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『極剣聖』と『天魔王』
『極剣聖』対『天魔王』——魔法は使えない
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「ま、魔道士……舐めんじゃねえですよ……っ…!」
そう、声を震わせて。今己の身に振り落とされんとした鈍く鋭く、冷たく輝く鉄の刃を、奇跡的な反射神経で【次元箱】から取り出した杖で、フィーリアは受け止めた。
——ま、間に合った……!
杖の表面に、刃が食い込む。
「……細腕に似合わず、剛力だな」
「は、はは……まさか」
今、フィーリアは己の腕に膨大な魔力を流し込んでいた——【強化】。基礎中の基礎の魔法で、その名の通り身体能力を、消費した魔力の分だけ強化できる。
そしてそれは肉体だけに留まらず、応用として物体の強度をも上げることができる。
それによってフィーリアは、今自分が握るその杖を、鋼鉄となんら変わらない強度にまで引き上げていたのだ。
しかし、流石に限度というものも存在する。
己の肉体の許容量を遥かに超える魔力を流し込み、【強化】しようとした場合、肉体がその負荷に耐え切れず崩壊してしまう。
だが、フィーリアはその限界の限界、ギリギリまで己の腕を【強化】していた。そうでもしなければ、サクラの膂力に押し負けていたからだ。
——この人は巨人か竜かなにかですか……!?
そう錯覚してしまうほどに、彼女は馬鹿力だった。いや、そんな可愛いものではない。
まるで自分の数百倍巨大で膨大に過ぎる質量を誇る鉄塊を押しつけられているようだった——とてもではないが、女の力ではない。
「………………ふむ」
だが、それは違っていた。
「ではもう少し力を込めるか」
「は?」
サクラがそう言った瞬間————形容し難い、この世のものとは思えない、まるで重力そのものと思えるような力がフィーリアを襲った。
「な、なっ………!?」
押される。今や巨人となんら遜色ないはずの膂力を誇るフィーリアの腕が、サクラの膂力によって押される。
激し過ぎる力に挟まれたフィーリアの杖が、まるで悲鳴のような異音を小さく鳴らす。
瞬間————
ビキリ——今や鋼となんら遜色ないはずの強度になっていたはずの、フィーリアの杖に僅かばかりの亀裂が走った。
「ッ…?!」
もはや驚愕を通り越したなにかに、突き動かされるようにして、ほぼ本能的にフィーリアが動く。
「は、離れろォッッ!!」
フィーリアが右腕を振り上げる——瞬間、彼女の右腕は膨れ上がり、黒く禍々しいモノにへと変異した。
その異形なる黒腕を振るい、サクラの身体を横から殴りつける。
「ぐっ…」
殴りつけられたサクラは、抵抗も許されず吹っ飛ばされた。荒野の大地を彼女が転がっていく。
「はあっ……はぁ……!」
その様を眺めながら、己の身にかけた【強化】を解除するフィーリア。変異していた彼女の右腕も元に戻る。
そして遅れて、彼女の手にあった杖が、真っ二つに砕け折れた。
「………………これ、結構貴重な代物だったんですけどね」
もはや使い物にならなくなったそれを、彼女は【次元箱】の中に放り込む——と、
「離れろ、とは酷いじゃないか『天魔王』。こう見えて私は繊細でね、傷つき易いんだ」
「……寝言は寝てからほざきやがってください。『極剣聖』」
嘆息しながら、フィーリアは尋ねるようにして呟く。
「それにしても、意外です。あなたのような人が【転移】を使えるなんて……これ、結構習得に苦労する部類の魔法なんですけどね」
そう言うと————まるで意味がわからないようにサクラは首を少し傾げた。
「……?あなた、さっき【転移】使ってました……よね?」
「………………………………ああ」
そこで初めて納得したようにサクラは呟いて、それからこんなことをフィーリアに言うのだった。
「『天魔王』。君は勘違いをしている——私はね、魔法が使えないんだ。だから君の言う【転移】というものは、使った覚えがない」
最初、その言葉をフィーリアは理解できなかった。それから数秒を経て、ようやく理解した。
理解して————
「はあああああああああッッッ??!」
————という、まさに意味不明といった絶叫を上げたのだった。
そう、声を震わせて。今己の身に振り落とされんとした鈍く鋭く、冷たく輝く鉄の刃を、奇跡的な反射神経で【次元箱】から取り出した杖で、フィーリアは受け止めた。
——ま、間に合った……!
杖の表面に、刃が食い込む。
「……細腕に似合わず、剛力だな」
「は、はは……まさか」
今、フィーリアは己の腕に膨大な魔力を流し込んでいた——【強化】。基礎中の基礎の魔法で、その名の通り身体能力を、消費した魔力の分だけ強化できる。
そしてそれは肉体だけに留まらず、応用として物体の強度をも上げることができる。
それによってフィーリアは、今自分が握るその杖を、鋼鉄となんら変わらない強度にまで引き上げていたのだ。
しかし、流石に限度というものも存在する。
己の肉体の許容量を遥かに超える魔力を流し込み、【強化】しようとした場合、肉体がその負荷に耐え切れず崩壊してしまう。
だが、フィーリアはその限界の限界、ギリギリまで己の腕を【強化】していた。そうでもしなければ、サクラの膂力に押し負けていたからだ。
——この人は巨人か竜かなにかですか……!?
そう錯覚してしまうほどに、彼女は馬鹿力だった。いや、そんな可愛いものではない。
まるで自分の数百倍巨大で膨大に過ぎる質量を誇る鉄塊を押しつけられているようだった——とてもではないが、女の力ではない。
「………………ふむ」
だが、それは違っていた。
「ではもう少し力を込めるか」
「は?」
サクラがそう言った瞬間————形容し難い、この世のものとは思えない、まるで重力そのものと思えるような力がフィーリアを襲った。
「な、なっ………!?」
押される。今や巨人となんら遜色ないはずの膂力を誇るフィーリアの腕が、サクラの膂力によって押される。
激し過ぎる力に挟まれたフィーリアの杖が、まるで悲鳴のような異音を小さく鳴らす。
瞬間————
ビキリ——今や鋼となんら遜色ないはずの強度になっていたはずの、フィーリアの杖に僅かばかりの亀裂が走った。
「ッ…?!」
もはや驚愕を通り越したなにかに、突き動かされるようにして、ほぼ本能的にフィーリアが動く。
「は、離れろォッッ!!」
フィーリアが右腕を振り上げる——瞬間、彼女の右腕は膨れ上がり、黒く禍々しいモノにへと変異した。
その異形なる黒腕を振るい、サクラの身体を横から殴りつける。
「ぐっ…」
殴りつけられたサクラは、抵抗も許されず吹っ飛ばされた。荒野の大地を彼女が転がっていく。
「はあっ……はぁ……!」
その様を眺めながら、己の身にかけた【強化】を解除するフィーリア。変異していた彼女の右腕も元に戻る。
そして遅れて、彼女の手にあった杖が、真っ二つに砕け折れた。
「………………これ、結構貴重な代物だったんですけどね」
もはや使い物にならなくなったそれを、彼女は【次元箱】の中に放り込む——と、
「離れろ、とは酷いじゃないか『天魔王』。こう見えて私は繊細でね、傷つき易いんだ」
「……寝言は寝てからほざきやがってください。『極剣聖』」
嘆息しながら、フィーリアは尋ねるようにして呟く。
「それにしても、意外です。あなたのような人が【転移】を使えるなんて……これ、結構習得に苦労する部類の魔法なんですけどね」
そう言うと————まるで意味がわからないようにサクラは首を少し傾げた。
「……?あなた、さっき【転移】使ってました……よね?」
「………………………………ああ」
そこで初めて納得したようにサクラは呟いて、それからこんなことをフィーリアに言うのだった。
「『天魔王』。君は勘違いをしている——私はね、魔法が使えないんだ。だから君の言う【転移】というものは、使った覚えがない」
最初、その言葉をフィーリアは理解できなかった。それから数秒を経て、ようやく理解した。
理解して————
「はあああああああああッッッ??!」
————という、まさに意味不明といった絶叫を上げたのだった。
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