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ARKADIA──それが人であるということ──

ラグナちゃん危機一髪?──ピンチはいつも突然訪れる

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 今まで快適とは言えない、狭まった通路を歩いていた僕と先輩だったが、ここに来てようやっとある程度開けた場所に出た。通路で見てきたものと同様、この場所にも至るところに発光する魔石が生えており、この場所全体を照らしていた。

「やっと広いとこに出れたな」

「ええ、そうですね」

 そう短く言葉を交わしながら、僕と先輩は先に進む。そして中央辺りにまで歩いた時──僕は足を止めた。続けて、腕を振って先輩も止まるよう合図を送る。

「?」

 僕の合図を受けて、奇妙そうにしながらもすぐ後ろで、先輩も素直に止まってくれる。それを確認して、僕は黙ったまま静かに、剣を鞘から抜いた。

「先輩。武器を構えてください」

「…………ああ、そういうことか」

 流石の先輩も、気づいたらしい。僕の言葉通り、先輩も己の得物であるあの十字架を模した白剣を構える。

 僕と先輩が互いに背中を合わせる中──周囲から、なにかが起き上がるような音が次々と聞こえてくる。その音の主が、視界に映り込んでくる。

 言うなれば、それらは土で作られた、少々不格好な人形であった。恐らく目を模しているのだろう、顔の上部分に空いた二つの穴が僕と先輩に向けられる。

 〝有害級〟の魔物モンスター──『土人形クレイパペット』。今、僕と先輩は完全に取り囲まれていた。

 無数の『土人形』から目を離さず、僕は先輩に訊ねる。

「やれますか?先輩」

 先輩はすぐには答えず、少し遅れて──

「頑張る」

 ──そう、微かに固い口調で僕に返した。




















 一方、これはクラハが知る由もないこと。クラハとラグナが遺跡にて魔物──『土人形クレイパペット』の群れに囲まれている時のこと。

 オールティアにある酒場──『大食らいグラトニー』。ここには住民はもちろんのこと、依頼クエスト帰りの冒険者ランカーたちも訪れる場所である。質の良い、美味い酒を多く取り揃えている他、その肴だったり、これまた美味い料理も出している、まさにオールティアの男たちにとって楽園のような場所なのだ。

 その『大食らい』に今──とある二人の人物が立ち寄っていた。



「んぐ、んぐっ……かっはぁぁ…!ったく、ほんとやってらんねえですよぉ、えぇもぅ」

 これで十杯目になる金色の液体──発泡酒エールをこれまた豪快に一気飲みし、凄まじく鬱屈としたため息を吐きながら、空になった木製のジョッキをテーブルに思い切り叩きつけ後、それはもう鬱屈とした声音で先ほどのため息と同じように、その人物はそう吐き捨てる。そして間髪容れずどうしようもなく鬱屈としたように続ける。

「そっもそもでっすよぉ。わぁたしだって、てんまおぅだぁって、しぃっぱいのひとつやふたぁつ、するんですよぉぉぉ……ひっく」

 ……誰がどう見ても、その人物は完全にデキ上がっていた。注文を頼まれ、否応にも近づくことになる店員を除き、誰一人としてその近くに少しも寄らない状況の中──しかし、その酔っ払いと同じテーブルに座る、もう一人の人物がいるのだ。

「……まあ、君になにがあったのかは知らないが。自棄酒はその辺りまでにしたらどうだ?フィーリア」

「うっせえ、でぇすよ!ぃいんですよべっつにぃ~わたぁし、よってなぁんか、なぁいんですからぁぁ~」

「いや誰がどう見ても今の君は酔っているよ……」

 全く以て説得力の欠片もないその言葉に、珍しく頭を抱えるのは──サクラ。とある事情でこの街に滞在する、世界オヴィーリス最強の三人(実質今は二人だが)の一人、『極剣聖』と呼ばれこの世界全ての剣士に尊敬と畏敬と憧憬、そして畏怖の念を送られる、《SS》冒険者である。

 一方、サクラの言う通り自棄酒を煽り続け、ひたすら自堕落というか、人から尊敬やら畏敬やら憧憬を根刮ぎ掻っ攫う様を、恥ずかしげもなく大っぴらに晒すこちらの人物は──フィーリア。彼女もまた世界最強の三人(二度目の注釈だが今は実質二人である)の一人、『天魔王』と呼ばれるこの世界全ての魔道士ウィザードの頂に君臨する、《SS》冒険者である。

 そんな二人が──というよりサクラの場合は半ば強引に付き合わされて──『大食らい』にて、互いに酒を飲み交わしていた。

「あああちっくしょぉ……ぶぅれぃずさんだぁって、ひどすぎるとおもいません?いくらぁ、なんでぇも……ことばのげぇんどってもんがあるでしょぉぉ??」

「凄まじいほどまで絡み酒だな……まあ、こんな君を見られるのはある意味幸運なんだろうか」

「なにいってんですかぁさくらさぁん……わたしぃの、はなしぃきぃいてくだぁさぁいぃよぉぉ」

「安心しろフィーリア。君が酔い潰れても、私がしっかりとホテルに連れて行こう」

 全く成立しない会話を数回挟んだ後、不意にブルリとフィーリアが身体を震わせる。それから少し煩わしそうにしながらも、だいぶ危なげに揺れながらも立ち上がった。

「む?どうしたフィーリア」

「といれ。……ひっく」

 それだけ言って、その言葉通りにトイレがある方向に向かって彼女は歩き出す。しかし立ち上がった時と同様、その足取りは実に危なっかしい。

 そんな彼女の様子に、サクラは背中越しに声をかける。

「大丈夫か?私も付いて行こうかー?」

「いいですべぇつっにー。わたしは、てんまおうなのでぇ」

「……そ、そうか。転ばないよう、気をつけれてくれよ?」

「はいはーぃ……ひっく」

 心配するサクラに見送られて、トイレに向かうフィーリア──しかし、酩酊状態にある思考の最中、突如稲妻が走ったかのように、閃光が迸るように、彼女はとあることを思い出す。

 ──そういえば……。

 先ほどの通り、口に出す言動こそ酔っ払いそのものであるが──その思考は至って普段通りで、冴えていた。

 ──ブレイズさんに飲ませた、あの薬。

 色々と言葉の刃に斬られ刺され抉られた腹いせに、ラグナに飲ませたあの薬。あの桃色の薬には、ある副作用・・・があったのだと、フィーリアは思い出したのだ。

 それは────





 ──遅効性で、少しキツめの利尿作用があるんでしたっけ。
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