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ARKADIA──それが人であるということ──

ARKADIA────今までありがとうございました

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 それは予想だにしない、まさかの来訪者。その二人を前に、僕はただ驚愕しながら硬直する他ない。

 流石にサクラさん程ではないにしろ、女性にしては高い背丈。燻んだ銀髪と、同じ色の瞳。纏い放つその雰囲気は常人とは明らかに一線を画しており、刃物の輝きにも似た、鋭過ぎるその銀の眼光も相まって、尋常ではない威圧感を生み出している。

 その女性こそ、冒険者ランカーならば誰しもが知っている存在モノ。この世界オヴィーリスに存在する全ての冒険者組合ギルドを管理、統括する『世界冒険者組合』の長──即ち、GDMグランドマスター────オルテシア=ヴィムヘクシス。

 突如として三代目GDMに就任した彼女だが、それ以外にこれといった情報がない謎多き人物であり、その年齢すらも不明である。しかもこれは噂の範疇ではあるのだが……就任以来、その容姿は一切変わっていない・・・・・・・────らしい。

 また大衆伝達マスコミュニケーションを極度に嫌っており、初代や先代とは打って変わって表舞台に露出することは滅多にない。どころか僕の記憶が正しければ就任時の会見以来、衆人環視に身を置いたことがなく、以降の会見等は代理の者を遣わせ済ませてきた。

 だからこそ、今こうして目の前にGDM本人が立っていることが信じられなかった。

 そしてオルテシア=ヴィムヘクシスの隣に立つ、遠くからでも目立つ桃色の髪の少女。僕と同い年でありながら、冒険者としてこの上なく、最良にして最高の称号。冒険者番付表ランカーランキング最上位六名──『六険』。その内の、第二位。

 さらには今現時点で存在する組合の中で、所属する百名の冒険者全員が《S》ランクかつ、その内の二十名が個人で番付表にそれぞれ名を連ねるという、自他共に誰しもが認める最高峰の冒険者組合────『威光の熾天ゴッドセラフ』。歴代最年少GMギルドマスター

 そして極め付きは名だたる大貴族ですらその足元にも及ばない『四大』であり、その中で最も古く、最も強い権力と影響力を持つ名家──エインへリア家の一族にして、次期当主。

 この世界オヴィーリスを創造せし最高神、『創造主神オリジン』は決して個に二物を与えることはないと謳われているが、彼女だけにはそれが当てはまらない。彼女こそ、その理から外れた、唯一無二の例外。

『神の寵愛を受けし者』。『神に愛された少女』。『聖天騎士』。『人天使』。

 様々な異名で呼ばれるその少女の名は────ルミナ=ゼニス=エインへリア。現時点で《SS》冒険者ランカーの域に二番目に近いと噂される、僕なんかが逆立ちしたって絶対に敵う訳がない、天才の権化。天賦の才の体現者だ。

『世界冒険者組合』GDMオルテシア=ヴィムヘクシスと『六険』第二位にして『威光の熾天』GM、そして『四大』エインへリア家次期当主であるルミナ=ゼニス=エインへリア。そんな超大物の二人を目の前にした僕は、ただただ固まる他ない。まさか、《SS》冒険者である『極剣聖』サクラさん『天魔王』フィーリアさんと出会った時並みの衝撃を、こうして二度も体験するだなんて……夢にも思わなかった。

 ──な、何でこんな場所に、この二人が……。

 上手く回らない思考の最中、ハッと僕は気づく。二人の来訪が、そう驚くべきことではないと。今回の事態を鑑みれば、そう不自然なことではないと。

 何故ならば今回の事態には────『厄災』が絡んでいるのだから。それも想定し得る限り最悪な状況──切り札であったはずの存在モノが、『厄災』そのものだったのだから。

 そこから導き出される、GDMと『六険』第二位がこの場所に、マジリカにまで遠路遥々赴いた理由は。

 ──フィーリア、さん……!

 それしか考えられない。だが、僕にはどうすることもできないことで────気がつけば、向こうの二人はこちらの方にまで来てしまっていた。

「…………」

 どうすればいいのか、どんな行動を取れば正解なのかわからず、固まるしかない僕ら冒険者ランカーをGDMは黙って睥睨する。彼女の一挙手一投足に言い知れぬ威圧感が込められており、まるでこちらの考えなしで勝手な発言を封じているかのように思える。

 そしてたっぷり十数秒の沈黙を経て、僕たちの目の前に立つGDMはその色素の薄い唇を初めて開かせた。

「冒険者諸君。今回の件、実にご苦労だった」

 その声音は、存外低かった。

「諸君らのおかげでこの街……否、この世界オヴィーリスは救われた。後日、感謝と責任を以て『世界冒険者組合』こちらから相応の謝礼を贈らせてもらう。……して、此度私がこの街に訪れた理由だが」

 威圧と重圧を伴わせてGDMが言葉を続ける最中、固まるしか他ないでいる僕たち冒険者の中から、二人だけが動きGDMと傍に控えるルミナさんの前に出た。言わずもがなその二人とは────『輝牙の獅子クリアレオ』GM、アルヴァさん。そしてフィーリアさんだった。

 その二人の姿を──特にフィーリアさんをGDMは見やりながら言う。

「そう。君だ。理由は君にある……久しいな、『天魔王』。もっともこんな形で再会などしたくなかったが」

「……はい。こちらこそお久しぶりです」

「今回の失態、覚悟はできているのだろうな?」

「……私は取り返しのつかない過ちを犯してしまいました。そのことに関して、弁明する気は一切ありません。この罪とそれに対する罰の全てを受け入れる所存です」

 淡々と繰り広げられるその会話を聞きながら、僕は内心焦っていた。このまま黙って突っ立っている訳にはいかないだろうと、そう己の心が訴えかけていた。……けれど、情けないことに僕の両足はこの場から一歩を踏み出してくれなかった。

「ルミナ」

 フィーリアさんの言葉を聞いたGDMが、数秒の沈黙を以てただ一言、そう発する。

 直後、名を呼ばれたルミナさんが動く。傍目から見れば何ということのない、ただの移動。しかしそこに一分の隙すらなく、即座に戦闘へ移行できることを暗に示していた。……とはいえ、流石の彼女もフィーリアさんが相手ではお手上げだろうが。

 しかし当のフィーリアさんが今どうこうしようとしている気配は全くなく、ただじっとルミナさんが歩み寄って来るのを待っていた。そしてすぐ目の前にまで来たルミナさんは、不意に【次元箱《ディメンション》】を開いて、そこから首輪と手枷を取り出す。ここからではよく見えなかったが、一般的なものとは少し作りが違うように思えた。

 ルミナさんが取り出したその首輪をフィーリアさんに着け、そして彼女の両手に手枷をかける。その際ルミナさんは何やら言葉をかけていたようだが、ここからでは遠過ぎてとてもではないが聞き取ることはできなかった。だが彼女が浮かべていた、心苦しく辛そうな表情からそれがどのような言葉だったのかは察せられた。

「ではこれより『天魔王』フィーリア=レリウ=クロミア────改め『理遠悠神』アルカディアを連行する」

 そう言うや否や、GDMが歩き出す。それにルミナさんも続き、少し遅れてフィーリアさんも歩き出した。が、その時。

「お、お待ちを!GDM!」

 フィーリアさんと共に前へ出たアルヴァさんが慌てて声を上げ、この場から去ろうとするGDMを呼び止める。そしてすぐさま言葉を続ける──ことは叶わなかった。

「『輝牙の獅子』GM、アルヴァ=クロミア」

 アルヴァさんが言葉を続けるよりも先に、彼女の方へ振り返らずに、背を向けたままGDMが重苦しい声音で言葉を放つ。

「今回の件について、お前を咎めるつもりはない。むろん、責任を求める気もない」

 GDMのその言葉に、アルヴァさんは堪らず絶句してしまう。言葉を失い、それでもなんとか声を震わせながらも絞り出そうとしている彼女に、至って平然とGDMは冷徹に告げた。

「その代わり、一つ命令を下す。本日より三日後、アルカディアの処分に関する会議を開く。それに参加しろ。だが意見は出すな。傍聴だけをしていろ。これを拒否することは許さない」

 ……それは、アルヴァさんに対してあまりにも酷な命令であった。GDMの命令の内容を聞き、アルヴァさんは紫紺の双眸を見開かせ、それから黙って顔を俯かせた。

「では諸君、さらば」

 場が異様な雰囲気に包まれる中、GDMがそう言ってまた歩き始める────直前。



「ちょっと待ちなさいッ!!」



 そんな声が、冒険者たちの中から上がった。その声に誰もが驚き、バッと声のした方へ振り向く。僕も振り向いて、見やったその先に立っていたのは──────目元を薄ら赤く腫らした、ナヴィアさんその人だった。

 ──ナヴィア、さん……!?

 一体いつの間にそこに立っていたのだろうか、その顔を怒りに染めているナヴィアさんは歩き出し、早歩きで前を進む。その有無を言わせない気迫を前に言われずとも自然に冒険者たちは退いて道を開ける。そうしてズンズンと彼女は進み、あっという間にGDMの元に辿り着いた。

「……君は」

 アルヴァさんの時とは打って変わり、自分たちの近くにまで来たナヴィアさんの方に振り返るGDM。だがその表情は依然として感情らしいものが浮かんでいない。

「確かニベルン家の御令嬢……だな」

「ええ、わたくしは『四大』が一家、ニベルン家のナヴィア=ネェル=ニベルンですわ。もちろん貴女様のことは存じ上げております、『世界冒険者組合』GDM、オルテシア=ヴィムヘクシス様。……その上で、私は貴女様に──いいえ、貴女に言いたい」

 そこで一旦ナヴィアさんは目を閉じ、深く息を吸う。そしてカッと閉じたばかりの目を見開き、勢いよく腕を振り上げ、何の躊躇も迷いもなく、指先をGDMへと突きつけた。

「貴女、先程から一体何なのですかッ!確かに、確かにフィーリアはしてはならないことをしましたわ。それは確かな事実……だけれどッ!」

 相手の身分など知ったことではないように。己の背後で冒険者の皆が一斉に騒ついているのも構わずに。僕が呆然としている間にも、ナヴィアは敵意剥き出しに睨めつけたまま、激情を以てGDMに食ってかかる。

「フィーリアは望んでああなってた訳じゃない!その子は自ら望んで『厄災』になった訳じゃないッ!なのに、貴女は彼女をアルカディアと呼んだ。事態が収束した今、それでも貴女はフィーリアを『厄災』と扱った……人外と見做した!私は、それがどうしても許せないッ!!」

 ナヴィアさんのまさかの言動と行動に、護衛であるルミナさんですらもどうすればいいのかわからず動揺している最中、相対するGDMは感情が読み取れない無表情のまま、ただ黙ってナヴィアさんの言葉を聞いていた。

「今までフィーリアは貴女が認定した《SS》冒険者として、貴女が授けた『天魔王』の名を背負ってこの世界と人類を守護してきた!だというのにこの扱いはないでしょう!?それに加えてアルヴァおば様への仕打ち……愛する娘の処分が決められる様を、育ての親に──母に黙って目の前で見届けろというのですかッ!!オルテシア=ヴィムヘクシス────貴女、本当に度し難いですわッ!!!」

 下手をすれば『四大』ニベルン家に泥を塗り、そして『世界冒険者組合』を敵に回しかねない、それ程までの問題がある一言を最後に、ようやくナヴィアさんの激情は止まった。流石に叫び続けて体力を消耗したらしく、少し息を切らして肩を上下させる彼女に対して、押し黙ったままでいたGDMは、閉ざしていたその口をゆっくりと開いた。

「ニベルン家次期当主、ナヴィア=ネェル=ニベルン。君の言い分はよくわかった。その上で、私も君にこう言わせてもらおう」

 瞬間、GDMがナヴィアさんとの距離を急激に詰めた。そして距離を詰めただけでなく腕を伸ばし、一切の躊躇なく彼女の顎を手で掴み、グイッと互いの鼻先が直に触れ合う程、互いの吐息が混じり合う程まで彼女の顔を引き寄せた。

「それがどうした」

 堪らず動揺し硬直するナヴィアさんの顔を上から覗き込みながら、何の抑揚もない声音でGDMは彼女に告げる。

「君の言う通り、確かに彼女──フィーリア=レリウ=クロミアには決して少なくはない回数、この世界と人類の現在いま未来あすを守ってもらった。それは確かな事実。……しかし、今回彼女がアルカディアとしてこの世界と人類の現在と未来を滅ぼそうとしたのもまた、確かな事実だ」

 GDMの言葉は実に淡々としたものだった。だがそれがナヴィアさんの神経を逆撫でしてしまったのだろう。

 固まっていた彼女は慌ててこちらの顎を無遠慮にも掴むGDMの手を払い、続け様彼女から数歩距離を取る。そしてキッと未だ気丈に睨みつけながら、彼女もまた口を開いた。

「だから、それは「それがどうしたと、私は言っているんだ」

 が、そこで初めてGDMオルテシア=ヴィムヘクシスの感情が顔を見せた。それはナヴィアさんと同質の、だが彼女とは真逆の────静謐なる激情。それを以てGDMはナヴィアさんの言葉を遮った。

「知らなかった。望まなかった……そんなことは元よりとっくにとうに承知している。その上でこの扱いなのだよ。それにアルヴァ=クロミア……彼女のことだ。大方今回の不始末を片付けた後、責任を取ってGMの辞任を申し出ることだろう。だがアルヴァ=クロミア程優秀な人材はそうはいない。今彼女に辞められたら色々と困るのだよ。……よく覚えておくといい、ニベルン家の御令嬢。君が思う程、この世界は優しくもなければ甘くもない」

 ……そのGDMの言葉の前に、ナヴィアさんは黙らざるを得なかった。あまりにも重たく、ただひたすらに現実を突き詰めたその言葉は、彼女を押し黙らせるには充分過ぎるものだったのだ。

 しかし、だからといって。ナヴィアさんがその場から引き退ることはなく────だがその時、思いもよらぬ人物が口を開いたのだ。

 その人物は────



「GDM」



 ────フィーリアさんだった。

「己の立場は重々理解しています。ですが、ですが何卒お許しください。私に……最後の慈悲を与えてください」

 最後の慈悲──果たしてそれが一体何を意味するのか。フィーリアさんの心からの懇願を受けたGDMは、彼女の方に顔を向けて。数秒黙り込んで────そして観念したようにため息を一つ吐いて、瞼を閉じて言った。

「ああ言った手前、格好つかんが……許そう」

 そしてフィーリアさんから今度はルミナさんの方に顔をやり、GDMは軽く顎をしゃくってみせる。困惑気味に立っていたルミナさんだったが、GDMの合図を受けフィーリアさんから数歩、距離を取った。

 少し遅れて、フィーリアさんがナヴィアさんの元にゆっくりと歩み寄る。最初はお互いに黙っており、先に口を開いたのは──ナヴィアさんだった。

「これで、良かったの?貴女はこれで良いの?」

 その問いかけに対して、フィーリアさんは少し考えるように俯いて、それから顔を上げる。そこにあったのは、ただ一つの笑顔だった。

「良い。むしろ、こんな私なんかには有り余ってるよ」

「そんな訳ないでしょッ!?」

 フィーリアさんが言い終えるとほぼ同時だった。彼女の言葉を聞いて、受けて。ナヴィアさんは叫んだ。彼女のその叫びは、涙に塗れ悲痛に震えていた。

「子供の頃から拒まれて!虐められて!嫌われて!散々悪意に晒されて!その挙げ句にこれよ!?なのに良いの?この結末で良かったの?────だったら貴女の人生って一体何だったのよ!!」

 その叫びに込められていたのは、ただ親友を救いたいという一心のみだった。望んでもいない運命に晒され、歩みたくもない人生を歩かされ、結果傷つき傷に塗れ、その果てに救いようのない結末を用意されたたった一人の親友を救いたいという、その気持ちだけだった。

 それを受け止めて、フィーリアさんは──────それでも、笑顔を浮かべた。

「それでも、良いの」

 そう、言葉を返されて。遂にナヴィアさんはその場に崩れ落ちた。もはや、自分ではどうすることもできないという、現実を突きつけられて。受け止めて。

「ウインドアさん」

 声を押し殺してナヴィアさんが咽び泣く中、不意にフィーリアさんが僕を呼ぶ。突然呼ばれた僕が顔を上げると、彼女がこちらを見つめていた。

「すみません。ちょっとこっちまで、来てもらえますか?」

「は、はいっ!」

 返事をし、僕を即座にその場から駆け出す。周りの冒険者たちも自ずから道を開けてくれ、僕はあっという間にフィーリアさんの前にまで辿り着く。

 緊張でぎこちなく前に立つ僕に対して、フィーリアさんは何か言おうと口を開くが、すぐに閉じてしまう。それから少し経って、彼女は再度口を開いた。

「駄目ですね。言いたいこと、色々あったんですけど……言っちゃったら、私戻りたくなっちゃいます。だから、これだけにします」

 そう言って、フィーリアさんは笑った。だがそれは、悲哀の笑みだった。

「今までありがとうございました。……ブレイズさんとサクラさんにも伝えてください。あとナヴィ……ナヴィアのこともお願いしますね」

 そう僕に伝えて、フィーリアさんは振り返り歩き出す。

「……ぇ、あ、ふぃ、フィーリッ……」

 気がつけば僕はフィーリアさんのことを呼び止めようとしていた。別れの挨拶にしては、それはあまりにも短く、淡白なものだったから。



 でもその前に、歩いている途中でフィーリアさんが、振り返った。彼女はまだ、笑顔を浮かべていたままだった



 ──あ……。

 その笑顔を目の当たりにして、僕はようやく理解した。この胸を埋め尽くす焦りを──いや、違う。

 僕は焦っていたんじゃない──────恐れていたんだ。

 いつしか、それが当たり前になっていた。当然のことだと思っていた。僕の周囲にいることが、日常いつも通りなのだと、思っていた。

 だから全てが終われば、また元通りになる────そう、何の根拠もなく漠然に思っていた。

 今にしてみれば、ありえないというのに。荒唐無稽で、あまりにもお粗末な夢想だというのに。

 この世全てに始まりがあるように、この世全てに終わりもまたある。これだって、幾千幾億という途方もない無数の中にある、一つに過ぎない。



『そこの貴方、ちょっといいですか?』



 始まりは、そんな些細も些細な、そんな一言。偶然、気紛れと呼ぶことさえも烏滸がましい、出会い。

 その出会いから今に至るまで────とても一言なんかでは語れない、様々な出来事があった。そしてそれは今後も続いていくのだろうと────無責任にも、僕は思っていたんだ。

 けれど、それは決して叶わない。もはや、叶うことのない幻想。

 だから、僕は。





「……わかり、ましたっ!絶対に、絶対に伝えますっ!……こちらこそ、本当の本当に、今まで……今までありがとうございましたァッ!!」

 呼び止めようとした己の身勝手を飲み込んで、そう返した。フィーリアさんは僕の返事を受けて、何処か満足そうに少し頷くと、また前へと振り返り、ゆっくりと歩き出した。


















「クラハーっ!ちょっと今何がどうなってんだ?中でサクラがボロッボロのまま大の字になって床で寝てるし、こいつらはこんなだし……ていうかフィーリアは帰った来たの、か……?」

 早朝。静まり返る街の中、そんな先輩の声だけが良く響き渡る。

 僕の方にまで駆けつけた先輩へ顔を向けて、僕は口を開く。

「……先輩、おはようございます」

「え?あ、おう……いやそれよりも、何で……お前」

 先輩は少し不安そうに、そして心配そうに僕に訊ねた。

「何でお前、泣いてんだよ」

「…………」

 その先輩の問いかけに対して、僕はただ拳を握り締めて。そして、口を開いた。

「先輩。フィーリア、さんが────
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