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RESTART──先輩と後輩──
狂源追想(その十三)
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「さてさて、問題の場所はここら辺のはずだが……おいロックス、どうだ?奴さんらは見えてんのか?」
「いいえ全然ですジョニィの兄貴。俺の覗いているこの双眼鏡には、まだ敵影も何も映り込んでいませんぜ」
「ロックスの双眼鏡絶妙に古いから、あんまり信頼できないんだよ」
「ああッ!確かになッ!」
「煩え。だったらお前らのどっちかが索敵してこい。それでヘマしたら全力で馬鹿にして貶してやっからさぁ」
「断るんだよ」「断るッ!」
「だったらしょうもねえ文句一々垂れずにその口閉じてろや!」
「おいおい。冒険隊内で仲良く喧嘩してる場合じゃねえだろうがよ。俺ら今依頼中なんだぜ?それに我らが『大翼の不死鳥』の新たな可能性の面前で、こんな醜態を晒してんじゃあねえっての」
「煩えですぜ」「煩えんだよ」「煩えぇぇッ!!」
「よしお前ら並べ。そして歯を食い縛れ。このジョニィ=サンライズさんが直々に丁寧にブン殴ってやる」
……現時刻、日が真上昇った昼間頃。現在地、オールティア付近の平原────ヴィブロ平原にて。木陰に潜んだ冒険隊『夜明けの陽』の面々による愉快で素敵な茶番が繰り広げられるその横で、俺────ライザー=アシュヴァツグフは。この場合は一体、どのような反応をすべきなのか。そしてどういった態度でいるべきなのかという、選択を迫られていた。
最善なのは何も求められないこと────だがしかし、そうは問屋が卸さないのである。
「はあ……全くよぉ。こんな隊員たちのこと、正直どう思うよ?なあ、ライザー?」
──そら来た。
けれど、予めそう来るであろうことを受け止めていた俺は。慌てず騒がず、至って平静に。冷静にジョニィさんに答えた。
「俺は良いと思います。ええ、はい」
そして透かさず、自分にでき得る限りの笑みを浮かべた。こう、キラッという擬音が付くような感じの、返しに困りそうな笑みを。
「……そ、そうか?…………そうかぁ」
すると俺の思惑通りに、ジョニィさんは一瞬戸惑ったように返事した後、それもまたよしと、自分を仕方なく納得させたように同じ言葉を呟くのだった。
それから特に言及されることもないだろうと確信した俺は、安堵のため息を心中で吐く。
──これで面ど……厄介な意思伝達のやり取りに巻き込まれずに、無事済んだ……はは。
決して『夜明けの陽』に聞かれてしまわぬよう、そう心の中で呟き、乾いた笑いを漏らす俺。と、そんな時だった。自らの索敵道具に文句を付けられたりはしたが、それで己の役割を放って棄てるような人間性は持ち合わせてなどなく、依然真面目に双眼鏡を覗いているロックスさんが、突如声を上げた。
「……へい、へいへいへい!奴さんら、いよいよおいでなすったぜ!」
「何だとぉ!?本当か、ロックス!」
「十二時の方向!数は……ハッハァッ!こりゃ凄え!凄えやド畜生め!」
「……その反応を聞く限り、やっぱり本当は本当だったの?」
「ああ!全く、どうかしてるぜ世界。とんだ薄情者だな『創造主神』ッ!」
「上等ッ!久々に骨を折れそうな依頼の巡り合わせに、感謝感激雨霰ッ!!」
「んで、そろそろ俺たちにも見えてくる頃か、奴さんらはよおっ!ロックスッ!?」
「へい!もう間もなく!」
という、膨大かつ長年行動を共にしてきた者同士でなければ伝わらないであろうやり取りを済ませ、『夜明けの陽』の面々は前方を見据える。その様子が俺には、何処か楽しそうに見えた。……だが俺は、これ以上になく焦っていた。
──おいおい……冗談だろ?嘘だろ?本当か?本当なのかッ!?
本来であれば、この世の常に従うのであれば。決して、それは有り得ないこと。天変地異の規模と表しても、相違ない。
そもそもの話、俺は半信半疑だった。依頼の内容を目に通した結果、そんなことはないと思っていた。きっと何かの間違いだろうと、高を括っていた。今回のこれだって、果たしてそれが真実通りなのか、ただ確かめに訪れただけである。
……しかし、この時俺はとある言葉を身に染みて実感させられることになる────そう、『事実は小説よりも奇なり』という言葉を。
そして、遂に。とうとう、虚構じみた非現実は確かな現実となって、見えてきた。
「おーおー、生まれてこの方三十と少し、初めて目にする絶景だ。こりゃあ」
と、当面しているはずのジョニィさんはまるで他人事のように呟く。俺といえば、その隣でただただ呆気に取られて、絶句する他ないでいた。
この世界には数多くの動物が存在する。その動物たちは長く生きるか、外的要因、または突然変異等の異常事態によって膨大な魔力を得ると、魔の生物────つまりは魔物と化す。
魔物にはそれぞれ危険度がある。最低の〝無害級〟から、最高の〝絶滅級〟まで。
今回受けた依頼の内容は確かこうだ──────『〝撲滅級〟デッドリーベアの群れが発生。その規模数十に及び。よって、『世界冒険者組合』はこれを殲滅せよと命ずる』。
〝撲滅級〟、デッドリーベア。その名の通り、魔力を得た、または取り込んだ野生の熊が、魔物化を果たした個体。その体長、約三m。常軌を逸した怪力を誇り、その豪腕を一度振るえば、あらゆる物体を一瞬にして塵芥の屑にしてしまえる。複数人の《A》冒険者で一体を囲み、討伐することを推奨されている。
そしてこの魔物は本来、群れない。そういった習性を持ち合わせてはいない。基本的に番や子以外の個体が鉢合わせると、即座に殺し合いが発生する────という、凄まじいまでの凶暴性を有しているからだ。
……だが、しかし。その常識を今日、俺は覆された。何故ならば、遠くの前方にて確かに──────数十という大量のデッドリーベアたちが群れを成し、一心不乱に向こうからこちらへ、四つ脚で地面を蹴り上げて突き進んでいたのだから。
「……へい、へいへいへいッ!?こいつはちょっと、ヤッベぇなあっ!」
「急に一人で盛ってどうしたんだよ?ロックス」
「とびっきりの朗報って奴だぜ。この群れ……特異個体が先導してやがるッ!!」
それを聞き、透かさずこの場の空気が凍りついた。
「いいえ全然ですジョニィの兄貴。俺の覗いているこの双眼鏡には、まだ敵影も何も映り込んでいませんぜ」
「ロックスの双眼鏡絶妙に古いから、あんまり信頼できないんだよ」
「ああッ!確かになッ!」
「煩え。だったらお前らのどっちかが索敵してこい。それでヘマしたら全力で馬鹿にして貶してやっからさぁ」
「断るんだよ」「断るッ!」
「だったらしょうもねえ文句一々垂れずにその口閉じてろや!」
「おいおい。冒険隊内で仲良く喧嘩してる場合じゃねえだろうがよ。俺ら今依頼中なんだぜ?それに我らが『大翼の不死鳥』の新たな可能性の面前で、こんな醜態を晒してんじゃあねえっての」
「煩えですぜ」「煩えんだよ」「煩えぇぇッ!!」
「よしお前ら並べ。そして歯を食い縛れ。このジョニィ=サンライズさんが直々に丁寧にブン殴ってやる」
……現時刻、日が真上昇った昼間頃。現在地、オールティア付近の平原────ヴィブロ平原にて。木陰に潜んだ冒険隊『夜明けの陽』の面々による愉快で素敵な茶番が繰り広げられるその横で、俺────ライザー=アシュヴァツグフは。この場合は一体、どのような反応をすべきなのか。そしてどういった態度でいるべきなのかという、選択を迫られていた。
最善なのは何も求められないこと────だがしかし、そうは問屋が卸さないのである。
「はあ……全くよぉ。こんな隊員たちのこと、正直どう思うよ?なあ、ライザー?」
──そら来た。
けれど、予めそう来るであろうことを受け止めていた俺は。慌てず騒がず、至って平静に。冷静にジョニィさんに答えた。
「俺は良いと思います。ええ、はい」
そして透かさず、自分にでき得る限りの笑みを浮かべた。こう、キラッという擬音が付くような感じの、返しに困りそうな笑みを。
「……そ、そうか?…………そうかぁ」
すると俺の思惑通りに、ジョニィさんは一瞬戸惑ったように返事した後、それもまたよしと、自分を仕方なく納得させたように同じ言葉を呟くのだった。
それから特に言及されることもないだろうと確信した俺は、安堵のため息を心中で吐く。
──これで面ど……厄介な意思伝達のやり取りに巻き込まれずに、無事済んだ……はは。
決して『夜明けの陽』に聞かれてしまわぬよう、そう心の中で呟き、乾いた笑いを漏らす俺。と、そんな時だった。自らの索敵道具に文句を付けられたりはしたが、それで己の役割を放って棄てるような人間性は持ち合わせてなどなく、依然真面目に双眼鏡を覗いているロックスさんが、突如声を上げた。
「……へい、へいへいへい!奴さんら、いよいよおいでなすったぜ!」
「何だとぉ!?本当か、ロックス!」
「十二時の方向!数は……ハッハァッ!こりゃ凄え!凄えやド畜生め!」
「……その反応を聞く限り、やっぱり本当は本当だったの?」
「ああ!全く、どうかしてるぜ世界。とんだ薄情者だな『創造主神』ッ!」
「上等ッ!久々に骨を折れそうな依頼の巡り合わせに、感謝感激雨霰ッ!!」
「んで、そろそろ俺たちにも見えてくる頃か、奴さんらはよおっ!ロックスッ!?」
「へい!もう間もなく!」
という、膨大かつ長年行動を共にしてきた者同士でなければ伝わらないであろうやり取りを済ませ、『夜明けの陽』の面々は前方を見据える。その様子が俺には、何処か楽しそうに見えた。……だが俺は、これ以上になく焦っていた。
──おいおい……冗談だろ?嘘だろ?本当か?本当なのかッ!?
本来であれば、この世の常に従うのであれば。決して、それは有り得ないこと。天変地異の規模と表しても、相違ない。
そもそもの話、俺は半信半疑だった。依頼の内容を目に通した結果、そんなことはないと思っていた。きっと何かの間違いだろうと、高を括っていた。今回のこれだって、果たしてそれが真実通りなのか、ただ確かめに訪れただけである。
……しかし、この時俺はとある言葉を身に染みて実感させられることになる────そう、『事実は小説よりも奇なり』という言葉を。
そして、遂に。とうとう、虚構じみた非現実は確かな現実となって、見えてきた。
「おーおー、生まれてこの方三十と少し、初めて目にする絶景だ。こりゃあ」
と、当面しているはずのジョニィさんはまるで他人事のように呟く。俺といえば、その隣でただただ呆気に取られて、絶句する他ないでいた。
この世界には数多くの動物が存在する。その動物たちは長く生きるか、外的要因、または突然変異等の異常事態によって膨大な魔力を得ると、魔の生物────つまりは魔物と化す。
魔物にはそれぞれ危険度がある。最低の〝無害級〟から、最高の〝絶滅級〟まで。
今回受けた依頼の内容は確かこうだ──────『〝撲滅級〟デッドリーベアの群れが発生。その規模数十に及び。よって、『世界冒険者組合』はこれを殲滅せよと命ずる』。
〝撲滅級〟、デッドリーベア。その名の通り、魔力を得た、または取り込んだ野生の熊が、魔物化を果たした個体。その体長、約三m。常軌を逸した怪力を誇り、その豪腕を一度振るえば、あらゆる物体を一瞬にして塵芥の屑にしてしまえる。複数人の《A》冒険者で一体を囲み、討伐することを推奨されている。
そしてこの魔物は本来、群れない。そういった習性を持ち合わせてはいない。基本的に番や子以外の個体が鉢合わせると、即座に殺し合いが発生する────という、凄まじいまでの凶暴性を有しているからだ。
……だが、しかし。その常識を今日、俺は覆された。何故ならば、遠くの前方にて確かに──────数十という大量のデッドリーベアたちが群れを成し、一心不乱に向こうからこちらへ、四つ脚で地面を蹴り上げて突き進んでいたのだから。
「……へい、へいへいへいッ!?こいつはちょっと、ヤッベぇなあっ!」
「急に一人で盛ってどうしたんだよ?ロックス」
「とびっきりの朗報って奴だぜ。この群れ……特異個体が先導してやがるッ!!」
それを聞き、透かさずこの場の空気が凍りついた。
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