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ARKADIA──それが人であるということ──

ARKADIA────親友激突

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 魔石塔聳え立つ、廃墟街にて。その二人は静かに、互いに無言になって、向かい合っていた。

 一人はこの世界最強の一角────《SS》冒険者ランカー、『天魔王』フィーリア=レリウ=クロミア。

 一人は魔道士専門育成機関『魔導院』現理事長にして、『四大』が一家ニベルン家次期当主────ナヴィア=ネェル=ニベルン。

 初めて出会ったその日から今日まで、実に十五年来の付き合いという、謂わば腐れ縁で結ばれた二人。こうして互いに向き合い、互いを見合うことは無論これが初めてである訳がない。その正確な数字こそ、とうに二人共忘れてしまったが──百や二百では利かないことだけは確かである。

 ……だが、今日今この時ほど、真剣味を帯び向かい合い、見合うことは手で数える──否、もしかすれば今日が初めてのことだったかもしれない。

 今までとは違う雰囲気に包まれながらも────先に動いたのは、ナヴィアの方だった。唐突に、彼女の手元が歪む。【次元箱ディメンション】を開いたのだと、それを見たフィーリアはそう思う。彼女にとって、その光景は己の生涯の中で、うんざりするほどに見慣れたものだ。

 フィーリアがぼうっと眺める中、開かれた【次元箱】から、無色透明の拳大の魔石がナヴィアの手のひらに滑り落ちる。それをしっかりとナヴィアは受け止めると、握り締めたまま頭上へと掲げる。

 そして、グッと更に握り締める力を強めた。

 パキンッ──まるで硝子を割ったかのような、軽やかで澄んだ音と共に、ナヴィアの手の中にあった魔石が砕けた。

 パラパラ、と。砕け散り欠片となった魔石がナヴィアの頭上に降り注ぐ──その途中、それら全てがまるで解けるようにして、宙で溶けていく。

 溶けたその欠片は魔力の粒子となり、そうしてようやくナヴィアの頭に、肩に、身体全体に降り注いでいく。そしてある程度降り注がれた、その時────彼女の魔力が、急激に高まり倍以上に膨れ上がった。

 過剰となった微量の魔力が漏れ出し、それを身に纏いながら、ナヴィアは静かに構えを取る。そして、はっきりとフィーリアを睨みつけ、口を開いた。

「行きますわよ、フィーリア」

 そう言うが早いか、ナヴィアは地面を蹴った。

 バゴンッ──彼女に蹴りつけられた地面が、爆ぜたように砕けて、一気に陥没する。その様をフィーリアが遠目から確認する時には、既にナヴィアは彼女の眼前にいた。

 軽く宙に飛び上がっていたナヴィアが、足を振るう。まるで鞭のようにしなりながら、ナヴィアの足はフィーリアの肩を確実に捉え──そして打った。

 ガキィンッ──直後、まるで鉄同士を激しくぶつけ合ったかのような音が廃墟街に響き渡る。見てみれば、ナヴィアの足とフィーリアの肩との間で、火花が散っていた。

 ナヴィアの足は、フィーリアの肩には届いていなかった。彼女の肩に触れるか触れないかというほどの至近距離で、彼女の足は見えない何かに遮られ、当たる直前で止められていたのだ。

「ぐ、う、ぅ……!」

 顔を歪めながら、呻き声を漏らすナヴィアを、フィーリアは無表情で眺める。そして静かに、ゆっくりとその腕を振り上げる──直前だった。

「ぅ、ぃ……りぁあああッ!!!」

 ナヴィアがまるで獣のように吠えた瞬間、止められていた彼女の足が微かに前へ進み──次の瞬間、破砕音が派手に、そして喧しく鳴り響いた。

 ──ッ!?

 フィーリアが驚くと同時に、見えない何かを無理矢理破壊したナヴィアの足が、彼女の肩を打つ。刹那、まるでボールのように軽々と、フィーリアは蹴り飛ばされた。

 悲鳴すら出せずに、フィーリアの身体は宙を飛ぶ。それと同時にナヴィアも再度その場を蹴って、すかさず吹っ飛んでいく彼女を追跡する。

「!!」

 が、その途中で不意にナヴィアは胸の前で両腕を交差させた。瞬間、彼女の全身を強烈な衝撃が叩いた。

「がッ……」

 肺に取り込んでいた空気を強制的に吐き出さされながら、ナヴィアもフィーリアとは逆方向に吹っ飛ばされる。危うくそのまま固い地面に背中を叩きつけられる直前、彼女はなんとか宙で受け身を取り、着地する。

「は、ぐ……!」

 遅れてやって来た鈍痛と、内臓全体を揺さぶられた不快感をナヴィアは堪える。そして視線を前方にやると──フィーリアもまた、体勢を立て直しているところだった。

「……驚いた」

 少し声を張って、フィーリアがそう言う。その言葉通り、その声には驚きが込められていた。

「まさか、あんたに私の障壁バリアが破られる日が来るなんて、考えもしなかった。……咄嗟に全身を【強化ブースト】してなかったら、ちょっと危なかったかも」

 言うなれば、それは賛辞であった。この世界最強の一人による、心からの最高の褒め言葉──だが、それを受けたナヴィアは、内心舌打ちをせずにはいられなかった。

 ──魔石を使っても、貴女の【強化】には及ばないというの……!

 先ほど、ナヴィアが砕いたあの魔石。あれには、【強化】の魔法が込められていたのだ。それも通常よりも特別強力なものが。

 そしてナヴィアにはとある異能があった。ずばりそれは、魔石の強化。彼女が使用した魔石は、通常よりもその効果が高まる。故に、『魔石の申し子』──幼少時、ナヴィアはそう呼ばれることもあった。

 そんな彼女が、通常よりも強力な【強化】を込めた魔石を使ったのだ。当然その効果も倍増し、今やナヴィアは己が身を生涯かけて鍛え上げた、一流の戦士ですら及ばない身体能力を得ている。そして更に、彼女自身も今日までの十五年間、『魔導院』理事長としての勤務や、ニベルン家当主の座を継ぐ為の教育を受けながらも────フィーリアに打ち勝つ為に、己の身を鍛錬し続けていた。

 仮に、彼女が冒険者ランカーとしての道を歩んでいたら────間違いなく、今頃は最高峰と謳われる冒険者の一人、『六険』となっていたことだろう。

 しかし、その上で使用しても。ただでさえ普通に使っても一流の戦士を凌駕するというのに、十五年という月日をかけて鍛錬を積んだナヴィアが使っても、それでもなおフィーリアの【強化】には遠く及ばない。届き得ない。

 その事実が、ナヴィアの肩に重く、重くのしかかる──だが、それでも彼女は諦めなかった。

「……ハァッ!」

 己に喝を入れ、ある程度回復したナヴィアが地面を蹴る。また先ほどのように地面が爆ぜ砕け、彼女の姿が一瞬で掻き消える。

 フィーリアがそう認識するよりもずっと早く、ナヴィアは彼女の眼前に迫る。そしてフィーリアがようやく眼前にまで迫っていると認識する頃には、彼女はもう己の足を再度振り上げていた。

 突進の勢い全てを乗せた、ナヴィアの回し蹴りがフィーリアの顳顬こめかみを打たんとする。その威力はもはや人体が繰り出せるものではなく、もしこれがフィーリアの顳顬に直撃しようものなら、ほぼ間違いなく彼女の頭部が爆ぜ砕けるか、彼女の運が良ければその首がへし折れるだろう──まあ、どちらにせよ死ぬことには変わりないのだが。

 そのナヴィアの回し蹴りがフィーリアの顳顬を打つ直前、フィーリアが腕を振り上げた。

 バシィンッ──ナヴィアの足とフィーリアの腕が衝突し、その間で甲高い音を響かせた。

「チッ」

 ナヴィアは舌打ちをすると同時に、咄嗟にその場から跳び退く。彼女の金髪が宙で揺れながら広がって──次の瞬間、その一点に大穴が穿たれた。

 数本千切れ飛び、宙を舞う己の髪に視線を一切やることなく、ナヴィアは跳び退いた後も止まらず、跳躍し続ける。そんな彼女を追うようにして、さっきまで彼女がいた場所が次々と陥没していく。

 依然として駆けながら、再びナヴィアは【次元箱】を開き、今度は赤色の魔石を手の中に滑らす。そして、その魔石をフィーリアの方へ放り投げた。

「【殲滅の灼炎ジェノサイドフレイム】ッ!」

 ナヴィアがそう叫んだ瞬間、彼女が放り投げた魔石が呼応するように赤光を放ち、硝子を割ったかのように軽やかで、妙に澄んだ音を立てて粉々に砕け散った。

 四方八方に飛び散る魔石の欠片が、解けるように宙に溶けて霧散する。瞬間、その場一帯が熱気で満ち──突如、超巨大の火球が現れた。その火球は地面を、大気を焼き焦がしながら、フィーリアへと飛来する。

 そして彼女を呑まんとした、その時。まるでそこにあったことが嘘だったように、火球はフィーリアの目の前で、一瞬にして発していた熱気諸共、跡形もなく消え失せた。

 が、すぐさまフィーリアの視界をナヴィアの足が埋め尽くす。【殲滅の灼炎】を放った後、追尾する不可視の衝撃を掻い潜り、【殲滅の灼炎】に隠れるようにしてナヴィアはフィーリアに接近していたのだ。

 死角からの、瞬速の一撃。だが、それすらもフィーリアは咄嗟に仰け反ることで回避してしまう。

 蹴りを空振らせたまま、そこで初めてナヴィアは理解する。フィーリアが己の身体に対してかけた、【強化】の範囲を。

 ──まさか、この子……五感も、神経も……!?

 ナヴィアが戦慄する中、スッとフィーリアが腕を軽く振り上げる。瞬間、ナヴィアの身体を、衝撃が貫いた。

「が、はッ……!」

 一瞬で喉の奥から熱くて酸っぱいものが込み上げて、思わず咄嗟に片手で口を押さえる。そうでもしないと、そのままそれを口から吐き出してしまいそうだった。

 手で口を押さえながら、ナヴィアはフィーリアの前から跳び退く。しかし先ほどとは違って、今度は不可視の衝撃が彼女を追うことはなかった。そうしてナヴィアがフィーリアからある程度距離を取ると、ゆっくりとフィーリアも仰け反らせた上半身を起こす。

「…………やっぱり、【持続治癒リジェネレイション】をかけてても、結構キッツいなぁ……」

 そう苦しげに呟くフィーリアの口端に、一筋の血が伝う。対し、ナヴィアは未だ腹部から迫り上がる吐き気に喘ぎ、その肩を上下させていた。

 先に回復したのは──ナヴィアだった。僅かに漏れた唾液を手の甲で乱暴に拭って、彼女はその場からまた駆け出す。それと同時に【次元箱】から、また別の、黄色の魔石を取り出した。

 ナヴィアは今度はそれを、フィーリアの頭上目掛けて放り投げる。そして先ほどと同じように、叫んだ。

「【怒号の落雷ストロングボルト】ッ!」

 彼女の言葉に応えるように、フィーリアの遥か上空にあった魔石が黄光を放ち、そして儚く砕け散る。遅れて、真下にいるフィーリアへ極太の雷が落ちた。

 雷がフィーリアの身体を貫く──かに思われた瞬間、先ほどの火球と同じく、彼女に直撃する寸前で堰き止められ、一瞬にして消滅してしまう。

 だがその頃には、ナヴィアはもう別の魔石を彼女に向かって放り投げていた。

「【凍獄の氷柱ヘルアイスピラー】ッ!」

 水色の魔石が砕け散り、全てを凍てつかせる冷気を伴いながら、槍のように先端が尖った氷の柱がフィーリアに迫る。だが、今度はそれだけに留まらない。

「【幾刻の暴風サイクロンリッパー】ッ!」

 ナヴィアの言葉に、水色の魔石と同時に投げられていた緑色の魔石が砕ける。瞬間、ありとあらゆるものを巻き込み、切り刻む暴風が巻き起こる。

 氷柱と暴風。その二つが同時にフィーリアを滅茶苦茶にせんと襲いかかる────が、彼女の目の前で、氷柱は宙で真っ二つに折れ、暴風は無残にも散らされ無害な微風そよかぜに変えられてしまった。

「っ……」

 絶句せざるを得ないナヴィアに対して、フィーリアが挑発するように言う。

「これでもうお終い?」

 そう言って不敵な笑みを浮かべるフィーリア──そんな彼女に、ナヴィアは己の拳を握り締めて、吠えるように叫んだ。

「まだ、まだァッ!!」

 そしてすぐさまフィーリアとの距離を詰めた瞬間、彼女の眼前で魔法陣が展開される。それを何の躊躇もなく、ナヴィアは蹴った。

 蹴りつけられた魔法陣は一瞬だけ輝いたかと思うと、粉々に砕け、魔力の残滓となってその場から消失する。その魔法陣を蹴りつけたナヴィアはというと──遥か上空にまで跳び上がっていた。

 クルン、と。上空でナヴィアが一回転し、再びその足元に先ほどと同じ魔法陣が展開される。そしてやはり先ほどと同じく、彼女はそれを蹴った。

 魔法陣が砕けると同時に、蹴った勢いと重力に身を任せて、凄まじい速度で何回も回転しながらナヴィアがフィーリア目掛けて落下していく。その姿は、さながら黒い海から地上へ零れ落ちる、一条の流星のようであった。

 遥か上空にいたはずのナヴィアはあっという間にフィーリアのすぐ頭上にまで迫って、彼女の脳天に狙いを定め、速度と重量を余すことなく乗せ切った、絶命必至の踵下ろしを見舞う────が、それすらも、直撃する寸前でフィーリアは腕を掲げて防いでしまった。

 ドォンッ──爆発音と聴き紛う、到底人体から発せられそうにない音に遅れて、フィーリアの足元一帯が凹み、沈み、一気に陥没する。

「な、っ……」

 超高空からの踵下ろしですら、至ってダメージも受けないで防いだフィーリアに、ナヴィアは堪らずに声を漏らす。

 ──どれだけ、桁違いだって言うの……この子の【強化】は……!!

 そう思った束の間、慌てて彼女はそこから跳び退こうとして──しかし、一歩遅かった。

 ナヴィアの身体を、フィーリアが放った不可視の衝撃が打つ。今までよりも数段威力と重みを増したそれに、危うく彼女の意識は刈り取りかけられた。

 一瞬真っ白に染まった視界のまま、ただ本能に従ってナヴィアはフィーリアの足を思い切り蹴って、その勢いで彼女から一気に距離を離す。

「──ご、が、いぁ…あ゛……!!」

 着地をした瞬間、ナヴィアは一瞬動くことを辞めてしまった肺を、全力で再度動かす。全身を使い、息絶え絶えになりながら息をする彼女を、フィーリアは冷ややかに見つめる。

「……もう、気は済んだ?」

 眼差しと同様に、その声も冷ややかなものだった。そんな彼女を、大粒の汗を全身から流しながらも、ナヴィアはキッと睨みつける。まだ、彼女の戦意は折れてはいない。

 ──もう、時間はありませんわ、ね……。

 最初にかけた【強化】の効果時間の残りを悟りながら、ナヴィアは【次元箱】を開く。彼女の手のひらに向かって落ちたのは────三つの、小さな宝石だった。

「…………フィーリア」

 その宝石をしっかりと握り締めながら、ナヴィアは口を開く。

「そろそろ、終わりにしましょう」

 そう言うと同時に、ナヴィアは纏うように、幾重にも魔法陣を自分の周囲に張り巡らせる。そして──その場を蹴った。今までよりも、ずっと力強く。

 ナヴィアが駆ける。彼女の足が地面を叩く度に、地面は爆ぜ、割れ、砕ける。

 ナヴィアは駆ける。フィーリアの元に、ただ愚直に、真っ直ぐに。それ故に、彼女は際限なく、どんどん加速する。

「……わかった」

 もはや彼女の耳には届かないと知りながらも、フィーリアはそう言って、スッと腕を振り上げる。少し遅れて、不可視の衝撃がナヴィア目掛けて走った。

 衝撃が、ナヴィアを打つ。一度目は魔法陣によって防がれたが、そのたったの一度で彼女が張り巡らした魔法陣は、一つ残さず全てが砕かれてしまった。

 続けて走った衝撃が、ナヴィアを叩いた。肌が撓み、肉が歪み、骨が軋むが──それでも、ナヴィアは止まらない。

 パキン──ナヴィアの手の中にある宝石の一つが砕ける。彼女の手の中でその欠片は溶けるように消えて、瞬間彼女の拳に火の魔力が宿る。

 衝撃は絶えず、ナヴィアを叩く。ベキベキと全身から嫌な音が響き、激痛に彼女は堪らず顔を顰めさせる──それでも、ナヴィアは止まらない。

 パキン──ナヴィアの手の中にある宝石の二つ目が砕ける。それも最初に砕けた宝石と同様に消え、瞬間彼女の拳に水の魔力が宿る。

 一際強い衝撃が、ナヴィアを貫く。全身が鈍痛に覆われ、内臓の全部が激しく揺さぶられ、思わず彼女はその場でもんどり打って倒れそうになり、その最中でも衝撃が立て続けに、何度も彼女を襲う──それでも、ナヴィアは止まらない。

 パキン──ナヴィアの手の中にある最後の宝石が砕ける。やはりそれも先に砕けた二つの宝石と同様、彼女の手の中で溶けるように消えて、瞬間彼女の拳に地の魔力が宿る。

 火、水、土──ナヴィアの拳に宿った、その三大属性は複雑に絡み合い、そして融け合う。融け合った三つの魔力は一つとなり────瞬間、それは絶大な魔力へと変化した。

 その魔力を己が拳に宿して、ナヴィアが駆ける。ただひたすらに、目の前へ。真っ直ぐ、真っ直ぐに。

 そんな彼女の首元から上全体を、不可視の衝撃は遠慮も容赦もなく痛烈に、叩きつけた。

「が、ッ……」

 このまま真後ろに折られるんじゃないかと思うほどの負荷が、ナヴィアの首にかかる。気道を一瞬だけ完全に潰され、彼女の足は────

「…ッ、ぁ……ぁああああああッ!!!」

 ────これまで以上に力強く、地面を蹴りつけた。ナヴィアは一気に加速し、フィーリアとの距離を詰める。

 喉の奥から迫り上がる鉄の味と臭いを堪えながら、あらん限りの力を、ありったけの気力を込めて、ナヴィアは拳を振り上げた。

「【三魔絶拳トリニティアブソリュートフィスト】ッ!!!」




















 ポツポツ、と。雨が降り出す。勢いはさほど強くはない、弱い雨だった。

 静かに雨音が響き渡る中────ナヴィアは、苦々しく呟く。

「……ここまでしても、届かないのね」

 ナヴィアの【三魔絶拳】は、直撃さえさせれば、最強最悪である〝絶滅級〟の魔物モンスターですら屠る。それほどまでの威力を元から有しており、ナヴィアが誇る正真正銘の、最大最高の技だ。

 そこに更にあの三つの宝石──純度百パーセントの魔石に込め、限界以上にまで高めた三属性の魔力により、その威力は極限まで跳ね上がり、もはや人の身で受けられる道理はなくなっていた。

 ……だが、それをフィーリアは、受け止めていた。その小さな手のひらで、優しく。

 なけなしの根性で両足を何とか立たせたまま、ナヴィアは続ける。

「昔から、反則過ぎますのよ……貴女」

 ずるり、と。フィーリアの手のひらから、ナヴィアの真っ赤に染まった拳が滑り落ちる。己の限界を超えて放った一撃の代償は重く、辛うじて手としての形を保ってはいるものの、止め処なく血が溢れ、肌は破れ、覗く肉はグシャグシャに、骨はその全てが砕け、その破片が周囲に散らされていた。

 どうやって使い物にならない、治しようもないナヴィアの手に対して、彼女の一撃を受け止めてみせたフィーリアの手は──彼女の血で赤く染められているだけで、至って無傷である。それを確認して、ナヴィアはああ呟いたのだ。

 今すぐにでも意識を放りそうになっているナヴィアに、フィーリアは少し迷って────人差し指を向ける。



「ちょっと見ない間に、強くなったね。ナヴィ」



 そう言って、ピッとフィーリアは彼女に向けた人差し指の先で、軽く宙を弾く。一瞬の間も置かず、今までよりもずっと強烈な衝撃がナヴィアの身体を貫いた。
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