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RESTART──先輩と後輩──
狂源追想(その四)
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「魔物からだけではなく、街まで送ってもらって本当にありがとうございました」
「別に構わない。俺は、俺がしたいことをただしただけだ」
俺の背中から街道の石畳に降ろされた女性は、そう言ってすぐさまその頭を深々と下げて。それに対し俺は気取った答えで返す。……まあ少なくとも他人からすればそう思えるだけで、俺自身は本当にその通りなのだが。
「したいことを、ただしただけ……ですか?」
という、俺の言葉を口に出して反芻させ、女性は不思議そうな表情を俺に向ける。そんな彼女に対して、俺はややぶっきらぼうにこう言った。
「ああ。じゃあ、俺はもう行く。次からは気をつけろよ」
そして女性に背を向け、石畳を踏み締める────直前。
「まっ、待ってください!」
と、俺のことを女性は呼び止めた。まだ何かあるのかと、そう思って振り返った俺に、彼女は言う。
「じ、実は私、あんな風に助けられたのは初めてじゃないんです。あれで二度目、なんです」
「二度目……?」
急に一体何を言い出しているのか、そんな思いを込め訝しんだ俺の呟きを。女性はあくまでも冷静に受け止め、その上で彼女は俺に言う。
「私はシャーロット。気軽にシャロとお呼びください」
「……」
俺は、すぐには言葉を返さず。数秒の間を開けてから、口を開いた。
「俺はライザー。……よろしくな、シャロ」
「はい。こちらこそです、ライザー様」
そうして俺と女性──シャーロット改めシャロは数秒その場で見つめ合い、そして互いに背を向けて、その場を後にする。
──あんな風に助けられるのは、二度目……か。
しかしそうする最中、俺はシャロが言っていたことを頭の中で反芻させて、記憶の片隅からとある言葉を引っ張り出していた。
『今から十数年前に、お前と同じように魔狼に襲われていた子供を助けたこともあるんだ』
──……まさか、な。
それはいつかの日に、酒を飲み上機嫌になっていたシュトゥルムさんが俺に語ってくれた。己の昔話の一つ。あの人は己の昔を滅多には語らなかったから、その珍しさ故に印象に残り、よく覚えていた。しかし、俺はその可能性のついてすぐさま否定する。
自分の師匠が過去に助けた人物を、その弟子がまた助けた────浪漫に満ち溢れる展開ではあるが、あまりにも非現実的だ。絶対にないとは言い切れないが、しかし俺はシュトゥルムさんが助けたというその子供の名前はおろか、男か女かすらも知らない。シュトゥルムさんは俺にそこまでは教えてくれなかった。
それに加えて、十数年という決して短くはない年月が過ぎてしまっているのだ。今ではもうその子供────否、成長し大人となっているだろうその人を、意図的になって捜し出すことですら困難を極めるというのに。
──シャーロット……シャロ、か。
行き交う人たちに注意を払い、街道を歩きながら俺はシャーロット────シャロの名を確かめるように、心の中でそっと呟く。
旅路の途中、それも目的地である街を目前にした森の中で。魔物に襲われているところを目撃し、そして助け出した────という。
およそ人と人が出会うには望まれない状況下で、俺と彼女は出会った。
当然のことではあるが、あんな出会い方を果たした女性は、シャロが初めてだ。そしてあんな風に交流した女性も、彼女が初めてだ。
「…………」
自分の知らない高揚感に、己の心が包まれていることを、俺は自覚する。異性に対してこんなことを思うのも、シャロが初めてだった。
果たしてこれは、一体どんな感情なのか────今の自分では未だ、到底わかりそうにもない。そして、理解できそうにもない。
──……まあ、これからオールティアにしばらく住むんだ。住む前に、顔馴染みが一人できたと思えばいいか。とにかく今はそれで、いいや。
そうして俺は一旦それのことに対する思考を切り上げ、周囲を────この街の風景を見渡す。
ファース大陸、モノ王国。この大陸、その国に数多く存在する街の中でも、一番と言われる活気と賑わいで溢れているこの街の名こそ、オールティア。モノ王国どころかファース大陸中の経済を回す街であり、それが間違いのない歴とした事実であることを俺は認識した。
これまでの旅路で、俺は少なくはない数の街を訪れた。だからこそ、こう言える。
──良い街だ。
年に一度、ファース大陸中の国から名品逸品、由緒正しきから笑えない冗談抜きの曰く付きまで。とにかく多種多様に渡る品物という品物が集められ、それら全てを制限一切なしの、正真正銘金さえあれば誰であろうと競り落とすことが可能な、大規模な競売────『出品祭』がこの街で開催されるというのも納得がいく。
だが、あくまでも俺の目的はこの街自体などではない。正確には、この街に居を構える冒険者組合だ。
その冒険者組合があったからこそ、このオールティアはここまでの成長を遂げることができたと言っても過言ではない。それ程の確かな実績と功績が、その冒険者組合にはある。
街の住人に実際の場所を訊ね、俺は進んだ。そしてとうとう────その時は来た。
「……やっと。やっとだな」
今日という日に至るまで、十四年。長かった。本当の本当に、長かった。だがそれも、ようやく一つの節目を迎えることになる。
その節目を機に、俺の夢は。俺の目標は。俺の憧れは。一気に加速するのだ。
夢を叶える為に。目標を達成する為に。憧れを現実にする為に。俺は今こそ、歩き出す。
否応にも高鳴る心臓の鼓動を感じながら、身体の奥底から沸き上がる歓喜に弾けてしまいそうになりながら。そうして、俺は。
いよいよその門を──────冒険者組合『大翼の不死鳥』の門を抜け、その扉を押し開いた。
「別に構わない。俺は、俺がしたいことをただしただけだ」
俺の背中から街道の石畳に降ろされた女性は、そう言ってすぐさまその頭を深々と下げて。それに対し俺は気取った答えで返す。……まあ少なくとも他人からすればそう思えるだけで、俺自身は本当にその通りなのだが。
「したいことを、ただしただけ……ですか?」
という、俺の言葉を口に出して反芻させ、女性は不思議そうな表情を俺に向ける。そんな彼女に対して、俺はややぶっきらぼうにこう言った。
「ああ。じゃあ、俺はもう行く。次からは気をつけろよ」
そして女性に背を向け、石畳を踏み締める────直前。
「まっ、待ってください!」
と、俺のことを女性は呼び止めた。まだ何かあるのかと、そう思って振り返った俺に、彼女は言う。
「じ、実は私、あんな風に助けられたのは初めてじゃないんです。あれで二度目、なんです」
「二度目……?」
急に一体何を言い出しているのか、そんな思いを込め訝しんだ俺の呟きを。女性はあくまでも冷静に受け止め、その上で彼女は俺に言う。
「私はシャーロット。気軽にシャロとお呼びください」
「……」
俺は、すぐには言葉を返さず。数秒の間を開けてから、口を開いた。
「俺はライザー。……よろしくな、シャロ」
「はい。こちらこそです、ライザー様」
そうして俺と女性──シャーロット改めシャロは数秒その場で見つめ合い、そして互いに背を向けて、その場を後にする。
──あんな風に助けられるのは、二度目……か。
しかしそうする最中、俺はシャロが言っていたことを頭の中で反芻させて、記憶の片隅からとある言葉を引っ張り出していた。
『今から十数年前に、お前と同じように魔狼に襲われていた子供を助けたこともあるんだ』
──……まさか、な。
それはいつかの日に、酒を飲み上機嫌になっていたシュトゥルムさんが俺に語ってくれた。己の昔話の一つ。あの人は己の昔を滅多には語らなかったから、その珍しさ故に印象に残り、よく覚えていた。しかし、俺はその可能性のついてすぐさま否定する。
自分の師匠が過去に助けた人物を、その弟子がまた助けた────浪漫に満ち溢れる展開ではあるが、あまりにも非現実的だ。絶対にないとは言い切れないが、しかし俺はシュトゥルムさんが助けたというその子供の名前はおろか、男か女かすらも知らない。シュトゥルムさんは俺にそこまでは教えてくれなかった。
それに加えて、十数年という決して短くはない年月が過ぎてしまっているのだ。今ではもうその子供────否、成長し大人となっているだろうその人を、意図的になって捜し出すことですら困難を極めるというのに。
──シャーロット……シャロ、か。
行き交う人たちに注意を払い、街道を歩きながら俺はシャーロット────シャロの名を確かめるように、心の中でそっと呟く。
旅路の途中、それも目的地である街を目前にした森の中で。魔物に襲われているところを目撃し、そして助け出した────という。
およそ人と人が出会うには望まれない状況下で、俺と彼女は出会った。
当然のことではあるが、あんな出会い方を果たした女性は、シャロが初めてだ。そしてあんな風に交流した女性も、彼女が初めてだ。
「…………」
自分の知らない高揚感に、己の心が包まれていることを、俺は自覚する。異性に対してこんなことを思うのも、シャロが初めてだった。
果たしてこれは、一体どんな感情なのか────今の自分では未だ、到底わかりそうにもない。そして、理解できそうにもない。
──……まあ、これからオールティアにしばらく住むんだ。住む前に、顔馴染みが一人できたと思えばいいか。とにかく今はそれで、いいや。
そうして俺は一旦それのことに対する思考を切り上げ、周囲を────この街の風景を見渡す。
ファース大陸、モノ王国。この大陸、その国に数多く存在する街の中でも、一番と言われる活気と賑わいで溢れているこの街の名こそ、オールティア。モノ王国どころかファース大陸中の経済を回す街であり、それが間違いのない歴とした事実であることを俺は認識した。
これまでの旅路で、俺は少なくはない数の街を訪れた。だからこそ、こう言える。
──良い街だ。
年に一度、ファース大陸中の国から名品逸品、由緒正しきから笑えない冗談抜きの曰く付きまで。とにかく多種多様に渡る品物という品物が集められ、それら全てを制限一切なしの、正真正銘金さえあれば誰であろうと競り落とすことが可能な、大規模な競売────『出品祭』がこの街で開催されるというのも納得がいく。
だが、あくまでも俺の目的はこの街自体などではない。正確には、この街に居を構える冒険者組合だ。
その冒険者組合があったからこそ、このオールティアはここまでの成長を遂げることができたと言っても過言ではない。それ程の確かな実績と功績が、その冒険者組合にはある。
街の住人に実際の場所を訊ね、俺は進んだ。そしてとうとう────その時は来た。
「……やっと。やっとだな」
今日という日に至るまで、十四年。長かった。本当の本当に、長かった。だがそれも、ようやく一つの節目を迎えることになる。
その節目を機に、俺の夢は。俺の目標は。俺の憧れは。一気に加速するのだ。
夢を叶える為に。目標を達成する為に。憧れを現実にする為に。俺は今こそ、歩き出す。
否応にも高鳴る心臓の鼓動を感じながら、身体の奥底から沸き上がる歓喜に弾けてしまいそうになりながら。そうして、俺は。
いよいよその門を──────冒険者組合『大翼の不死鳥』の門を抜け、その扉を押し開いた。
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