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ARKADIA──それが人であるということ──
ARKADIA────話してやる
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魔石塔最深部──今現在、その場所にて僕──クラハ=ウインドアは有らん限りの力を足に込めて、所々崩れて荒れた通路を、死に物狂いで激走していた。
「うおおわあああッ!!」
そこらに転がる瓦礫に決して足を取られ、転ばないよう細心の注意を払いながら、ただひたすらに疾駆する。もし少しでも立ち止まろうものなら──死ぬ。背後から聞こえてくる、先ほどからずっと鳴り止まない、立て続けに硝子を割って砕くような、妙に澄んだ音がそれを嫌でも、僕にそう確信させる。
──クソ、状況が状況だからか……道が長いって、出口が遠いって、思ってしまう……!
息を切らしながらも、尚僕は走り続ける。当たり前だ、今ここで一秒でも止まったら、僕の身体は迫り来る魔石の津波に呑まれて、グシャグシャに砕かれ潰され、それはもう滅茶苦茶にされる。僕だって、誰にだってわかる数秒先の末路だ。
だから、僕は止まらない。息が切れようと、たとえ体力が限界に達しようと、僕は止まる訳にはいかない。こんな所で──死ぬ訳にはいかない!
気力を奮い立たせて、己を鼓舞しながら走る。通路を駆ける。魔石塔内部を、僕は疾走し続ける。
時間にして恐らく数分のことだっただろう。だが僕からすれば、何時間のようにも思えた。そうと思える程に僕は走って────ようやく、求めていた光景が視界に入る。
少しも躊躇わず、まるで跳ぶようにして最後の一歩を踏み出し、僕は魔石塔の出口を抜けたのだ。
抜けた後も止まらず、ある程度まで進んで魔石塔の出口から遠ざかる。そうして初めて僕はその場に立ち止まって、膝に手を置き腰を曲げて、思い切り息を────
「クラハっ!」
────吸う前に、先輩に抱き締められた。僕の視界が一瞬にして肌色に染まって、顔はすべすべふわふわで柔らかい感触に包み込まれる。
「もごッ?!」
「大丈夫か!?怪我とかしてねえよなっ!?」
これ以上になく焦った声音でそう訊ねながら、先輩更に僕を強く抱き締める。当然、その問いに僕が答えられる道理はない。
──い、息できな……し、死ぬぅ……!
とにかく離して欲しいと訴える為に、僕は腕を上げようとする。しかし、全力に全力を費やした後で、体力の限界に陥っている僕の身体にそんな余力は残されておらず、プルプルと微弱に震わせることしかできない。
「もご、ご……も」
「何か返事してくれよクラハ!なあ!」
返事したくてもできないんですよ──そう心の中で呟いた瞬間、急激に意識が遠のき始めて──
「ラグナ嬢。取り敢えずウインドアを離してくれ。じゃないと彼が窒息する」
──そして掻き消える前に、若干焦りを滲ませてサクラさんがそう言った。
「おうわっ!?ご、ごめんクラハ!マジごめん!」
サクラさんの言葉を受けて、慌てながら先輩が僕を天国と地獄の両方を内在した、その魅惑の谷間から解放する。直後、僕は激しく咳き込みながらも、必死に何度も深呼吸を繰り返して、新鮮な酸素を空っぽ間近となっていた肺に取り込む。
──僕は、あと何回先輩で溺れかければいいんだ……!?
僕がそう心の中で思う側で、不意に先輩でもサクラさんでもない、新たな声がこの場に響いた。
「お三方!無事でしたのね!」
声のした方へ、僕たち三人はほぼ同時に顔を向ける。声の主は──ナヴィアさんだった。僕たちが魔石塔へ突入している間に、どうやら意識を取り戻したらしい。
「フィリィ!フィリィは!?」
僕たちの方にまで駆け寄って、ナヴィアさんは一番近くにいたサクラさんに詰め寄って、掴みかからんばかりの勢いでそう訊ねる。そのあまりにも切迫した様子の彼女に、サクラさんも多少は面食らいながらも口を僅かに開いて──だが、すぐに閉じて視線を逸らしてしまう。
そんなサクラさんの反応を目の当たりにして、ナヴィアさんはその蒼い瞳を見開かせ、悔しそうに顔を歪めさせた。
「…………そう、ですのね。やはり、こうなってしまったのね」
──……こうなって、しまった……。
そのナヴィアさんの言葉を聞いて、僕は確信する。彼女は知っていた。全て、とは流石に考えないが……ナヴィアさんは、予めある程度は知っていたのだ。
肺に充分な量の酸素を取り込み、ようやく落ち着きを取り戻すことができた僕は、ナヴィアさんに話を聞こうと近づく──前に。
パキパキパキッ──背後の、魔石塔の方から。先程散々聞かされたあの恐ろしい音が、不意に鳴り響いた。
「…………早く、ここから離れた方が良さそうだな」
硬直する僕の側で、ぽつりとサクラさんが呟いて、彼女を除くその場の全員が無言でそれに同意した。
「戻って来たかい。待ってたよ」
魔石塔から離れ、廃墟街からマジリカに戻って来た僕たち四人を待っていたのは────フィーリアさんと同じように、突如としてその姿を消していた『輝牙の獅子』GM──アルヴァさんだった。
正直予想もしていなかった僕たちは思わず驚いてしまった。……ただ一人、ナヴィアさんを除いて。
アルヴァさんは僕と先輩とサクラさんを眺めて、それから何も言わずに背を向ける。そして言った。
「付いて来な」
そう言って、彼女はその場から歩き出す────
「話してやるよ、全部」
────そう、付け加えてから。
「うおおわあああッ!!」
そこらに転がる瓦礫に決して足を取られ、転ばないよう細心の注意を払いながら、ただひたすらに疾駆する。もし少しでも立ち止まろうものなら──死ぬ。背後から聞こえてくる、先ほどからずっと鳴り止まない、立て続けに硝子を割って砕くような、妙に澄んだ音がそれを嫌でも、僕にそう確信させる。
──クソ、状況が状況だからか……道が長いって、出口が遠いって、思ってしまう……!
息を切らしながらも、尚僕は走り続ける。当たり前だ、今ここで一秒でも止まったら、僕の身体は迫り来る魔石の津波に呑まれて、グシャグシャに砕かれ潰され、それはもう滅茶苦茶にされる。僕だって、誰にだってわかる数秒先の末路だ。
だから、僕は止まらない。息が切れようと、たとえ体力が限界に達しようと、僕は止まる訳にはいかない。こんな所で──死ぬ訳にはいかない!
気力を奮い立たせて、己を鼓舞しながら走る。通路を駆ける。魔石塔内部を、僕は疾走し続ける。
時間にして恐らく数分のことだっただろう。だが僕からすれば、何時間のようにも思えた。そうと思える程に僕は走って────ようやく、求めていた光景が視界に入る。
少しも躊躇わず、まるで跳ぶようにして最後の一歩を踏み出し、僕は魔石塔の出口を抜けたのだ。
抜けた後も止まらず、ある程度まで進んで魔石塔の出口から遠ざかる。そうして初めて僕はその場に立ち止まって、膝に手を置き腰を曲げて、思い切り息を────
「クラハっ!」
────吸う前に、先輩に抱き締められた。僕の視界が一瞬にして肌色に染まって、顔はすべすべふわふわで柔らかい感触に包み込まれる。
「もごッ?!」
「大丈夫か!?怪我とかしてねえよなっ!?」
これ以上になく焦った声音でそう訊ねながら、先輩更に僕を強く抱き締める。当然、その問いに僕が答えられる道理はない。
──い、息できな……し、死ぬぅ……!
とにかく離して欲しいと訴える為に、僕は腕を上げようとする。しかし、全力に全力を費やした後で、体力の限界に陥っている僕の身体にそんな余力は残されておらず、プルプルと微弱に震わせることしかできない。
「もご、ご……も」
「何か返事してくれよクラハ!なあ!」
返事したくてもできないんですよ──そう心の中で呟いた瞬間、急激に意識が遠のき始めて──
「ラグナ嬢。取り敢えずウインドアを離してくれ。じゃないと彼が窒息する」
──そして掻き消える前に、若干焦りを滲ませてサクラさんがそう言った。
「おうわっ!?ご、ごめんクラハ!マジごめん!」
サクラさんの言葉を受けて、慌てながら先輩が僕を天国と地獄の両方を内在した、その魅惑の谷間から解放する。直後、僕は激しく咳き込みながらも、必死に何度も深呼吸を繰り返して、新鮮な酸素を空っぽ間近となっていた肺に取り込む。
──僕は、あと何回先輩で溺れかければいいんだ……!?
僕がそう心の中で思う側で、不意に先輩でもサクラさんでもない、新たな声がこの場に響いた。
「お三方!無事でしたのね!」
声のした方へ、僕たち三人はほぼ同時に顔を向ける。声の主は──ナヴィアさんだった。僕たちが魔石塔へ突入している間に、どうやら意識を取り戻したらしい。
「フィリィ!フィリィは!?」
僕たちの方にまで駆け寄って、ナヴィアさんは一番近くにいたサクラさんに詰め寄って、掴みかからんばかりの勢いでそう訊ねる。そのあまりにも切迫した様子の彼女に、サクラさんも多少は面食らいながらも口を僅かに開いて──だが、すぐに閉じて視線を逸らしてしまう。
そんなサクラさんの反応を目の当たりにして、ナヴィアさんはその蒼い瞳を見開かせ、悔しそうに顔を歪めさせた。
「…………そう、ですのね。やはり、こうなってしまったのね」
──……こうなって、しまった……。
そのナヴィアさんの言葉を聞いて、僕は確信する。彼女は知っていた。全て、とは流石に考えないが……ナヴィアさんは、予めある程度は知っていたのだ。
肺に充分な量の酸素を取り込み、ようやく落ち着きを取り戻すことができた僕は、ナヴィアさんに話を聞こうと近づく──前に。
パキパキパキッ──背後の、魔石塔の方から。先程散々聞かされたあの恐ろしい音が、不意に鳴り響いた。
「…………早く、ここから離れた方が良さそうだな」
硬直する僕の側で、ぽつりとサクラさんが呟いて、彼女を除くその場の全員が無言でそれに同意した。
「戻って来たかい。待ってたよ」
魔石塔から離れ、廃墟街からマジリカに戻って来た僕たち四人を待っていたのは────フィーリアさんと同じように、突如としてその姿を消していた『輝牙の獅子』GM──アルヴァさんだった。
正直予想もしていなかった僕たちは思わず驚いてしまった。……ただ一人、ナヴィアさんを除いて。
アルヴァさんは僕と先輩とサクラさんを眺めて、それから何も言わずに背を向ける。そして言った。
「付いて来な」
そう言って、彼女はその場から歩き出す────
「話してやるよ、全部」
────そう、付け加えてから。
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