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『極剣聖』と『天魔王』
DESIRE────みなまで言わずとも
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「では、今日の成果をお互い出し合いましょうか」
日も沈み、僕らが知る姿にへと再びなったラディウス。豪奢絢爛の輝きに包まれる繁華街。早朝から昼間まででは軒並み閉まっていた数々の高級店も、昨日と同じように開かれており、物凄い賑わいに満ちている。
そんな高級店の内一つ。名は『O.rsay』。世界にその名を馳せる、有数の三ツ星飲食店。『食の都』フィマンテアに本店を構え、大陸各国に支店を並べ、無論このラディウスにもある。それがこの店なのだ。
そんな『O.rsay』の店内にて、僕や先輩、サクラさんとフィーリアさんは全員同じ席に集合し、座っていた。
まずは各々の空腹を高級料理を以て満たし、それから少しして唐突に、組んだ手の上に顎を乗せたフィーリアさんがそう言ったのだ。
「きょ、今日の成果……ですか」
「はい」
刻々と内包する色を変え続ける、フィーリアさんの神秘的とも、摩訶不思議的とも言えるその瞳に見つめられ、思わず僕は心臓の鼓動を早めてしまう。
……これを言ったら失礼になるのだろうが、別にフィーリアさんに対してそういう感情を抱いた訳ではない。どちらかといえば——『恐怖』に近いものである。
何故なら、情けないことに今日僕たちはなんの情報も得られなかった。つまり、成果など一つもありはしないのだ。
──どうしよう……。
じっとりと、冷や汗が滲み出し、背中を湿らせる。しかし悩んだところで僕に取れる選択肢など、一つしかない。
今僕の目の前に座る存在は『天魔王』と呼ばれ、その名を世界に轟かせ、畏れ多くも崇められている——と言っても過言ではない、《SS》冒険者の一人。僕のような吹けば飛ぶ、凡人の塊が吐《つ》くような嘘など一発で見抜かれることだろう。
──……もう、ここは正直に白状するしかない……。
下手に嘘など吐いてしまえば、僕の人生がここで終わるかもしれない。こんな煌びやかな飲食店で最期など迎えたくない。
覚悟を決め、僕が口を開く──直前、
スッ──そっと静かに。そして優しげに。フィーリアさんが己の手のひらを僕の眼前にへと突きつけた。
「いいんです。みなまで言わずとも、このフィーリア、全てわかっています」
「え……?」
困惑する僕を置いて、瞳を閉じたフィーリアさんが続ける。
「自分を責める必要はありませんよウインドアさん。相手は一応裏社会の住人。組織の頭領です。ですから、有益な情報など掴めなくても当然。しかもたったの一日しかなかったのですから尚更ですよ」
「は、はあ……そ、そうですね……?」
ふふんと胸を──口が裂けても言えないが、控えめである──張って、得意げな表情を浮かべる彼女に対し、僕はひたすら困惑の眼差しを送ることしかできない。
えっと……つまり、だ。フィーリアさんは最初から僕と先輩がギルザ=ヴェディスに関する情報を集められないとわかっていた、ということ。そしてそれを気に病むことはないと、彼女は僕を励ましてくれたのか……?
──…………よ、よくわからない人だな……。
なにはともあれ、僕たちの収穫がないことを、この人は咎めるつもりはないらしい。思わず安堵してしまうが、しかし……それでいいのだろうか?
「そ・れ・に」
一言一句強めて、なにやら意味深な笑みを浮かべつつ、フィーリアさんが言う。
「ブレイズさんを見れば、お二人がどのようにして今日を過ごしたのか……大体は想像できますし、ね?」
言いながら、トントンとフィーリアさんは己の指先で自らの頭を軽く突いた。
最初こそその発言の意味がわからず、僕は戸惑いながらも、食後の洋菓子を、実に幸せそうに味わう先輩の方を見やって──それからあっ、と気づいた。
──リ、リボン……!
「え、えっと、これはその」
みっともなく取り乱す僕に対して、フィーリアさんはまるで小動物を眺めるかのような微笑ましい表情になって、それはもう柔らかな声音で告げられた。
「式には呼んでくださいね?」
「じょ、冗談は笑えるものにしてください!お願いします!」
堪らず叫んでしまった僕から顔を逸らして、次に彼女はサクラさんの方にへと向ける。
「まあそれはそれとして。あなたはどうなんですか?サクラさん」
「…ん?私か?」
フィーリアさんに尋ねられ、サクラさんが口を開く。少し間を置いて、それから彼女は言う。
「私は──」
ガシャーンッ──しかし、その言葉は突如として店内に響き渡った破砕音によって、遮られてしまった。
日も沈み、僕らが知る姿にへと再びなったラディウス。豪奢絢爛の輝きに包まれる繁華街。早朝から昼間まででは軒並み閉まっていた数々の高級店も、昨日と同じように開かれており、物凄い賑わいに満ちている。
そんな高級店の内一つ。名は『O.rsay』。世界にその名を馳せる、有数の三ツ星飲食店。『食の都』フィマンテアに本店を構え、大陸各国に支店を並べ、無論このラディウスにもある。それがこの店なのだ。
そんな『O.rsay』の店内にて、僕や先輩、サクラさんとフィーリアさんは全員同じ席に集合し、座っていた。
まずは各々の空腹を高級料理を以て満たし、それから少しして唐突に、組んだ手の上に顎を乗せたフィーリアさんがそう言ったのだ。
「きょ、今日の成果……ですか」
「はい」
刻々と内包する色を変え続ける、フィーリアさんの神秘的とも、摩訶不思議的とも言えるその瞳に見つめられ、思わず僕は心臓の鼓動を早めてしまう。
……これを言ったら失礼になるのだろうが、別にフィーリアさんに対してそういう感情を抱いた訳ではない。どちらかといえば——『恐怖』に近いものである。
何故なら、情けないことに今日僕たちはなんの情報も得られなかった。つまり、成果など一つもありはしないのだ。
──どうしよう……。
じっとりと、冷や汗が滲み出し、背中を湿らせる。しかし悩んだところで僕に取れる選択肢など、一つしかない。
今僕の目の前に座る存在は『天魔王』と呼ばれ、その名を世界に轟かせ、畏れ多くも崇められている——と言っても過言ではない、《SS》冒険者の一人。僕のような吹けば飛ぶ、凡人の塊が吐《つ》くような嘘など一発で見抜かれることだろう。
──……もう、ここは正直に白状するしかない……。
下手に嘘など吐いてしまえば、僕の人生がここで終わるかもしれない。こんな煌びやかな飲食店で最期など迎えたくない。
覚悟を決め、僕が口を開く──直前、
スッ──そっと静かに。そして優しげに。フィーリアさんが己の手のひらを僕の眼前にへと突きつけた。
「いいんです。みなまで言わずとも、このフィーリア、全てわかっています」
「え……?」
困惑する僕を置いて、瞳を閉じたフィーリアさんが続ける。
「自分を責める必要はありませんよウインドアさん。相手は一応裏社会の住人。組織の頭領です。ですから、有益な情報など掴めなくても当然。しかもたったの一日しかなかったのですから尚更ですよ」
「は、はあ……そ、そうですね……?」
ふふんと胸を──口が裂けても言えないが、控えめである──張って、得意げな表情を浮かべる彼女に対し、僕はひたすら困惑の眼差しを送ることしかできない。
えっと……つまり、だ。フィーリアさんは最初から僕と先輩がギルザ=ヴェディスに関する情報を集められないとわかっていた、ということ。そしてそれを気に病むことはないと、彼女は僕を励ましてくれたのか……?
──…………よ、よくわからない人だな……。
なにはともあれ、僕たちの収穫がないことを、この人は咎めるつもりはないらしい。思わず安堵してしまうが、しかし……それでいいのだろうか?
「そ・れ・に」
一言一句強めて、なにやら意味深な笑みを浮かべつつ、フィーリアさんが言う。
「ブレイズさんを見れば、お二人がどのようにして今日を過ごしたのか……大体は想像できますし、ね?」
言いながら、トントンとフィーリアさんは己の指先で自らの頭を軽く突いた。
最初こそその発言の意味がわからず、僕は戸惑いながらも、食後の洋菓子を、実に幸せそうに味わう先輩の方を見やって──それからあっ、と気づいた。
──リ、リボン……!
「え、えっと、これはその」
みっともなく取り乱す僕に対して、フィーリアさんはまるで小動物を眺めるかのような微笑ましい表情になって、それはもう柔らかな声音で告げられた。
「式には呼んでくださいね?」
「じょ、冗談は笑えるものにしてください!お願いします!」
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「まあそれはそれとして。あなたはどうなんですか?サクラさん」
「…ん?私か?」
フィーリアさんに尋ねられ、サクラさんが口を開く。少し間を置いて、それから彼女は言う。
「私は──」
ガシャーンッ──しかし、その言葉は突如として店内に響き渡った破砕音によって、遮られてしまった。
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