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ARKADIA──それが人であるということ──

ARKADIA────残景追想(その一)

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 いつだって、避けられていた。いつだって、嫌われていた。

 いつも気持ち悪いと言われていた。いつも化け物だと言われていた。

 同い年くらいの子供たちにも、そしてずっと年上の大人たちからも。

 最初こそ、嫌だった。そんなことを言わないでほしかった。けれど、誰も止めてはくれなかった。

 だから────いつしか、どうでもよくなった。

 避けられても特に思うことがなくなった。だって一々気にしていても仕方のないことなのだから。

 嫌われても特に思うことがなくなった。だって一々傷ついても仕方のないことなのだから。

 気持ち悪いと何度も言われた。化け物めと何度も罵られた。でも別にどうでもいい。だって、全部無駄なのだから。



 そうして、とうとう────なにも、感じなくなった。




















 マジリカと呼ばれるこの街には、とある場所がある。ここの住民たちは皆、その場所のことを──『魔石塔』と呼んでいた。

 その名の通り、その塔は全体が薄青い魔石で覆われており、また塔ではあるがそう高くはない。一説によれば、地下があるのだとかなんとか。

 この塔についての情報はそれ以上になく、またそれが真実なのか確かめる術もない。何故なら、この塔を覆う魔石が壊せない・・・・から。

 一見すれば、このフォディナ大陸では全般的に見られるような、至って普通の魔石。しかし、その硬度は常軌を逸していたのだ。

 どんな衝撃を与えてもヒビ一つすら入らない。どんな魔法をぶつけようが一片も砕けやしない。

 その魔石を調べようとした者もいたが、結局塔と同じくなにもわからなかった。

 そんなものだからやがて塔に近づく者も減って、遂には誰もいなくなってしまった。

 普段から誰も近づこうとしない魔石塔だったが────わたしにとっては、どんな場所よりも居心地の良い場所だったのだ。





「あなた、ですわね!」

 日常いつも通り、魔石塔の近くで、特になにかする訳でもなくぼうっとしていると、不意にそんな声が耳朶を打った。まるで鈴のように軽やかで、可愛らしい声音だった。

「ついにみつけましたわ。まったく、こんなところにいるなんて」

 その言葉に続いて、足音が近づいてくる。だが、気に留めようとは思わなかった。

 声の主の正体など別にどうだっていい。声の高さと、まだたどたどしい言葉遣いからして、どうやら子供のようだ。またいつものように心ない罵倒をぶつけられるだけだろう。

 わざわざ人を避けるためにこの場所にいるというのに──そんな諦観の念を抱いていると、やがて声の主は目の前にまでやって来た。

 どうでもいいと思いつつも、つい目を向けてしまう。そこに立っていたのは──やけに豪華そうなドレスに身を包んだ、同い年くらいの少女だった。

 背中を覆うまでに伸びた金髪と、同じく色の瞳。人形のように整った顔には、自信に満ち溢れ勝つこと以外知らないといった、勝気な表情が浮かんでいる。

 少女はこちらを一瞥すると、唐突にビシッと人差し指の先を突きつけて、言い放った。

「あなた!なのりなさい!」

 ……反応に困った。まさか見ず知らずの少女に、出会い頭名乗れなんて言われるとは、思いもしなかった。

「……」

 とりあえず沈黙で返して、少女から顔を逸らす。するとその行動が気に入らなかったのか、怒ったように少女が叫んだ。

「ちょっと!このわたくしがなのれといっているのよ!?なのりなさいよ!」

「…………」

 この少女、一体何様のつもりなのだろうか。普通、こういう場合は先に名乗ってから、相手に名乗らせるものだろう。

 相手にするのも面倒なので、その言葉も無視すると──またムキになったように少女が叫んだ。

「こ、このわたくしをにどもむしするなんて、あなたいいどきょうしてますわね!?」

「………………」

 息を荒げる目の前の少女に、仕方なく再度顔を向ける。そして気怠げに、口を開いた。

「……だれ?」

 そう訊ねると、わかりやすいくらいに少女は目を見開かせて、それから信じられないように三度叫んだ。

「こ、このわたくしを、ナヴィア=ネェル=ニベルンをしらないの!?」

 ぎゃいぎゃいと叫ぶ金髪の少女。しかしその名前──ニベルンというのには聞き覚えがある。確か『四大』の内の一家だったはずだ。

 ということは……この少女はニベルン家のお嬢様ということなのだろうか。言われてみれば、その言葉遣いも何処か丁寧というか、上品だった気がする。

 ……だとすればなおさら謎である。何故『四大』のお嬢様が、供もなくこんな場所にまでやって来て、街の嫌われ者である自分にこうも突っかかってくるのだろう。

 そう疑問に思っていると、少女──ナヴィアは、呆れながらも、キッとこちらを睨んだ。

「ま、まあいいですわ。そんなことよりも……あなた!このわたくしとしょうぶなさい!」

「……は?」

 この時久々に、本当に久々に、感情らしい感情を込めた声が出たと思う。

 そしてこれが、ナヴィアとの──わたしにできた初めての親友との、出会いだった。
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