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ARKADIA──それが人であるということ──
ARKADIA────十六年前(その二)
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「私に塔の調査をして欲しい、だあ?」
フォディナ大陸首都、マジリカ。通称『魔法都市』。二百年前に実在していたという、魔道士の祖と伝えられ、大魔道士と今現在でも謳われるレリウが作り上げた街。
そのマジリカにある、このフォディナ大陸を代表する冒険者組合──『輝牙の獅子』。急激にその数を増やしたこの時代の組合の中でも、『三強』と称される組合の一角である。
そして『輝牙の獅子』の執務室にて、明らかに至極面倒そうな声色で、大魔道士の名を継ぐ、今代の大魔道士──『輝牙の獅子』三代目GM、アルヴァ=レリウ=クロミアはそう言ったのだった。
「え、ええ。その通りでございます」
対し、世界全組合を統治する組合──『世界冒険者組合』からの使者である男は、やや怯えながらもアルヴァにそう返す。
「…………はあ」
聞くからに重たいため息を吐いた後、アルヴァは懐から煙草を取り出し、それを咥えると指を先端に近づけ、鳴らす。パチンと軽い音と同時に火花が散って、火が点る。
うんざりとした様子で、鬱屈そうに紫煙を吐き零してから、アルヴァは言う。
「わざわざGDMが直々に出すような依頼でもあるまいに……クソが」
美女と評しても差し支えのないアルヴァの口から、荒んだ声音で吐き出される暴言スレスレの言葉に、使者が堪らずビクリとその身体を揺らす。
──……タマの小さい奴だねえ。
使者の反応を眺めて、依然紫煙を吐きながらアルヴァは内心独言る。それから彼女は数秒程黙っていたが、観念したかのように使者に言った。
「わかったよわかった。引き受けるよ、その依頼」
「ほ、本当ですか。いやぁありがとうございます。あ、こちらに詳細が記載されておりますので、後程確認をお願い致します」
アルヴァの了承を受けて、使者は心底ホッとしたような安堵の声音で矢継ぎ早にそう言葉を連ね、彼女の執務机に様々な書類を置くと、そそくさと執務室を後にした。
使者の遠ざかる背中を見送って、アルヴァは彼が置いていった書類へと視線を向ける。流し目でそれらの内容をざっと通して、咥えていた煙草を口から離す。だいぶ短くなったそれは、一瞬にして炎に包まれ灰すら残さず燃え尽きた。
「…………面倒だねえ」
「それにしても、いつ見ても立派な塔だよ。少なくとも二百年前に建造されたなんて、とてもじゃないけど信じられない」
紫煙を吐き出しながら、目の前に聳え立つ塔を調査することになった経緯に当たる、一週間前の記憶を振り返るアルヴァの耳に、何処となく柔らかで、軽い声が届く。向いて見れば、今ではよく見知った男がこちらに歩いて来ていた。
「そしてこれがかの偉大なる『創造主神の遺物』の一つだということも、ね」
男はそう付け加えて、アルヴァの隣に並び立つ。彼の横顔をある程度眺めてから、アルヴァは口を開いた。
「何だ。アンタも来てたのかい、ジョシュア」
「いや来てたのかいって……今朝顔を合わせたじゃあないか、アルヴァ」
男──ジョシュアはアルヴァの言葉に非難を返す。しかし彼女は大して気にすることなく、至って平然としたままだった。
「忘れてた。影薄いんだよ」
「ええ……?相変わらず君は酷いなぁ」
「まあそんなどうでもいいことは放っておくとして。何か用?」
全く、微かにも悪びれない様子のアルヴァに、ジュシュアは堪らず嘆息し、やれやれと首を振りつつも彼女の言葉に答える。
「塔へ入る準備が整ったから、それを君に伝えに来たのさ。僕を含めて今は皆、君の指示待ちだよ。リーダー」
「そうかい。そいつは利口なことだね」
初めと比べるとだいぶ短くなった煙草を、アルヴァは口から離す。すると遅れて煙草は炎に包まれて、一瞬にして灰すら残さず燃え尽きる。
軽く手を振って、彼女はまるで愚痴を零すかのように言った。
「それじゃあ、さっさと入ってさっさと調べてさっさと帰るとしよう」
フォディナ大陸首都、マジリカ。通称『魔法都市』。二百年前に実在していたという、魔道士の祖と伝えられ、大魔道士と今現在でも謳われるレリウが作り上げた街。
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そして『輝牙の獅子』の執務室にて、明らかに至極面倒そうな声色で、大魔道士の名を継ぐ、今代の大魔道士──『輝牙の獅子』三代目GM、アルヴァ=レリウ=クロミアはそう言ったのだった。
「え、ええ。その通りでございます」
対し、世界全組合を統治する組合──『世界冒険者組合』からの使者である男は、やや怯えながらもアルヴァにそう返す。
「…………はあ」
聞くからに重たいため息を吐いた後、アルヴァは懐から煙草を取り出し、それを咥えると指を先端に近づけ、鳴らす。パチンと軽い音と同時に火花が散って、火が点る。
うんざりとした様子で、鬱屈そうに紫煙を吐き零してから、アルヴァは言う。
「わざわざGDMが直々に出すような依頼でもあるまいに……クソが」
美女と評しても差し支えのないアルヴァの口から、荒んだ声音で吐き出される暴言スレスレの言葉に、使者が堪らずビクリとその身体を揺らす。
──……タマの小さい奴だねえ。
使者の反応を眺めて、依然紫煙を吐きながらアルヴァは内心独言る。それから彼女は数秒程黙っていたが、観念したかのように使者に言った。
「わかったよわかった。引き受けるよ、その依頼」
「ほ、本当ですか。いやぁありがとうございます。あ、こちらに詳細が記載されておりますので、後程確認をお願い致します」
アルヴァの了承を受けて、使者は心底ホッとしたような安堵の声音で矢継ぎ早にそう言葉を連ね、彼女の執務机に様々な書類を置くと、そそくさと執務室を後にした。
使者の遠ざかる背中を見送って、アルヴァは彼が置いていった書類へと視線を向ける。流し目でそれらの内容をざっと通して、咥えていた煙草を口から離す。だいぶ短くなったそれは、一瞬にして炎に包まれ灰すら残さず燃え尽きた。
「…………面倒だねえ」
「それにしても、いつ見ても立派な塔だよ。少なくとも二百年前に建造されたなんて、とてもじゃないけど信じられない」
紫煙を吐き出しながら、目の前に聳え立つ塔を調査することになった経緯に当たる、一週間前の記憶を振り返るアルヴァの耳に、何処となく柔らかで、軽い声が届く。向いて見れば、今ではよく見知った男がこちらに歩いて来ていた。
「そしてこれがかの偉大なる『創造主神の遺物』の一つだということも、ね」
男はそう付け加えて、アルヴァの隣に並び立つ。彼の横顔をある程度眺めてから、アルヴァは口を開いた。
「何だ。アンタも来てたのかい、ジョシュア」
「いや来てたのかいって……今朝顔を合わせたじゃあないか、アルヴァ」
男──ジョシュアはアルヴァの言葉に非難を返す。しかし彼女は大して気にすることなく、至って平然としたままだった。
「忘れてた。影薄いんだよ」
「ええ……?相変わらず君は酷いなぁ」
「まあそんなどうでもいいことは放っておくとして。何か用?」
全く、微かにも悪びれない様子のアルヴァに、ジュシュアは堪らず嘆息し、やれやれと首を振りつつも彼女の言葉に答える。
「塔へ入る準備が整ったから、それを君に伝えに来たのさ。僕を含めて今は皆、君の指示待ちだよ。リーダー」
「そうかい。そいつは利口なことだね」
初めと比べるとだいぶ短くなった煙草を、アルヴァは口から離す。すると遅れて煙草は炎に包まれて、一瞬にして灰すら残さず燃え尽きる。
軽く手を振って、彼女はまるで愚痴を零すかのように言った。
「それじゃあ、さっさと入ってさっさと調べてさっさと帰るとしよう」
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