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ARKADIA──それが人であるということ──

海に行こう──無人島with僕ら

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 目の前に広がる青い海と境界線を引く白い砂浜。下にある海と同じく真っ青に突き抜ける空にも、やはり砂浜のように白い大小の雲が点々と浮かんでいる。

 自然が織り成す均衡バランスの取れた、素晴らしく美しい、浮世離れした景色に、僕はただ圧倒される他ない。そんな中、隣に立つフィーリアさんが口を開く。

「どうですかこの景色。どうですかこの眺め。素晴らしいですよね?」

 そう言って、僕たち三人に顔を向け、見つめるフィーリアさん。絶え間なく内包する色を変える彼女の瞳が、キラキラとこれ以上になく得意げに輝いていた。

「は、はい。凄く綺麗ですよ……こんな景色、僕初めて見ました」

「ああ。ウインドアの言う通りだ。海と砂浜、空と雲──それら四つの要素全てが互いの美点を絶妙に高め合っている」

 フィーリアさんの言葉に同意し、目の前に広がる世界を絶賛する僕とサクラさんの二人。だが、残った一人は違った。

「…………」

 残った一人──先輩は、苦虫でも噛み潰したような表情を浮かべ、無言で海を見つめている。

 何故そんな反応なのかと僕が疑問に思っていると、僕とサクラさんの賞賛の言葉に見てわかるほど気を良くしたフィーリアさんが、これまた上機嫌な声で言う。

「さっすがはウインドアさんとサクラさんわかる~!黙っているブレイズさんのことは置いておくとして、実はここ私が暇潰しに世界オヴィーリス巡りしている最中に偶然見つけた無人島なんですよ」

「無人島……ですか」

 彼女の言葉に、僕は後ろを振り向く。僕たちの背後には鮮やかな青い海と白い砂浜とは打って変わって、鬱蒼とした森林が広がっており、恐らくこの無人島の中心部と思われる場所に、天を貫くほどに巨大な山があった。

 確かにフィーリアさんの言う通り、この島の自然に人の手が加えられた様子はないようで、僕たち四人以外の人間の気配がまるで感じられない。森林の上を飛び交う様々な鳥の姿を見ながら、僕はそう思う。

「では皆さん!自然に見惚れるのはここまでにして、早速着替えましょう!」

 着替え──その単語に、ビクッと僕の傍に立つ先輩が肩を跳ねさせる。それからゆっくりとフィーリアさんの方に────



「駄目ですよ?ブレイズさん」



 ────顔を向ける前に、彼女自身が先輩のすぐ目の前に立った。恐らく【転移】を使ったのだろう。

 まだ口も開いていなかったというのに、先輩に対してやけに和かな笑みを浮かべて、フィーリアさんはそう言う。そして顔を強張らせすぐさま口を開こうとした先輩の腕を掴み、また今朝と同じように一瞬にして先輩と共にその場から消え去った。

 時間にして僅か三十秒弱──残された僕とサクラさんは、ただ互いの顔を見合わせて。

「……私たちも着替えるとしよう」

「……そうですね」

 と、そんな風に言葉を交わすことしかできなかった。









 無人島──大雑把に言えば、海。そんな場所に来て着替えるものなど、一つしかない。

 水着、である。水場で遊ぶための服装。濡れても平気である格好。

「……」

 僕、クラハ=ウインドアは水着に着替え終えて、先ほどまでいた砂浜で先輩、サクラさん、フィーリアさんの三人を待っていた。

 無言になって、一定の間隔で押しては引いていく海の波を眺める。こちらの鼓膜を微弱に震わす波の音が心地良い。

 ──……水着。

 ただ一言、僕は心の中で呟く。次に脳裏を過ぎる、三人の姿。

 サクラさんもフィーリアさんも、女性。また先輩も今や女性。今この島に、僕を除いて男はいない。

 つまるところ──僕以外、全員が女の子。そして今この瞬間、彼女たちは各々の水着に着替えている……はず。

 僕とて男である。男であるからには、当然異性──女性に対して、そういう興味もある。

 男性はおろか、同性であるはずの女性までも虜にしてしまうほどの美貌主のサクラさん。そんな彼女と対極に位置する、幼くあどけない、思わず守りたくなってしまう愛らしさを誇るフィーリアさん。そしてその二人が持つ美麗さと可憐さを絶妙な加減で併せ持った、先輩。

 三人全員が、道行く人々を思わず振り返らせる容姿スペックであり、そんな三人のあられもない(ただしフィーリアさんは除く)水着姿を拝められるとなると……流石の僕も心を踊らせてしまう。が、肝心なことに気づいた。

 ──いや待てクラハ=ウインドア。一つ、見逃してはいけないことがあるぞ。

 見逃してはいけない点──なにを隠そう、それは先輩だ。込み入った事情で女の子になってしまっている先輩だが、元は立派な男だった訳で。男であるはずの先輩が女物の水着など絶対に持っている訳がなくて。だから今この場で先輩が己の水着姿を披露できる訳もなくて。

 しかし、突如として僕の思考に稲妻のような閃きが迸った。

 ──ああ、だから今朝フィーリアさんは先輩を連れてったのか。

 遡ること一ヶ月前、僕の冒険者ランカーとしての知名度を上げる要因となった依頼クエスト。詳しい話は省くが、『金色の街』と呼ばれる街ラディウスを舞台に、僕と先輩、そしてサクラさんとフィーリアさんの四人である男を捕まえた。

 その途中、色々あって僕たちは変装することになり、フィーリアさんが衣装を用意してくれたのだが、元は男といえど現在は女の子である先輩に彼女は一着のゴシックドレスを用意した。それはもう、素晴らしいデザインだった。

 そんなフィーリアさんがわざわざ早朝僕の家に訪れ、問答無用で先輩を連れ去ったとなれば、答えは一つ。恐らく彼女はゴシックドレスの時と同様、先輩に水着を用意したのだろう。

 ──……い、いやいや待て。だからと言って、先輩は着るのか?

 先輩にとって、女物の衣服を着ることは女装するのと同じことであり、普段着も女物ではあるがお世辞にもあまり女の子らしくはない。

 フィーリアさんに用意されたゴシックドレスを着ることもかなり嫌がったらしいようで、だが最終的には彼女に半ば脅さ……必死に頼み込まれ、先輩は渋々ゴシックドレスを着た。しかし今回は水着であり、着るとなればその難易度はゴシックドレスなど生温く思えるものだ。

 今回ばかりはいくらフィーリアさんが頼んでも、先輩は断固拒否するのでは──そう思った時だった。



「お待たせしましたー!」



 という、遠くからこちらに駆け寄るフィーリアさんの声が聞こえてきた。
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