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ARKADIA──それが人であるということ──

Glutonny to Ghostlady──戦闘、亡霊の騎士(前編)

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 ガシャン──僕に迫っていた無数の鎧の一体が、ぎこちない動作で剣を振り下ろす。冷たい刃が、宙を切り裂きながら襲いかかる。

「フッ……!」

 しかしその斬撃は僕を傷つけるにはあまりにも遅く、躱すのは実に容易かった。空振った鎧が大きくその体勢を崩す。

 後ろに退がりながら、腰にかけた鞘から剣を抜く。即座に構え、僕は鋭く周囲を見渡した。

 数にして、ざっと十八。三百六十度、取り囲まれている。幸いなことに、どの鎧も先輩の方に向かう様子はない。

 柄を握り締め、鎧たちを見据える。依然として鎧たちはじりじりとこちらとの距離を詰めており、だがその動きからは絶えず違和感を発していた。

 まるで意思という意思が感じられない、とてもではないが中に人間が入っているとは思えない──例えるなら操り人形のようなもの。

 そこに至って、ハッと僕は気づいた。

 ──亡霊の騎士ゴーストナイト……。

 昇天できず未だこの世を彷徨う無数の魂が、一つの集合体となって空の鎧に宿ることで誕生する、〝有害級〟上位の魔物モンスターである。

 ならば対処は簡単だ。魔物なら──倒せばいい。

「ハアッ!」

 すぐさま鎧──亡霊の騎士の一体との距離を詰め、懐に飛び込む。

 そして剣を振り上げながら、僕は剣に魔力を伝わせる。

「【強化斬撃】……!」

 魔力によって切断力と破壊力を倍増された刃が、僕の急接近に対してなにも反応できないでいる亡霊の騎士の、ガラ空きとなっている胴体に吸い込まれるようにして打ち込まれる。並の鎧ならば難なく両断できる一撃──だった・・・

 ガァンッ──打ち込んだ刃は、鎧に食い込み大きく歪んだところで止まってしまった。その事実に、思わず僕は驚愕してしまう。

 ──見た目より硬い……!?

 瞬間、背後からゾッとするような悪寒を感じて、反射的にその場から跳び退く。直後、僕がさっきまでいた場所に数本の剣が突き立った。

「クッ……!」

 慌てて剣を構え、周囲を急いで見渡す。正面には先ほど僕に斬りつけられ、胴体が歪んだ一体。その一体の左右にそれぞれ一体ずつ。僕の両横と背後にそれぞれ五体。

 亡霊の騎士はさほど強くはない魔物だが、こうも数が多いと話は別だ。それに────

「先輩!そこから動かないでください!」

 ────先輩のこともある。幸い狙いは僕のようだが、下手に動かれて敵視ヘイトされてしまうと一気に状況が悪化してしまう。

 僕は大声で叫びながら、先輩の方を見やる。依然先輩は床にへたり込んでおり、こちらを心配そうに見つめていた。

「お、おう!」

 先輩の返事を聞いて、僕は亡霊の騎士に意識を向ける。亡霊の騎士たちはこちらを取り囲んではいるが、その気になればいつでも突破できるような緩い包囲だ。それに見たところ、とてもではないが連携が取れるとも思えない。

 注意するとしたら、鎧自体の耐久力。ざっと見た感じ、あまり上等な鋼が使われているとは思えず、【強化斬撃】ならば難なく斬れるだろうと踏んだのだが……なにかしらの強化を受けているらしい。とはいえ一撃であそこまで歪めさせられたのだから、もう一撃打ち込めば問題ないだろう。

 問題はその隙を突けるかどうか──僕は慎重に鎧たちの動きを見据える。そのどれもが鈍く、これならば特に問題はないと判断。と、右横にいた一体が僕に向かって剣を振り下ろしてきた。

 だが大した速度もなく、技術の欠片もない単調に尽きる剣撃。それを僕が躱すのは、正直呼吸するよりも簡単だった。

 躱しながら、魔力で強化した剣を肩に打ち込む。刃が肩部分を押し込み、大きく凹ませた。すかさず剣を引き抜き、間髪入れずに同じ箇所に打ち込んだ。

 べキン──甲高い音を立て、肩から大きく亀裂が走り、鎧は斜めに割れた。空っぽだった中から白いもやのようなものが噴き出し、宙に霧散する。

 ──まず一体。

 続けて、その隣にいた鎧に突きを放つ。腕全体を【強化ブースト】したその突きの威力は尋常ではなく、強化されている鎧の胴体を貫く。しかしそれでは破壊力が足りず、活動を停止させるには不充分である。

 そのまま力任せに横に振るう。こんな無茶な使い方をすれば、いくら鉄で出来ている剣だろうと折れてしまう。だが魔力によって強化された剣はその耐久力も増しており、結果折れるどころか変形もせず、貫かれ多少脆くなったのか、存外呆気なく鎧を断ち切った。

 ガタガタと激しく震えながら、鎧が床に倒れる。そして先ほどの鎧同様白い靄を噴き出し、動かなくなった。

 ──二体。

 少し荒くなった息を整えながら、別の鎧に視線を移す──直前、突如僕の鼓膜を悲鳴が震わせた。

「先輩ッ!?」

 慌てて先輩の方を振り向く。振り向いて、全身から冷や汗が噴き出した。

「ちょ、こっち来んなぁっ!」

 先輩が叫びながら、必死に腕を振り回す。その度に赤髪と、髪に結び付けた白いリボンが流れるように揺れる。

 今、先輩の周囲には薄く透けた手首が四つほど、浮いていた。
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