無尽に暴れまわっては、次々と命を散らしていった。
《蒼混じりの焔》を前に、大切な人たちの命の灯が一つ、また一つと散ってゆく。
そんな惨状の中、物陰に隠れた僕は、必死に息を殺して縮こまっていた。
手の中には、
「お守りだよ」
そう言って大好きな姉から渡されたピンクの携帯電話。
僕はただ、それを握りしめて、握りしめて――握りしめつづけた。
全てが終わって取り返しがつかなくなる、その時まで、ずっとずっと。
僕は隠れながら、携帯電話を握り続けた――。
――俺は、夢を見ていた。
まだ何もできない子供だったころの、もう2度と取り戻せない、古い記憶だ――。
「か――はっ――ぁぐ――っ」
トラウマに誘発された心因性の過呼吸がおこって息が苦しくなり、それによって意識が覚醒へと向かい始める。
この夢を見た時はいつもそうだった。
医者の見立てによると、過換気症候群と呼ばれる心因性のものらしい。
――今日もまた、1日が始まろうとしていた。
《蒼混じりの焔》を討滅するために、ヤツの手掛かりを求めるための1日が――。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる