232 / 440
『極剣聖』と『天魔王』
報酬はあの子?
しおりを挟む
「…………なるほど。まあ大体の事情はわかりました」
テーブルに肘をついて、両手を口元にまで持っていき、真面目な様子でフィーリアさんはそう呟く。もう、また笑い出すことはないだろう。……たぶん。
「ですが、まあ……にわかには信じ難い話ですけど……」
「ふむ。私もそれに同じだ」
——まあ、ですよね……。
あの後、必死に涙を堪える先輩をなんとか励まして、先輩の身に起こったことを全て彼女らに説明したのだ。
朝起きたら女の子になっていたことと、それと同時にLv1になっていたことも。
……しかしまあ、フィーリアさんの言う通り、にわかには信じ難い話である。
「けどまあ【リサーチ】で見たところ、本当に『炎鬼神』——ラグナ=アルティ=ブレイズ本人なのは確かなことですしねえ……」
疑い半分、興味半分といった眼差しをフィーリアさんは先輩に向ける。対して先輩は先ほどのこともあるせいか、ぷいっと顔を背けてしまうが。
「………ふーん」
…………気のせいだろうか。フィーリアさんの眼差しの、興味の度合いが濃くなったような気がする。
「元男、か…………いやしかし……それを考慮しなければ…………それに先ほどの表情を思い出すと…………ふふ」
気のせいだろうか。サクラさんが何やら不穏なことをブツブツ言いながら、まるで獲物を狩る獣のような鋭い眼光を先輩に向けている気がする。
……取り敢えず、できるだけあの人には先輩を近づけないようにしよう。じゃないと、何か取り返しのつかないことが先輩の身に起こる気がする。
「それに合点もいきました。だから私と『極剣聖』がこの街に呼ばれたんですね」
うんうんと頷くフィーリアさん。その横で未だに顔を俯かせ、耳を澄ましても聞こえない声量で何かを呟き続けるサクラさん。
——こうして見ると本当に《SS》冒険者とは思えない………とてもじゃないけど。
そう僕が思った時だった。
「ん……?」
ふと、グィンさんがそんな声を上げたかと思えば、懐に手を突っ込んで、拳大の澄んだ蒼色の魔石を取り出した。
「すまない。私は少し席を外させてもらうよ。冒険者同士、会話を楽しんでてね」
「え?ちょ、グィンさ——」
バタン——僕が呼び止める暇もなく、グィンさんは立ち上がってそそくさと部屋から出て行ってしまった。
「…………ええ……」
僕がそう放心するように呟く最中、二人の《SS》冒険者が口々に言葉を紡ぐ。
「朝起きたら女の子に……Lv1……E-とEXという能力値……気になるなあ……」
「そうか…!いっそのこと女としての悦びを身体に教え込み、心も女にしてしまえば……万事解決か……!」
何やら二人の呟き——主にサクラさんの——がどんどん不穏な響きを伴わせてきている。すると不意にギュッと服の裾を掴まれた——無論、隣に座る先輩にである。
「先輩?」
僕が顔を向けると、若干目元を腫らした先輩が、まるで怯えた小動物のように身体を縮こませていた。
「く、くらはぁ……あいつら、なんか怖いんだけど……」
「………………」
最近ずっと思っていることなのだが、もしかすると先輩は身体だけではなく、精神の方も女の子に染まり切ってしまっているのではないか?
そう、勘繰ってしまうほどに最近の先輩は女の子らしいというか女の子してるというか……。
——って何を考えてるんだ僕は……!
「あ、安心してください先輩……気のせいですよ」
「そ、そうか……?」
「はい。…………たぶん」
と、そこで一旦席を外したグィンさんが戻ってきた。
「いやあすまなかったね。それでアザミヤ君とクロミア君。こちらが支払う君たちへの報酬なんだけども」
「GM。実はそれについて話があるのだが」
「あ、私も」
「え?うん。何だい?」
《SS》冒険者の二人は揃ってグィンさんの方へ顔を向けて、それからさも当然のように——
「「あの子で」」
——と、先輩を指差すのだった。
テーブルに肘をついて、両手を口元にまで持っていき、真面目な様子でフィーリアさんはそう呟く。もう、また笑い出すことはないだろう。……たぶん。
「ですが、まあ……にわかには信じ難い話ですけど……」
「ふむ。私もそれに同じだ」
——まあ、ですよね……。
あの後、必死に涙を堪える先輩をなんとか励まして、先輩の身に起こったことを全て彼女らに説明したのだ。
朝起きたら女の子になっていたことと、それと同時にLv1になっていたことも。
……しかしまあ、フィーリアさんの言う通り、にわかには信じ難い話である。
「けどまあ【リサーチ】で見たところ、本当に『炎鬼神』——ラグナ=アルティ=ブレイズ本人なのは確かなことですしねえ……」
疑い半分、興味半分といった眼差しをフィーリアさんは先輩に向ける。対して先輩は先ほどのこともあるせいか、ぷいっと顔を背けてしまうが。
「………ふーん」
…………気のせいだろうか。フィーリアさんの眼差しの、興味の度合いが濃くなったような気がする。
「元男、か…………いやしかし……それを考慮しなければ…………それに先ほどの表情を思い出すと…………ふふ」
気のせいだろうか。サクラさんが何やら不穏なことをブツブツ言いながら、まるで獲物を狩る獣のような鋭い眼光を先輩に向けている気がする。
……取り敢えず、できるだけあの人には先輩を近づけないようにしよう。じゃないと、何か取り返しのつかないことが先輩の身に起こる気がする。
「それに合点もいきました。だから私と『極剣聖』がこの街に呼ばれたんですね」
うんうんと頷くフィーリアさん。その横で未だに顔を俯かせ、耳を澄ましても聞こえない声量で何かを呟き続けるサクラさん。
——こうして見ると本当に《SS》冒険者とは思えない………とてもじゃないけど。
そう僕が思った時だった。
「ん……?」
ふと、グィンさんがそんな声を上げたかと思えば、懐に手を突っ込んで、拳大の澄んだ蒼色の魔石を取り出した。
「すまない。私は少し席を外させてもらうよ。冒険者同士、会話を楽しんでてね」
「え?ちょ、グィンさ——」
バタン——僕が呼び止める暇もなく、グィンさんは立ち上がってそそくさと部屋から出て行ってしまった。
「…………ええ……」
僕がそう放心するように呟く最中、二人の《SS》冒険者が口々に言葉を紡ぐ。
「朝起きたら女の子に……Lv1……E-とEXという能力値……気になるなあ……」
「そうか…!いっそのこと女としての悦びを身体に教え込み、心も女にしてしまえば……万事解決か……!」
何やら二人の呟き——主にサクラさんの——がどんどん不穏な響きを伴わせてきている。すると不意にギュッと服の裾を掴まれた——無論、隣に座る先輩にである。
「先輩?」
僕が顔を向けると、若干目元を腫らした先輩が、まるで怯えた小動物のように身体を縮こませていた。
「く、くらはぁ……あいつら、なんか怖いんだけど……」
「………………」
最近ずっと思っていることなのだが、もしかすると先輩は身体だけではなく、精神の方も女の子に染まり切ってしまっているのではないか?
そう、勘繰ってしまうほどに最近の先輩は女の子らしいというか女の子してるというか……。
——って何を考えてるんだ僕は……!
「あ、安心してください先輩……気のせいですよ」
「そ、そうか……?」
「はい。…………たぶん」
と、そこで一旦席を外したグィンさんが戻ってきた。
「いやあすまなかったね。それでアザミヤ君とクロミア君。こちらが支払う君たちへの報酬なんだけども」
「GM。実はそれについて話があるのだが」
「あ、私も」
「え?うん。何だい?」
《SS》冒険者の二人は揃ってグィンさんの方へ顔を向けて、それからさも当然のように——
「「あの子で」」
——と、先輩を指差すのだった。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる