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RESTART──先輩と後輩──
崩壊(その十六)
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これまでの生涯。今までの一生。その最中に於いて、『滅戮の暴威』はただ、探していた。
この腕のほんの一振りは、一切合切全てを砕いて壊す。しかし、この腕のほんの一振りではどうにもならない、そんな存在を。
探して、探し求めて。追いかけ、追い求めた。
けれど、見つからなかった。当然だ。この世界に生まれ落ちたその瞬間から、最強だった自分に並び立てる存在など────存在しない。
その結論に至ったのは、果たしていつ頃のことだったか。それももはや、覚えていない。もうどうでもよくなってしまっていた。
……だと言うのに、この胸を灼き尽くして焦がし尽くす、怒りだけは。いつまで経っても、幾ら時が過ぎようとも、決して失せることも褪せることもなく。延々と、燻り続けた。
忘れたかった。忘れたかったから、忘れようと。だから、暴れた。ただひたすらに暴れ、どうしようもない程に暴れ続けて────だが、『滅戮の暴威』はこの怒りを忘れることができなかった。
そうしていつしか、悟った。この身が朽ちて滅び去るその時まで、殺戮の限りを尽くし、暴威を振り撒こうと。きっと最後の最期まで、自分はこの怒りに支配されたままなのだろうと。
なんと、恐ろしくつまらない生涯。変わり映えのない惰性の一生。寿命を迎えるまでそれを続ければならないという、この上ない苦渋。それに伴う苦痛。
どうしてこれを、怒らずに受け止められようか──────────
「……ガ、ァ……」
だがそれも、ようやく。今ここで、終わりを迎えようとしていた。ようやっと、『滅戮の暴威』は探し求めた存在に行き着いた。追い求めた存在に辿り着いた。
一切合切全てを鏖す、この腕のほんの一振りを。こともあろうに軟弱で脆弱極まる人間がその身に受けて、なお。絶命するどころかその場から立ち上がり、剰えこちらに立ち向かう気概を見せつけてきた。
まさに、正しく、それだ。それだった。それこそが、探し求めていた存在。それだけが、追い求めていた存在。
変わり映えのしない惰性の一生。至極つまらないこの生涯。これを一変させる存在こそが、その人間だったのだ。
その時、その瞬間。『滅戮の暴威』は自ずと知る。理解する。この全身を激しく駆け巡り、そうして弾けんばかりに溢れそうになるこれが。これこそが────喜び、であると。
知って、知りながら、知る最中──────────終わった。
実力の全てをぶつけた。だが、それが通じたのは最初の始まりだけで。そこからは一切、全く通用せず、届かなかった。
薙ごうとした腕は斬り飛ばされ、刈ろうとした爪は打ち砕かれ。終いまで、ただの一撃も。僅かな擦り傷一つですら、与えることはもう叶わなかった。
先程まではこちらを斬り伏せるどころか、生じた衝撃に耐え切れず自壊した刃折れの剣を以て。その事実がまるで荒唐無稽の虚実だったかのように、こちらを散々と斬り刻んでみせた。
その時初めて知ることができた、痛み。斬痕から流れる血の熱さ────それが、『滅戮の暴威』に確かな生を実感させていた。
生きている。今を、生きている。こうして必死に、死に物狂いになって生きている────そのことに、『滅戮の暴威』はまたしても強烈で激烈な歓喜に打ち震えるのだった。
打ち震えながら、それもまた実感する──────────今し方も過ぎない内に、この生が終わらんとしていることを。
だが、駆ける。それでも構わないと、駆け抜ける。今この一瞬、それが全てであると。自ずと悟っていた『滅戮の暴威』に、よもやここまで至って止まるなどというのは、あり得ない選択で。そして取り得ない選択だった。
己の全てを出し切り。己の全部を引き摺り出し。そうして──────────遂に、終わったのだ。
自分が作り上げた夥しい血の海に横たわり、『滅戮の暴威』は遥か頭上の空を見上げる。こうして眺めるそれは────晴れやかに、青く澄み渡っていた。
すると不意に、唐突に。『滅戮の暴威』の脳裏に景色が浮かぶ。ぼやけて揺らぐ数々の景色が。浮かんでは消え、それを幾度となく繰り返す。
遅れて、それらが今までの生涯、これまでの一生の記憶であると。『滅戮の暴威』は気がつく。大量のそれらに────しかし、今こうして青空を眺めているような記憶はなかった。
それから『滅戮の暴威』は視線を映す。空を見上げるこちらとは打って変わって、地に臥す己を見下す人間の方に。
絶対的強者として君臨した自分を、最初こそ手痛い────否、今にして思えばそれも大したことはなかったのだろう。ともかく、こちらの攻撃を受けはしたが、しかしそれを全く意に介さない様子で圧倒の限りを尽くした人間は。やはりというべきか、未だにどうしてか人形が如き無表情であった。
それはそうして、終わりが来る。終わりが近づいて来る。決して逃れようのない、生命の終わりであると『滅戮の暴威』は知っていた。何故ならば、それを今までに散々見てきたのだから。
けれど、後悔はない。そんなものあるはずがない。『滅戮の暴威』は全てを振り絞り、出し切ったのだから。
故にあったのは後悔ではなく────充実感。やり切ったという、満足感。今の『滅戮の暴威』にあったのは、ただそれだけで。
つい先程まで────否、生まれてから今に至るこの時、この瞬間まで、己を蝕み苛み続けていた憤怒の激情は。まるで元からなかったかのように消え失せていた。
「……ガ、ァ、ァ…………」
そして生命もまた、消え失せていく。心臓の鼓動が遅くなり、だんだんと脈動が弱まっていく。それはもう、どうにもならない。どうすることもできない、生命の終わり。
やがて熱かった血は冷めて、身体が凍てつくのを感じ取りながら。しかし、それでも惜しむこともせず。
「……………………」
そうして、『滅戮の暴威』は息絶えた──────────
「……また、死ねなかった……」
──────────訪れる死の直前、耳に届いたその言葉を確と聞き取って。
この腕のほんの一振りは、一切合切全てを砕いて壊す。しかし、この腕のほんの一振りではどうにもならない、そんな存在を。
探して、探し求めて。追いかけ、追い求めた。
けれど、見つからなかった。当然だ。この世界に生まれ落ちたその瞬間から、最強だった自分に並び立てる存在など────存在しない。
その結論に至ったのは、果たしていつ頃のことだったか。それももはや、覚えていない。もうどうでもよくなってしまっていた。
……だと言うのに、この胸を灼き尽くして焦がし尽くす、怒りだけは。いつまで経っても、幾ら時が過ぎようとも、決して失せることも褪せることもなく。延々と、燻り続けた。
忘れたかった。忘れたかったから、忘れようと。だから、暴れた。ただひたすらに暴れ、どうしようもない程に暴れ続けて────だが、『滅戮の暴威』はこの怒りを忘れることができなかった。
そうしていつしか、悟った。この身が朽ちて滅び去るその時まで、殺戮の限りを尽くし、暴威を振り撒こうと。きっと最後の最期まで、自分はこの怒りに支配されたままなのだろうと。
なんと、恐ろしくつまらない生涯。変わり映えのない惰性の一生。寿命を迎えるまでそれを続ければならないという、この上ない苦渋。それに伴う苦痛。
どうしてこれを、怒らずに受け止められようか──────────
「……ガ、ァ……」
だがそれも、ようやく。今ここで、終わりを迎えようとしていた。ようやっと、『滅戮の暴威』は探し求めた存在に行き着いた。追い求めた存在に辿り着いた。
一切合切全てを鏖す、この腕のほんの一振りを。こともあろうに軟弱で脆弱極まる人間がその身に受けて、なお。絶命するどころかその場から立ち上がり、剰えこちらに立ち向かう気概を見せつけてきた。
まさに、正しく、それだ。それだった。それこそが、探し求めていた存在。それだけが、追い求めていた存在。
変わり映えのしない惰性の一生。至極つまらないこの生涯。これを一変させる存在こそが、その人間だったのだ。
その時、その瞬間。『滅戮の暴威』は自ずと知る。理解する。この全身を激しく駆け巡り、そうして弾けんばかりに溢れそうになるこれが。これこそが────喜び、であると。
知って、知りながら、知る最中──────────終わった。
実力の全てをぶつけた。だが、それが通じたのは最初の始まりだけで。そこからは一切、全く通用せず、届かなかった。
薙ごうとした腕は斬り飛ばされ、刈ろうとした爪は打ち砕かれ。終いまで、ただの一撃も。僅かな擦り傷一つですら、与えることはもう叶わなかった。
先程まではこちらを斬り伏せるどころか、生じた衝撃に耐え切れず自壊した刃折れの剣を以て。その事実がまるで荒唐無稽の虚実だったかのように、こちらを散々と斬り刻んでみせた。
その時初めて知ることができた、痛み。斬痕から流れる血の熱さ────それが、『滅戮の暴威』に確かな生を実感させていた。
生きている。今を、生きている。こうして必死に、死に物狂いになって生きている────そのことに、『滅戮の暴威』はまたしても強烈で激烈な歓喜に打ち震えるのだった。
打ち震えながら、それもまた実感する──────────今し方も過ぎない内に、この生が終わらんとしていることを。
だが、駆ける。それでも構わないと、駆け抜ける。今この一瞬、それが全てであると。自ずと悟っていた『滅戮の暴威』に、よもやここまで至って止まるなどというのは、あり得ない選択で。そして取り得ない選択だった。
己の全てを出し切り。己の全部を引き摺り出し。そうして──────────遂に、終わったのだ。
自分が作り上げた夥しい血の海に横たわり、『滅戮の暴威』は遥か頭上の空を見上げる。こうして眺めるそれは────晴れやかに、青く澄み渡っていた。
すると不意に、唐突に。『滅戮の暴威』の脳裏に景色が浮かぶ。ぼやけて揺らぐ数々の景色が。浮かんでは消え、それを幾度となく繰り返す。
遅れて、それらが今までの生涯、これまでの一生の記憶であると。『滅戮の暴威』は気がつく。大量のそれらに────しかし、今こうして青空を眺めているような記憶はなかった。
それから『滅戮の暴威』は視線を映す。空を見上げるこちらとは打って変わって、地に臥す己を見下す人間の方に。
絶対的強者として君臨した自分を、最初こそ手痛い────否、今にして思えばそれも大したことはなかったのだろう。ともかく、こちらの攻撃を受けはしたが、しかしそれを全く意に介さない様子で圧倒の限りを尽くした人間は。やはりというべきか、未だにどうしてか人形が如き無表情であった。
それはそうして、終わりが来る。終わりが近づいて来る。決して逃れようのない、生命の終わりであると『滅戮の暴威』は知っていた。何故ならば、それを今までに散々見てきたのだから。
けれど、後悔はない。そんなものあるはずがない。『滅戮の暴威』は全てを振り絞り、出し切ったのだから。
故にあったのは後悔ではなく────充実感。やり切ったという、満足感。今の『滅戮の暴威』にあったのは、ただそれだけで。
つい先程まで────否、生まれてから今に至るこの時、この瞬間まで、己を蝕み苛み続けていた憤怒の激情は。まるで元からなかったかのように消え失せていた。
「……ガ、ァ、ァ…………」
そして生命もまた、消え失せていく。心臓の鼓動が遅くなり、だんだんと脈動が弱まっていく。それはもう、どうにもならない。どうすることもできない、生命の終わり。
やがて熱かった血は冷めて、身体が凍てつくのを感じ取りながら。しかし、それでも惜しむこともせず。
「……………………」
そうして、『滅戮の暴威』は息絶えた──────────
「……また、死ねなかった……」
──────────訪れる死の直前、耳に届いたその言葉を確と聞き取って。
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