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ARKADIA──それが人であるということ──
ラグナちゃん危機一髪?──己への疑念
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グィンさんから調査を頼まれた遺跡は、オールティアの外れにある森の奥深くにあった。ホテルから飛び出して行ったフィーリアさんのことも気がかりではあったのだが、とりあえず僕と先輩はその遺跡調査の方を優先し、件の遺跡を目指し向かった。
そして森の中を進む途中、何度かその森に生息する魔物の襲撃を受けつつも、予想よりも少し早くその遺跡に辿り着くことができたのだった。
「これが例の遺跡、みたいですね。……そう古いものじゃあ、ないみたいですけど」
目の前の遺跡を眺めて、とりあえず僕はそう評価を下す。そう大きいものでもないし、年代もそう古いものとも思えなかった。
「それにしても、なんでこんな遺跡が今さら発見されたんですかね……」
「さあな。そんなん考えるよりも、とっとと中に入ってみようぜ。クラハ」
僕にそう言って、一足先に遺跡に踏み入ろうとする先輩。そんな先輩の行動を、僕は慌てて止める。
「先輩待ってください。一応念のため、先輩は僕の後ろにいてください。どうか、お願いします」
「あ?……わぁったよ。しゃあねえな」
僕の言葉に、遺跡の入口手前で踏み止まり、こちらに振り返って不服そうな表情を見せながらも、先輩はそう返し素直に受け入れてくれた。
「ありがとうございます。では……進みましょう」
そんな先輩に感謝しながら、僕は先頭に立ち、そしていよいよ遺跡の中に踏み入ったのだった。
遺跡の中は、薄暗かった。しかし薄暗いだけで、真っ暗ではない。まるで草のように──いや、今朝『旅人の安らぎ』の特等級、フィーリアさんが泊まる部屋で見た光景のように、そこら中に魔石が生えており、その魔石がぼんやりと発光していた。
おかげで灯りには困らないが……生え出しているせいで、少々足場が危ない。魔石に足を取られない気をつけながら、僕の後ろを歩く先輩にも注意を投げかける。
「先輩。転ばないように気をつけてくださいね。たぶん、結構痛いと思いますよ」
「んなの言われなくてもわぁってるってーの。……たく、あんまし子供扱いすんな」
僕の言葉に、少し怒ったようにそう返す先輩。だがやはり、少女の姿だと怖くなく、むしろ微笑ましいというか、可愛らしいというか。
──……。
歩きながら、ふと思い返す。今朝のことを、フィーリアさんの──正確には彼女の持つ『妖精聖剣』のことを。
彼女曰く、一日三回までなら使用者の魔力に応じてどんな願いでも叶えてくれる、神器級と言っても差し支えない道具。もはや凄まじいという簡単な評価では片付けられない道具だった。
……しかし、それでも。先輩を元に戻すことは叶わなかった。そのあまりにも強大過ぎる力を以てしても、先輩のLvも性別も──元には、戻せなかった。
Lvに関しては、最悪問題はない。一体どれだけの時間がかかるが皆目検討つかないが、地道に魔物狩りを行い、経験値を稼いでいけば──最終的にはLv100に到達できる……だろう。たぶん。
だが一番問題なのは────その性別。今さら言うことではないが、元々先輩は男だ。Lvもそうだが、性別も元に戻さなければならない。というか、先輩がそれを強く望んでいる。
けれど正直言って、これに関しては全くの手詰まりである。一体どのような方法があるのかすらも、僕にはわからない。その上、今日のことで……若干、それは絶望的なんじゃあないかと、考えさせられてしまった。
Lvの方ならまだ納得できた。人類の限界点──Lv100だ。この世界を創りし最高神──『創造主神』が定めし、生命にとっての一つの極地だ。たとえ『妖精聖剣』のような、神器級の道具の力を用いたとしても、そうは問屋が卸さなかったのだろう。
しかし、しかしだ。それに比べて性別の方になると話は違ってくる。そりゃあ性別だってそうポンポンと変えられないものだろう。……変えられないが、神器級の力であればこの程度、普通はどうにかなったはずだ。
だが、依然として先輩は女の子のまま。フィーリアさんが作ったという性転換薬の効果も出なかった。では、一体どんな方法を使えば先輩を男に戻せる?
──……わからない。
諦めかけている訳ではない。世界は広いのだ、きっとまだなにか、方法はあるはずだ。諦めるには、早過ぎる。
……ただ、思ってしまった。あるまじきことに、僕は思ってしまったのだ。
先輩が、女の子のままで良かった────と。
──僕は、僕がわからない……!
安堵してしまった。ホッと、胸を撫で下ろしてしまった。先輩が今も女の子であることに──僅かにも喜んでしまった。
後になって、僕はそんな自分を責めた。いい訳がないだろうと、己を罵った。当たり前だ。そんなこと、喜んでいい訳がない。
そして──先輩の性別が戻らなかったことに対して、何故喜んでしまったのか、参ったことにその理由すらもわからない。
──どうして、なんだろう。
「先輩……」
「ん?なんだクラハ?」
小声で呟いたつもりが、先輩の耳に届いてしまったらしい。後ろから返事する先輩の方に振り返って、少し慌てながらも僕は答える。
「い、いえ!なんでもないです!」
「……」
僕の顔を訝しげに見つめる先輩。少しの沈黙が流れた後、先輩が心配そうに口を開いた。
「お前、なんか悩んでんのか?」
その言葉に対して思わず肩が跳ね上がりそうになるのを必死に抑えながら、僕は至って平然とした表情を浮かべた。
「まあ、悩んでることには悩んでますね。僕も最近武器を新調しようかなー……と。この剣だってあまり状態の良くない、間に合わせの予備品ですし。お金も充分貯まってきたので、今度はもう少し上等なものを買いたいところです」
全く心にも思っていない僕の言葉に対して、やはり先輩は何処か考えるように真剣な眼差しを僕に向けたが──それも数秒のことだけだった。
「そうか。まあ……なんだ。お前の好きにすればいいと思うぞ」
「はい。そうします……ん?」
と、その時だった。この遺跡に入ってしばらく道なりに歩いていた僕と先輩だったが──ようやっと、ある程度開けた場所に出れた。
そして森の中を進む途中、何度かその森に生息する魔物の襲撃を受けつつも、予想よりも少し早くその遺跡に辿り着くことができたのだった。
「これが例の遺跡、みたいですね。……そう古いものじゃあ、ないみたいですけど」
目の前の遺跡を眺めて、とりあえず僕はそう評価を下す。そう大きいものでもないし、年代もそう古いものとも思えなかった。
「それにしても、なんでこんな遺跡が今さら発見されたんですかね……」
「さあな。そんなん考えるよりも、とっとと中に入ってみようぜ。クラハ」
僕にそう言って、一足先に遺跡に踏み入ろうとする先輩。そんな先輩の行動を、僕は慌てて止める。
「先輩待ってください。一応念のため、先輩は僕の後ろにいてください。どうか、お願いします」
「あ?……わぁったよ。しゃあねえな」
僕の言葉に、遺跡の入口手前で踏み止まり、こちらに振り返って不服そうな表情を見せながらも、先輩はそう返し素直に受け入れてくれた。
「ありがとうございます。では……進みましょう」
そんな先輩に感謝しながら、僕は先頭に立ち、そしていよいよ遺跡の中に踏み入ったのだった。
遺跡の中は、薄暗かった。しかし薄暗いだけで、真っ暗ではない。まるで草のように──いや、今朝『旅人の安らぎ』の特等級、フィーリアさんが泊まる部屋で見た光景のように、そこら中に魔石が生えており、その魔石がぼんやりと発光していた。
おかげで灯りには困らないが……生え出しているせいで、少々足場が危ない。魔石に足を取られない気をつけながら、僕の後ろを歩く先輩にも注意を投げかける。
「先輩。転ばないように気をつけてくださいね。たぶん、結構痛いと思いますよ」
「んなの言われなくてもわぁってるってーの。……たく、あんまし子供扱いすんな」
僕の言葉に、少し怒ったようにそう返す先輩。だがやはり、少女の姿だと怖くなく、むしろ微笑ましいというか、可愛らしいというか。
──……。
歩きながら、ふと思い返す。今朝のことを、フィーリアさんの──正確には彼女の持つ『妖精聖剣』のことを。
彼女曰く、一日三回までなら使用者の魔力に応じてどんな願いでも叶えてくれる、神器級と言っても差し支えない道具。もはや凄まじいという簡単な評価では片付けられない道具だった。
……しかし、それでも。先輩を元に戻すことは叶わなかった。そのあまりにも強大過ぎる力を以てしても、先輩のLvも性別も──元には、戻せなかった。
Lvに関しては、最悪問題はない。一体どれだけの時間がかかるが皆目検討つかないが、地道に魔物狩りを行い、経験値を稼いでいけば──最終的にはLv100に到達できる……だろう。たぶん。
だが一番問題なのは────その性別。今さら言うことではないが、元々先輩は男だ。Lvもそうだが、性別も元に戻さなければならない。というか、先輩がそれを強く望んでいる。
けれど正直言って、これに関しては全くの手詰まりである。一体どのような方法があるのかすらも、僕にはわからない。その上、今日のことで……若干、それは絶望的なんじゃあないかと、考えさせられてしまった。
Lvの方ならまだ納得できた。人類の限界点──Lv100だ。この世界を創りし最高神──『創造主神』が定めし、生命にとっての一つの極地だ。たとえ『妖精聖剣』のような、神器級の道具の力を用いたとしても、そうは問屋が卸さなかったのだろう。
しかし、しかしだ。それに比べて性別の方になると話は違ってくる。そりゃあ性別だってそうポンポンと変えられないものだろう。……変えられないが、神器級の力であればこの程度、普通はどうにかなったはずだ。
だが、依然として先輩は女の子のまま。フィーリアさんが作ったという性転換薬の効果も出なかった。では、一体どんな方法を使えば先輩を男に戻せる?
──……わからない。
諦めかけている訳ではない。世界は広いのだ、きっとまだなにか、方法はあるはずだ。諦めるには、早過ぎる。
……ただ、思ってしまった。あるまじきことに、僕は思ってしまったのだ。
先輩が、女の子のままで良かった────と。
──僕は、僕がわからない……!
安堵してしまった。ホッと、胸を撫で下ろしてしまった。先輩が今も女の子であることに──僅かにも喜んでしまった。
後になって、僕はそんな自分を責めた。いい訳がないだろうと、己を罵った。当たり前だ。そんなこと、喜んでいい訳がない。
そして──先輩の性別が戻らなかったことに対して、何故喜んでしまったのか、参ったことにその理由すらもわからない。
──どうして、なんだろう。
「先輩……」
「ん?なんだクラハ?」
小声で呟いたつもりが、先輩の耳に届いてしまったらしい。後ろから返事する先輩の方に振り返って、少し慌てながらも僕は答える。
「い、いえ!なんでもないです!」
「……」
僕の顔を訝しげに見つめる先輩。少しの沈黙が流れた後、先輩が心配そうに口を開いた。
「お前、なんか悩んでんのか?」
その言葉に対して思わず肩が跳ね上がりそうになるのを必死に抑えながら、僕は至って平然とした表情を浮かべた。
「まあ、悩んでることには悩んでますね。僕も最近武器を新調しようかなー……と。この剣だってあまり状態の良くない、間に合わせの予備品ですし。お金も充分貯まってきたので、今度はもう少し上等なものを買いたいところです」
全く心にも思っていない僕の言葉に対して、やはり先輩は何処か考えるように真剣な眼差しを僕に向けたが──それも数秒のことだけだった。
「そうか。まあ……なんだ。お前の好きにすればいいと思うぞ」
「はい。そうします……ん?」
と、その時だった。この遺跡に入ってしばらく道なりに歩いていた僕と先輩だったが──ようやっと、ある程度開けた場所に出れた。
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