上 下
253 / 440
『極剣聖』と『天魔王』

伝説のスライムを探せ(前編)

しおりを挟む
「でしたら——勝負、しませんか?」

 不敵に口の端を吊り上げて、『天魔王フィーリアさん』は僕たちにそう言った。

「しょ、勝負……ですか?」

「はい。勝負です」

 困惑する僕に、何故か自信げな笑みを浮かべて、フィーリアさんは続ける。

「内容は至って簡単。この中で一体誰が先にそのスライムを見つけられるか、です」

「え、えっーと……」

 ふふんと(少々控えめな)胸を張り上げるフィーリアさんに、僕はすぐに返事ができなかった。急に勝負と言われても、困る。

 ——勝負とか興味ないんだけどなあ……。

 かといって、スライム探しに付き合ってもらっている身、無下に断るのも憚れてしまう。

 どうしたものかと、僕が言葉に詰まっていると——



「ふむ、面白い。その勝負受けて立とう『天魔王』フィーリア=レリウ=クロミア」

「俺も!ただ探すだけじゃあつまんねえもんな」



 ——先輩とサクラさんがその提案を呑んでしまった。

「ありがとうございます。では、ウインドアさんは?」

 言いながら、フィーリアさんが妙に期待を込めた眼差しを僕に送ってくる。……もう、無下にとか関係なく、断れる雰囲気ではない。

 ——まあ、別にいいか……。

 半ば諦めたように僕は心の中で呟いて、

「わかりました。僕もその勝負、乗りますよ」

 そう、返すのだった。僕の返事を受けて、フィーリアはその顔に笑顔を咲かせる。

「流石ウインドアさん話がわかる~!じゃあスライムを最初に発見できなかった人は、発見した人に今夜『大食らいグラトニー』で奢ってくださいね!」

 ……そんな、余計な一言も加えて。













「さてさて」

 ウインドアらと分かれ、林の中で独りフィーリアはほくそ笑む。その理由は至極簡単——このスライム探しという勝負に、己の勝利を確信しているからである。

「サクラさんやウインドアさんたちには悪いですけど、勝負ですから、ね」

 呟きながら、彼女は腕を振り上げた。

召喚カモン!」

 瞬間、フィーリアの声に続くようにして彼女の足元に紫に禍々しく輝く魔法陣が描かれ、滑るようにして前方にへと移動する。

 そして数秒遅れて——



「お呼びでしょうか、御主人様マイマスター



 ——燕尾服を身に纏った、黒髪の青年が現れた。こちらに跪く青年に対して、フィーリアが言う。

従魔ヴァルヴァルス。今からあなたに仕事を与えます」

かしこまりました。……それで、わたくしはなにをすればよいのでしょうか?御主人様」

 そう返し、我が主人の言葉を待つ青年——従魔に、さも当然のようにフィーリアはその仕事とやらの内容を話した。

「スライムを探してきてください」

 ……その場に、数秒の沈黙が流れた。一瞬の静寂を挟んで、彼女の言葉を受けた従魔が口を開く。

「ス、スライムを……ですか?」

「はい。スライムです」

 従魔はなんとも言えない表情になりながらも、ややぎこちなくその言葉に頷いた。

「畏まりました……ちなみに、スライムといってもどのようなスライムを御所望なのでしょうか?」

 彼に尋ねられたフィーリアは、少し考えるように黙って、それから口を開いた。

「七色に輝く、なんか凄そうなスライムをお願いします」

「……………………」

 依然なんとも言えない表情のまま、従魔は両腕を広げる。

「御主人様の総ての意のままに——出でよ、我が使い魔たち」

 心なしか疲れているような従魔のその呟きに、応えるようにして彼の足元から伸びていた影が枝分かれし、一つ一つ分裂していく。

 分裂した影の破片は、地面から浮き上がり——そして数羽の鴉となった。その鴉たちに、従魔は告げる。

「ここ周囲を捜索し、七色に輝くスライムを探し出せ」

 従魔の言葉に、鴉たちは鳴いて空にへと飛び立っていく。その様を見送り、従魔は再びフィーリアの方にへと向き直った。

「どの程度時間がかかるかはわかり兼ねますが、必ずや御主人様の求めるそのスライムを探し出してみせましょう」

「ええ。期待してますよ、従魔」













 フィーリアやウインドアとラグナの二人と分かれ、サクラもまた林の中に独り立っていた。

 周囲に生える木々を眺めて、数秒。



 キンッ——その場に、小さく、けれど何処までも鋭く澄んだ音が響いた。



 少し遅れて、彼女から数歩離れた木の枝が、ゆっくりと地面にへと落下する。それをサクラは、地面から拾い上げた。

「ふむ」

 手に取ったその木の枝を、じっくりと観察し——なにを思ったか、真っ直ぐに地面に突き立てた。

「…………」

 無言になって、木の枝を見つめるサクラ。すると、しばらくしてその木の枝は微かに揺れ始めたかと思うと——静かに、若干右に向きながら倒れた。

 その先に視線をやって、サクラは呟く。

「そこ、だな」

 そうして、彼女はまた歩き出すのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

処理中です...