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ARKADIA──それが人であるということ──
Glutonny to Ghostlady──同行しないか?
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「あれか、件の屋敷とやらは」
ファース大陸西部──グェニ大森林。人など滅多に立ち入らない第二級危険指定地域へ続く丘から、青黒い大樹が無数に並び、どこまでも続くその光景を眺めながら、凛とした声色でサクラさんが呟く。
彼女の視線の先。彼女の言う通り、そこには大樹よりも巨大な屋敷がある。いや、屋敷というよりは、もはや城のような見た目である。
自然に囲まれた、たった一つの人工建築物。その目立ち様は凄まじいものである。そんな屋敷をサクラさんと同じように遠目から眺め、僕も口を開く。
「そう、ですね。あの屋敷こそ、これから僕たちが向かうべき場所──ゴーヴェッテン邸でしょう」
グェニ大森林の巨大屋敷──その名をゴーヴェッテン邸。このファース大陸に住まう者であれば、特に冒険者稼業の人間であれば、知らぬ者はほぼいないと言われるまでに有名な場所である。
「でっけぇ家だなあ」
「…………」
なんの飾り気もない素直な感想を零すラグナ先輩と、その隣で顔を若干青くさせ、固い表情でゴーヴェッテン邸を眺めるフィーリアさん。そんな二人に一旦視線を送って、すぐさまサクラさんはゴーヴェッテン邸に視線を戻す。
そして、彼女は宣言でもするかのように、僕たち三人に告げた。
「では行くとしようじゃないか。ゴーヴェッテン邸──『幽霊屋敷』に」
ゴーヴェッテン邸。またの名を、『幽霊屋敷』。何故そんな場所に僕たちは向かうことになったのか、それは遡ること二日前の話になる────
「時に訊くんだが、二人は幽霊屋敷に興味はあるか?」
喫茶店『ヴィヴェレーシェ』にて、待ち合わせの時間よりも少しだけ遅く、僕と先輩の二人に合流したサクラさんは軽い謝罪を済ませると、次にそんなことを訊いてきた。
「ゆ、幽霊屋敷……ですか?」
「ああ。幽霊屋敷、だ」
普段通りの凛とした表情と声音でそう返すサクラさん。僕としては、訊かれたことの内容が内容なので、困惑を隠さずにはいられない。
「興味があるかと訊かれると、正直あんまり……ですね」
「へえ、クラハは興味ねえのか。俺はあるぞ。なんか面白そうじゃん!」
僕とは真反対の反応を見せ、食いつく先輩。そんな先輩の姿をサクラさんはまるで、可愛がりたくてしょうがなくなる小動物に向けるような眼差しで見つめ、それから何処か満足そうに頷いた。
「ふむ。相も変わらずラグナ嬢は愛くるしい──ではなく、実はこういった依頼があってな」
言いながら、サクラさんは懐から一枚の紙を取り出し、テーブルの上にへと置く。彼女の言う通り、その紙は依頼書だった。
「『世界冒険者組合』から通された依頼だ」
「そ、そうなんですか。……え!?そうなんですか!?」
なんでもないかのようにサクラさんがそう言ったため、思わず流しかけたが、すんでのところで僕は彼女の発言を頭の中で反芻させ、その場から飛び跳ねかねない勢いで驚愕した。
当然ではあるが、依頼というものは依頼主が冒険者組合に発注することによって発生する。しかし、それはあくまでも一般人が、手頃な冒険者組合──例えば『大翼の不死鳥』がそれに当てはまる──に発注した、通常の依頼である。
だが『世界冒険者組合』となれば話は全く違ってくる。そもそも、一般人はおろか、下手な上流貴族では『世界冒険者組合』に対して依頼を発注することなど到底叶わないからだ。
『世界冒険者組合』。今この世界に現存する全ての冒険者組合の祖であり、またその全ての頂点。そんな冒険者組合に依頼を発注するとなると、あまりにも莫大な金がかかる。
理由は単純である。『世界冒険者組合』に所属する冒険者の質が、高過ぎるからだ。
この世界には、ある一つの番付が存在する。そしてその番付こそが、『世界冒険者組合』に加入するための条件であり、また唯一の方法。
その名も────冒険者番付表。
第一位から第五十位まで。選ばれるのは全《S》冒険者であり、チームとして選ばれるのが大半であり、《S》冒険者個人が選ばれるのは少ない。
この番付表に名を連ねることは冒険者にとってこれ以上の名誉はなく、たとえ最下位である五十位だとしても、番付外である《S》冒険者五十人よりも価値があると判断される。
この番付表は毎月刊行される冒険者にとって必須の情報誌、『冒険人生』に必ず掲載されており、刊行されるのと同時に更新される。しかし、順位が変わることはもちろん、新たな冒険者チームが番付入りすることは滅多にない。そして冒険者個人となると、数年に一度あるかないかというほどであり、その中でもここ十年間全く、一度も変動しない順位がある。
冒険者番付表第六位から第一位──通称、『六険』。
第六位────冒険者組合『緑緑の妖狐』所属、トゥトゥ=ニーパニーパ。
第五位────冒険者組合『流星の落涙』所属、エグゼ=ルキオン。
第四位────冒険者組合『大地の防人』所属、バルボル=ダンダリオ。
第三位────冒険者組合『燦然の煌洸』所属、リィン=ヴァーミリス。
第二位────冒険者組合『威光の熾天』GM、ルミナ=ゼニス=エインへリア。
第一位────冒険者組合無所属、レイヴン。
以下、六名。その全員が個人で活動する冒険者たちであり、現在存在する冒険者の中でも最高峰と謳われる者たちである。
とまあ、『六険』に関する説明はここまでにするとして。『六険』の誰もが『世界冒険者組合』には所属していないのだが、番付入りしている冒険者及びチームの五割は『世界冒険者組合』に所属している。つまり他の冒険者組合と比べても、その水準が圧倒的なまでに高いのだ。
番付入りの冒険者、チームへの依頼料は想像を絶するほどに高額であり、それを支払える存在はかなり限られてくる。少なくとも世界に名の知れた資産家、大企業の会長、もしくは────
「落ち着け、ウインドア。驚くはわかるが、みっともないぞ」
と、僕の思考をサクラさんがその一言で断ち切った。彼女に言われて、僕はいくらかの冷静さを取り戻す。
「す、すみません。つい……」
冷静さを取り戻し、僕はテーブルの上に広げられた依頼書に目を軽く通す。通して──取り戻した冷静さを、僕は再び欠くことになってしまった。
「ゴ、ゴーヴェッテン邸の探索及び調査……!?」
同時に、何故最初にサクラさんが『幽霊屋敷』に興味はあるかと訊いてきた理由がわかった。なるほど、そういうことか……。
思わず言葉を失う僕に、試すような口振りでサクラさんが言う。
「ああ。まあそれで、な……ラグナ嬢と──いや、ウインドア。君に提案があるんだが」
「……提案、ですか?」
サクラさんは頷いて、それからとんでもないことを僕に言ってきた。
「この依頼、私と同行しないか?」
ファース大陸西部──グェニ大森林。人など滅多に立ち入らない第二級危険指定地域へ続く丘から、青黒い大樹が無数に並び、どこまでも続くその光景を眺めながら、凛とした声色でサクラさんが呟く。
彼女の視線の先。彼女の言う通り、そこには大樹よりも巨大な屋敷がある。いや、屋敷というよりは、もはや城のような見た目である。
自然に囲まれた、たった一つの人工建築物。その目立ち様は凄まじいものである。そんな屋敷をサクラさんと同じように遠目から眺め、僕も口を開く。
「そう、ですね。あの屋敷こそ、これから僕たちが向かうべき場所──ゴーヴェッテン邸でしょう」
グェニ大森林の巨大屋敷──その名をゴーヴェッテン邸。このファース大陸に住まう者であれば、特に冒険者稼業の人間であれば、知らぬ者はほぼいないと言われるまでに有名な場所である。
「でっけぇ家だなあ」
「…………」
なんの飾り気もない素直な感想を零すラグナ先輩と、その隣で顔を若干青くさせ、固い表情でゴーヴェッテン邸を眺めるフィーリアさん。そんな二人に一旦視線を送って、すぐさまサクラさんはゴーヴェッテン邸に視線を戻す。
そして、彼女は宣言でもするかのように、僕たち三人に告げた。
「では行くとしようじゃないか。ゴーヴェッテン邸──『幽霊屋敷』に」
ゴーヴェッテン邸。またの名を、『幽霊屋敷』。何故そんな場所に僕たちは向かうことになったのか、それは遡ること二日前の話になる────
「時に訊くんだが、二人は幽霊屋敷に興味はあるか?」
喫茶店『ヴィヴェレーシェ』にて、待ち合わせの時間よりも少しだけ遅く、僕と先輩の二人に合流したサクラさんは軽い謝罪を済ませると、次にそんなことを訊いてきた。
「ゆ、幽霊屋敷……ですか?」
「ああ。幽霊屋敷、だ」
普段通りの凛とした表情と声音でそう返すサクラさん。僕としては、訊かれたことの内容が内容なので、困惑を隠さずにはいられない。
「興味があるかと訊かれると、正直あんまり……ですね」
「へえ、クラハは興味ねえのか。俺はあるぞ。なんか面白そうじゃん!」
僕とは真反対の反応を見せ、食いつく先輩。そんな先輩の姿をサクラさんはまるで、可愛がりたくてしょうがなくなる小動物に向けるような眼差しで見つめ、それから何処か満足そうに頷いた。
「ふむ。相も変わらずラグナ嬢は愛くるしい──ではなく、実はこういった依頼があってな」
言いながら、サクラさんは懐から一枚の紙を取り出し、テーブルの上にへと置く。彼女の言う通り、その紙は依頼書だった。
「『世界冒険者組合』から通された依頼だ」
「そ、そうなんですか。……え!?そうなんですか!?」
なんでもないかのようにサクラさんがそう言ったため、思わず流しかけたが、すんでのところで僕は彼女の発言を頭の中で反芻させ、その場から飛び跳ねかねない勢いで驚愕した。
当然ではあるが、依頼というものは依頼主が冒険者組合に発注することによって発生する。しかし、それはあくまでも一般人が、手頃な冒険者組合──例えば『大翼の不死鳥』がそれに当てはまる──に発注した、通常の依頼である。
だが『世界冒険者組合』となれば話は全く違ってくる。そもそも、一般人はおろか、下手な上流貴族では『世界冒険者組合』に対して依頼を発注することなど到底叶わないからだ。
『世界冒険者組合』。今この世界に現存する全ての冒険者組合の祖であり、またその全ての頂点。そんな冒険者組合に依頼を発注するとなると、あまりにも莫大な金がかかる。
理由は単純である。『世界冒険者組合』に所属する冒険者の質が、高過ぎるからだ。
この世界には、ある一つの番付が存在する。そしてその番付こそが、『世界冒険者組合』に加入するための条件であり、また唯一の方法。
その名も────冒険者番付表。
第一位から第五十位まで。選ばれるのは全《S》冒険者であり、チームとして選ばれるのが大半であり、《S》冒険者個人が選ばれるのは少ない。
この番付表に名を連ねることは冒険者にとってこれ以上の名誉はなく、たとえ最下位である五十位だとしても、番付外である《S》冒険者五十人よりも価値があると判断される。
この番付表は毎月刊行される冒険者にとって必須の情報誌、『冒険人生』に必ず掲載されており、刊行されるのと同時に更新される。しかし、順位が変わることはもちろん、新たな冒険者チームが番付入りすることは滅多にない。そして冒険者個人となると、数年に一度あるかないかというほどであり、その中でもここ十年間全く、一度も変動しない順位がある。
冒険者番付表第六位から第一位──通称、『六険』。
第六位────冒険者組合『緑緑の妖狐』所属、トゥトゥ=ニーパニーパ。
第五位────冒険者組合『流星の落涙』所属、エグゼ=ルキオン。
第四位────冒険者組合『大地の防人』所属、バルボル=ダンダリオ。
第三位────冒険者組合『燦然の煌洸』所属、リィン=ヴァーミリス。
第二位────冒険者組合『威光の熾天』GM、ルミナ=ゼニス=エインへリア。
第一位────冒険者組合無所属、レイヴン。
以下、六名。その全員が個人で活動する冒険者たちであり、現在存在する冒険者の中でも最高峰と謳われる者たちである。
とまあ、『六険』に関する説明はここまでにするとして。『六険』の誰もが『世界冒険者組合』には所属していないのだが、番付入りしている冒険者及びチームの五割は『世界冒険者組合』に所属している。つまり他の冒険者組合と比べても、その水準が圧倒的なまでに高いのだ。
番付入りの冒険者、チームへの依頼料は想像を絶するほどに高額であり、それを支払える存在はかなり限られてくる。少なくとも世界に名の知れた資産家、大企業の会長、もしくは────
「落ち着け、ウインドア。驚くはわかるが、みっともないぞ」
と、僕の思考をサクラさんがその一言で断ち切った。彼女に言われて、僕はいくらかの冷静さを取り戻す。
「す、すみません。つい……」
冷静さを取り戻し、僕はテーブルの上に広げられた依頼書に目を軽く通す。通して──取り戻した冷静さを、僕は再び欠くことになってしまった。
「ゴ、ゴーヴェッテン邸の探索及び調査……!?」
同時に、何故最初にサクラさんが『幽霊屋敷』に興味はあるかと訊いてきた理由がわかった。なるほど、そういうことか……。
思わず言葉を失う僕に、試すような口振りでサクラさんが言う。
「ああ。まあそれで、な……ラグナ嬢と──いや、ウインドア。君に提案があるんだが」
「……提案、ですか?」
サクラさんは頷いて、それからとんでもないことを僕に言ってきた。
「この依頼、私と同行しないか?」
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