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RESTART──先輩と後輩──
終焉の始まり(その二十一)
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「…………」
先んじて寝室に向かったメルネと同じように、ラグナもまた寝室に向かい。そうして、就寝しようと寝台に横たわり、瞳を閉ざしたのだが。
やがて数分後、閉ざしたばかりの瞳を、ラグナはゆっくりとまた開いた。
「……眠れない」
瞳と同じように、口も開いてそう呟くラグナ。それから少し億劫そうに、気怠そうにしながらも、横たわった姿勢から仰向けになるのだった。
そうして独り、寝台から天井を仰ぎ見ているラグナ。その胸中に渦巻く────悔恨。それからジワリと滲み広がる、罪悪感。
『クラハのことも、憶えてないの?』
「……」
その質問に対して、あの時自分は確かにこう答えた。憶えていない、と。
憶えていない────それは紛れもない事実。しかし、間違ってもいた。
「……クラハ、さん」
突如としてメルネから聞かされたその名前を、ラグナは今一度呟く。
ずっと、ラグナは黙っていた。『大翼の不死鳥』の皆にも、グィンやロックスにも。そして、メルネにも。
その全員に対して、ラグナはずっと黙っていた。ラグナはずっと隠していた。
『さようなら、ラグナさん』
それらの記憶が未だ残っていることを、ラグナは隠し続けていたのだった。
この街のこと。『大翼の不死鳥』のこと。今まで接してきた全ての人々のこと。そして、自分のことですらも。
忘れてしまった。何もかもを忘れてしまった────だというのに。
『あなたの言葉を聞く道理も義理も、今や僕にはない』
こんな有様の、こんな空っぽの自分の中に。何故か残ってる、全く以て覚えのないそれらの記憶。
『僕は冒険者ランカーだ。あなたは受付嬢だ。……いい加減、その事実を理解してください。その現実を受け止めてくださいよ、ラグナさん』
苦い、あまりにも苦い。辛い、あまりにも辛い。胸中を苛み、感情を揺さぶるそれらの記憶。
『少なくとも、僕は望んでもいなければ求めてもいない』
ふとした瞬間に脳裏を過り、その度に去来するこのどうしようもない悲しさ。どうすることもできない、淋しさ。
その全てが、知らない。その全てを、知らない────だというのに、一体何故。何故に、どうして。
「……クラハ、ウインドア……」
宛ら出口の用意されていない、脱出不可の迷路の如き。延々と、永遠に答えが出せない思考の果てに。ラグナは呆然と、メルネからは聞かされていないその本名を呟いた。
呟き、そして再度瞳を閉ざそうとした────寸前。
コンコンコン──と、不意に。外からラグナの寝室の扉が叩かれた。
「ラグナ?まだ、起きてるかしら?」
続けて聴こえた、メルネの声。その声に、ラグナは寝台から身体を起こす。
「は、はい。起きてます。どうしたんですか?」
ラグナとしてはもう今頃すっかり寝てしまっているのだろうと思っていた人物の、それもこんな夜遅くの来訪。一体何事かと少し動揺しながらもそう訊ねると、少し遅れてメルネが返事する。
「ごめんなさい。ちょっと、部屋に入ってもいい?」
「え?はい、大丈夫ですけど……」
何の用があってここに来たのか、部屋に入りたがるその理由は何か────そういった引っ掛かりを多少感じながらも、ラグナはメルネがこの寝室へ入ることを了承するのだった。
「ありがとう。それじゃあ、失礼するわ」
そう言い、少しの間を置いてから。寝室の扉をゆっくりと静かに開き、メルネがその足を踏み入れさせるのだった。
──……メルネ?
寝室に入ってきたメルネの姿を目の当たりにしたラグナは、思わず訝しんでしまう。それ程までに、ラグナから見て今のメルネは────異質で、異様な雰囲気をその全身から発していた。
「…………」
否応にも何処か、やたら不穏な雰囲気をその身に纏いながら。今し方開いた扉を、メルネは正面を向いたまま、またゆっくりと静かに閉める。
カチャ──そして、鍵をかけた。ラグナがそのことに気づかないよう、無音に限りなく近い静音で。
「……あの、メルネ……」
寝室に入ってから、どうしてか一言も発さないメルネ。雰囲気といい、明らかに尋常ではないその様子に、ラグナが口を開いた時。
突如、メルネが徐にその場から歩き出した。ゆっくりと、だが着実に一歩ずつ、踏み締めるように。
大して開いていなかった距離。故に一分と過ぎず、メルネは寝台の目の前、そしてラグナの元に辿り着くや否や、そのまま前のめりになって。
困惑しているラグナの顔に、自分の顔を近づけさせて。互いの鼻先が触れ合ってしまう距離────どころか、吐息がかかる至近距離にまで。
チュ──そして一切躊躇うことなく、平然とした様子で、平気でメルネはラグナと唇を重ね合わせるのだった。
「……………んむぅっ!?」
数秒遅れて、ラグナは目を見開かせ、白黒させながら。メルネに唇を塞がれたままに、くぐもった素っ頓狂な悲鳴を上げる。そして咄嗟に、反射的に彼女のことを突き飛ばす────
「んんっ」
────よりも先に、ずっと素早く、メルネはラグナを寝台へ押し倒した。それと同時に、彼女は片手でラグナの両手を瞬く間に掴み、押さえ込む
「ん、んんぅっ!」
ものの数秒で、束の間もなく、流れるように。あまりにも脆弱なラグナの抵抗を容易く捩じ伏せ、自由を奪い去ったメルネ。そんな彼女が次に取った行動は。
にゅり、と。依然重ね合わせているラグナの上下の唇の間に舌を這わせることであった。
柔らかく、少しざらついた、ぬるりとして熱いメルネの舌。そんな彼女の舌が、ラグナの唇を這うようにして舐る。
その感触と熱さに、ラグナは堪らず身を捩らせながら。どうにかしてメルネの下から抜け出そうとするものの。やはりというべきか、彼女の力には到底敵わず、徒労に終わってしまう。
そして元より少ない体力を削った結果、辛うじて閉ざすことができていた唇を、ほんの少しだけ、僅かばかり開いてしまうことになり。それが意味するのは、ラグナの唇に隙間が生じるということであり。
ずにゅり、と。瞬間、目敏くメルネの舌は、その隙間に滑り込むのだった。
そうしてラグナの口腔へと侵入を果たしたメルネの舌が、真っ先に起こした行動────それは捕まえること。
メルネの舌は一瞬にして、奥へ逃げる暇すら与えず、ラグナの舌を絡め取る。その様はまるで、獲物に巻きつく蛇のようであった。
堪らず肩を跳ねさせるラグナ。しかしすぐさま思い知らされる────この程度の刺激など、これから始まる蹂躙に比べれば、お遊びの児戯に過ぎないと。
直後、ラグナの舌に絡みついたまま、メルネの舌が動く。巧みに蠢き、ラグナの舌を扱き上げる。
「んんんッ」
舌全体に広がる、柔らかでざらざらとした感触。そのこそばゆい、擽ったい感覚に。ラグナは瞳を閉ざし、身体を縮こませる────そんな実に初々しい反応が、メルネの背を押し、彼女に歯止めを効かせなくさせる。
果たして一体、何分そうしていたのだろうか。数分、十数分。少なくとも、一時間は経っていない。
貪欲に、ただただ貪欲に。ひたすら貪欲に。己が欲望に駆られて突き進むままに、ラグナの舌を貪るように弄んだメルネの舌が、不意にその動きを止め。そしてラグナの舌から離れて、その唇からもようやっと離れた。
つう、と。二人の間で銀糸が伸び、伝う。その様は実に淫靡で、卑猥で────美しかった。
それをラグナは息絶え絶えになりながら、呆然と見つめ。メルネはそれを、何処か満足げに見つめていた。
「私が、救うの」
数秒の静寂を経て。先に口を開いたメルネが、言う。その声音は不穏で妖しい熱を帯びている。
「メ、ルネ……」
と、か細い声で静かに呟くラグナの。涙が薄らと滲み、濡れた瞳。艶やかに上気した頬。非効率的な呼吸が繰り返される度、上下し揺れ動く胸元────それらによって成り立つ、ラグナの蠱惑的で背徳的な姿を。
視界に余さず映し込みながら、息を荒げてメルネは言う。
「だからクラハには渡さない、クラハだけには取らせない、あの男には絶対奪わせない。ラグナ、あなたは私が救うのよ……!」
そしてラグナが反応する間もなく、メルネは再度その唇を唇で以て塞ぐのだった。
先んじて寝室に向かったメルネと同じように、ラグナもまた寝室に向かい。そうして、就寝しようと寝台に横たわり、瞳を閉ざしたのだが。
やがて数分後、閉ざしたばかりの瞳を、ラグナはゆっくりとまた開いた。
「……眠れない」
瞳と同じように、口も開いてそう呟くラグナ。それから少し億劫そうに、気怠そうにしながらも、横たわった姿勢から仰向けになるのだった。
そうして独り、寝台から天井を仰ぎ見ているラグナ。その胸中に渦巻く────悔恨。それからジワリと滲み広がる、罪悪感。
『クラハのことも、憶えてないの?』
「……」
その質問に対して、あの時自分は確かにこう答えた。憶えていない、と。
憶えていない────それは紛れもない事実。しかし、間違ってもいた。
「……クラハ、さん」
突如としてメルネから聞かされたその名前を、ラグナは今一度呟く。
ずっと、ラグナは黙っていた。『大翼の不死鳥』の皆にも、グィンやロックスにも。そして、メルネにも。
その全員に対して、ラグナはずっと黙っていた。ラグナはずっと隠していた。
『さようなら、ラグナさん』
それらの記憶が未だ残っていることを、ラグナは隠し続けていたのだった。
この街のこと。『大翼の不死鳥』のこと。今まで接してきた全ての人々のこと。そして、自分のことですらも。
忘れてしまった。何もかもを忘れてしまった────だというのに。
『あなたの言葉を聞く道理も義理も、今や僕にはない』
こんな有様の、こんな空っぽの自分の中に。何故か残ってる、全く以て覚えのないそれらの記憶。
『僕は冒険者ランカーだ。あなたは受付嬢だ。……いい加減、その事実を理解してください。その現実を受け止めてくださいよ、ラグナさん』
苦い、あまりにも苦い。辛い、あまりにも辛い。胸中を苛み、感情を揺さぶるそれらの記憶。
『少なくとも、僕は望んでもいなければ求めてもいない』
ふとした瞬間に脳裏を過り、その度に去来するこのどうしようもない悲しさ。どうすることもできない、淋しさ。
その全てが、知らない。その全てを、知らない────だというのに、一体何故。何故に、どうして。
「……クラハ、ウインドア……」
宛ら出口の用意されていない、脱出不可の迷路の如き。延々と、永遠に答えが出せない思考の果てに。ラグナは呆然と、メルネからは聞かされていないその本名を呟いた。
呟き、そして再度瞳を閉ざそうとした────寸前。
コンコンコン──と、不意に。外からラグナの寝室の扉が叩かれた。
「ラグナ?まだ、起きてるかしら?」
続けて聴こえた、メルネの声。その声に、ラグナは寝台から身体を起こす。
「は、はい。起きてます。どうしたんですか?」
ラグナとしてはもう今頃すっかり寝てしまっているのだろうと思っていた人物の、それもこんな夜遅くの来訪。一体何事かと少し動揺しながらもそう訊ねると、少し遅れてメルネが返事する。
「ごめんなさい。ちょっと、部屋に入ってもいい?」
「え?はい、大丈夫ですけど……」
何の用があってここに来たのか、部屋に入りたがるその理由は何か────そういった引っ掛かりを多少感じながらも、ラグナはメルネがこの寝室へ入ることを了承するのだった。
「ありがとう。それじゃあ、失礼するわ」
そう言い、少しの間を置いてから。寝室の扉をゆっくりと静かに開き、メルネがその足を踏み入れさせるのだった。
──……メルネ?
寝室に入ってきたメルネの姿を目の当たりにしたラグナは、思わず訝しんでしまう。それ程までに、ラグナから見て今のメルネは────異質で、異様な雰囲気をその全身から発していた。
「…………」
否応にも何処か、やたら不穏な雰囲気をその身に纏いながら。今し方開いた扉を、メルネは正面を向いたまま、またゆっくりと静かに閉める。
カチャ──そして、鍵をかけた。ラグナがそのことに気づかないよう、無音に限りなく近い静音で。
「……あの、メルネ……」
寝室に入ってから、どうしてか一言も発さないメルネ。雰囲気といい、明らかに尋常ではないその様子に、ラグナが口を開いた時。
突如、メルネが徐にその場から歩き出した。ゆっくりと、だが着実に一歩ずつ、踏み締めるように。
大して開いていなかった距離。故に一分と過ぎず、メルネは寝台の目の前、そしてラグナの元に辿り着くや否や、そのまま前のめりになって。
困惑しているラグナの顔に、自分の顔を近づけさせて。互いの鼻先が触れ合ってしまう距離────どころか、吐息がかかる至近距離にまで。
チュ──そして一切躊躇うことなく、平然とした様子で、平気でメルネはラグナと唇を重ね合わせるのだった。
「……………んむぅっ!?」
数秒遅れて、ラグナは目を見開かせ、白黒させながら。メルネに唇を塞がれたままに、くぐもった素っ頓狂な悲鳴を上げる。そして咄嗟に、反射的に彼女のことを突き飛ばす────
「んんっ」
────よりも先に、ずっと素早く、メルネはラグナを寝台へ押し倒した。それと同時に、彼女は片手でラグナの両手を瞬く間に掴み、押さえ込む
「ん、んんぅっ!」
ものの数秒で、束の間もなく、流れるように。あまりにも脆弱なラグナの抵抗を容易く捩じ伏せ、自由を奪い去ったメルネ。そんな彼女が次に取った行動は。
にゅり、と。依然重ね合わせているラグナの上下の唇の間に舌を這わせることであった。
柔らかく、少しざらついた、ぬるりとして熱いメルネの舌。そんな彼女の舌が、ラグナの唇を這うようにして舐る。
その感触と熱さに、ラグナは堪らず身を捩らせながら。どうにかしてメルネの下から抜け出そうとするものの。やはりというべきか、彼女の力には到底敵わず、徒労に終わってしまう。
そして元より少ない体力を削った結果、辛うじて閉ざすことができていた唇を、ほんの少しだけ、僅かばかり開いてしまうことになり。それが意味するのは、ラグナの唇に隙間が生じるということであり。
ずにゅり、と。瞬間、目敏くメルネの舌は、その隙間に滑り込むのだった。
そうしてラグナの口腔へと侵入を果たしたメルネの舌が、真っ先に起こした行動────それは捕まえること。
メルネの舌は一瞬にして、奥へ逃げる暇すら与えず、ラグナの舌を絡め取る。その様はまるで、獲物に巻きつく蛇のようであった。
堪らず肩を跳ねさせるラグナ。しかしすぐさま思い知らされる────この程度の刺激など、これから始まる蹂躙に比べれば、お遊びの児戯に過ぎないと。
直後、ラグナの舌に絡みついたまま、メルネの舌が動く。巧みに蠢き、ラグナの舌を扱き上げる。
「んんんッ」
舌全体に広がる、柔らかでざらざらとした感触。そのこそばゆい、擽ったい感覚に。ラグナは瞳を閉ざし、身体を縮こませる────そんな実に初々しい反応が、メルネの背を押し、彼女に歯止めを効かせなくさせる。
果たして一体、何分そうしていたのだろうか。数分、十数分。少なくとも、一時間は経っていない。
貪欲に、ただただ貪欲に。ひたすら貪欲に。己が欲望に駆られて突き進むままに、ラグナの舌を貪るように弄んだメルネの舌が、不意にその動きを止め。そしてラグナの舌から離れて、その唇からもようやっと離れた。
つう、と。二人の間で銀糸が伸び、伝う。その様は実に淫靡で、卑猥で────美しかった。
それをラグナは息絶え絶えになりながら、呆然と見つめ。メルネはそれを、何処か満足げに見つめていた。
「私が、救うの」
数秒の静寂を経て。先に口を開いたメルネが、言う。その声音は不穏で妖しい熱を帯びている。
「メ、ルネ……」
と、か細い声で静かに呟くラグナの。涙が薄らと滲み、濡れた瞳。艶やかに上気した頬。非効率的な呼吸が繰り返される度、上下し揺れ動く胸元────それらによって成り立つ、ラグナの蠱惑的で背徳的な姿を。
視界に余さず映し込みながら、息を荒げてメルネは言う。
「だからクラハには渡さない、クラハだけには取らせない、あの男には絶対奪わせない。ラグナ、あなたは私が救うのよ……!」
そしてラグナが反応する間もなく、メルネは再度その唇を唇で以て塞ぐのだった。
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