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RESTART──先輩と後輩──
崩壊(その十)
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この世界では、現在四つの大陸が存在し、確認されている。
四大陸の中でも最も進んだ文明と技術を持ち、常に時代の最先端を往く第二の大陸────セトニ大陸。
古き自然を色濃く、数多く残し。そして独自の文化を築く極東の地を有する第三の大陸────サドヴァ大陸。
世界全体から徐々に失われつつある原初の神秘に囲まれ、その恩恵を存分に享受する第四の大陸────フォディナ大陸。
このように、各大陸にはそれぞれの記すべき特徴があるのだが。しかし、第一の大陸────ファース大陸にはこれといった、特筆すべき特徴なんてものはなく。
強いて言うのであれば、四大陸の中でも有数の貿易街があることくらいで。そして何を隠そうその貿易街こそが、オールティアである。
世界に誇る評価は決して伊達ではなく、この街がこの大陸の経済を一手に回していると言っても過言ではない。
それ故にオールティアの顔とも言うべき街道は日夜、時間を問わず。忙しなく賑わい、沸いている。そうして常に住人と商人、人と人の波でごった返す坩堝と化しているのだ。
その街道を今、二人の冒険者が歩いていた。
──さて、こいつは一体全体……どうしたもんかな。
と、道行く人々の間を器用に抜けながら。参ったように心の中でそう呟くロックス。
「……」
そんな彼の苦い心境など露知らず、もしくは見透かしている上でか。その後ろを黙って、相も全く変わらない仏頂面の無表情のままで付いていくクラハ。
つい先程『大翼の不死鳥』の広間の場を騒然とさせ、掻き乱すだけ掻き乱したままに後にした時から、今に至るまで。取り留めのない些細な会話はおろか、一言二言ですら。二人の間で全く交わされることはなかった。
だがまあ、それも当然といえば当然のことだろう────
『少なくとも、僕は望んでもいなければ求めてもいない』
『どうして、こんな奴になっちまったんだ』
────何せ、あんなことがあったばかりなのだから。
その為二人の間に流れる空気は当然ながら良好とは言い難く、鬱屈とした重苦しいものになっていて。街道の賑やかな喧騒も相まって、クラハとロックスの二人は周囲から恐ろしく浮いてしまっている。
……けれど、ロックス自身としてはこの空気をどうにかしたいと思っていた。が、当然ながらそれは容易なことではない。
──努めて冷静でありたい、と思っていた俺としたことが……つい熱くなっちまったぜ。
そう、先程の場面────広間では、彼は最後まで冷静でいるべきだった。冷静に頭でものを考え、感情に踊らされる訳にはいかなかった。
だが、それは無理だった。
『あなたの言葉を聞く道理も義理も、今や僕にはない』
『あなたはもう僕の先輩じゃない』
『たかが受付嬢でしかないあなたに、僕が心配される筋合いなんてありません』
目の前で、よりにもよって。他の誰でもないクラハが、ラグナを無慈悲にも無惨に傷つける様を見せつけられて。それを大したことでもないかのように流して、見て見ぬふりで済ますことなど。到底、ロックスには無理だった。
それを今さら、こうしてどれだけ悔やみ猛省しようと。吐いた唾はもう二度と飲み込めない。そのことを重々承知し、痛感しながら。しかし、それでもロックスはこの空気を変えたいと思い、考えていた。
まあ、それにはこんな空気の最中にずっといたくないという彼の個人的な私情もあるのだが。それと同時に、実のところ今回のことは何もクラハが全面的に悪いと、そうロックスは思っていない。ラグナを傷心させたことは決して、絶対に許せないが。
しかし、本来であれば未然に防げる事態のはずだった。他の誰でもない、ロックスにならば、クラハにあのようなことを言わせずに止められるはずだったのだ。
それは何故か?────何故なら、ロックスは既に知っていた。
『あははッ!あっははッはははっ!はははははッ!』
『く、来るな!来るな、来るな……来るなァアッ!!』
『来るなって、言って……言ってる、のに……!』
『何、で。どう、して……』
『ロックス、さん……?』
およそ、今のクラハの精神状態が日常通りの正常なものとは、とてもではないが言えないということを。唯一、あの場でロックスだけはわかっていたはずだったのだから。
無理もない。いくら二十歳の青年といっても、クラハの精神はまだ未熟である。だというのに、ここ最近、それも立て続けに色々なことが起こり過ぎた。
敬い慕っていた、憧れそのものであった自分の先輩が。ある日突然その面影など微塵も感じられない、華奢で可憐な少女となって。おまけに世界最強の一角と謳われていたその実力の全ても失われていて。
それが質の悪過ぎる冗談と思う暇も与えられず、自分が所属する冒険者組合のGM直々に一から鍛え上げ、最強だったその実力を取り戻せと言われ。そうして今までの自分の立場が突如としてひっくり返されてしまって。
それでも懸命に、必死にどうにかこうにかやっていた側からの────
『そうだ。俺はライザー……一年前、『大翼の不死鳥』から抜けた元《S》冒険者のライザー=アシュヴァツグフだ』
────考え得る限りの、予想し得る中でも。最悪の最悪過ぎる、決して望むことのなかったであろう再会。そして恐らく、これが決定打となってしまったのだろう。
計り知れぬ責任と重圧。多大に尽きる負担と消耗。その果てに、遂にクラハは限界を迎えてしまった。だが、むしろここまでよく保ったと言うべきだ。
このような出来事が、それも連続で起きたのなら。たとえロックスやメルネといえど参ってしまう。まだ年若く精神的に未熟なクラハが現実逃避の一つや二つ起こすのも、無理はないどころか当然のことなのである。
故に、自分も責任の一端を担うべきであるとロックスは考えており。だからこそ自分がこの空気を変えるべきだと思っていた。
故に、ロックスが。この空気を変える為に、彼がまず取った行動は。
「……さっきは悪かったな、クラハ」
謝り、そして歩み寄ることであった。
四大陸の中でも最も進んだ文明と技術を持ち、常に時代の最先端を往く第二の大陸────セトニ大陸。
古き自然を色濃く、数多く残し。そして独自の文化を築く極東の地を有する第三の大陸────サドヴァ大陸。
世界全体から徐々に失われつつある原初の神秘に囲まれ、その恩恵を存分に享受する第四の大陸────フォディナ大陸。
このように、各大陸にはそれぞれの記すべき特徴があるのだが。しかし、第一の大陸────ファース大陸にはこれといった、特筆すべき特徴なんてものはなく。
強いて言うのであれば、四大陸の中でも有数の貿易街があることくらいで。そして何を隠そうその貿易街こそが、オールティアである。
世界に誇る評価は決して伊達ではなく、この街がこの大陸の経済を一手に回していると言っても過言ではない。
それ故にオールティアの顔とも言うべき街道は日夜、時間を問わず。忙しなく賑わい、沸いている。そうして常に住人と商人、人と人の波でごった返す坩堝と化しているのだ。
その街道を今、二人の冒険者が歩いていた。
──さて、こいつは一体全体……どうしたもんかな。
と、道行く人々の間を器用に抜けながら。参ったように心の中でそう呟くロックス。
「……」
そんな彼の苦い心境など露知らず、もしくは見透かしている上でか。その後ろを黙って、相も全く変わらない仏頂面の無表情のままで付いていくクラハ。
つい先程『大翼の不死鳥』の広間の場を騒然とさせ、掻き乱すだけ掻き乱したままに後にした時から、今に至るまで。取り留めのない些細な会話はおろか、一言二言ですら。二人の間で全く交わされることはなかった。
だがまあ、それも当然といえば当然のことだろう────
『少なくとも、僕は望んでもいなければ求めてもいない』
『どうして、こんな奴になっちまったんだ』
────何せ、あんなことがあったばかりなのだから。
その為二人の間に流れる空気は当然ながら良好とは言い難く、鬱屈とした重苦しいものになっていて。街道の賑やかな喧騒も相まって、クラハとロックスの二人は周囲から恐ろしく浮いてしまっている。
……けれど、ロックス自身としてはこの空気をどうにかしたいと思っていた。が、当然ながらそれは容易なことではない。
──努めて冷静でありたい、と思っていた俺としたことが……つい熱くなっちまったぜ。
そう、先程の場面────広間では、彼は最後まで冷静でいるべきだった。冷静に頭でものを考え、感情に踊らされる訳にはいかなかった。
だが、それは無理だった。
『あなたの言葉を聞く道理も義理も、今や僕にはない』
『あなたはもう僕の先輩じゃない』
『たかが受付嬢でしかないあなたに、僕が心配される筋合いなんてありません』
目の前で、よりにもよって。他の誰でもないクラハが、ラグナを無慈悲にも無惨に傷つける様を見せつけられて。それを大したことでもないかのように流して、見て見ぬふりで済ますことなど。到底、ロックスには無理だった。
それを今さら、こうしてどれだけ悔やみ猛省しようと。吐いた唾はもう二度と飲み込めない。そのことを重々承知し、痛感しながら。しかし、それでもロックスはこの空気を変えたいと思い、考えていた。
まあ、それにはこんな空気の最中にずっといたくないという彼の個人的な私情もあるのだが。それと同時に、実のところ今回のことは何もクラハが全面的に悪いと、そうロックスは思っていない。ラグナを傷心させたことは決して、絶対に許せないが。
しかし、本来であれば未然に防げる事態のはずだった。他の誰でもない、ロックスにならば、クラハにあのようなことを言わせずに止められるはずだったのだ。
それは何故か?────何故なら、ロックスは既に知っていた。
『あははッ!あっははッはははっ!はははははッ!』
『く、来るな!来るな、来るな……来るなァアッ!!』
『来るなって、言って……言ってる、のに……!』
『何、で。どう、して……』
『ロックス、さん……?』
およそ、今のクラハの精神状態が日常通りの正常なものとは、とてもではないが言えないということを。唯一、あの場でロックスだけはわかっていたはずだったのだから。
無理もない。いくら二十歳の青年といっても、クラハの精神はまだ未熟である。だというのに、ここ最近、それも立て続けに色々なことが起こり過ぎた。
敬い慕っていた、憧れそのものであった自分の先輩が。ある日突然その面影など微塵も感じられない、華奢で可憐な少女となって。おまけに世界最強の一角と謳われていたその実力の全ても失われていて。
それが質の悪過ぎる冗談と思う暇も与えられず、自分が所属する冒険者組合のGM直々に一から鍛え上げ、最強だったその実力を取り戻せと言われ。そうして今までの自分の立場が突如としてひっくり返されてしまって。
それでも懸命に、必死にどうにかこうにかやっていた側からの────
『そうだ。俺はライザー……一年前、『大翼の不死鳥』から抜けた元《S》冒険者のライザー=アシュヴァツグフだ』
────考え得る限りの、予想し得る中でも。最悪の最悪過ぎる、決して望むことのなかったであろう再会。そして恐らく、これが決定打となってしまったのだろう。
計り知れぬ責任と重圧。多大に尽きる負担と消耗。その果てに、遂にクラハは限界を迎えてしまった。だが、むしろここまでよく保ったと言うべきだ。
このような出来事が、それも連続で起きたのなら。たとえロックスやメルネといえど参ってしまう。まだ年若く精神的に未熟なクラハが現実逃避の一つや二つ起こすのも、無理はないどころか当然のことなのである。
故に、自分も責任の一端を担うべきであるとロックスは考えており。だからこそ自分がこの空気を変えるべきだと思っていた。
故に、ロックスが。この空気を変える為に、彼がまず取った行動は。
「……さっきは悪かったな、クラハ」
謝り、そして歩み寄ることであった。
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