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RESTART──先輩と後輩──
終焉の始まり(その一)
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そこは第一大陸の辺境にある、どこかの森の中。周囲には街はおろか小さな町や村などもなく、故に人もいる訳がなく。
その為普段────というより、行く当ても定めず、ただ自由気儘に、己が儘に放浪を続ける旅人くらいなもの……と、ここはそう言いたいところなのだが。実のところ、そういった旅人でさえも、この森を通ることはない。彼らは通ろうとは考えもしないだろうし、そう思いたくもないだろう。
人喰いの森────と、誰も彼もが異口同音にそう呼び伝えている、この森だけは。
最初は単なる噂の、信憑性の欠片もない、ホラの与太話でしかなかった。何処にでもあり、誰からも耳にする、恐ろしい魔物の棲家、巣窟、縄張り────そういった類の。
だがこのような辺鄙なただの森が、そんな世界中の秘境魔境にも勝るとも劣らない、危険な場所であるとは誰もが考え難く、誰もが思わないでいた。
……しかし、『火のないところに煙は立たない』────そんな第三大陸の極東にあるその諺が指し示す通り、人が。旅人であったり、噂の真偽の程を確かめようと好奇心に踊らされた者だったり。そういった諸々の理由でこの森に入った者たちは。
皆、その全員が全員、一人として。帰って来た者はいなかった。その人数が徐々に増える度、噂は真実味を帯び始め。やがて内包されていた恐怖は人から人へと伝わり。村や町、そして栄えた都市街にも伝播し、そうした末に。
恐ろしい魔物の棲家、巣窟、縄張り────そういった類の。
このような辺鄙なただの森が、世界中の秘境魔境にも勝るとも劣らない、危険な場所であると誰もが考え、誰もが思うようになり。
人喰いの森────最初に誰かがそう呼んで、いつしか誰もが皆全員、そう呼ぶようになっていた。
ガララガラガララ──そんな人々が一様に恐れ怯える人喰いの森を現在。一台の馬車と、それを囲うようにして方陣を組みながら歩く、五人の冒険者たちがいた。
「にしてもこれがかの悪名高い、人喰いの森……けど、今のところその呼び名を実感できそうにないな」
「所詮噂は噂ってこった。もしくはおっかなびっくらこいた臆病者の、傍迷惑な誇張表現だったんだろうさ」
「いや、それはどうだかな。事実この森を訪れた奴は漏れなくお陀仏、あの世へ逝ったことは確かなんだ」
「まあまあ。僕ら冒険者番付表入りの冒険隊、『噛狗』であれば。例えこの森が噂通りの場所であったとしても、難なく突破できますよ」
と、互いに軽口を叩き合う四人。そんな様子を良しとせず、彼らの先頭を歩く男────この冒険隊『噛狗』の隊長であるヴォルフ=ブリードが叱責するように、四人へこう言う。
「わかっているのか、お前たち。これは遠足などではない。いつまでも遊び気分でいると、死ぬことになるぞ」
「わかってますよ隊長。何せ今回の依頼は大仕事。前金百万Orsの報酬一千万Orsなんです。大金の為にも気なんて抜いちゃいられませんって」
「……ああ、だったらそれでいい」
ヴォルフに嗜められ、隊員の一人が彼にそう返事する。しかし、その声色からも十二分に察せられる通り、気が緩みに弛んでいることは明白であり。当然そのことを見抜いているヴォルフは、半ば呆れたような表情を浮かべるのだった。
──全く……これはそろそろ、替え時か。
自分の過ちならばいざ知らず、他人の不出来の為にこちらまで迷惑を被るなど、堪ったものではない。この依頼を達成した後、冒険隊から誰を追い出し、そして冒険者組合の誰を穴埋めに使おうかと、ヴォルフが考える────のと、ほぼ同時のこと。
「ん?何だぁ、こりゃ」
「霧か……?」
と、冒険隊の二人が言う通り。唐突に、この周囲に薄らと霧が立ち込み。瞬く間に、その霧は濃くなる。それはもう、少し先も、一寸先ですらも見通せない程に。
「……全員止まれ」
毅然としたヴォルフの声が森全体に響く。それに続き、他の冒険隊の面々も言われた通りその場に立ち止まる。
「どうするんです、隊長。こんなところで立ち往生なんてごめんですぜ」
「そうですね。できれば日が落ちてしまう前に森を抜けたいですし……」
「黙っていろ。馬車を囲むようにして、円陣を組め。今は少し、様子を見る」
この程度のことで早々に色めき立つ面々に、堪らず苛立ちながらも、ヴォルフはそう言って彼らを律する。そして自分でも言った通り、彼は霧に包まれ覆われた周囲を見渡す。
先程、つい今し方まで。天気に異常も、気候に変動も、特には見られなかった。それ故にこのような霧の発生は考え難い。いや、あり得ない。山の中でもないというのに。
──青天の霹靂とは正しくこのことか……。
と、内心そう呟きながら────徐に、ヴォルフは腰に下げている得物の柄へと、手を伸ばした。
「総員、戦闘た
ザシュッ──そして毅然とした声で、冒険隊の面々にも各々の武器を手にし、戦闘態勢に移るよう指示を飛ばそうとしたヴォルフの首が飛んだ。
その為普段────というより、行く当ても定めず、ただ自由気儘に、己が儘に放浪を続ける旅人くらいなもの……と、ここはそう言いたいところなのだが。実のところ、そういった旅人でさえも、この森を通ることはない。彼らは通ろうとは考えもしないだろうし、そう思いたくもないだろう。
人喰いの森────と、誰も彼もが異口同音にそう呼び伝えている、この森だけは。
最初は単なる噂の、信憑性の欠片もない、ホラの与太話でしかなかった。何処にでもあり、誰からも耳にする、恐ろしい魔物の棲家、巣窟、縄張り────そういった類の。
だがこのような辺鄙なただの森が、そんな世界中の秘境魔境にも勝るとも劣らない、危険な場所であるとは誰もが考え難く、誰もが思わないでいた。
……しかし、『火のないところに煙は立たない』────そんな第三大陸の極東にあるその諺が指し示す通り、人が。旅人であったり、噂の真偽の程を確かめようと好奇心に踊らされた者だったり。そういった諸々の理由でこの森に入った者たちは。
皆、その全員が全員、一人として。帰って来た者はいなかった。その人数が徐々に増える度、噂は真実味を帯び始め。やがて内包されていた恐怖は人から人へと伝わり。村や町、そして栄えた都市街にも伝播し、そうした末に。
恐ろしい魔物の棲家、巣窟、縄張り────そういった類の。
このような辺鄙なただの森が、世界中の秘境魔境にも勝るとも劣らない、危険な場所であると誰もが考え、誰もが思うようになり。
人喰いの森────最初に誰かがそう呼んで、いつしか誰もが皆全員、そう呼ぶようになっていた。
ガララガラガララ──そんな人々が一様に恐れ怯える人喰いの森を現在。一台の馬車と、それを囲うようにして方陣を組みながら歩く、五人の冒険者たちがいた。
「にしてもこれがかの悪名高い、人喰いの森……けど、今のところその呼び名を実感できそうにないな」
「所詮噂は噂ってこった。もしくはおっかなびっくらこいた臆病者の、傍迷惑な誇張表現だったんだろうさ」
「いや、それはどうだかな。事実この森を訪れた奴は漏れなくお陀仏、あの世へ逝ったことは確かなんだ」
「まあまあ。僕ら冒険者番付表入りの冒険隊、『噛狗』であれば。例えこの森が噂通りの場所であったとしても、難なく突破できますよ」
と、互いに軽口を叩き合う四人。そんな様子を良しとせず、彼らの先頭を歩く男────この冒険隊『噛狗』の隊長であるヴォルフ=ブリードが叱責するように、四人へこう言う。
「わかっているのか、お前たち。これは遠足などではない。いつまでも遊び気分でいると、死ぬことになるぞ」
「わかってますよ隊長。何せ今回の依頼は大仕事。前金百万Orsの報酬一千万Orsなんです。大金の為にも気なんて抜いちゃいられませんって」
「……ああ、だったらそれでいい」
ヴォルフに嗜められ、隊員の一人が彼にそう返事する。しかし、その声色からも十二分に察せられる通り、気が緩みに弛んでいることは明白であり。当然そのことを見抜いているヴォルフは、半ば呆れたような表情を浮かべるのだった。
──全く……これはそろそろ、替え時か。
自分の過ちならばいざ知らず、他人の不出来の為にこちらまで迷惑を被るなど、堪ったものではない。この依頼を達成した後、冒険隊から誰を追い出し、そして冒険者組合の誰を穴埋めに使おうかと、ヴォルフが考える────のと、ほぼ同時のこと。
「ん?何だぁ、こりゃ」
「霧か……?」
と、冒険隊の二人が言う通り。唐突に、この周囲に薄らと霧が立ち込み。瞬く間に、その霧は濃くなる。それはもう、少し先も、一寸先ですらも見通せない程に。
「……全員止まれ」
毅然としたヴォルフの声が森全体に響く。それに続き、他の冒険隊の面々も言われた通りその場に立ち止まる。
「どうするんです、隊長。こんなところで立ち往生なんてごめんですぜ」
「そうですね。できれば日が落ちてしまう前に森を抜けたいですし……」
「黙っていろ。馬車を囲むようにして、円陣を組め。今は少し、様子を見る」
この程度のことで早々に色めき立つ面々に、堪らず苛立ちながらも、ヴォルフはそう言って彼らを律する。そして自分でも言った通り、彼は霧に包まれ覆われた周囲を見渡す。
先程、つい今し方まで。天気に異常も、気候に変動も、特には見られなかった。それ故にこのような霧の発生は考え難い。いや、あり得ない。山の中でもないというのに。
──青天の霹靂とは正しくこのことか……。
と、内心そう呟きながら────徐に、ヴォルフは腰に下げている得物の柄へと、手を伸ばした。
「総員、戦闘た
ザシュッ──そして毅然とした声で、冒険隊の面々にも各々の武器を手にし、戦闘態勢に移るよう指示を飛ばそうとしたヴォルフの首が飛んだ。
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