251 / 440
『極剣聖』と『天魔王』
先輩の『あの』日——おんなのこはやわらかい
しおりを挟む
日常と変わらない朝。今日も今日とて暇を持て余していた人族最強の一角——《SS》冒険者、『極剣聖』サクラ=アザミヤはこの街の冒険者組合『大翼の不死鳥』にへと訪れていた。
理由は至極単純——暇だから。
——なにか、手応えを感じられる依頼はないものか……。
《E》ランクから、《S》ランクまでの、様々な依頼書が貼られた看板を眺めて、彼女はそう思う。
——結局『灰燼』は一秒も相手にならなかった。強過ぎるというのも、少し考えものだな。
想起される先日の記憶。遠方の火山を根城にしていた『灰燼』フレイソル=クロナガンド——〝絶滅級〟という、一応最高の危険度を誇る二つ名持ちの年経た火竜だったが……ほんの肩慣らしのつもりで軽く刀を振っただけで、かの火竜は僅かな抵抗もなく真っ二つに両断され、絶命した。
——全く、〝絶滅級〟などという肩書きは当てにならんな。
Lv100の彼女からすれば、〝絶滅級〟も〝微有害級〟も大して変わらない。それが、人としてのある種の極致に至った存在の認識であった。
そしてそれは、サクラ=アザミヤに限定されていることではない。
「おはようございます、サクラさん」
「む、フィーリアか。おはよう」
看板を眺めていたサクラの背後から、そう声をかけたのは、真白のローブに身を包んだ、それと全く同じ色をした髪の少女。
その少女こそ、今ではサクラのその苦悩を唯一共感し、共有できる存在——もう一人の《SS》冒険者、『天魔王』フィーリア=レリウ=クロミアである。
サクラの隣に立ち、彼女もまた看板を見上げる。
「……なにか、楽しそうな依頼ありました?」
「……残念ながら、ないな」
はあ、と。《SS》冒険者二人はため息を吐く。それは何処までも深く、虚無めいたため息だった。
「あ、そういえば」
不意にフィーリアが声を上げる。
「結局、大丈夫だったんですかね?……ブレイズさん」
「ラグナ嬢か。確かに、今彼女はどうしているのだろうな……」
彼女たちは三日ほど前の記憶を掘り起こす。一人の、赤髪の少女の姿を。
その少女の名は、ラグナ=アルティ=ブレイズ。………以前までは、サクラとフィーリアの苦悩を理解でき得ただろう、最後の《SS》冒険者。
しかし今では、まあ……複雑な事情(本人談)というか、数々の不幸(本人談)というか……そういう色々なことが積み重なって、現在では100だったLvは5に、しかも男だった(本人談)はずなのに誰もが認める美少女にへと変わり果ててしまった。
——まあ私としては全く構わないのだが。むしろ女になってくれてありがたいのだが。
「まあ、女性には切っても切れない問題ですからねえ………『あの』日は」
「ああ、切っても切れんな………『あの』日は」
うんうんと、二人が頷き合っている——その時だった。
「いっよーうっ!」
バンッ——まるで元気そのものというような声と共に、勢いよく冒険者組合の扉が開け放たれ、赤髪を揺らした一人の少女が飛び込んできた。
「俺、復活!」
誰もが目を向けると、そこには件の少女——元男で元《SS》冒険者、『炎鬼神』ラグナ=アルティ=ブレイズの姿があった。
そして、その後ろには。
「…………おはよう、ございます」
…………一体なにがあったのか、三日前とは似ても似つかないほどに、憔悴し切った『大翼の不死鳥』所属の《S》冒険者にして、ラグナの後輩でもあるクラハ=ウインドアの姿もあった。
元気よく冒険者組合のロビーに飛び込んだラグナに、まるで生気を感じさせない足取りでクラハが続く。
「ちょ……ど、どうしたんですかウインドアさん?なんでそんな状態に……?」
一睡もしていないのか、目の下に相当濃い隈を作っているウインドアの様子を見兼ねて、慌てて彼の元にフィーリアは向かう。
「い、今にでも倒れそうだな……」
そしてサクラもそこで看板を見るのを止めて、彼女と同じくウインドアの元に歩み寄った。
「よっ。久しぶりだな、サクラ。フィーリア」
「……お久しぶり、です。サクラさん、フィーリアさん」
まるで向日葵が咲いたような、燦々と眩しい満天の笑顔のラグナと、この世界の全てという全てに、疲れ果ててしまったような、力ない乾いた笑みを浮かべるクラハ。
対照的な二人の様子に、サクラとフィーリアはただ困惑することしかできない。
すると、フッとまるでなにかを悟ったように乾いた笑みを零しながら、そんな《SS》冒険者二人にクラハは告げる。
「……この三日間で、わかりましたよ」
一体なにがわかったというのか——明らかに普通ではないクラハのその様子に、サクラとフィーリアは気圧されていた。
そして、クラハはその続きを話す。
「女の子って……柔らかいんですね……はは」
…………そのクラハの言葉には、まるで三日三晩の死闘を潜り抜け、その末にこの世界の真理の一部を垣間見たかのような、漢の重みがあった。
理由は至極単純——暇だから。
——なにか、手応えを感じられる依頼はないものか……。
《E》ランクから、《S》ランクまでの、様々な依頼書が貼られた看板を眺めて、彼女はそう思う。
——結局『灰燼』は一秒も相手にならなかった。強過ぎるというのも、少し考えものだな。
想起される先日の記憶。遠方の火山を根城にしていた『灰燼』フレイソル=クロナガンド——〝絶滅級〟という、一応最高の危険度を誇る二つ名持ちの年経た火竜だったが……ほんの肩慣らしのつもりで軽く刀を振っただけで、かの火竜は僅かな抵抗もなく真っ二つに両断され、絶命した。
——全く、〝絶滅級〟などという肩書きは当てにならんな。
Lv100の彼女からすれば、〝絶滅級〟も〝微有害級〟も大して変わらない。それが、人としてのある種の極致に至った存在の認識であった。
そしてそれは、サクラ=アザミヤに限定されていることではない。
「おはようございます、サクラさん」
「む、フィーリアか。おはよう」
看板を眺めていたサクラの背後から、そう声をかけたのは、真白のローブに身を包んだ、それと全く同じ色をした髪の少女。
その少女こそ、今ではサクラのその苦悩を唯一共感し、共有できる存在——もう一人の《SS》冒険者、『天魔王』フィーリア=レリウ=クロミアである。
サクラの隣に立ち、彼女もまた看板を見上げる。
「……なにか、楽しそうな依頼ありました?」
「……残念ながら、ないな」
はあ、と。《SS》冒険者二人はため息を吐く。それは何処までも深く、虚無めいたため息だった。
「あ、そういえば」
不意にフィーリアが声を上げる。
「結局、大丈夫だったんですかね?……ブレイズさん」
「ラグナ嬢か。確かに、今彼女はどうしているのだろうな……」
彼女たちは三日ほど前の記憶を掘り起こす。一人の、赤髪の少女の姿を。
その少女の名は、ラグナ=アルティ=ブレイズ。………以前までは、サクラとフィーリアの苦悩を理解でき得ただろう、最後の《SS》冒険者。
しかし今では、まあ……複雑な事情(本人談)というか、数々の不幸(本人談)というか……そういう色々なことが積み重なって、現在では100だったLvは5に、しかも男だった(本人談)はずなのに誰もが認める美少女にへと変わり果ててしまった。
——まあ私としては全く構わないのだが。むしろ女になってくれてありがたいのだが。
「まあ、女性には切っても切れない問題ですからねえ………『あの』日は」
「ああ、切っても切れんな………『あの』日は」
うんうんと、二人が頷き合っている——その時だった。
「いっよーうっ!」
バンッ——まるで元気そのものというような声と共に、勢いよく冒険者組合の扉が開け放たれ、赤髪を揺らした一人の少女が飛び込んできた。
「俺、復活!」
誰もが目を向けると、そこには件の少女——元男で元《SS》冒険者、『炎鬼神』ラグナ=アルティ=ブレイズの姿があった。
そして、その後ろには。
「…………おはよう、ございます」
…………一体なにがあったのか、三日前とは似ても似つかないほどに、憔悴し切った『大翼の不死鳥』所属の《S》冒険者にして、ラグナの後輩でもあるクラハ=ウインドアの姿もあった。
元気よく冒険者組合のロビーに飛び込んだラグナに、まるで生気を感じさせない足取りでクラハが続く。
「ちょ……ど、どうしたんですかウインドアさん?なんでそんな状態に……?」
一睡もしていないのか、目の下に相当濃い隈を作っているウインドアの様子を見兼ねて、慌てて彼の元にフィーリアは向かう。
「い、今にでも倒れそうだな……」
そしてサクラもそこで看板を見るのを止めて、彼女と同じくウインドアの元に歩み寄った。
「よっ。久しぶりだな、サクラ。フィーリア」
「……お久しぶり、です。サクラさん、フィーリアさん」
まるで向日葵が咲いたような、燦々と眩しい満天の笑顔のラグナと、この世界の全てという全てに、疲れ果ててしまったような、力ない乾いた笑みを浮かべるクラハ。
対照的な二人の様子に、サクラとフィーリアはただ困惑することしかできない。
すると、フッとまるでなにかを悟ったように乾いた笑みを零しながら、そんな《SS》冒険者二人にクラハは告げる。
「……この三日間で、わかりましたよ」
一体なにがわかったというのか——明らかに普通ではないクラハのその様子に、サクラとフィーリアは気圧されていた。
そして、クラハはその続きを話す。
「女の子って……柔らかいんですね……はは」
…………そのクラハの言葉には、まるで三日三晩の死闘を潜り抜け、その末にこの世界の真理の一部を垣間見たかのような、漢の重みがあった。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる