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第一章「ボーイ・ミーツ・ガール」
第1話 漆黒の風
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ヒュゥン――ッ
静まり返った夜の郊外の一角を、漆黒の風が駆け抜けた――。
時刻はすでに深夜0時を回っており、街灯もまばらな住宅街に人通りは絶えて久しい。
ここは関西有数の大都市、神戸。
古くから港町として栄えたこの街は、全国にもそう多くない政令指定都市と呼ばれる大都市ではあるものの。
いやむしろ広大な市域を持つがゆえに、実際には山の中といった地域も少なくない――そんな田舎風情を随所に残した大都市の郊外で。
街灯も少なく、時には小規模の田畑すら見受けられる――そんな深夜のベッドタウンを、漆黒をまとった一陣の風が駆け抜けていた。
「くそっ、どこに隠れやがった――」
悪態をつきながら険しい目つきで闇夜に目を凝らすその姿は、全身黒装束で口元には黒のマフラー。
周囲の闇と完全に同化した黒い疾風は、現代によみがえった忍者の如し。
と、
「――ユウト。1時の方向、次の十字路を右に曲がってすぐのところ。多分、待ち伏せしてるよ」
不意に声が聞こえ、
「――わかった」
闇装束に包まれたユウトこと俺――鶴木辺ユウトは、その声に簡潔に言葉を返した。
二十メートルほど先に見える十字路は、角に大きな塀があって街灯もなく、かなり見通しが悪い。
「あそこか……確かに、待ち構えて奇襲するにはうってつけの場所だな」
だがそれはあくまで一般論だ。
この俺に限っては当てはまらない――!
なぜなら俺には、索敵とサポートに長けた世界最高のナビが付いているのだから――!
スピードを維持したまま走ることで、まずは待ち伏せに気づいていないようにみせかける。
そして十字路にさしかかる直前で急制動――身体全体を使って沈み込むように勢いを殺して急停止。
「グァァァァァッッッッッ!」
目の前には十字路から飛び出してきた、熊の如く大きな体躯をもった黒い異形。
勢いよく振り下ろされた両手から延びた鋭い爪は、暗がりの中でもなお禍々しい殺意を煌めかせていた。
しかし奇襲攻撃を読まれて盛大に空ぶったその姿は、隙というのもおこがましい、まさに無防備そのものだ。
「人に仇なす名す化け物め……必死に無い知恵絞って考えたんだろうが、悪いが俺に待ち伏せは通じねーぜ?」
目の前には、狙い澄ました不意打ちがスカって完全無防備にさらけだされた脇腹。
這いつくばるような全力停止から、いち早く立ち上がって体勢を整えていた俺は、すでに左前・右後ろの半身に構えをとっている――!
「一撃で決める――」
右足で強烈に大地を踏み込んだ。
立ち昇る反発力を足首から、膝、股関節と順々に身体をひねって、左回転の回転エネルギーへと変換していく。
大切なのは回転力を次の部位に伝える時に、わずかなタイミングの差を設けることで、次々と「溜め」の連鎖を作りだすことだ。
幾重にも重ねられた「溜め」は、しかし合力されて大きな「うねり」の力へと昇華される――!
さら「うねり」によって増幅された力を、今度は上半身へと伝えていく。
腰、肩、肘と、さらなる「溜め」を連鎖させ、うねらせ加速させた最大最強の一撃を、終着点たる右の拳に乗せる――!
「おおおおおぉぉぉぉぉ――――っっ!」
気合い一閃、俺は右拳を巨体の横っ腹へ――反発力と回転力を掛け合わせた渾身の右ストレートを解き放つ――!
加えて、これはただの打撃ではない。
「うねり」によって増幅された物理的な力に加えて、《想念》――人の持つ想いの力――に外的指向性与えて放つ必殺必倒の奥義――!
「《螺旋槍》――!」
ドスン――と、低くて重い打撃音が鳴り響いた。
強烈な一撃をがら空きの脇腹に叩き込まれた異形の巨体が、文字通り小道を吹っ飛んでいく。
十メートルは吹き飛ばしただろうか。
吹き飛ばされたその先で、
「グッ、ゴっ……フっ」
黒い巨体は起き上がろうとするも、起き上がることはできず。
異形の黒熊はそのうちに、白い粒子となって大気の中へと溶け消えていった。
後に残ったのは、宝石のような小さな赤い欠片一つ。
「ほい、回収終わりっと」
それを拾い上げれば、これにてミッション終了だ。
静まり返った夜の郊外の一角を、漆黒の風が駆け抜けた――。
時刻はすでに深夜0時を回っており、街灯もまばらな住宅街に人通りは絶えて久しい。
ここは関西有数の大都市、神戸。
古くから港町として栄えたこの街は、全国にもそう多くない政令指定都市と呼ばれる大都市ではあるものの。
いやむしろ広大な市域を持つがゆえに、実際には山の中といった地域も少なくない――そんな田舎風情を随所に残した大都市の郊外で。
街灯も少なく、時には小規模の田畑すら見受けられる――そんな深夜のベッドタウンを、漆黒をまとった一陣の風が駆け抜けていた。
「くそっ、どこに隠れやがった――」
悪態をつきながら険しい目つきで闇夜に目を凝らすその姿は、全身黒装束で口元には黒のマフラー。
周囲の闇と完全に同化した黒い疾風は、現代によみがえった忍者の如し。
と、
「――ユウト。1時の方向、次の十字路を右に曲がってすぐのところ。多分、待ち伏せしてるよ」
不意に声が聞こえ、
「――わかった」
闇装束に包まれたユウトこと俺――鶴木辺ユウトは、その声に簡潔に言葉を返した。
二十メートルほど先に見える十字路は、角に大きな塀があって街灯もなく、かなり見通しが悪い。
「あそこか……確かに、待ち構えて奇襲するにはうってつけの場所だな」
だがそれはあくまで一般論だ。
この俺に限っては当てはまらない――!
なぜなら俺には、索敵とサポートに長けた世界最高のナビが付いているのだから――!
スピードを維持したまま走ることで、まずは待ち伏せに気づいていないようにみせかける。
そして十字路にさしかかる直前で急制動――身体全体を使って沈み込むように勢いを殺して急停止。
「グァァァァァッッッッッ!」
目の前には十字路から飛び出してきた、熊の如く大きな体躯をもった黒い異形。
勢いよく振り下ろされた両手から延びた鋭い爪は、暗がりの中でもなお禍々しい殺意を煌めかせていた。
しかし奇襲攻撃を読まれて盛大に空ぶったその姿は、隙というのもおこがましい、まさに無防備そのものだ。
「人に仇なす名す化け物め……必死に無い知恵絞って考えたんだろうが、悪いが俺に待ち伏せは通じねーぜ?」
目の前には、狙い澄ました不意打ちがスカって完全無防備にさらけだされた脇腹。
這いつくばるような全力停止から、いち早く立ち上がって体勢を整えていた俺は、すでに左前・右後ろの半身に構えをとっている――!
「一撃で決める――」
右足で強烈に大地を踏み込んだ。
立ち昇る反発力を足首から、膝、股関節と順々に身体をひねって、左回転の回転エネルギーへと変換していく。
大切なのは回転力を次の部位に伝える時に、わずかなタイミングの差を設けることで、次々と「溜め」の連鎖を作りだすことだ。
幾重にも重ねられた「溜め」は、しかし合力されて大きな「うねり」の力へと昇華される――!
さら「うねり」によって増幅された力を、今度は上半身へと伝えていく。
腰、肩、肘と、さらなる「溜め」を連鎖させ、うねらせ加速させた最大最強の一撃を、終着点たる右の拳に乗せる――!
「おおおおおぉぉぉぉぉ――――っっ!」
気合い一閃、俺は右拳を巨体の横っ腹へ――反発力と回転力を掛け合わせた渾身の右ストレートを解き放つ――!
加えて、これはただの打撃ではない。
「うねり」によって増幅された物理的な力に加えて、《想念》――人の持つ想いの力――に外的指向性与えて放つ必殺必倒の奥義――!
「《螺旋槍》――!」
ドスン――と、低くて重い打撃音が鳴り響いた。
強烈な一撃をがら空きの脇腹に叩き込まれた異形の巨体が、文字通り小道を吹っ飛んでいく。
十メートルは吹き飛ばしただろうか。
吹き飛ばされたその先で、
「グッ、ゴっ……フっ」
黒い巨体は起き上がろうとするも、起き上がることはできず。
異形の黒熊はそのうちに、白い粒子となって大気の中へと溶け消えていった。
後に残ったのは、宝石のような小さな赤い欠片一つ。
「ほい、回収終わりっと」
それを拾い上げれば、これにてミッション終了だ。
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