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ARKADIA──それが人であるということ──
Glutonny to Ghostlady──依頼話〜『幽霊屋敷』の地下階層〜
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「『極剣聖』と『天魔王』、あの偉大なる《SS》冒険者のお二方が揃っている今、是非ともお話に花を咲かせたいところなのですが……ここは自重し依頼に関するだけで留めておきます」
そう言って、リオさんはやや仰々しく悲しむような素振りを僕たちに見せる。そんな彼に対し、毅然とした声音でサクラが訊ねる。
「グェニ大森林に建つ屋敷、ゴーヴェッテン邸──人呼んで『幽霊屋敷』。確か此度の依頼はその内部の探索及び調査……だったかな?」
サクラさんの問いかけに、リオさんは首を縦に振り、そして再度口を開き、続けた。
「その通りです。ゴーヴェッテン邸、通称『幽霊屋敷』。今回私が貴女に……いえ、貴方方にはこの屋敷の探索と、調査をしてほしいのです。厳密に言えば、この屋敷の地下階層の、ですが」
「ほう。『幽霊屋敷』には地下階層なんというものがあるのか。いや、話に聞いた限り並貴族が住まう規模の屋敷ではない故、むしろあると考える方が当然か」
少しだけ興味が湧いたのか、若干高くなったサクラさんの声に、人当たりの良い微笑を携えリオさんが続ける。
「まあ実を言うと『幽霊屋敷』にそんな場所が存在すると私が知ったのも、先月のことなんですけどね」
と、そこでリオさんは言葉を止めて、それから僅かばかりの沈黙を挟んだ後に──先ほどまで漂わせていた柔和な雰囲気を抑えて、続きを語った。
「父の遺言にあったんです。『あの屋敷を、地下をどうにかしてくれ』──と」
「……それはまた、気になる遺言だな」
サクラさんの言葉に同意するように、リオさんは続ける。
「また実を言うと、私の父とゴーヴェッテン邸の主──ディオス=ゴーヴェッテンは旧知の間柄だったらしいんです。それでディオス=ゴーヴェッテンが亡くなった後、あの屋敷の一応の所有権が父に渡ったのですが……何故か、父は一切屋敷には近寄ろうとしませんでした。それどころか存命だった間は母や、私という息子すらも近づくことを許さなかったんです」
「そうだったのか……しかし、それもまた奇妙な話だな。今まで近づけさせなかったというのに、どうにかしてくれとは。それにあの屋敷には冒険者やら賊やらが忍び込んでいたという噂を聞いたが、それを貴殿の父は容認していたのか?」
「ええ。そのことに関してなのですが、どうやらそうだったみたいですね。父は所有権自体は握っていましたが、屋敷の管理等は全くしていませんでしたし、我関せずといった風でした。……それで、父の遺言に従いまずは地下階層の有無を確かめるため、手頃な冒険者を雇い、屋敷に向かわせたんです」
またそこで一旦沈黙を挟み、気まずさを含んで声でリオさんは再度口を開いた。
「結果だけ申しますと、有無は確かめられませんでした」
その彼の一言には、重みがあった。自分を責める、後悔の念が込められていた。
そこで僕は思い出す。ゴーヴェッテン邸──グェニ大森林の『幽霊屋敷』の噂を。屋敷には金銀財宝が眠っており、また恐ろしい化け物が巣食っており──そして足を踏み入れて、無事に帰って来た者は誰一人もいないという、内容を。それを思い出し、リオさんが雇ったという冒険者に関してある程度、察した。
──……やっぱり、危険だ。
そう思い、僕は再び躊躇ってしまう。『幽霊屋敷』──果たして、僕と先輩が足を踏み入れてもいい場所なのか、と。
グッ──突然、僕の足先が踏みつけられた。
「っ……?」
さほど痛みはなかったが、それでもつい反射的に驚いてしまい、咄嗟に己の足元を見やると──先輩の小さな足が、そこにはあった。
サクラさんとリオさんが会話し、それを聞くフィーリアさんの横で、僕は信じられない面持ちで隣に座る先輩の方に顔を向ける。
……先輩は、ジト目で僕の顔を見つめ、不機嫌そうに頬を僅かに膨らませていた。
──え?なに?なんで?
何故に先輩は機嫌を悪くしているのだろう。その原因がわからず、僕が内心動揺していると、ソファから少し腰を浮かせ、先輩がこちらに身体を寄せてきた。
不意打ちの急接近──堪らず声を上げそうになったが、その前に先輩が僕の耳元に口を近づけ、囁いた。
「言っとくけど、お前がなに言っても行くからな」
「…………は、はい」
こちらに言い返すことは許さないぞ、と言わんばかりの憤りが込められた先輩の囁きに、僕はただ首を縦に振り、頷くしか他なかった。
「……えっと」
と、不意にそこで困惑気味というか、やや気まずいというようにリオさんが声を漏らす。その声が僕の鼓膜を震わすと同時に、いつの間にか来賓室がちょっとした静寂に包まれていることに気がついた。
そのことを奇妙に思い視線を巡らせば──僕と、僕に身体を寄せる先輩以外の、この部屋にいる三人がなんとも言えないような表情でこちらを見ていた。
「その、失礼かもしれませんが……恋人同士、なのですか?お二方は」
「……え?」
この場合、どういったような表情を浮かべているべきなのか──という、そんな心の声が聞こえてきそうな面持ちで、リオさんは僕に訊ねる。対し、僕は気の抜けた声しか返せなかった。
──恋人?僕と、先輩が?
言われて、今僕たち二人が客観的にどう見えているのか理解する。複雑に絡む事情により女の子になった先輩が、男である僕の方に、なんの躊躇いもなく己の柔い女体を寄せて、そしてなんの忌避もなく男である僕の耳元に薄桃色の口元を近づけている、そんな状況なのだと、遅れて理解する。
数秒、沈黙を挟んで。僕は凄まじく慌てふためきながら若干乾燥した口を開いた。
「ちっ!違「違えよ。こいつは俺の後輩で、俺はこいつの先輩」
が、突如そこに口を挟んだ先輩の声によって、僕の声は遮られてしまった。だが、その先輩の言い分は人を納得させられるものとはお世話にも言えず、少々苦しいものである。が、しかし。
「ああ、そうでしたか」
それでも、リオさんは納得してくれた。僕がなんとも言えない気持ちを抱く中、彼は少し言い難そうにサクラさんに言う。
「依頼した手前、こう言うのは身勝手なのですが……この依頼についてはもう一度考え直してもらってもこちらは構いません。むろん《SS》冒険者であるお二方の実力を疑っている訳でも、ましてや軽視している訳でもありません。それに貴女が複数人同行させるという考えに反対するつもりもありません。……ありません、が」
そこで、再度リオさんは僕と、そして先輩の方を見やった。彼が浮かべるのは──心配の表情。
「正直に申しますと、そのもうお二方……特に可憐な赤髪のお嬢さんの同行にはやや賛成しかねます。それに、いくら『大翼の不死鳥』のクラハ=ウインドアさんでも、危険かと思います」
「え?僕のことも、知っていたんですか?」
驚きに思わず声を上げた僕に、リオさんは微笑を以て頷く。
「当然ですよ。ラディウスでの一件、お見事でした」
「あ、ありがとうございます……」
……まさか、僕なんかのような、それこそ一介の《S》冒険者でしかない存在が、あの『四大』に認知されているとは。胸に達成感と感動が湧き上がり、僕は思わず嬉し泣きしそうになった。
「きっとこれからも貴方は冒険者として輝かしい活躍するだろうと、私は思っています。……それ故に、できれば屋敷に足を踏み入れてほしくないんです」
僕にそう言うリオさんは、本気でこちらの身を案じていることがひしひしと伝わってくる。僕に万が一のことなんて、あってほしくないと、訴えかけるその気持ちが。
正直に言ってしまえば、僕は揺らいでいた。リオさんから直に話を聞かされ、情けない話──ほんの少しばかり、怖気づいてしまった。
──……けど。
僕は、前に進まなければいけない。冒険者としての経験を積まなければならない。何故ならあの日、そう誓ったのだから。
強くなると。心配なんてさせないくらいに、強くなると────今、隣に座る人とそう約束したのだから。
リオさんの方に顔を向け、僕は彼に言う。
「お気遣い、本当にありがとうございます。……ですが、僕も同行します。いやさせてください。むろんこのひ……この子のことも、僕が絶対に守ってみせるので」
まるで自分自身に言い聞かせるような僕の言葉を受けて、リオさんは少し面食らったように、その目をほんの微かに見開かせていた。
「……なるほど。それほどまでの覚悟を、貴方は抱いていたのですね。わかりました。もうこれ以上口は挟みません」
しかし──と。リオさんが言葉を続ける。
「先ほどは違うと言っていましたが……お二方は本当に恋人関係ではないのですが?貴方の言葉を聞く限り、どうしても私にはそう思えてしまって……」
「…………」
言われて、少し冷静になって、僕は自らの言葉の内容を振り返る。振り返り、考えた。
──うん、その通りだな。うん。
直後、顔から火が出るんじゃないかというほどまでの羞恥に身を襲われ、堪らず僕は顔を俯かせてしまった。
「だから違えっての」
「そう、ですか……」
再度僕の代わりに答えてくれる先輩。と、今まで黙っていたサクラさんが軽く咳払いした。
「とまあ、この通りだ。むろんこの私がいるからには、この二人の安全は保証する。報酬に関しても私のみで大丈夫だ。三人には私が個人で出す」
「あ、いえ彼らへの報酬も支払いますよ。元より同行は許可してますので」
「む、そうか。であればその御言葉に甘んじさせてもらうことにしよう」
「ええ、構いません。それで屋敷にはこちらから馬車を出しますので、そちらに乗って向かってもらいます。距離にして今からですと……二日ほどで着くかと」
「すみません、ちょっといいですか?」
と、そこで不意にフィーリアさんが二人の会話に割り込んだ。
「確認したいことが一つあるんですけど」
「確認、ですか?なんでしょう?」
首を傾げるリオさんに、まるで天気の話をするかのようなごく自然に何気なく、至って普通の表情でフィーリアさんは彼にこう訊ねた。
「あの、お屋敷って爆破しても構いませんか?」
…………その瞬間、時が止まった──そうと錯覚してしまうような、沈黙と静寂が場を支配した。
──……いやなにさらっととんでもないこと訊いてるんだこの人……!?
僕が思わずそう思ってしまう最中、やがてリオさんが口を開く。
「ええ、構いませんよ。こちらとしては住む気のない屋敷ですし、重要なのはあくまでも地下階層なので」
……え、いいの?構わないの?
そう言って、リオさんはやや仰々しく悲しむような素振りを僕たちに見せる。そんな彼に対し、毅然とした声音でサクラが訊ねる。
「グェニ大森林に建つ屋敷、ゴーヴェッテン邸──人呼んで『幽霊屋敷』。確か此度の依頼はその内部の探索及び調査……だったかな?」
サクラさんの問いかけに、リオさんは首を縦に振り、そして再度口を開き、続けた。
「その通りです。ゴーヴェッテン邸、通称『幽霊屋敷』。今回私が貴女に……いえ、貴方方にはこの屋敷の探索と、調査をしてほしいのです。厳密に言えば、この屋敷の地下階層の、ですが」
「ほう。『幽霊屋敷』には地下階層なんというものがあるのか。いや、話に聞いた限り並貴族が住まう規模の屋敷ではない故、むしろあると考える方が当然か」
少しだけ興味が湧いたのか、若干高くなったサクラさんの声に、人当たりの良い微笑を携えリオさんが続ける。
「まあ実を言うと『幽霊屋敷』にそんな場所が存在すると私が知ったのも、先月のことなんですけどね」
と、そこでリオさんは言葉を止めて、それから僅かばかりの沈黙を挟んだ後に──先ほどまで漂わせていた柔和な雰囲気を抑えて、続きを語った。
「父の遺言にあったんです。『あの屋敷を、地下をどうにかしてくれ』──と」
「……それはまた、気になる遺言だな」
サクラさんの言葉に同意するように、リオさんは続ける。
「また実を言うと、私の父とゴーヴェッテン邸の主──ディオス=ゴーヴェッテンは旧知の間柄だったらしいんです。それでディオス=ゴーヴェッテンが亡くなった後、あの屋敷の一応の所有権が父に渡ったのですが……何故か、父は一切屋敷には近寄ろうとしませんでした。それどころか存命だった間は母や、私という息子すらも近づくことを許さなかったんです」
「そうだったのか……しかし、それもまた奇妙な話だな。今まで近づけさせなかったというのに、どうにかしてくれとは。それにあの屋敷には冒険者やら賊やらが忍び込んでいたという噂を聞いたが、それを貴殿の父は容認していたのか?」
「ええ。そのことに関してなのですが、どうやらそうだったみたいですね。父は所有権自体は握っていましたが、屋敷の管理等は全くしていませんでしたし、我関せずといった風でした。……それで、父の遺言に従いまずは地下階層の有無を確かめるため、手頃な冒険者を雇い、屋敷に向かわせたんです」
またそこで一旦沈黙を挟み、気まずさを含んで声でリオさんは再度口を開いた。
「結果だけ申しますと、有無は確かめられませんでした」
その彼の一言には、重みがあった。自分を責める、後悔の念が込められていた。
そこで僕は思い出す。ゴーヴェッテン邸──グェニ大森林の『幽霊屋敷』の噂を。屋敷には金銀財宝が眠っており、また恐ろしい化け物が巣食っており──そして足を踏み入れて、無事に帰って来た者は誰一人もいないという、内容を。それを思い出し、リオさんが雇ったという冒険者に関してある程度、察した。
──……やっぱり、危険だ。
そう思い、僕は再び躊躇ってしまう。『幽霊屋敷』──果たして、僕と先輩が足を踏み入れてもいい場所なのか、と。
グッ──突然、僕の足先が踏みつけられた。
「っ……?」
さほど痛みはなかったが、それでもつい反射的に驚いてしまい、咄嗟に己の足元を見やると──先輩の小さな足が、そこにはあった。
サクラさんとリオさんが会話し、それを聞くフィーリアさんの横で、僕は信じられない面持ちで隣に座る先輩の方に顔を向ける。
……先輩は、ジト目で僕の顔を見つめ、不機嫌そうに頬を僅かに膨らませていた。
──え?なに?なんで?
何故に先輩は機嫌を悪くしているのだろう。その原因がわからず、僕が内心動揺していると、ソファから少し腰を浮かせ、先輩がこちらに身体を寄せてきた。
不意打ちの急接近──堪らず声を上げそうになったが、その前に先輩が僕の耳元に口を近づけ、囁いた。
「言っとくけど、お前がなに言っても行くからな」
「…………は、はい」
こちらに言い返すことは許さないぞ、と言わんばかりの憤りが込められた先輩の囁きに、僕はただ首を縦に振り、頷くしか他なかった。
「……えっと」
と、不意にそこで困惑気味というか、やや気まずいというようにリオさんが声を漏らす。その声が僕の鼓膜を震わすと同時に、いつの間にか来賓室がちょっとした静寂に包まれていることに気がついた。
そのことを奇妙に思い視線を巡らせば──僕と、僕に身体を寄せる先輩以外の、この部屋にいる三人がなんとも言えないような表情でこちらを見ていた。
「その、失礼かもしれませんが……恋人同士、なのですか?お二方は」
「……え?」
この場合、どういったような表情を浮かべているべきなのか──という、そんな心の声が聞こえてきそうな面持ちで、リオさんは僕に訊ねる。対し、僕は気の抜けた声しか返せなかった。
──恋人?僕と、先輩が?
言われて、今僕たち二人が客観的にどう見えているのか理解する。複雑に絡む事情により女の子になった先輩が、男である僕の方に、なんの躊躇いもなく己の柔い女体を寄せて、そしてなんの忌避もなく男である僕の耳元に薄桃色の口元を近づけている、そんな状況なのだと、遅れて理解する。
数秒、沈黙を挟んで。僕は凄まじく慌てふためきながら若干乾燥した口を開いた。
「ちっ!違「違えよ。こいつは俺の後輩で、俺はこいつの先輩」
が、突如そこに口を挟んだ先輩の声によって、僕の声は遮られてしまった。だが、その先輩の言い分は人を納得させられるものとはお世話にも言えず、少々苦しいものである。が、しかし。
「ああ、そうでしたか」
それでも、リオさんは納得してくれた。僕がなんとも言えない気持ちを抱く中、彼は少し言い難そうにサクラさんに言う。
「依頼した手前、こう言うのは身勝手なのですが……この依頼についてはもう一度考え直してもらってもこちらは構いません。むろん《SS》冒険者であるお二方の実力を疑っている訳でも、ましてや軽視している訳でもありません。それに貴女が複数人同行させるという考えに反対するつもりもありません。……ありません、が」
そこで、再度リオさんは僕と、そして先輩の方を見やった。彼が浮かべるのは──心配の表情。
「正直に申しますと、そのもうお二方……特に可憐な赤髪のお嬢さんの同行にはやや賛成しかねます。それに、いくら『大翼の不死鳥』のクラハ=ウインドアさんでも、危険かと思います」
「え?僕のことも、知っていたんですか?」
驚きに思わず声を上げた僕に、リオさんは微笑を以て頷く。
「当然ですよ。ラディウスでの一件、お見事でした」
「あ、ありがとうございます……」
……まさか、僕なんかのような、それこそ一介の《S》冒険者でしかない存在が、あの『四大』に認知されているとは。胸に達成感と感動が湧き上がり、僕は思わず嬉し泣きしそうになった。
「きっとこれからも貴方は冒険者として輝かしい活躍するだろうと、私は思っています。……それ故に、できれば屋敷に足を踏み入れてほしくないんです」
僕にそう言うリオさんは、本気でこちらの身を案じていることがひしひしと伝わってくる。僕に万が一のことなんて、あってほしくないと、訴えかけるその気持ちが。
正直に言ってしまえば、僕は揺らいでいた。リオさんから直に話を聞かされ、情けない話──ほんの少しばかり、怖気づいてしまった。
──……けど。
僕は、前に進まなければいけない。冒険者としての経験を積まなければならない。何故ならあの日、そう誓ったのだから。
強くなると。心配なんてさせないくらいに、強くなると────今、隣に座る人とそう約束したのだから。
リオさんの方に顔を向け、僕は彼に言う。
「お気遣い、本当にありがとうございます。……ですが、僕も同行します。いやさせてください。むろんこのひ……この子のことも、僕が絶対に守ってみせるので」
まるで自分自身に言い聞かせるような僕の言葉を受けて、リオさんは少し面食らったように、その目をほんの微かに見開かせていた。
「……なるほど。それほどまでの覚悟を、貴方は抱いていたのですね。わかりました。もうこれ以上口は挟みません」
しかし──と。リオさんが言葉を続ける。
「先ほどは違うと言っていましたが……お二方は本当に恋人関係ではないのですが?貴方の言葉を聞く限り、どうしても私にはそう思えてしまって……」
「…………」
言われて、少し冷静になって、僕は自らの言葉の内容を振り返る。振り返り、考えた。
──うん、その通りだな。うん。
直後、顔から火が出るんじゃないかというほどまでの羞恥に身を襲われ、堪らず僕は顔を俯かせてしまった。
「だから違えっての」
「そう、ですか……」
再度僕の代わりに答えてくれる先輩。と、今まで黙っていたサクラさんが軽く咳払いした。
「とまあ、この通りだ。むろんこの私がいるからには、この二人の安全は保証する。報酬に関しても私のみで大丈夫だ。三人には私が個人で出す」
「あ、いえ彼らへの報酬も支払いますよ。元より同行は許可してますので」
「む、そうか。であればその御言葉に甘んじさせてもらうことにしよう」
「ええ、構いません。それで屋敷にはこちらから馬車を出しますので、そちらに乗って向かってもらいます。距離にして今からですと……二日ほどで着くかと」
「すみません、ちょっといいですか?」
と、そこで不意にフィーリアさんが二人の会話に割り込んだ。
「確認したいことが一つあるんですけど」
「確認、ですか?なんでしょう?」
首を傾げるリオさんに、まるで天気の話をするかのようなごく自然に何気なく、至って普通の表情でフィーリアさんは彼にこう訊ねた。
「あの、お屋敷って爆破しても構いませんか?」
…………その瞬間、時が止まった──そうと錯覚してしまうような、沈黙と静寂が場を支配した。
──……いやなにさらっととんでもないこと訊いてるんだこの人……!?
僕が思わずそう思ってしまう最中、やがてリオさんが口を開く。
「ええ、構いませんよ。こちらとしては住む気のない屋敷ですし、重要なのはあくまでも地下階層なので」
……え、いいの?構わないの?
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