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『極剣聖』と『天魔王』
DESIRE────二人の心の中
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『O.rsay』にて食事中だった僕たちを、突如襲った出来事。何があったのかは定かではないが、店員に暴力を振るう赤スーツと青スーツの男の二人組。
そんな彼らの非道を有無を言わせず止めたのは、サクラさんだった。先輩ならまだしも、本来ならば男の僕がすぐにでも止めに入るべきはずだったのに、あまりにも突然過ぎる事態に、呆気に取られて動けなかった。
サクラさんは、そんな僕なんかよりもずっと早く、行動に移っていた。先ほどまで椅子に座って、フィーリアさんと会話をしていたにも関わらず──気がついた時には、もう彼女は男たちの元にいた。
あくまでも平和的に事を収めようとするサクラさんに対して、男たちは野蛮極まりなく殺意剥き出しに殴りかかったが、その拳はサクラさんによって容易く受け止められた。
あまりにも理不尽に過ぎるその暴力に、しかしサクラさんはまだ平和的に事を収めようとした。だが、彼女に対して怒りを募らせた赤スーツの男は、己の懐から凶器を取り出した。
凶器──それは、この大陸独自の技術によって開発された、銃と呼ばれるもの。詳しい仕組みなどはわからないが、魔法も使うことなく鉄の塊を、音の速さで撃ち出すことのできるらしい。
魔物相手には少し心許ないと思うが、しかしそれが人間となれば話は変わってくる。魔物とは違って、僕たち人間の身体は柔く、脆い。そんな身体に、音の速さで鉄の塊など撃ち込まれれば、とてもじゃないが無事では済まない。
そんなものを赤スーツの男は取り出して、そしてなんの躊躇いもなくサクラさんに向けて、使った。まるで乾いた枝を折ったような音と共に、店内を一瞬の閃光が貫いた────だが、銃を以てしても、彼女を殺すことはできなかった。
「………ふぅ…なんか、疲れたな」
『Elizabeth』の寝台に寝っ転がり、僕は真っ白な天井を見上げる。染み一つとない純白の天井は、本当に綺麗だった。
流石は特等級宿泊部屋。気づくことがないだろう細部にまで、掃除が行き届いている。
──あの時のサクラさん、格好良かったなあ。
今でも鮮明に思い出せる。店員に対して理不尽な暴力を振るう悪漢を、誰に気づかれるでもなく即座に止めたサクラさんの姿。凛とした美貌も相まって、普段のあの様子からは想像もできないほどに雄々しかった。
──……って、女性に対してこう言うのもなんか変だな……。
しかし、あの時の彼女を評するのであれば、このような言葉が正しいだろう。事実、店にいた大半の女性が、それはもううっとりとした表情でサクラさんに熱い眼差しを注いでいたのだから。
まあそれはともかく。散乱した料理の残骸や割れてしまった皿の片付けや汚れてしまった床の掃除などを手伝い、僕たちは『O.rsay』を後にし、そのままホテルにへと戻ったのだった。
そうして今日は解散し、各々の部屋に向かった訳だ。
「………………はぁ」
歩き疲れた身体を、このような上質な寝台に沈ませているからか、急速に抗い難い睡魔に襲われる。
──まだ、だめだ……シャワーも、浴びて…ない、のに……。
そう思いはするのだが、しかしこの睡魔はあまりにも重い。瞬く間に、思考に靄がかかり始めてしまう。それと同時に瞼も開けていられなくなってしまう。
──…………あぁ、眠いなぁ………………。
浴室から聞こえてくる水音に鼓膜を僅かに震わされながら、唐突に僕の意識は途絶えた。
「出たぞクラハー……って、なんだ。寝ちまったのか」
わしゃわしゃと乱雑にバスタオルで髪を拭きながら、ラグナが浴室から出る。ちなみに一糸纏わぬあられもない全裸姿で。
髪の次に身体を拭きつつ、ラグナはクラハが大の字になって寝ている寝台にへと歩み寄る。
「…………ふーん」
よほど疲れているらしく、起き上がる様子はない。ラグナはじっと、クラハのその無防備な寝顔を眺める。
──意外と子供っぽいていうか……可愛い寝顔してんのな。
今思えば、こうしてクラハの寝顔を眺める機会などなかったとラグナは思う。思いながら、そのまま眺め続ける。だが何故か、次第に変な気分になってしまい、慌てて視線を逸らした。
──き、着替えよ……。
そう思い、しっとりとするバスタオルを椅子の背もたれにかけ、誤魔化すようにそそくさとホテルが用意した寝間着にラグナは着替えるのだった。
「よっと」
着替えを終えて、ラグナもまた寝台にへと横になる。ラグナもクラハと同じようにある程度の疲労を感じており、シャワーで温まったことも相まって、急激に瞼が重くなり始める。
「ふぁ…」
可愛らしい小さなあくびを漏らして、瞼を閉じる——寸前、不意にラグナはその手を寝台のサイドテーブルにへと伸ばす。
そこにあるのは、今日クラハが買ってくれた、あのリボン。それを手に取って、真上に掲げ眺める。
「…………」
正直、今でもわからない。何故こんなものに自分が惹かれてしまったのか。以前であったら、このようなリボンなど──女が好むようなものなど、欠片ほどの興味も示すことはなかったというのに。
以前、クラハにも話したことではあるが、最近自分が自分でなくなっている気がする。……いや、気がするのではなく、本当に────
「…………ああ、クソ」
リボンを戻して、隣の寝台に寝るクラハの姿をもう一度見やる。見やって、今朝のことを思い返す。
今日の自分は、どうもおかしかった。以前ならばどうとも思わなかったというのに、サクラと親しげにするクラハを見て──何故か、胸が締めつけられるような、苦々しい不快感にも似たなにかを抱いた。
あの時の自分は、怒っていたのかもしれない。ただ、それがクラハと親しげにするサクラに対してなのか、それとも彼女に言い寄られて満更でもない反応だったクラハに対してなのか──そもそも、何故こんなことで自分がこんな気分になっているのだろう。
…………まあ、それもクラハが買ってくれたリボンによって、いくらか紛れたが。
「……やっぱもう、違うんかな。俺」
そう呟きながら、クラハを眺める。そうして、以前彼がかけてくれた言葉を、ふと思い出した。
──この先、ずっと覚えてますから──
「………………俺がこうなってんの、お前のせいだかんな」
小声ながらにそう呟いて、ラグナは寝台から降りて──起こさぬように、クラハが寝る寝台にへと、乗り込んだ。
そんな彼らの非道を有無を言わせず止めたのは、サクラさんだった。先輩ならまだしも、本来ならば男の僕がすぐにでも止めに入るべきはずだったのに、あまりにも突然過ぎる事態に、呆気に取られて動けなかった。
サクラさんは、そんな僕なんかよりもずっと早く、行動に移っていた。先ほどまで椅子に座って、フィーリアさんと会話をしていたにも関わらず──気がついた時には、もう彼女は男たちの元にいた。
あくまでも平和的に事を収めようとするサクラさんに対して、男たちは野蛮極まりなく殺意剥き出しに殴りかかったが、その拳はサクラさんによって容易く受け止められた。
あまりにも理不尽に過ぎるその暴力に、しかしサクラさんはまだ平和的に事を収めようとした。だが、彼女に対して怒りを募らせた赤スーツの男は、己の懐から凶器を取り出した。
凶器──それは、この大陸独自の技術によって開発された、銃と呼ばれるもの。詳しい仕組みなどはわからないが、魔法も使うことなく鉄の塊を、音の速さで撃ち出すことのできるらしい。
魔物相手には少し心許ないと思うが、しかしそれが人間となれば話は変わってくる。魔物とは違って、僕たち人間の身体は柔く、脆い。そんな身体に、音の速さで鉄の塊など撃ち込まれれば、とてもじゃないが無事では済まない。
そんなものを赤スーツの男は取り出して、そしてなんの躊躇いもなくサクラさんに向けて、使った。まるで乾いた枝を折ったような音と共に、店内を一瞬の閃光が貫いた────だが、銃を以てしても、彼女を殺すことはできなかった。
「………ふぅ…なんか、疲れたな」
『Elizabeth』の寝台に寝っ転がり、僕は真っ白な天井を見上げる。染み一つとない純白の天井は、本当に綺麗だった。
流石は特等級宿泊部屋。気づくことがないだろう細部にまで、掃除が行き届いている。
──あの時のサクラさん、格好良かったなあ。
今でも鮮明に思い出せる。店員に対して理不尽な暴力を振るう悪漢を、誰に気づかれるでもなく即座に止めたサクラさんの姿。凛とした美貌も相まって、普段のあの様子からは想像もできないほどに雄々しかった。
──……って、女性に対してこう言うのもなんか変だな……。
しかし、あの時の彼女を評するのであれば、このような言葉が正しいだろう。事実、店にいた大半の女性が、それはもううっとりとした表情でサクラさんに熱い眼差しを注いでいたのだから。
まあそれはともかく。散乱した料理の残骸や割れてしまった皿の片付けや汚れてしまった床の掃除などを手伝い、僕たちは『O.rsay』を後にし、そのままホテルにへと戻ったのだった。
そうして今日は解散し、各々の部屋に向かった訳だ。
「………………はぁ」
歩き疲れた身体を、このような上質な寝台に沈ませているからか、急速に抗い難い睡魔に襲われる。
──まだ、だめだ……シャワーも、浴びて…ない、のに……。
そう思いはするのだが、しかしこの睡魔はあまりにも重い。瞬く間に、思考に靄がかかり始めてしまう。それと同時に瞼も開けていられなくなってしまう。
──…………あぁ、眠いなぁ………………。
浴室から聞こえてくる水音に鼓膜を僅かに震わされながら、唐突に僕の意識は途絶えた。
「出たぞクラハー……って、なんだ。寝ちまったのか」
わしゃわしゃと乱雑にバスタオルで髪を拭きながら、ラグナが浴室から出る。ちなみに一糸纏わぬあられもない全裸姿で。
髪の次に身体を拭きつつ、ラグナはクラハが大の字になって寝ている寝台にへと歩み寄る。
「…………ふーん」
よほど疲れているらしく、起き上がる様子はない。ラグナはじっと、クラハのその無防備な寝顔を眺める。
──意外と子供っぽいていうか……可愛い寝顔してんのな。
今思えば、こうしてクラハの寝顔を眺める機会などなかったとラグナは思う。思いながら、そのまま眺め続ける。だが何故か、次第に変な気分になってしまい、慌てて視線を逸らした。
──き、着替えよ……。
そう思い、しっとりとするバスタオルを椅子の背もたれにかけ、誤魔化すようにそそくさとホテルが用意した寝間着にラグナは着替えるのだった。
「よっと」
着替えを終えて、ラグナもまた寝台にへと横になる。ラグナもクラハと同じようにある程度の疲労を感じており、シャワーで温まったことも相まって、急激に瞼が重くなり始める。
「ふぁ…」
可愛らしい小さなあくびを漏らして、瞼を閉じる——寸前、不意にラグナはその手を寝台のサイドテーブルにへと伸ばす。
そこにあるのは、今日クラハが買ってくれた、あのリボン。それを手に取って、真上に掲げ眺める。
「…………」
正直、今でもわからない。何故こんなものに自分が惹かれてしまったのか。以前であったら、このようなリボンなど──女が好むようなものなど、欠片ほどの興味も示すことはなかったというのに。
以前、クラハにも話したことではあるが、最近自分が自分でなくなっている気がする。……いや、気がするのではなく、本当に────
「…………ああ、クソ」
リボンを戻して、隣の寝台に寝るクラハの姿をもう一度見やる。見やって、今朝のことを思い返す。
今日の自分は、どうもおかしかった。以前ならばどうとも思わなかったというのに、サクラと親しげにするクラハを見て──何故か、胸が締めつけられるような、苦々しい不快感にも似たなにかを抱いた。
あの時の自分は、怒っていたのかもしれない。ただ、それがクラハと親しげにするサクラに対してなのか、それとも彼女に言い寄られて満更でもない反応だったクラハに対してなのか──そもそも、何故こんなことで自分がこんな気分になっているのだろう。
…………まあ、それもクラハが買ってくれたリボンによって、いくらか紛れたが。
「……やっぱもう、違うんかな。俺」
そう呟きながら、クラハを眺める。そうして、以前彼がかけてくれた言葉を、ふと思い出した。
──この先、ずっと覚えてますから──
「………………俺がこうなってんの、お前のせいだかんな」
小声ながらにそう呟いて、ラグナは寝台から降りて──起こさぬように、クラハが寝る寝台にへと、乗り込んだ。
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