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RESTART──先輩と後輩──

VSデッドリーベア

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 ガッギィィイイインンンッッッ──地面に座り込み、呆然とした表情で先輩が見上げていた鉤爪を、間一髪僕はその間に割り込み、既に抜いていた長剣ロングソードで受け止めた。剣身に鉤爪が突き立てられ、耳をつんざく甲高い音を響かせ、周囲に赤い火花を咲かせて散らした。

 ほぼ反射的に、考えなしに咄嗟で僕はその一撃を剣で受けた訳だが、それは浅はかであったとすぐさま思い知らされる。毛皮に包まれている、僕の胴よりも一回りは太いであろう強靭な巨腕の振り下ろしは、僕が想像していた倍以上に強烈で、そして重かった。

 地面が沈み、靴底がめり込む。僕の全身の筋肉と骨がミシミシと軋んだ音を鳴らす。その痛みと不快感に堪らず息を吐き、呻き声を漏らしかけたが、その既のところで僕はそれらを誤魔化すように、腕にさらに力を込めた。

「ぐ、ぉお……ぅらああああッ!!」

 そう気合を込めて叫びながら、こちらを押し潰さんとしていた鉤爪と巨腕をほぼ力任せに押し返し、跳ね除ける。そして透かさずガラ空きになり無防備となったその腹部に、僕は一切の躊躇いもなく剣を振るった。だが、既にその間合いは遠い。

「【剣撃砲】ッ!」

 しかし、それでも問題はなかった。宙をなぞる剣身に伝った僕の魔力が分厚い刃となり、それは剣身から放たれる。空を斬り裂き宙を滑る魔力の刃は、的確にその腹部を捉えて炸裂した。

「ガアッ!?」

 驚いたような鳴き声を上げて、僅かに後方へと押し出される、先輩を襲っていたその生物。……けれど、それだけだ。

 僕の放った魔力の刃──【剣撃砲】は明るい茶色の毛皮に斜めの線を引いただけで、肝心のその下にあるはずの肉体にまでは到達していない。現に若干怯みはしたものの、こちらへ向ける敵意と殺意はさらに増しているようだった。

 だが、しかし。それを気にする程の余裕を僕は持ち合わせていなかった。その生物をこの場で目の当たりにして────酷く動揺してしまっていたから。

 ──あり得ない……何でここに、こんなところに……!?

 ここ、ヴィブロ平原一帯にはスライムやゴブリン等の、危険度で《微有害級》に分類される、弱い魔物モンスターしか生息していない。

 ……だからこそ、僕は目の前の光景が、目の前にいるその生物の存在が信じられなかった。

 先輩に襲いかかっていたその生物の名は────デッドリーベア。本来ならばこの付近には出現しないどころか、生息すらしていないはずの《撲滅級》に該当される程危険な、熊の魔物である。

 山のような巨体を持ち、その強靭極まる四肢はありとあらゆるものを全て粉砕し、破壊し尽くす。その全身を包む毛皮の前には、生半可な攻撃は全て無力化されてしまう。

『世界冒険者組合ギルド』からも《S》冒険者ランカー複数人で討伐を推奨される程の、まさに化け物と評するに相応しい魔物の一体だ。そんなデッドリーベアが、ヴィブロ平原近くのこの森に現れるなど、かなりの異常事態である。

「ゴアアアッ!ボアアアアア゛ッ!!」

 僕の攻撃を受けたからか、デッドリーベアはかなり興奮していた。大口を全開にさせ、やたら粘度のある唾液を撒き散らしながら、無茶苦茶に巨腕を振り回す。

 ──……様子が、おかしい……?

 その異様な暴れっぷりを見て、僕はそう思った。最初こそ僕に攻撃されたからだと思い込んでいたのだが……それにしては少し、いや酷く興奮している。というか、これは……。

 ──

「グガオオオォォォオオオオオッッッ!!!」

 考え込んでいる僕を、隙を晒していると判断したのか。咆哮を轟かせて、巨腕を振り上げながらこちらに突進してくる。

 その巨体も合わさって凄まじい迫力であったが、僕は臆さず冷静に、背後に座り込む先輩を隠すように立って剣を構える。

 僕とデッドリーベアの間合いが急速に縮められる。そして遂に、突進の勢いを乗せたデッドリーベアの巨腕が僕に迫った────直前。

「【強化斬撃】ッ!!」

 そのデッドリーベアの巨腕が振り下ろされるよりも一瞬早く、僕はデッドリーベアの隙だらけとなっていた懐に飛び込み、魔力で強化した剣の斬撃を叩き込む。

 本来ならば、その身体を包む毛皮によって弾かれていただろうこの一撃────しかし、デッドリーベアの突進の勢いを利用したことにより、刃は僕の予想よりも遥かに滑らかに。





 ザンッ──デッドリーベアの巨体を通り抜けた。





「…………」

 森が静寂を取り戻す。剣を振り抜いた姿勢のまま、僕は無言を保っていた。そしてデッドリーベアもまた、先程の異常なまでに暴れっぷりが嘘だったかのように、腕を振り下ろす直前のまま沈黙している。

 数秒遅れて、デッドリーベアの上半身が。そしてそのまま、地面へゆっくりと落下した。立ったまま硬直し固まっている下半身と、地面に落ちた上半身の断面から大量の獣臭い血が溢れて流れ出し、それと共に体内に収められていた様々な臓物が零れて無惨にもぶち撒けられた。

 それらが奏でる生々しく実に冒涜的な、生理的嫌悪感と不快感をこれでもかと、無理矢理に引き摺り出す背後の静かな響きを聴きながら、僕は堪らず安堵の息を吐き出すのだった。
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