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『極剣聖』と『天魔王』
泣かないでラグナちゃん
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「「あの子で」」
と、《SS》冒険者の二人は揃って先輩を指差した。
「……………………」
「……………………」
沈黙が、その場を支配する。決して軽くはない沈黙が、その場を包み込んでしまう。
そして、それを真っ先に破ったのは——
「は、はああああああっ!?」
——という、先輩の絶叫だった。
「ほ、報酬が俺って、どういう「ちょっと待ってくださいサクラさん」「それはこちらの台詞だなクロミア」
先輩の声を遮って、サクラさんとフィーリアさんがお互いを睨み合いながら、口論を始めてしまう。
「ラグナ嬢は私のものだ。誰にも渡さん」
「なに言ってるんですか。ブレイズさんは私のものですよ。今決めました」
「いや、私のものだな私は君よりも早くそう決めていたよ」
「いやいや私のものですってば私だってサクラさんがそう言う前からずっと決めてました数分前から決めてましたー」
「いやいやいや私のものだぞ数時間前から決まっていたことだ」
「いやいやいやいや——」
「いやいやいやいやいや——」
………………僕やグィンさん、そして件であるはずの先輩を放ったらかして、そんなどうでもいい口論を二人は続ける。
そこに理屈などはなく、ただお互いの身勝手過ぎる主張を衝突させ合っているだけである。
「お、お前らなに勝手なこと言って……」
先輩もその口論に割り込もうとするが、意味不明な内容なのに無駄に白熱し過ぎてて、そんな隙が見当たらない。
「君はわかっていない。一体どれだけラグナ嬢が価値のある存在なのかを。燃え盛る炎のように鮮やかで美しい赤髪。快活無垢を体現した少女のような可憐さと、時折醸し出る女のとしての色香。そして思わず視界を奪われる太腿と大胆な脇と可愛らしい小さな臍——彼女は、生ける芸術だ」
「は?なんですかその主張。変態性極まって凄く気持ち悪いです。ブレイズさんの価値がわかっていないのはあなたの方ですよ『極剣聖』。彼女ほど珍しいじっけ……境遇の人間はいません。最高のひけ……観察対象ですよ?これはもう色々と調べないと逆に失礼になるんじゃないんですかね」
「先ほどの台詞そのまま返そうこの俗物が。己の欲望だけを詰め込んだ主張を掲げるなど言語道断。恥を知れ」
「あなただけには言われたくねえですよ」
サクラさんとフィーリアさんの口論……と呼べるのかもはや怪しいが、とにかく二人の言い争いはますます激しくなっていく。
その横で、懸命に割り込もうとする先輩。だが激化する二人の言い争いに、もうそんな余地など一片たりともありはしなかった。
「………………う、ぐぅぅ…!」
やがて、先輩が助けを求めるかのように、僕の方に顔を向けてきた。
琥珀色の瞳にはまた涙が溜まっており、今にでも泣き出してしまいそうだった。
「くらはぁ…………」
「……せ、先輩。その………負けないでください」
と、そこで一進一退?だったサクラさんとフィーリアさんの口論が、新たな局面を迎えていた。
「……互いに、譲る気はないようだな」
「ええ。そうみたいですね」
泣きついてきた先輩を、よしよしと頭を撫でて宥める中、二人は依然お互いの顔を睨み合いながら————
「「実力行使、と行こう(行きましょう)か」」
————そう、とんでもないことを言い出すのだった。
——い、いやいや実力行使って……!?
胸の中に先輩を抱きつつ、なんとかこの事態を収拾してもらおうとこの場の年長者に顔を向けた。
……が、もうそこには誰もいなかった。
——に、逃げたなあの人…………!
「思い立ったが吉日、と言うからな。では早速参ろうか、『天魔王』殿?」
「その言葉だけには同意しますよ『極剣聖』。ええ、参りましょう」
そうして、先輩の了承その他諸々などお構いなしに。
今後戦いに生きる存在全てにとっての『神話』となる、《SS》冒険者二人の——『極剣聖』と『天魔王』による、ラグナ先輩を賭けた決戦が、始まろうとしているのだった。
と、《SS》冒険者の二人は揃って先輩を指差した。
「……………………」
「……………………」
沈黙が、その場を支配する。決して軽くはない沈黙が、その場を包み込んでしまう。
そして、それを真っ先に破ったのは——
「は、はああああああっ!?」
——という、先輩の絶叫だった。
「ほ、報酬が俺って、どういう「ちょっと待ってくださいサクラさん」「それはこちらの台詞だなクロミア」
先輩の声を遮って、サクラさんとフィーリアさんがお互いを睨み合いながら、口論を始めてしまう。
「ラグナ嬢は私のものだ。誰にも渡さん」
「なに言ってるんですか。ブレイズさんは私のものですよ。今決めました」
「いや、私のものだな私は君よりも早くそう決めていたよ」
「いやいや私のものですってば私だってサクラさんがそう言う前からずっと決めてました数分前から決めてましたー」
「いやいやいや私のものだぞ数時間前から決まっていたことだ」
「いやいやいやいや——」
「いやいやいやいやいや——」
………………僕やグィンさん、そして件であるはずの先輩を放ったらかして、そんなどうでもいい口論を二人は続ける。
そこに理屈などはなく、ただお互いの身勝手過ぎる主張を衝突させ合っているだけである。
「お、お前らなに勝手なこと言って……」
先輩もその口論に割り込もうとするが、意味不明な内容なのに無駄に白熱し過ぎてて、そんな隙が見当たらない。
「君はわかっていない。一体どれだけラグナ嬢が価値のある存在なのかを。燃え盛る炎のように鮮やかで美しい赤髪。快活無垢を体現した少女のような可憐さと、時折醸し出る女のとしての色香。そして思わず視界を奪われる太腿と大胆な脇と可愛らしい小さな臍——彼女は、生ける芸術だ」
「は?なんですかその主張。変態性極まって凄く気持ち悪いです。ブレイズさんの価値がわかっていないのはあなたの方ですよ『極剣聖』。彼女ほど珍しいじっけ……境遇の人間はいません。最高のひけ……観察対象ですよ?これはもう色々と調べないと逆に失礼になるんじゃないんですかね」
「先ほどの台詞そのまま返そうこの俗物が。己の欲望だけを詰め込んだ主張を掲げるなど言語道断。恥を知れ」
「あなただけには言われたくねえですよ」
サクラさんとフィーリアさんの口論……と呼べるのかもはや怪しいが、とにかく二人の言い争いはますます激しくなっていく。
その横で、懸命に割り込もうとする先輩。だが激化する二人の言い争いに、もうそんな余地など一片たりともありはしなかった。
「………………う、ぐぅぅ…!」
やがて、先輩が助けを求めるかのように、僕の方に顔を向けてきた。
琥珀色の瞳にはまた涙が溜まっており、今にでも泣き出してしまいそうだった。
「くらはぁ…………」
「……せ、先輩。その………負けないでください」
と、そこで一進一退?だったサクラさんとフィーリアさんの口論が、新たな局面を迎えていた。
「……互いに、譲る気はないようだな」
「ええ。そうみたいですね」
泣きついてきた先輩を、よしよしと頭を撫でて宥める中、二人は依然お互いの顔を睨み合いながら————
「「実力行使、と行こう(行きましょう)か」」
————そう、とんでもないことを言い出すのだった。
——い、いやいや実力行使って……!?
胸の中に先輩を抱きつつ、なんとかこの事態を収拾してもらおうとこの場の年長者に顔を向けた。
……が、もうそこには誰もいなかった。
——に、逃げたなあの人…………!
「思い立ったが吉日、と言うからな。では早速参ろうか、『天魔王』殿?」
「その言葉だけには同意しますよ『極剣聖』。ええ、参りましょう」
そうして、先輩の了承その他諸々などお構いなしに。
今後戦いに生きる存在全てにとっての『神話』となる、《SS》冒険者二人の——『極剣聖』と『天魔王』による、ラグナ先輩を賭けた決戦が、始まろうとしているのだった。
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