2 / 83
第一章「ボーイ・ミーツ・ガール」
第2話 《想念獣》
しおりを挟む
《想念獣》。
嫉妬や羨望、恨み、憎しみといった人間の抱く強烈な「負の感情」が、顕現・実体化した異形の存在だ。
そんな強い「負の感情」が実体化し力を持った《想念獣》は、古来より現在に至るまで妖怪やアヤカシ、お化け、悪魔などと呼ばれて人々から恐れられてきた。
そしてそれと同時に。
社会の害悪たる《想念獣》を討滅するために生まれた退魔士や陰陽師といった《正義の味方》も、同じように現代へと受け継がれてきていた。
俺、鶴木辺ユウトは――その末裔ってわけだ。
「お、思ったよりでかいな」
そして《想念獣》のコアとなる《想貴石》は、人の強い思いが凝固したパワーストーンとして重宝され、しかるべき機関に持っていくことでその対価とともに治安維持の報奨金が上乗せされて、それなりのお金になってくれるのだった。
「お疲れさま、ユウト」
そう言ったのは、俺の口元を覆っている黒いマフラーからピョコっと首を出した黒猫だった。
名前をクロという。
黒猫だからクロ、分かりやすいだろ?
喋るのはクロが普通の動物ではなく《想念獣》だからだ。
人に協力的な《想念獣》――非常に珍しい――であるクロは、俺の戦闘をサポートする相棒、いわゆるマスコットキャラとして寝食をともにしているのだった。
ちなみに直接的な戦闘能力は皆無のため、戦闘時はいつも俺の首元や背中に隠れて小さくなっているチキン野郎でもある。
「問題ない。こんな小物が相手、疲れたうちに入らねーよ」
俺は回収した《想貴石》を丁寧に小袋につめながら、さらっと答えた。
「《想念獣》――それも大型のクマ型だよ。《想念》の固着化の度合いも高かったし、結構な強さなんだけどね」
「獣型は確かにパワーやスピードは高い。けど、それに反して思考レベルはあまり高くはないからな。一撃にだけ気を付ければいい、どちらかというとやりやすい相手だ。少なくともクロ、お前の探知能力があれば負けることはないさ」
「ふふっ、頼もしい限りだね。この調子でこれからも頼むよ?」
「言われなくとも。よし、じゃあ帰ってシャワーでも浴びるか。初夏の夜とはいえ、動くとさすがに――」
汗をかく――と言いかけて、
「――どうした?」
クロがここではない、どこか遠くへと意識をやるしぐさを見せたことに気がついた。
「……ちょっと離れたところに、また《想念獣》の気配を感じる――いやでもそんな――」
「おいおいクロ、冗談――ってわけじゃあなさそうだな。でも一晩で別の場所に2体も出るなんてのは、さすがに初めてじゃねーか?」
「確率的にはまずありえないことだけど――でも最近は《想念獣》の出現そのものが増加傾向にあるから、今までの常識は通用しないのかもね」
「ったく、しゃーねぇな」
「大丈夫? まだいける?」
「もう一体くらいなら問題ねーよ。さっきも言っただろ。あんなのは疲れたうちに入らないってな。それに今の俺は《正義の味方》、社会に仇なす《想念獣》を駆除し人を助けるのが使命だ」
俺の言葉に、
「うん――そうだよね」
クロはあいまいな笑みを浮かべながら、小さく頷ずいてみせた。
嫉妬や羨望、恨み、憎しみといった人間の抱く強烈な「負の感情」が、顕現・実体化した異形の存在だ。
そんな強い「負の感情」が実体化し力を持った《想念獣》は、古来より現在に至るまで妖怪やアヤカシ、お化け、悪魔などと呼ばれて人々から恐れられてきた。
そしてそれと同時に。
社会の害悪たる《想念獣》を討滅するために生まれた退魔士や陰陽師といった《正義の味方》も、同じように現代へと受け継がれてきていた。
俺、鶴木辺ユウトは――その末裔ってわけだ。
「お、思ったよりでかいな」
そして《想念獣》のコアとなる《想貴石》は、人の強い思いが凝固したパワーストーンとして重宝され、しかるべき機関に持っていくことでその対価とともに治安維持の報奨金が上乗せされて、それなりのお金になってくれるのだった。
「お疲れさま、ユウト」
そう言ったのは、俺の口元を覆っている黒いマフラーからピョコっと首を出した黒猫だった。
名前をクロという。
黒猫だからクロ、分かりやすいだろ?
喋るのはクロが普通の動物ではなく《想念獣》だからだ。
人に協力的な《想念獣》――非常に珍しい――であるクロは、俺の戦闘をサポートする相棒、いわゆるマスコットキャラとして寝食をともにしているのだった。
ちなみに直接的な戦闘能力は皆無のため、戦闘時はいつも俺の首元や背中に隠れて小さくなっているチキン野郎でもある。
「問題ない。こんな小物が相手、疲れたうちに入らねーよ」
俺は回収した《想貴石》を丁寧に小袋につめながら、さらっと答えた。
「《想念獣》――それも大型のクマ型だよ。《想念》の固着化の度合いも高かったし、結構な強さなんだけどね」
「獣型は確かにパワーやスピードは高い。けど、それに反して思考レベルはあまり高くはないからな。一撃にだけ気を付ければいい、どちらかというとやりやすい相手だ。少なくともクロ、お前の探知能力があれば負けることはないさ」
「ふふっ、頼もしい限りだね。この調子でこれからも頼むよ?」
「言われなくとも。よし、じゃあ帰ってシャワーでも浴びるか。初夏の夜とはいえ、動くとさすがに――」
汗をかく――と言いかけて、
「――どうした?」
クロがここではない、どこか遠くへと意識をやるしぐさを見せたことに気がついた。
「……ちょっと離れたところに、また《想念獣》の気配を感じる――いやでもそんな――」
「おいおいクロ、冗談――ってわけじゃあなさそうだな。でも一晩で別の場所に2体も出るなんてのは、さすがに初めてじゃねーか?」
「確率的にはまずありえないことだけど――でも最近は《想念獣》の出現そのものが増加傾向にあるから、今までの常識は通用しないのかもね」
「ったく、しゃーねぇな」
「大丈夫? まだいける?」
「もう一体くらいなら問題ねーよ。さっきも言っただろ。あんなのは疲れたうちに入らないってな。それに今の俺は《正義の味方》、社会に仇なす《想念獣》を駆除し人を助けるのが使命だ」
俺の言葉に、
「うん――そうだよね」
クロはあいまいな笑みを浮かべながら、小さく頷ずいてみせた。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる