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『極剣聖』と『天魔王』

『極剣聖』対『天魔王』——序盤の一合

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「おいおいおい………嘘だろ……!?」

 愕然と、その光景に僕は呟く。

 フィーリアさんが片腕を軽く広げた瞬間、彼女の周囲に無数の色鮮やかな球体スフィアが出現したのだが……その一個一個が途方もない魔力の塊であり、また冗談抜きで街一つどころか大陸すら無に還せるのではかという、まさに壊滅的な威力を秘めていた。

魔焉崩神エンディニグル』が放とうとしていた黒球などとは、まるで比べ物にならない。この球体の前では、あんなものただの少し破壊力のあるボールにしか思えない。

 そんな恐ろしい球体が、無数に浮かんでいるのだ。百、千——万を、超えている。

 ——あ、あんなの放ったら…………!

 こんな荒野など一瞬にして消滅し、オールティアは消え去り、このファース大陸が消失してしまう。

 そんな未来を垣間見て、僕は無意識に先輩の身体を抱き締めてしまう。

「わぷっ……ちょ、クラハ…っ!?」

 先輩が声を上げるのと同時に——



「言っておきますけど、この程度で終わらないでくださいよ?」



 ——なんの躊躇いもなく、フィーリアさんはそれら全てをサクラさんに向かって撃ち放った。
















「この程度で終わらないでくださいよ?」

 半ば投げやりな声と共に、万を軽く凌駕する球体がサクラに向かって殺到する。それと同時に、

「…む?」

 ブォン——そんな異音を立てて、サクラの周囲を透明ななにかが覆った。

 一体それがなんであるか、サクラが理解する前に————




 ゴッッッッ——殺到していた球体が、彼女の元に辿り着いた。




 次々と炸裂する爆光。荒野に鳴り響く轟音。それが百回、千回、万回と幾度もなく繰り返された。

 そこまでしてようやく——止まった。

 透明ななにかに閉じ込められているように、宙に留まる砂埃と砂利。

 数秒後、その透明ななにかが溶けるように消えて、それらが解放されて徐々に霧散を始めた。

「………………」

 未だ濃過ぎるその煙幕を、フィーリアは黙って見つめる。

 数秒経って、ようやく薄まって——彼女はほんの僅かにその口元を吊り上げた。

「へえ……」

 そうして、煙幕が完全に晴れて————そこには、無傷・・のサクラが立っていた。一体なにをどうしたのか、服に埃一つすら付いていない。

「ふむ。私を閉じ込め、その上魔力による爆撃………中々良い威力だったぞ。『天魔王』」

 たったの一個で街一つどころか大陸すら無に還す魔力弾を、万を超える数を受けた後とは到底思えない様子でフィーリアにそう話すサクラ。

 対して、フィーリアは感嘆するように吐息を漏らす。

「流石はLv100ですか。この程度の攻撃では傷一つ負わないんですね」

「昔から頑丈なのでな——では、次は私の番だな」



 キンッ——サクラがそう言うと同時に、金属同士を叩いたような、甲高い音がその場に鳴り響いた。



「…………?なん——

 パァリィンッッ——その奇妙な音に対して、フィーリアが首を傾げたと同時に、そんな硝子を思い切り叩き割ったかのような破砕音と共に、不可視の透明な破片が宙を舞った。

 ——ッ!?」

 破片が溶けるように消えていく中、遅れてフィーリアの背後の地面に僅かな亀裂が走り、そして瞬く間に広がる。亀裂は止まることなく、拡大を続けていく。

 また、彼女の頭上に浮かんでいた雲も、真っ二つに千切れ粉々に吹き飛ばされていた。

「ん?……ああ、なるほど。斬った・・・時に妙な手応えを感じたが、障壁のようなものを展開していたのか。流石は『天魔王』、気づかなかったよ」

 瞳を見開き、目紛しくその色を変えて愕然としているフィーリアに、感心するようにサクラがそう言う。

「…………『極剣聖』」

 そのフィーリアの声は、僅かばかり——ほんの微かの少しばかり、戦慄に震えていた。

 当たり前だ。確かにサクラの言う通り、フィーリアは密かに障壁——【拒絶の守】を己の周囲に張っていた。

 これは、先ほどサクラに対して放った魔力弾にすら容易に耐えられるほどの強度を誇る防壁魔法で、一応念のための保険としてフィーリアは展開していたのだが……。

 ——まさか、一撃で……しかも、斬った?

 信じられない。だって、サクラは——彼女は、己の得物に手をかけていなかった・・・・・・・・

 一体、いつ抜いたというのか—————

「ふむ。では、数回斬ればいいか・・・・・・・・

 疑問を抱くフィーリアをよそに、そうサクラが呟くと全く同時に、





 キンッキンッキンッキンッ——合計四回・・・・。先ほどと同じ音が鳴り響いた。
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