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『極剣聖』と『天魔王』

伝説のスライムを探せ(前編)

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「でしたら——勝負、しませんか?」

 不敵に口の端を吊り上げて、『天魔王フィーリアさん』は僕たちにそう言った。

「しょ、勝負……ですか?」

「はい。勝負です」

 困惑する僕に、何故か自信げな笑みを浮かべて、フィーリアさんは続ける。

「内容は至って簡単。この中で一体誰が先にそのスライムを見つけられるか、です」

「え、えっーと……」

 ふふんと(少々控えめな)胸を張り上げるフィーリアさんに、僕はすぐに返事ができなかった。急に勝負と言われても、困る。

 ——勝負とか興味ないんだけどなあ……。

 かといって、スライム探しに付き合ってもらっている身、無下に断るのも憚れてしまう。

 どうしたものかと、僕が言葉に詰まっていると——



「ふむ、面白い。その勝負受けて立とう『天魔王』フィーリア=レリウ=クロミア」

「俺も!ただ探すだけじゃあつまんねえもんな」



 ——先輩とサクラさんがその提案を呑んでしまった。

「ありがとうございます。では、ウインドアさんは?」

 言いながら、フィーリアさんが妙に期待を込めた眼差しを僕に送ってくる。……もう、無下にとか関係なく、断れる雰囲気ではない。

 ——まあ、別にいいか……。

 半ば諦めたように僕は心の中で呟いて、

「わかりました。僕もその勝負、乗りますよ」

 そう、返すのだった。僕の返事を受けて、フィーリアはその顔に笑顔を咲かせる。

「流石ウインドアさん話がわかる~!じゃあスライムを最初に発見できなかった人は、発見した人に今夜『大食らいグラトニー』で奢ってくださいね!」

 ……そんな、余計な一言も加えて。













「さてさて」

 ウインドアらと分かれ、林の中で独りフィーリアはほくそ笑む。その理由は至極簡単——このスライム探しという勝負に、己の勝利を確信しているからである。

「サクラさんやウインドアさんたちには悪いですけど、勝負ですから、ね」

 呟きながら、彼女は腕を振り上げた。

召喚カモン!」

 瞬間、フィーリアの声に続くようにして彼女の足元に紫に禍々しく輝く魔法陣が描かれ、滑るようにして前方にへと移動する。

 そして数秒遅れて——



「お呼びでしょうか、御主人様マイマスター



 ——燕尾服を身に纏った、黒髪の青年が現れた。こちらに跪く青年に対して、フィーリアが言う。

従魔ヴァルヴァルス。今からあなたに仕事を与えます」

かしこまりました。……それで、わたくしはなにをすればよいのでしょうか?御主人様」

 そう返し、我が主人の言葉を待つ青年——従魔に、さも当然のようにフィーリアはその仕事とやらの内容を話した。

「スライムを探してきてください」

 ……その場に、数秒の沈黙が流れた。一瞬の静寂を挟んで、彼女の言葉を受けた従魔が口を開く。

「ス、スライムを……ですか?」

「はい。スライムです」

 従魔はなんとも言えない表情になりながらも、ややぎこちなくその言葉に頷いた。

「畏まりました……ちなみに、スライムといってもどのようなスライムを御所望なのでしょうか?」

 彼に尋ねられたフィーリアは、少し考えるように黙って、それから口を開いた。

「七色に輝く、なんか凄そうなスライムをお願いします」

「……………………」

 依然なんとも言えない表情のまま、従魔は両腕を広げる。

「御主人様の総ての意のままに——出でよ、我が使い魔たち」

 心なしか疲れているような従魔のその呟きに、応えるようにして彼の足元から伸びていた影が枝分かれし、一つ一つ分裂していく。

 分裂した影の破片は、地面から浮き上がり——そして数羽の鴉となった。その鴉たちに、従魔は告げる。

「ここ周囲を捜索し、七色に輝くスライムを探し出せ」

 従魔の言葉に、鴉たちは鳴いて空にへと飛び立っていく。その様を見送り、従魔は再びフィーリアの方にへと向き直った。

「どの程度時間がかかるかはわかり兼ねますが、必ずや御主人様の求めるそのスライムを探し出してみせましょう」

「ええ。期待してますよ、従魔」













 フィーリアやウインドアとラグナの二人と分かれ、サクラもまた林の中に独り立っていた。

 周囲に生える木々を眺めて、数秒。



 キンッ——その場に、小さく、けれど何処までも鋭く澄んだ音が響いた。



 少し遅れて、彼女から数歩離れた木の枝が、ゆっくりと地面にへと落下する。それをサクラは、地面から拾い上げた。

「ふむ」

 手に取ったその木の枝を、じっくりと観察し——なにを思ったか、真っ直ぐに地面に突き立てた。

「…………」

 無言になって、木の枝を見つめるサクラ。すると、しばらくしてその木の枝は微かに揺れ始めたかと思うと——静かに、若干右に向きながら倒れた。

 その先に視線をやって、サクラは呟く。

「そこ、だな」

 そうして、彼女はまた歩き出すのだった。
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