362 / 444
ARKADIA──それが人であるということ──
ラグナちゃん危機一髪?──しちゃいましょう
しおりを挟む
「ふ、う……ぁ、んんっ……!」
…………暗く、狭いこの空間に、先輩の喘ぐ声が静かに、艶かしく響く。それは苦悶に満ちていたが──僕からすると、疾しい気分を無理矢理掻き立てられるような、実に悩ましい。
──……誰か、誰か助けてくれ……今すぐ僕をここから連れ出してくれ……!
必死になって頭の中を空っぽにしつつ、僕は心の中でそう呟く。今すぐにでもここから離れなければ、己を見失いそうで本当に怖い。
「は、ぁ……くぅ、ぅぅぅ……!」
だが先輩はお構いなしに、僕に密着したまま、その小さな身体を揺らす。足をもじつかせ、腰を震わせる。そうまでしないと気を紛らわすことができないのだと、僕もわかっている。それはわかっているが……それでも、先輩のその動きや仕草は僕の理性を激しく削っていく。
──誰か助けてくれぇ……!!
できるだけ先輩の姿を視界に捉えないよう、上を向いて。ふにゅむにゅと下腹部で押し潰されながら踊る感触から意識を必死に遠ざけて。僕は、神頼みするかのように心の中で呟く。
……トイレを我慢していることが僕に知られて、開き直ったのか、先輩はあれから随分と大胆になった。
必死に押さえ込んでいた声も僕に聞こえるまで漏らし、その生理現象から気を紛らわせるために、積極的に身体も動かすようになった。……先輩としては、本当ならその手で直接押さえつけてしまいたいところなのだろうが、生憎この狭苦しい空間では、それができなかった。
「…………あ、の。先輩」
「な、ぁ……んだ、よ……っ?」
もはや喋ることすら困難なのか、やっとの様子で先輩は口を開く。僕は気を憚られながらも、重要なことだと己に言い聞かせ、訊ねた。
「あ、あとどれくらい……できそう、ですか?……その、我慢って」
「…………もう、無理…かも。割と、限界近、い……!」
弱々しい声音で、先輩は僕にそう答える。それを聞き、僕の方にも少なからず、焦りというものが出始める。
──は、早くここから脱出しなければ……!
そう思って、僕は腕を動かせるか試してみる。するとある程度の範囲ならばなんとか動かせることがわかり、僕はそこに一縷の希望を託し己の腕を【強化】し、肘先を棺の蓋に向けてぶつけた。
ドンッ──衝撃によって棺全体が揺れ動き、先輩が驚いたように小さく悲鳴を上げる。
──……開かない、か。
僕の考えとは裏腹に、棺の蓋は開かず固く閉ざされたまま。であれば、もっと力を込めるだけ──そう、僕が思った瞬間だった。
「ク、クラハ……!」
「え?な、なんですか先輩?」
不意に先輩に名を呼ばれて、そちらの方に顔を向ける。すると先輩は俯いていた顔を上げて、涙が浮かぶ琥珀色の瞳で、非難するような眼差しをこちらに向けていた。
それから辛そうに、しかし微かな怒りを込めて先輩が言う。
「い、いきな、り……なに、しやがん、だ。この、野朗……!で、出るかと、思った、じゃねえか……っ」
「え、ええ……!?す、すみません!棺の蓋を、開けようかと……」
「そ、そうか。……あ、と、あんまり、大きい声、出すな……頼、む」
「りょ、了解です……」
僕がそう返すと、先輩は再び俯いてしまう。脱出するために取った行動が、さらに先輩を追い詰めてしまう結果となり、僕の心に後悔と罪悪感がのしかかる。
──ど、どうすれば。どうすればいい?僕はどうすればいいんだ……!
先輩のためになにかできることはないのか。必死になって頭を回すも、僕は特にこれといった方法を思いつけなかった。
────と、そういった経緯の果てに、僕と先輩はこの状況下に置かれてしまったという訳だ。
先輩への負担なしに、この棺からどうにかして脱出する方法を僕はずっと考えていた。考えていたが、やはりなにも思いつけない。というか、そんな方法あるとは思えない。
仮に僕が【転移】を使えたのなら話は違ったのだろうが……ともあれ、無情にも時間だけが過ぎ、いよいよ以て先輩も限界に達しようとしている。
「もう無理無理無理ヤバいヤバいヤバいぃ……!!」
絶え間なく身体を揺らしながら、先ほどからうわ言のように、そう繰り返す先輩。……もはや誰がどう見ても、限界突破間近の状態である。
……実を言えば、方法は一つ思いついている。いるのだが、その方法は先輩に──恥を掻かせることとなってしまう。しかしこのままでは、どのみち先輩は恥ずかしい思いをすることになるだろう。その違いはそれが、小さいか大きいかのどちらかである。
──……仕方ない。これは、仕方ないんだ。
身を切る思いで、僕は口を開いた。
「先輩」
僕の真剣な声に、ふるふると先輩は顔を向ける。本当に辛そうな表情を浮かべており、今の今まで溜め込んできたその苦しみが、垣間見える。
──もうこれしかないんだ。きっと、たぶん……これが最善なんだ……!
僕としては、これ以上先輩を追い詰めるような行為をしたくなかったが──心を鬼にし、意を決して切り出した。
「しちゃいましょう」
……一瞬にして、場が静まり返った。僕の言葉を受けて、まるで意味がわからないといったように、先輩は眉を顰める。
「……は?」
そして、そう一言だけ口にした。そりゃそうだ、先ほどの僕の言葉では、意味などまるでわからないだろう。
固まっている先輩に、僕は躊躇いながらも、今度こそ意味が伝わるように、言った。
「今、ここで。しちゃいましょう……先輩」
…………暗く、狭いこの空間に、先輩の喘ぐ声が静かに、艶かしく響く。それは苦悶に満ちていたが──僕からすると、疾しい気分を無理矢理掻き立てられるような、実に悩ましい。
──……誰か、誰か助けてくれ……今すぐ僕をここから連れ出してくれ……!
必死になって頭の中を空っぽにしつつ、僕は心の中でそう呟く。今すぐにでもここから離れなければ、己を見失いそうで本当に怖い。
「は、ぁ……くぅ、ぅぅぅ……!」
だが先輩はお構いなしに、僕に密着したまま、その小さな身体を揺らす。足をもじつかせ、腰を震わせる。そうまでしないと気を紛らわすことができないのだと、僕もわかっている。それはわかっているが……それでも、先輩のその動きや仕草は僕の理性を激しく削っていく。
──誰か助けてくれぇ……!!
できるだけ先輩の姿を視界に捉えないよう、上を向いて。ふにゅむにゅと下腹部で押し潰されながら踊る感触から意識を必死に遠ざけて。僕は、神頼みするかのように心の中で呟く。
……トイレを我慢していることが僕に知られて、開き直ったのか、先輩はあれから随分と大胆になった。
必死に押さえ込んでいた声も僕に聞こえるまで漏らし、その生理現象から気を紛らわせるために、積極的に身体も動かすようになった。……先輩としては、本当ならその手で直接押さえつけてしまいたいところなのだろうが、生憎この狭苦しい空間では、それができなかった。
「…………あ、の。先輩」
「な、ぁ……んだ、よ……っ?」
もはや喋ることすら困難なのか、やっとの様子で先輩は口を開く。僕は気を憚られながらも、重要なことだと己に言い聞かせ、訊ねた。
「あ、あとどれくらい……できそう、ですか?……その、我慢って」
「…………もう、無理…かも。割と、限界近、い……!」
弱々しい声音で、先輩は僕にそう答える。それを聞き、僕の方にも少なからず、焦りというものが出始める。
──は、早くここから脱出しなければ……!
そう思って、僕は腕を動かせるか試してみる。するとある程度の範囲ならばなんとか動かせることがわかり、僕はそこに一縷の希望を託し己の腕を【強化】し、肘先を棺の蓋に向けてぶつけた。
ドンッ──衝撃によって棺全体が揺れ動き、先輩が驚いたように小さく悲鳴を上げる。
──……開かない、か。
僕の考えとは裏腹に、棺の蓋は開かず固く閉ざされたまま。であれば、もっと力を込めるだけ──そう、僕が思った瞬間だった。
「ク、クラハ……!」
「え?な、なんですか先輩?」
不意に先輩に名を呼ばれて、そちらの方に顔を向ける。すると先輩は俯いていた顔を上げて、涙が浮かぶ琥珀色の瞳で、非難するような眼差しをこちらに向けていた。
それから辛そうに、しかし微かな怒りを込めて先輩が言う。
「い、いきな、り……なに、しやがん、だ。この、野朗……!で、出るかと、思った、じゃねえか……っ」
「え、ええ……!?す、すみません!棺の蓋を、開けようかと……」
「そ、そうか。……あ、と、あんまり、大きい声、出すな……頼、む」
「りょ、了解です……」
僕がそう返すと、先輩は再び俯いてしまう。脱出するために取った行動が、さらに先輩を追い詰めてしまう結果となり、僕の心に後悔と罪悪感がのしかかる。
──ど、どうすれば。どうすればいい?僕はどうすればいいんだ……!
先輩のためになにかできることはないのか。必死になって頭を回すも、僕は特にこれといった方法を思いつけなかった。
────と、そういった経緯の果てに、僕と先輩はこの状況下に置かれてしまったという訳だ。
先輩への負担なしに、この棺からどうにかして脱出する方法を僕はずっと考えていた。考えていたが、やはりなにも思いつけない。というか、そんな方法あるとは思えない。
仮に僕が【転移】を使えたのなら話は違ったのだろうが……ともあれ、無情にも時間だけが過ぎ、いよいよ以て先輩も限界に達しようとしている。
「もう無理無理無理ヤバいヤバいヤバいぃ……!!」
絶え間なく身体を揺らしながら、先ほどからうわ言のように、そう繰り返す先輩。……もはや誰がどう見ても、限界突破間近の状態である。
……実を言えば、方法は一つ思いついている。いるのだが、その方法は先輩に──恥を掻かせることとなってしまう。しかしこのままでは、どのみち先輩は恥ずかしい思いをすることになるだろう。その違いはそれが、小さいか大きいかのどちらかである。
──……仕方ない。これは、仕方ないんだ。
身を切る思いで、僕は口を開いた。
「先輩」
僕の真剣な声に、ふるふると先輩は顔を向ける。本当に辛そうな表情を浮かべており、今の今まで溜め込んできたその苦しみが、垣間見える。
──もうこれしかないんだ。きっと、たぶん……これが最善なんだ……!
僕としては、これ以上先輩を追い詰めるような行為をしたくなかったが──心を鬼にし、意を決して切り出した。
「しちゃいましょう」
……一瞬にして、場が静まり返った。僕の言葉を受けて、まるで意味がわからないといったように、先輩は眉を顰める。
「……は?」
そして、そう一言だけ口にした。そりゃそうだ、先ほどの僕の言葉では、意味などまるでわからないだろう。
固まっている先輩に、僕は躊躇いながらも、今度こそ意味が伝わるように、言った。
「今、ここで。しちゃいましょう……先輩」
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?
大好き丸
ファンタジー
天上魔界「イイルクオン」
世界は大きく分けて二つの勢力が存在する。
”人類”と”魔族”
生存圏を争って日夜争いを続けている。
しかしそんな中、戦争に背を向け、ただひたすらに宝を追い求める男がいた。
トレジャーハンターその名はラルフ。
夢とロマンを求め、日夜、洞窟や遺跡に潜る。
そこで出会った未知との遭遇はラルフの人生の大きな転換期となり世界が動く
欺瞞、裏切り、秩序の崩壊、
世界の均衡が崩れた時、終焉を迎える。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
補助魔法しか使えない魔法使い、自らに補助魔法をかけて物理で戦い抜く
burazu
ファンタジー
冒険者に憧れる魔法使いのニラダは補助魔法しか使えず、どこのパーティーからも加入を断られていた、しかたなくソロ活動をしている中、モンスターとの戦いで自らに補助魔法をかける事でとんでもない力を発揮する。
最低限の身の守りの為に鍛えていた肉体が補助魔法によりとんでもなくなることを知ったニラダは剣、槍、弓を身につけ戦いの幅を広げる事を試みる。
更に攻撃魔法しか使えない天然魔法少女や、治癒魔法しか使えないヒーラー、更には対盗賊専門の盗賊と力を合わせてパーティーを組んでいき、前衛を一手に引き受ける。
「みんなは俺が守る、俺のこの力でこのパーティーを誰もが認める最強パーティーにしてみせる」
様々なクエストを乗り越え、彼らに待ち受けているものとは?
※この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも公開しています。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる