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RESTART──先輩と後輩──
暴発
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バンッ──頭の中を過ぎる一抹の不安。それを誤魔化し、振り払い、断ち切る為に。普段であれば決してそうはしないが、今だけはやや乱暴に。メルネはその扉を開け放つ。
──……!
瞬間、メルネの視界に飛び込んだのは小さな背中。今、彼女の視線の先では、ラグナが呆然とその場に立ち尽くしていた。
「ラグナッ!?どうしたの?何があったの?さっきの声って……!」
この時、メルネは己の目敏さを疎まずにはいられなかった。何故ならば、目敏いばかりに彼女は気づいたのだから。ラグナの様子が、見過ごす訳にはいかない程の、甚大な異常を来していることに。メルネは目敏く気づいてしまったのだから。
心の奥底から止め処なく湧いて溢れて溢れ出す、不快極まる焦燥。メルネの頭の中をずっと過っている、嫌な予感。
そんな、人に負の感情しか催させないものに、否応なく突き動かされるように。メルネは透かさず即座にそう声をかけると同時に、慌ててラグナの元に駆け寄る。
しかし、そのメルネの必死さをまるで一笑に付するかのように。当のラグナは全くと言っていい程に無反応だった。
そしてそれが、より一層メルネに望まぬ確信を抱かせた。
──お願い……どうか、違っていて……っ。
普通ならば。日常通りであるならば。ラグナのその態度は、まずあり得ないのだ。そうあってはならないものなのだ────と、必死に否定しながら。否定して、取り繕いながら。
もはやこの手を少し伸ばせば届くまで。ラグナに近づいたメルネは再度、まるで割れ物を扱うように慎重に。恐る恐る、呼びかける。
「ラグナ……?」
果たしてそれは良かったのか、それとも悪かったのか。それを判断できる程の余裕など、今のメルネにはなかった。
そこでようやく。今になってようやっと、動いた。終始微動だにせずその場に立ち尽くすばかりであったラグナが、ゆっくりとメルネの方に振り返った。
──…………そん、な。
瞬間、メルネが目にしたものは────
「……ぁ……メルネ………?」
────絶望に打ちひしがれる、哀切と諦観の表情が浮かぶ顔。そして濁り淀んだ光をどろりと零す、昏い紅玉の瞳。その二つであった。
メルネ=クリスタの予感は、大抵嫌なものであればある程に良く当たる。最低最悪に限って的中してしまう。昔から、いつもそうだった。
『戦鎚!これでお前から……勝利をッ!捥ぎ取るッ!!』
いつも。
『わかったな!?──────クラハァッ!!!』
いつも。
『メルネの姐さん。実は、実は……────』
いつもそうだった。そして今回もそうだった。例外などという甘えや救いなんてなかった。
……否。そんなもの、元より──────────
──違う!今はそんなこと……ッ。
茫然自失としかけた己を既のところで叱咤し、メルネは正気を持ち直し。それから最初こそ気がついたように名前をぽつりと呟き、そしてただ見つめるだけのラグナに対して、あくまでも冷静な風を装い。自分にできる限りの、あらん限りの優しさを乗せた声音を以て、メルネは訊いた。
「ねえ、ラグナ?どうしたの?……何があったの?」
これが正しいことであると、メルネは思っていた。
だがそれは、メルネの甚だしい思い上がりに過ぎなかったのである。
「…………」
ラグナはすぐには答えず。数秒の沈黙の後、俯き、今にでも消え入りそうな程にか細い声で。
「なんでもない。何もなかった」
そうとだけ、メルネに答えた。
──そんな訳ないでしょうに……!
しかし、そんな有様なラグナの言葉を、額面通りに受け取るメルネではなく。心の中でそう漏らしながら、彼女は再度口を開かせる。
「安心してラグナ。私は味方だから。他の誰でもない、あなたの味方よ」
例えるなら、今のラグナは小さなコップに溢れ出す直前、その限界の瀬戸際まで注がれた水。ほんの、ちょっとした些細なことでさえ、刺激されればその全てが溢れ出し、残さず零れ落ちる────だけに留まらず、コップも粉々に砕け散ってしまうことだろう。それは確実で、間違いない。
そしてそれがわからなかったメルネではない。むしろ彼女こそ、それを誰よりも一番、良くわかっていた。
よって、メルネの見誤りは必然だった。
「だから、その……ラグナ。私にだけは」
メルネからすれば────いや、他の者からしても、それは考えられる限りの、必要最低限の刺激だった。そのはずだった。
……しかし、そんな必要最低限の刺激ですら、今のラグナには過ぎたことで。過剰な加虐で。
それを他の誰よりも一番に理解し良くわかっていたメルネは────それ故に他の誰よりも油断してしまったのである。
そして今この時、メルネは深く思い知らされる。過酷な重圧の代償を以て。
「……ぃ」
やはりか細い。が、か弱くない。先程よりも確実に、ラグナの声音には力が込められていた。
「え……ラグナ、今なんて」
しかし何をどう言ったのか、それを判断できる程聞き取れる程の声量ではなく。メルネとて、それは同じで。
彼女にしてみれば────否、他からにしても決して責めているつもりなど一切なかった。
けれど、それはあくまでも他からで。そしてあくまでも、メルネ本人からでしかなく。
だから──────────
「うっっっさいッ!!…………メルネは、関係ねえから……!」
──────────そうして、ラグナが暴発することは至極当然のことであると言えた。
──……!
瞬間、メルネの視界に飛び込んだのは小さな背中。今、彼女の視線の先では、ラグナが呆然とその場に立ち尽くしていた。
「ラグナッ!?どうしたの?何があったの?さっきの声って……!」
この時、メルネは己の目敏さを疎まずにはいられなかった。何故ならば、目敏いばかりに彼女は気づいたのだから。ラグナの様子が、見過ごす訳にはいかない程の、甚大な異常を来していることに。メルネは目敏く気づいてしまったのだから。
心の奥底から止め処なく湧いて溢れて溢れ出す、不快極まる焦燥。メルネの頭の中をずっと過っている、嫌な予感。
そんな、人に負の感情しか催させないものに、否応なく突き動かされるように。メルネは透かさず即座にそう声をかけると同時に、慌ててラグナの元に駆け寄る。
しかし、そのメルネの必死さをまるで一笑に付するかのように。当のラグナは全くと言っていい程に無反応だった。
そしてそれが、より一層メルネに望まぬ確信を抱かせた。
──お願い……どうか、違っていて……っ。
普通ならば。日常通りであるならば。ラグナのその態度は、まずあり得ないのだ。そうあってはならないものなのだ────と、必死に否定しながら。否定して、取り繕いながら。
もはやこの手を少し伸ばせば届くまで。ラグナに近づいたメルネは再度、まるで割れ物を扱うように慎重に。恐る恐る、呼びかける。
「ラグナ……?」
果たしてそれは良かったのか、それとも悪かったのか。それを判断できる程の余裕など、今のメルネにはなかった。
そこでようやく。今になってようやっと、動いた。終始微動だにせずその場に立ち尽くすばかりであったラグナが、ゆっくりとメルネの方に振り返った。
──…………そん、な。
瞬間、メルネが目にしたものは────
「……ぁ……メルネ………?」
────絶望に打ちひしがれる、哀切と諦観の表情が浮かぶ顔。そして濁り淀んだ光をどろりと零す、昏い紅玉の瞳。その二つであった。
メルネ=クリスタの予感は、大抵嫌なものであればある程に良く当たる。最低最悪に限って的中してしまう。昔から、いつもそうだった。
『戦鎚!これでお前から……勝利をッ!捥ぎ取るッ!!』
いつも。
『わかったな!?──────クラハァッ!!!』
いつも。
『メルネの姐さん。実は、実は……────』
いつもそうだった。そして今回もそうだった。例外などという甘えや救いなんてなかった。
……否。そんなもの、元より──────────
──違う!今はそんなこと……ッ。
茫然自失としかけた己を既のところで叱咤し、メルネは正気を持ち直し。それから最初こそ気がついたように名前をぽつりと呟き、そしてただ見つめるだけのラグナに対して、あくまでも冷静な風を装い。自分にできる限りの、あらん限りの優しさを乗せた声音を以て、メルネは訊いた。
「ねえ、ラグナ?どうしたの?……何があったの?」
これが正しいことであると、メルネは思っていた。
だがそれは、メルネの甚だしい思い上がりに過ぎなかったのである。
「…………」
ラグナはすぐには答えず。数秒の沈黙の後、俯き、今にでも消え入りそうな程にか細い声で。
「なんでもない。何もなかった」
そうとだけ、メルネに答えた。
──そんな訳ないでしょうに……!
しかし、そんな有様なラグナの言葉を、額面通りに受け取るメルネではなく。心の中でそう漏らしながら、彼女は再度口を開かせる。
「安心してラグナ。私は味方だから。他の誰でもない、あなたの味方よ」
例えるなら、今のラグナは小さなコップに溢れ出す直前、その限界の瀬戸際まで注がれた水。ほんの、ちょっとした些細なことでさえ、刺激されればその全てが溢れ出し、残さず零れ落ちる────だけに留まらず、コップも粉々に砕け散ってしまうことだろう。それは確実で、間違いない。
そしてそれがわからなかったメルネではない。むしろ彼女こそ、それを誰よりも一番、良くわかっていた。
よって、メルネの見誤りは必然だった。
「だから、その……ラグナ。私にだけは」
メルネからすれば────いや、他の者からしても、それは考えられる限りの、必要最低限の刺激だった。そのはずだった。
……しかし、そんな必要最低限の刺激ですら、今のラグナには過ぎたことで。過剰な加虐で。
それを他の誰よりも一番に理解し良くわかっていたメルネは────それ故に他の誰よりも油断してしまったのである。
そして今この時、メルネは深く思い知らされる。過酷な重圧の代償を以て。
「……ぃ」
やはりか細い。が、か弱くない。先程よりも確実に、ラグナの声音には力が込められていた。
「え……ラグナ、今なんて」
しかし何をどう言ったのか、それを判断できる程聞き取れる程の声量ではなく。メルネとて、それは同じで。
彼女にしてみれば────否、他からにしても決して責めているつもりなど一切なかった。
けれど、それはあくまでも他からで。そしてあくまでも、メルネ本人からでしかなく。
だから──────────
「うっっっさいッ!!…………メルネは、関係ねえから……!」
──────────そうして、ラグナが暴発することは至極当然のことであると言えた。
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