ストーリー・フェイト──最強の《SS》冒険者(ランカー)な僕の先輩がクソ雑魚美少女になった話──

白糖黒鍵

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RESTART──先輩と後輩──

裏心剥離

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 一体、どれくらいの時間が経ったのだろう。一体、どれくらい僕はそこにいて、そうしていたのだろう。

 短命に終わるのか、長寿を全うするのか。この先どうなるのか想像もつかない人生の最中で、ただ確実に無意味と言える時間を、そこで浪費した僕は。

 唐突に正気に戻ったように、自分がやるべきこと、成すべきことを思い出したように。僕はその場でただ突っ立っているのを止め、歩き出した。

 フラフラとおぼつかない、実に危なっかしい足取りで。僕は床に伏せたまま、一向に立ち上がる気配を見せず、微動だにしないライザーを放置して。僕によって扉を蹴破られ、ただの出入口となったそこを通り、この部屋から立ち去る。

 抜けた先の大部屋では、つい先程僕によって打ちのめされた男たちが、未だ床に倒れていたり、壁にもたれて座り込んでいたりしていた。大半は気を失っていたが、一、二人は既に気を取り戻しており。しかし、それでもまだ僕の一撃が尾を引いているようで、僅かな呻き声を上げるのが精一杯らしく、結果誰も彼もが床から立ち上がれないでいる。

 向こう見ずの彼らでも、流石にそんな状態に陥ってしまえば余裕がないらしい。最初とは打って変わって、今や僕に挑みかかる者は誰一人としていない。

 ──……だったら、最初から大人しくしていれば、良かったのに。

 そうしたら、自分はまだ間に合っていたかもしれないというのに────そう、現実逃避めいた独り言を心の中で呟いて。途端、僕は苛立ち不愉快な気分を胸の内に抱く。

 数秒と言えど、それを抱え込むのは存外心身的負担ストレスになるもので。そんな些細なものであろうと、今の僕には到底見過ごせない、許容できない負担で。我慢も儘ならないことで。

 だからこの苛立ちを解消しようと。この不愉快な気分をどうにかしようと。床の彼らを見つめ、僕は拳を握り、力を込める。

 そうして、僕は────何もしないまま・・・・・・・、この大部屋からも立ち去った。










「…………」

 気がつくと、僕は扉の前に立っていた。元々は僕の部屋であり、しかし今はそう滅多には近づくことも、そして余程のことがない限りは入ることもなくなってしまった、その部屋の扉の前に。

 自宅の一室、それも元は自室だったというのに。何故それがそうなってしまったのか────その理由と経緯は非常に、ごく単純シンプルなもので。今現在、この部屋が先輩のものになっている。それに尽きる。

 ──今現在……か。

 終えたばかりの自問自答に対して、僕は自嘲し呆れ果てる。当然だろう。だってもう、この部屋はもはや

 己を嘲りながら、僕は扉越しに、部屋の中までちゃんと聞こえるように。口を開き、大きな声で呼びかける。

「こんな深夜にすみません。部屋の中に、入らせてもらいますよ」

 僕の声は虚しく響き渡った。扉の向こう、部屋の中からは返事も、何の音もしなかった。数秒、数分が過ぎても。何も、なかった。

「…………ハハ」

 そのことに、その事実から成り立つこの現実を前に。僕はただ、乾いて掠れた笑いを漏らすことしかできない。そうして僕は、ノブに手をかけ握り、捻って。ゆっくりと、その扉を押し開いた。

 部屋は、静かだった。ただひたすらに、無音だった。それも当然のこと────何故ならば、誰もいないのだから。

 わかり切っていた、とうに理解していた現実を。覆しようも変えようもない事実を確と受け止め。けれど存外、僕は落ち着きを払っていた。異様なくらいに、冷静だった。

 ……違う。諦観の念の元に景色を現にこの目で見て確かめたから、取り乱すことはもちろん、今さら驚愕することも愕然とすることもなかったのだ。

 扉を開いたまま、立ち尽くしていた僕は。少し遅れて、部屋の中に足を踏み入れさせ、そのまま歩を進める。そうして目指した先にあったのは、一つの寝台ベッド

 それを見下ろし、数秒。僕はそこへ、脱力したように倒れ込み、沈んだ。

「…………」

 以前まで、あの煌々と燃ゆる紅蓮を直接、そのまま流し入れたような、鮮烈として美麗なが現れるまで、僕が使っていた寝台。その寝台からは、匂いがした。何処か仄かに甘い気がする、不思議と心地良い、匂いだった。

 こうしていると、まるでその匂いに包まれているようで。まるで、この全身を抱き締めてくれるようで。それがなんとも、堪らなく心地良いのだ。気分が落ち着き、安らぎ、癒されるのだ。

 今思えば、今日は長い一日となってしまった。体力も消耗した。だからか、次第に睡魔が込み上げ。それは瞬く間に巨大化し肥大化し、とてもではないが抗うことのできない程の、生理的な欲求へと成長を遂げる。

 ──ああ、眠い……な。

 鉛の如く重くなった瞼を、僕は素直に閉じる。そうして視界は閉ざされ、夜闇よりも濃く深い暗闇が、僕を覆い尽くし、包み込む。

 恐らく、あと数分もしない内に、僕の意識は睡魔に囚われ、無意識の奈落へ落ちることだろう。

 だが、その前に。自分でも意外だと驚く程冷静に、冴え渡る思考を巡らし、つい先程ばかりの出来事を鮮明過ぎるまでの映像きおくとして振り返り、そして僕は唐突に答えへと辿り着く。

 あの時の自分は、もう。いや、ある意味では、あれこそが本当の自分だったのかもしれない。

 裏の心が剥がれて離れた自分が、内に秘めて閉じ込めていたその本音を、ああやってぶち撒けた。……きっと、そうなのだろう。

 うつらうつらとし、途切れ途切れになり始めた意識の中で。ふと、そういえばと、僕は妙な引っかかりを覚える。それが一体何なのか、上手く言葉にはできないのだが。大切で、大事なものを自分は忘れてしまっているような、そんな気がする。

 ──…………あ。

 眠りに誘われ、囚われ、落ちるその寸前。辛うじて、僕はを思い出す。答えは、先程想起したばかりの記憶の中にあったのだ。



『僕は……僕はこんなことの為に強くなった訳じゃないッ!』



 この手で握り締め、刃を握り砕きながら放ったその一言。そのことを思い出し、僕は妙な引っかかりの正体に辿り着く。辿り着いて、僕は────────





 ──僕は……何の為に、強くなったんだっけ……。




 ────────呆然自失に心の中でそう零して、直後僕の意識は安息と安寧が謳う暗闇へ、落ちて沈んだ。
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