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『極剣聖』と『天魔王』
DESIRE————『金色の街』ラディウス
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「——ろ!おい起きろ、クラハ!」
「…ぇ?」
突如こちらの鼓膜を思い切り叩くその声に、僕はいつの間にか閉じていた瞼を開く。
目の前では——先輩が、僕の顔を覗き込んでいた。
「せん……ぱい?」
まだ安定しない、朦朧とする意識の中で、僕がそう呼ぶと、呆れたように眼前に立つ先輩はため息を吐く。
「いつまで寝てんだこの野郎。もうすぐ着くぞ」
「着く……?」
ん、と。先輩が窓の方に顎を向ける。それにつられて僕も窓の方へ顔を向けると——既に、青かった空は黒くなっていた。
黒くなってはいたが————輝いていた。
「………お、おお……これは…」
地上から、燦然とした眩い光が、数十本の柱となって、遥か上の黒空を貫いている。そのあまりの輝きに、元から浮かんでいた星たちが、残らずその光に呑み込まれてしまっていた。
——これが、噂に聞くあの……!
今までの人生の中で、一度も見たことがないその景色に、僕は年甲斐もなく興奮してしまう。それほどに、窓の外に広がる『そこ』は、目を惹かれてしまうものだった。
「ほら、さっさと準備しようぜ準備」
言葉も出せず、彼方のその輝きに意識を占領されてしまっている僕に、旅行鞄の中身を整理しながら先輩がそう言ってくる。
「は、はい!」
慌てて椅子から立ち上がり、僕も自分の旅行鞄の元に歩み寄る。……準備と言っても、大した量は入っていないのだが。
「……そういえば先輩。サクラさんとフィーリアさんは……?」
「あいつらならもうとっくに準備し終わって、すぐ降りられるようになってる」
「あ、はい」
若干の申し訳なさが心の中に滲み出てくる。まさか少し考え事に集中していただけで、眠ってしまったとは……この列車での生活は、予想以上に僕の体力を削り取ったらしい。
だがまあ、三日間なにもトラブルが発生することなく、こうして無事に着くことができた。
「…………」
もう一度、窓の外を見やる。依然としてその場所は——その街は、夜を照らしていた。
人は、その街をこう呼ぶ。
『金色の街』————ラディウス、と。
「…………うっわぁ」
ドン引きするような、フィーリアさんの声。
「これは、中々に……凄まじいな……」
珍しく、狼狽えるようなサクラさんの声。
無理もなかった。このホームの内装を見れば、誰だってそうなるだろう。僕なんか、呻き声一つすら絞り出せない。
輝いていた。視界の隅から隅まで——その全てが、輝いていた。
「……きんぴかだ……」
先輩が呆けるようにしてそう呟く。その呟きの通り、今僕たちが立つこのホームは、三百六十度——何処を見渡しても、金がある。
足元も。壁も。天井も。光り輝く、黄金が敷き詰められている。
それだけではなく、至る場所に様々な魔物を象った黄金の像やらが置かれてあり、天井には無数のシャンデリアが吊り下げられている。
窓の方も全面硝子張りになっており、外からこのホーム内の様子が丸見えであった。そしてこちらからも街の様子の一部を覗けてしまう。
一部——そのはずなのに、それだけでもこの街が一体どういう場所なのか、十二分にわかってしまう。
——ラディウス……噂には聞いてたけど、まさかここまでとは……!
セトニ大陸で随一の富裕国。この大陸の富は、全てこの街に集結するとまでも言われているらしいが……確かに、この光景を目の前にすれば、それも頷ける。
もう夜だというのに、恐らく昼間以上に賑わっているだろう街並み。そして太陽よりも照らしている無数の灯り。
——川だ、人の川が流れてる……。
圧倒され、硬直したまま動けないでいる僕たちの左右を、列車から降りた乗客たちが次々と通り過ぎていく。
「……い、行きましょうか」
数分経って、ようやく声を絞り出すことができた僕に、他の三人はこくこくと、ぎこちなくもそう頷いた。
「…ぇ?」
突如こちらの鼓膜を思い切り叩くその声に、僕はいつの間にか閉じていた瞼を開く。
目の前では——先輩が、僕の顔を覗き込んでいた。
「せん……ぱい?」
まだ安定しない、朦朧とする意識の中で、僕がそう呼ぶと、呆れたように眼前に立つ先輩はため息を吐く。
「いつまで寝てんだこの野郎。もうすぐ着くぞ」
「着く……?」
ん、と。先輩が窓の方に顎を向ける。それにつられて僕も窓の方へ顔を向けると——既に、青かった空は黒くなっていた。
黒くなってはいたが————輝いていた。
「………お、おお……これは…」
地上から、燦然とした眩い光が、数十本の柱となって、遥か上の黒空を貫いている。そのあまりの輝きに、元から浮かんでいた星たちが、残らずその光に呑み込まれてしまっていた。
——これが、噂に聞くあの……!
今までの人生の中で、一度も見たことがないその景色に、僕は年甲斐もなく興奮してしまう。それほどに、窓の外に広がる『そこ』は、目を惹かれてしまうものだった。
「ほら、さっさと準備しようぜ準備」
言葉も出せず、彼方のその輝きに意識を占領されてしまっている僕に、旅行鞄の中身を整理しながら先輩がそう言ってくる。
「は、はい!」
慌てて椅子から立ち上がり、僕も自分の旅行鞄の元に歩み寄る。……準備と言っても、大した量は入っていないのだが。
「……そういえば先輩。サクラさんとフィーリアさんは……?」
「あいつらならもうとっくに準備し終わって、すぐ降りられるようになってる」
「あ、はい」
若干の申し訳なさが心の中に滲み出てくる。まさか少し考え事に集中していただけで、眠ってしまったとは……この列車での生活は、予想以上に僕の体力を削り取ったらしい。
だがまあ、三日間なにもトラブルが発生することなく、こうして無事に着くことができた。
「…………」
もう一度、窓の外を見やる。依然としてその場所は——その街は、夜を照らしていた。
人は、その街をこう呼ぶ。
『金色の街』————ラディウス、と。
「…………うっわぁ」
ドン引きするような、フィーリアさんの声。
「これは、中々に……凄まじいな……」
珍しく、狼狽えるようなサクラさんの声。
無理もなかった。このホームの内装を見れば、誰だってそうなるだろう。僕なんか、呻き声一つすら絞り出せない。
輝いていた。視界の隅から隅まで——その全てが、輝いていた。
「……きんぴかだ……」
先輩が呆けるようにしてそう呟く。その呟きの通り、今僕たちが立つこのホームは、三百六十度——何処を見渡しても、金がある。
足元も。壁も。天井も。光り輝く、黄金が敷き詰められている。
それだけではなく、至る場所に様々な魔物を象った黄金の像やらが置かれてあり、天井には無数のシャンデリアが吊り下げられている。
窓の方も全面硝子張りになっており、外からこのホーム内の様子が丸見えであった。そしてこちらからも街の様子の一部を覗けてしまう。
一部——そのはずなのに、それだけでもこの街が一体どういう場所なのか、十二分にわかってしまう。
——ラディウス……噂には聞いてたけど、まさかここまでとは……!
セトニ大陸で随一の富裕国。この大陸の富は、全てこの街に集結するとまでも言われているらしいが……確かに、この光景を目の前にすれば、それも頷ける。
もう夜だというのに、恐らく昼間以上に賑わっているだろう街並み。そして太陽よりも照らしている無数の灯り。
——川だ、人の川が流れてる……。
圧倒され、硬直したまま動けないでいる僕たちの左右を、列車から降りた乗客たちが次々と通り過ぎていく。
「……い、行きましょうか」
数分経って、ようやく声を絞り出すことができた僕に、他の三人はこくこくと、ぎこちなくもそう頷いた。
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