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RESTART──先輩と後輩──
狂源追想(その五)
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「お、おお……っ!?」
『大翼の不死鳥』の扉を押し開き、その先に広がっていた光景を目にした俺の第一声は。そんな言葉にならない、驚きと嬉しさが絶妙に入り混じる、感極まったものだった。
『大翼の不死鳥』広間には、それはもう大勢の偉大なる先駆者たち────冒険者がいた。
椅子に座り料理や酒を飲み食らう者、受けた依頼の成果を自慢し合う者、依頼表の前に立ち、受ける依頼を吟味している者────それらの光景こそ、間違いなく。俺が子供の頃から思い描き、そして想い馳せていたものに相違ない。
ついこの前に二十歳を迎えたばかりの俺だが、まるで子供のように胸が躍る。童心に帰ってしまって、憧れが止められなくて……自分でも怖いくらいにワクワクしている。
そうして、ようやく。俺はようやっと自覚する。自分は、来たのだと。夢の為の、目標の為の、憧れの為の。その足がかりへ今踏み出さんとしているのだと。
──遂に、遂にだ……!
直後、堪らずその場で跳ねてしまいそうになった自分をどうにか抑え、とりあえず冷静になり平常心を保とうとその場で立ち尽くす────その時であった。
「よおそこの坊主。そんなとこに突っ立ってられちゃあ、通れないんだが?」
不意にそんな声が背後からかけられたかと思うと、同時に背中を軽く叩かれる。
「す、すみませ……っ」
慌てて振り返り、謝罪をしようとした俺は。あろうことかそれを途中で止めてしまい、為す術もなく衝撃に面食らってしまう。
俺の背後に立っていたのは、柑橘系の果物である黄柑実を彷彿とさせる、明るい橙色の髪と。それと同じ色をした瞳が特徴的な長身の男性。だいぶ長い間着込まれたことが窺える外套の、破り裂かれたようにボロボロになった裾と袖をユラユラとはためかせるその人は、俺に対して飄々とした笑顔を送っていた。
本来ならばすぐにでもその場から退かなければならなかった俺だったが、不覚にもそうすることができないでいた。何故ならば、その見知った男の顔に対して、俺はただその場で固まる他なかった。
だが、そんな身体に反して頭は変に冷静で。冴えた思考の末に俺は、呆然とその名を口から零した。
「冒険隊、『夜明けの陽』隊長……ジョニィ=サンライズ……さんッ!!」
「お?ああ、そうだぜ。俺こそ『大翼の不死鳥』最強の……って言っても今や冒険隊に限っての話なんだが。『夜明けの陽』の隊長をやらせてもらってる、ジョニィ=サンライズだ」
そう、この人こそ『大翼の不死鳥』最強にして、冒険者番付表第五十位の冒険隊、『夜明けの陽』の隊長。残る三人の隊員である《S》冒険者を率い先導している、《S》冒険者────ジョニィ=サンライズ。『夜明けの陽』としても勿論のことだが、個人での依頼、それも高難易度のものを数多く達成した実績を誇る、文句なしの手放しで尊敬するに値する冒険者の一人だ。
齢一桁の頃にこれでもかと読み込んだ、冒険者専門雑誌──『冒険人生』にも何度か取り上げられていたし、俺はそれら全ての内容を把握している。少し違えば、俺の夢。俺の目標。俺の憧れ。その全部がこの人に対して向けられていたかもしれない。……まあ、申し訳のないことに、実際のところはそうではないのだが。
しかし、そうは言ってもジョニィさんも尊敬する冒険者の一人には違いなく。なので当然、そんな彼との思いもよらない対面に、驚愕と衝撃、そして緊張などない訳もなく。今し方邪魔だと言われたというのに、俺は未だその場から微動だにすることもできないでいた。
「おいおい、また固まっちまった」
と、困ったようにジョニィさんがそう呟き。彼の呟きに辛うじて我に返った俺は、慌てながら急いで彼の前から退く────その直前。
「おいジョニィ!んなとこでぼさっと突っ立ってんじゃねえよ!俺たちが中に入れねえじゃあねえか!なあ、ロックスッ!セイラッ!?」
「そうですぜジョニィの兄貴。普段からアンタのことを敬っている俺ですが、そんなことをされちゃあそれも薄れるってもんですわ」
「そうそう、二人のの言う通りだよ隊長。はっきり言って、邪魔だよ」
俺に行く手を塞がれ、立ち止まらざるを得ないでいたジョニィさんの背後から。二人の男と一人の女、合計三人の。辛辣な言葉が口々にかけられた。だがそこに悪意の類など、微塵も込められてなどおらず。言うなればそれは冗談のようだった。
それらの言葉に対して、堪ったものではないという風に。ジョニィさんが即座に振り返って言う。
「ぎゃあぎゃあ煩えなお前らッ!俺だって好きで馬鹿みたいに突っ立ってる訳じゃねえんだよ。道を塞がれてんだよ!道を!」
「ああッ!?だったらそうだって早く言えよッ!なあ、ロックスッ!?セイラッ!?」
「そうですぜジョニィの兄貴。何せ人ってのは、誤解させたらその時点でもう駄目なんですから」
「そうだよ。二人の……いや、この場合はロックスの言う通りか。うん。……こほん、そうだよ。ロックスの言う通りだよ、隊長。貴方は既に私たちに敗北しちゃってるんだよ」
「はあッ!?そりゃあいくら何でも理不尽が過ぎるってモンだろッ!!」
……と、周囲の空気と視線などお構いなしに。俺の目の前で口論を繰り広げる『夜明けの陽』の面々。遅れて、俺はさらなる驚愕と衝撃を受け、その上で今目の前にあるこの光景を、確かな現実を。到底信じられないでいた。
それもそうだろう。今日、それも初めて訪れたばかりの『大翼の不死鳥』にて。その最強の冒険隊の面子が勢揃いしているのだから。
短く切り揃えられた茶髪の、全体的に軽装をしている男性はロックス=ガンヴィルさん。『夜明けの陽』の副隊長を務めており、ジョニィさんとは幼馴染らしい。
先程から喧し……否、一番の声量を誇る緑髪の男性はベンド=ヴェンドーさん。ロックスさんとは違い、黒い重鎧を着込んだ姿から見て取れるように、彼は『夜明けの陽』の盾役を担当している。
残る最後の一人、紗酸実を彷彿とさせる薄黄色の髪を、背中半分を覆う程度にまで伸ばした女性はセイラ=ネルリィア。彼女もその格好から、『夜明けの陽』にてどの役割を担っているのか判断でき、それではどんな服装をしているのかというと。この世界において唯一無二にして絶対の宗教────『創世教』。その修道服である。
神父や修道女が冒険者をしている────それが指し示すことは、ただ一つ。つまりその者は『創世教』が認めた、教会公認の回復職ということ。
俺が知っている限りでは、教会の公認なしでは回復職を名乗ることは決して許されず、それと同時に神父や修道女でない者────つまりは無宗派の無神論者では回復職になることができず。そして回復職以外が回復魔法の行使及び習得することは、この世界に存在する全ての冒険者組合を統括管理している絶対機関────『世界冒険者組合』が禁止している。……たった一人の、唯一のとある例外を除いて。
仮にもし公認を得ないで回復職であること、そして神父や修道女でない者が宣った場合、たとえそれが冗談であったとしても、神父や修道女は有無を言わさず教会から永久追放され、その上冒険者の資格も直ちに剥奪、今後一切の復帰を禁じられてしまう。そうではない者も後者と同じように罰せられる。それ程までに重大な規律であり、それ故に公認を得ることも困難を極める。
具体的にどれくらいなのかというと、今現在『創世教』公認の回復職は全大陸、神父と修道女を含めても百人に満たない程である。
セイラさんはそんな『創世教』お抱えの、数少ない貴重な人材たる回復職の一人であり。しかし、俺の記憶の中にある教会指定の修道服と、今彼女が着ている修道服はどうにも一致しないでいた。
それもそのはず、何せセイラさんの修道服は────改造を施されていたのだ。それも結構、大胆な。
一応ではあるが、大まかな構造自体は流石に遵守されている。しかし、あくまでもただそれだけのことで。大まかではない細やかな部分の全てにはセイラさん独自の細工が入っている。
まず、第一にその胸元。ここが一番わかりやすく、そして一番目につく。何故ならば、セイラさんが着るその改造修道服の胸元は大きく開かれ、おっ広げにこれでもかと。母性の象徴たるその豊かな膨らみを、惜しみなく恥ずかしげもなく露出させていたのだから。そして彼女が敬虔な『創世教』の修道女であることを示す、チェーンペンダントにされ首から下げられた、白銀の十字架がその上に乗せられていた。
そして第二に切り込み。これも本来であればないはずのものだが、セイラさんはそこにも手をつけており。足の全ては勿論のこと、太腿はおろか腰の辺りにまで切り込みが入れられていた。
なので当然、その隙間から見事な脚線美を描く足に、むちっとした太腿、鼠蹊部の線まで見えてしまっている腰。その全てが外気に晒されている。……これは果たして言うべきなのか否なのか、その判断に若干の迷いはあるものの。一応、一応補足として付け加えると。
腰の部分が露出しているにも関わらず、驚くべきことに……下着らしき布が一切見当たらない。
いやまあ、そこまで切り込みを入れてしまっている関係上、もし穿いていたら必然的にそれが見えてしまうのだから、まあ。この場合は仕方ないというか、うん。
それはともかく。他にまだ細工がされているが、それを一々説明していると切りがないので、セイラさんの改造修道服についての説明はここまでとする。……しかし実はこれ、特に問題はない。
何故かと言うと。回復職は歴とした冒険者でもある。なので当然数々の依頼を受けて、活動する訳で。そしてその多くは魔物の討伐や、悪人の捕縛、護衛等であり。そこにどうしても戦闘という行為が発生する。
お世辞にも『創世教』の修道服は戦闘に向いているとは言えず、なので回復職たちには特権として戦い易くする為、基本的な構造を崩さない範疇内で、セイラさんのように自らの修道服に手を加えることを許されているのだ。当然この特権は回復職だけのものであり、回復職でない神父や修道女が修道服を改造した場合、厳罰に処される。
……しかし、セイラさんの場合はあまりにも大胆というか全体的に肌色の露出が多いというか。とにかく、視線のやり場に困ってしまう。
ともあれ、見ての通り今ここには『夜明けの陽』の面々が集結している。それも、俺の目の前で。こんな奇跡のような状況に出くわせてしまうなんて、『大翼の不死鳥』所属の冒険者であればともかく、俺はついぞ思いもしていなかった。
「あッ!?おいッ!誰かジョニィの目の前に突っ立ってんじゃねえかッ!!誰だぁお前ッ!?」
「ん?お、本当だ」
「へえ。初めて見る顔だよ」
固まっている俺の存在に気づき、三人がジョニィさん越しに声をかけてくる。それらの声に今一度我に返った俺は、今度こそその場から即座に退き、大慌ててで『夜明けの陽』全員に対して頭を深々と下げた。
「す、すみませんっ!み、道を遮ってしまって……!」
「別に構わねえよ。お前さんに襲われた訳でもあるまいし」
言いながら、僕が前から退いたことでようやっと。その場から歩き出しながら、隊長としての器の大きさを実感させられる言葉を、ジョニィさんは俺にかけてくれる。そして彼の背後を残る三人も付いて進む。
『夜明けの陽』の行進────その悠然たる立ち振る舞いに、俺は視線を奪われ、ただ立ち尽くし、その後ろ姿を見送ることしかできない。
と、その時。先頭のジョニィさんが不意に立ち止まり。そして何を思ったか俺の方を振り向いた。
「坊主。ひょっとしなくても、『大翼の不死鳥』の冒険者志望なのか?」
一体どうしてそんなことを訊くのだろうかと、一瞬思いつつも。俺は即座に頷き、返事する。
「は、はい!その通りです!」
「ほう。やっぱりそうか」
俺の返事を聞いたジョニィさんは顎に手をやり、少し考え込むような態度を見せる。そんな彼に、セイラさんが胡乱げに声をかける。
「そんなこと、あの子に聞いてどうするの隊長?」
しかしジョニィさんはセイラさんの方に顔を向けず、俺の方を向いたまま、まるで妙案を思いついたかのような声音で、彼はこう言う。
「来な。これも何かしらの縁……このジョニィ=サンライズさんがお前さんのことをGMに紹介してやろうじゃねえか」
「…………え?」
ジョニィさんの言葉に対して、俺はそんな間の抜けた声しか返せなかった。
『大翼の不死鳥』の扉を押し開き、その先に広がっていた光景を目にした俺の第一声は。そんな言葉にならない、驚きと嬉しさが絶妙に入り混じる、感極まったものだった。
『大翼の不死鳥』広間には、それはもう大勢の偉大なる先駆者たち────冒険者がいた。
椅子に座り料理や酒を飲み食らう者、受けた依頼の成果を自慢し合う者、依頼表の前に立ち、受ける依頼を吟味している者────それらの光景こそ、間違いなく。俺が子供の頃から思い描き、そして想い馳せていたものに相違ない。
ついこの前に二十歳を迎えたばかりの俺だが、まるで子供のように胸が躍る。童心に帰ってしまって、憧れが止められなくて……自分でも怖いくらいにワクワクしている。
そうして、ようやく。俺はようやっと自覚する。自分は、来たのだと。夢の為の、目標の為の、憧れの為の。その足がかりへ今踏み出さんとしているのだと。
──遂に、遂にだ……!
直後、堪らずその場で跳ねてしまいそうになった自分をどうにか抑え、とりあえず冷静になり平常心を保とうとその場で立ち尽くす────その時であった。
「よおそこの坊主。そんなとこに突っ立ってられちゃあ、通れないんだが?」
不意にそんな声が背後からかけられたかと思うと、同時に背中を軽く叩かれる。
「す、すみませ……っ」
慌てて振り返り、謝罪をしようとした俺は。あろうことかそれを途中で止めてしまい、為す術もなく衝撃に面食らってしまう。
俺の背後に立っていたのは、柑橘系の果物である黄柑実を彷彿とさせる、明るい橙色の髪と。それと同じ色をした瞳が特徴的な長身の男性。だいぶ長い間着込まれたことが窺える外套の、破り裂かれたようにボロボロになった裾と袖をユラユラとはためかせるその人は、俺に対して飄々とした笑顔を送っていた。
本来ならばすぐにでもその場から退かなければならなかった俺だったが、不覚にもそうすることができないでいた。何故ならば、その見知った男の顔に対して、俺はただその場で固まる他なかった。
だが、そんな身体に反して頭は変に冷静で。冴えた思考の末に俺は、呆然とその名を口から零した。
「冒険隊、『夜明けの陽』隊長……ジョニィ=サンライズ……さんッ!!」
「お?ああ、そうだぜ。俺こそ『大翼の不死鳥』最強の……って言っても今や冒険隊に限っての話なんだが。『夜明けの陽』の隊長をやらせてもらってる、ジョニィ=サンライズだ」
そう、この人こそ『大翼の不死鳥』最強にして、冒険者番付表第五十位の冒険隊、『夜明けの陽』の隊長。残る三人の隊員である《S》冒険者を率い先導している、《S》冒険者────ジョニィ=サンライズ。『夜明けの陽』としても勿論のことだが、個人での依頼、それも高難易度のものを数多く達成した実績を誇る、文句なしの手放しで尊敬するに値する冒険者の一人だ。
齢一桁の頃にこれでもかと読み込んだ、冒険者専門雑誌──『冒険人生』にも何度か取り上げられていたし、俺はそれら全ての内容を把握している。少し違えば、俺の夢。俺の目標。俺の憧れ。その全部がこの人に対して向けられていたかもしれない。……まあ、申し訳のないことに、実際のところはそうではないのだが。
しかし、そうは言ってもジョニィさんも尊敬する冒険者の一人には違いなく。なので当然、そんな彼との思いもよらない対面に、驚愕と衝撃、そして緊張などない訳もなく。今し方邪魔だと言われたというのに、俺は未だその場から微動だにすることもできないでいた。
「おいおい、また固まっちまった」
と、困ったようにジョニィさんがそう呟き。彼の呟きに辛うじて我に返った俺は、慌てながら急いで彼の前から退く────その直前。
「おいジョニィ!んなとこでぼさっと突っ立ってんじゃねえよ!俺たちが中に入れねえじゃあねえか!なあ、ロックスッ!セイラッ!?」
「そうですぜジョニィの兄貴。普段からアンタのことを敬っている俺ですが、そんなことをされちゃあそれも薄れるってもんですわ」
「そうそう、二人のの言う通りだよ隊長。はっきり言って、邪魔だよ」
俺に行く手を塞がれ、立ち止まらざるを得ないでいたジョニィさんの背後から。二人の男と一人の女、合計三人の。辛辣な言葉が口々にかけられた。だがそこに悪意の類など、微塵も込められてなどおらず。言うなればそれは冗談のようだった。
それらの言葉に対して、堪ったものではないという風に。ジョニィさんが即座に振り返って言う。
「ぎゃあぎゃあ煩えなお前らッ!俺だって好きで馬鹿みたいに突っ立ってる訳じゃねえんだよ。道を塞がれてんだよ!道を!」
「ああッ!?だったらそうだって早く言えよッ!なあ、ロックスッ!?セイラッ!?」
「そうですぜジョニィの兄貴。何せ人ってのは、誤解させたらその時点でもう駄目なんですから」
「そうだよ。二人の……いや、この場合はロックスの言う通りか。うん。……こほん、そうだよ。ロックスの言う通りだよ、隊長。貴方は既に私たちに敗北しちゃってるんだよ」
「はあッ!?そりゃあいくら何でも理不尽が過ぎるってモンだろッ!!」
……と、周囲の空気と視線などお構いなしに。俺の目の前で口論を繰り広げる『夜明けの陽』の面々。遅れて、俺はさらなる驚愕と衝撃を受け、その上で今目の前にあるこの光景を、確かな現実を。到底信じられないでいた。
それもそうだろう。今日、それも初めて訪れたばかりの『大翼の不死鳥』にて。その最強の冒険隊の面子が勢揃いしているのだから。
短く切り揃えられた茶髪の、全体的に軽装をしている男性はロックス=ガンヴィルさん。『夜明けの陽』の副隊長を務めており、ジョニィさんとは幼馴染らしい。
先程から喧し……否、一番の声量を誇る緑髪の男性はベンド=ヴェンドーさん。ロックスさんとは違い、黒い重鎧を着込んだ姿から見て取れるように、彼は『夜明けの陽』の盾役を担当している。
残る最後の一人、紗酸実を彷彿とさせる薄黄色の髪を、背中半分を覆う程度にまで伸ばした女性はセイラ=ネルリィア。彼女もその格好から、『夜明けの陽』にてどの役割を担っているのか判断でき、それではどんな服装をしているのかというと。この世界において唯一無二にして絶対の宗教────『創世教』。その修道服である。
神父や修道女が冒険者をしている────それが指し示すことは、ただ一つ。つまりその者は『創世教』が認めた、教会公認の回復職ということ。
俺が知っている限りでは、教会の公認なしでは回復職を名乗ることは決して許されず、それと同時に神父や修道女でない者────つまりは無宗派の無神論者では回復職になることができず。そして回復職以外が回復魔法の行使及び習得することは、この世界に存在する全ての冒険者組合を統括管理している絶対機関────『世界冒険者組合』が禁止している。……たった一人の、唯一のとある例外を除いて。
仮にもし公認を得ないで回復職であること、そして神父や修道女でない者が宣った場合、たとえそれが冗談であったとしても、神父や修道女は有無を言わさず教会から永久追放され、その上冒険者の資格も直ちに剥奪、今後一切の復帰を禁じられてしまう。そうではない者も後者と同じように罰せられる。それ程までに重大な規律であり、それ故に公認を得ることも困難を極める。
具体的にどれくらいなのかというと、今現在『創世教』公認の回復職は全大陸、神父と修道女を含めても百人に満たない程である。
セイラさんはそんな『創世教』お抱えの、数少ない貴重な人材たる回復職の一人であり。しかし、俺の記憶の中にある教会指定の修道服と、今彼女が着ている修道服はどうにも一致しないでいた。
それもそのはず、何せセイラさんの修道服は────改造を施されていたのだ。それも結構、大胆な。
一応ではあるが、大まかな構造自体は流石に遵守されている。しかし、あくまでもただそれだけのことで。大まかではない細やかな部分の全てにはセイラさん独自の細工が入っている。
まず、第一にその胸元。ここが一番わかりやすく、そして一番目につく。何故ならば、セイラさんが着るその改造修道服の胸元は大きく開かれ、おっ広げにこれでもかと。母性の象徴たるその豊かな膨らみを、惜しみなく恥ずかしげもなく露出させていたのだから。そして彼女が敬虔な『創世教』の修道女であることを示す、チェーンペンダントにされ首から下げられた、白銀の十字架がその上に乗せられていた。
そして第二に切り込み。これも本来であればないはずのものだが、セイラさんはそこにも手をつけており。足の全ては勿論のこと、太腿はおろか腰の辺りにまで切り込みが入れられていた。
なので当然、その隙間から見事な脚線美を描く足に、むちっとした太腿、鼠蹊部の線まで見えてしまっている腰。その全てが外気に晒されている。……これは果たして言うべきなのか否なのか、その判断に若干の迷いはあるものの。一応、一応補足として付け加えると。
腰の部分が露出しているにも関わらず、驚くべきことに……下着らしき布が一切見当たらない。
いやまあ、そこまで切り込みを入れてしまっている関係上、もし穿いていたら必然的にそれが見えてしまうのだから、まあ。この場合は仕方ないというか、うん。
それはともかく。他にまだ細工がされているが、それを一々説明していると切りがないので、セイラさんの改造修道服についての説明はここまでとする。……しかし実はこれ、特に問題はない。
何故かと言うと。回復職は歴とした冒険者でもある。なので当然数々の依頼を受けて、活動する訳で。そしてその多くは魔物の討伐や、悪人の捕縛、護衛等であり。そこにどうしても戦闘という行為が発生する。
お世辞にも『創世教』の修道服は戦闘に向いているとは言えず、なので回復職たちには特権として戦い易くする為、基本的な構造を崩さない範疇内で、セイラさんのように自らの修道服に手を加えることを許されているのだ。当然この特権は回復職だけのものであり、回復職でない神父や修道女が修道服を改造した場合、厳罰に処される。
……しかし、セイラさんの場合はあまりにも大胆というか全体的に肌色の露出が多いというか。とにかく、視線のやり場に困ってしまう。
ともあれ、見ての通り今ここには『夜明けの陽』の面々が集結している。それも、俺の目の前で。こんな奇跡のような状況に出くわせてしまうなんて、『大翼の不死鳥』所属の冒険者であればともかく、俺はついぞ思いもしていなかった。
「あッ!?おいッ!誰かジョニィの目の前に突っ立ってんじゃねえかッ!!誰だぁお前ッ!?」
「ん?お、本当だ」
「へえ。初めて見る顔だよ」
固まっている俺の存在に気づき、三人がジョニィさん越しに声をかけてくる。それらの声に今一度我に返った俺は、今度こそその場から即座に退き、大慌ててで『夜明けの陽』全員に対して頭を深々と下げた。
「す、すみませんっ!み、道を遮ってしまって……!」
「別に構わねえよ。お前さんに襲われた訳でもあるまいし」
言いながら、僕が前から退いたことでようやっと。その場から歩き出しながら、隊長としての器の大きさを実感させられる言葉を、ジョニィさんは俺にかけてくれる。そして彼の背後を残る三人も付いて進む。
『夜明けの陽』の行進────その悠然たる立ち振る舞いに、俺は視線を奪われ、ただ立ち尽くし、その後ろ姿を見送ることしかできない。
と、その時。先頭のジョニィさんが不意に立ち止まり。そして何を思ったか俺の方を振り向いた。
「坊主。ひょっとしなくても、『大翼の不死鳥』の冒険者志望なのか?」
一体どうしてそんなことを訊くのだろうかと、一瞬思いつつも。俺は即座に頷き、返事する。
「は、はい!その通りです!」
「ほう。やっぱりそうか」
俺の返事を聞いたジョニィさんは顎に手をやり、少し考え込むような態度を見せる。そんな彼に、セイラさんが胡乱げに声をかける。
「そんなこと、あの子に聞いてどうするの隊長?」
しかしジョニィさんはセイラさんの方に顔を向けず、俺の方を向いたまま、まるで妙案を思いついたかのような声音で、彼はこう言う。
「来な。これも何かしらの縁……このジョニィ=サンライズさんがお前さんのことをGMに紹介してやろうじゃねえか」
「…………え?」
ジョニィさんの言葉に対して、俺はそんな間の抜けた声しか返せなかった。
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