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RESTART──先輩と後輩──
希少な魔石と不吉な占い
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アルヴスさんが持ってきたそれは、一見すると何の変哲のない、ただの鉄塊のように思える。しかし、その独特な光沢や質感がそうではないとこちらに訴えてくる。僕はその鉄塊擬きを眺めて、ふと気づき呟いた。
「まさかこれ、『魔石』……ですか?」
「流石は《S》冒険者ご明察だ。そう、一見鉄の塊にしか見えんこれも魔石の一種なんだが、その中でも珍しい希少な逸品だぜ」
「まあ、確かに初めて見るものですけど……」
魔石────簡単に言えば、その名の通り空気中などの魔力が集まり、石のような塊となった物。主に洞窟の奥や潤沢な魔力が漂う特定の鉱山からしか採掘することはできない。
魔石には様々な用途があり、基本的なものは魔力の代用などである。他にも『魔法都市』マジリカで売られている魔石は特殊な加工を施しており、砕くとその石に応じた魔法が発動するようにもなっているらしい。
「聞いて驚けよこの魔石はな………何と、武器になるんだ」
「え……武器になるんですか?その魔石が?」
堪らず口から出た僕の困惑の声を聞き、得意げな表情のままアルヴスさんが頷く。
「おう。何でも話によるとだな、手に持った者の魔力を注ぐことによって、ソイツに合った最適の武器になる────らしいんだよな、これが」
「……らしいって」
正直言って、アルヴスさんの言葉は胡散臭かった。そもそも武器に変形する魔石など、見たこともなければ聞いたことすらない。
しかし、この男は商売関係の話で嘘を吐くような人物でないこともわかっていた。
……わかってはいるのだが、それでも彼に対して胡乱げな視線を向けられずにはいられない。
「……おいおい、そんな目で見んじゃねえよ。言っとくがコイツはモノホンの代物だぜ?今魔法都市にいる商売仲間に直接取引して仕入れたんだからな」
「別に疑ってなんかいませんよ」
──まあ、それがその魔石が本物だっていう証明にはなりませんけどね。もしかするとその商売仲間に騙されたかもしれませんし……。
口で否定しながら、心の中ではついそうと思ってしまう僕。しかし、最適な武器……もしそれが本当なら、悪くはない選択肢の一つである。
「一応尋ねますけど、値段は幾ら何ですか?その魔石」
「百五十万Orsだ。当然、前払いでな」
「…………百五十万Orsですか」
《A》ランク依頼数回分の金額である。そんな大金があれば、上等な剣の三、四本は買えるだろう。
しかし、とてもじゃないがこんな得体の知れない魔石に対してつけるような値段ではない。
それに前払いとなると……。
「効果は買ってから試せ、ということで?」
「おう。ソイツに合った武器になっちまうからな」
あまり、食指は動かなかった。しかし、先輩に合わない武器を買ってもそれこそ無駄になるだろう。
僕はその場で悩んだ末────そっと、魔法を発動させた。展開された魔法陣に、己の手を押し当てる。
すると、少し経ってから三枚の大金貨がカウンターに落下してきた。
「毎度あり~」
アルヴスはその金貨をすぐさま回収すると、僕にその魔石を手渡してくる。持ってみた感じ、他の魔石とはそう変わりはないように思える。
「これで偽物とかでしたら、覚悟しておいてくださいね」
「ああ、覚悟しておくさ」
魔石を持って、僕は踵を返す────直前、アルヴス呼び止められた。
「おっと待ちなウインドア。せっかくだから今日から始めることにした素敵なサービスをさせてくれよ」
「サービス?」
振り返ってみると、アルヴスはカウンターの下から台座に嵌められた水晶玉を取り出していた。
「……何なんです、それ?」
「よくぞ聞いてくれた。これはな、誰でもお手軽に占いができてしまう魔法の水晶玉だ」
──嘘臭っ。
そう思ったが、心の中に押し留めた。
「占い、ですか」
「おう!やり方は簡単、占うヤツの魔力をこれに注ぐだけ!するとこの水晶玉の色が変わるから、それで占えるって訳よ。その日の運勢恋愛楽しいこと嬉しいことなんでも占えちゃうのよねコレが」
──ますますもって、嘘臭い……。
アルヴスさんが、僕に対して訴えかけるような眼差しを向けてくる。こう、本能的に苛立ちが増してくる、そんな眼差しを。
……正直、占いなど別にしてもらわなくて結構なのだが。しかし先程助け舟を出してくれた恩もあることだし、ここは乗ることにしよう。
そう思いつつ、僕は嘆息しながら再びカウンターの方に近づいた。
「わかりましたよ。えっと……とりあえず、僕の魔力を注げばいいんですよね?」
「それでこそ《S》冒険者!よっ、この街一番の冒険者様!」
「世辞はいりませんから」
言いながら、仕方なく僕はその水晶玉に触れる。そして水を注ぐようなイメージで魔力を伝せる。すると、透明だった水晶玉の内部が渦巻いて、七色に輝き出した。
そして数秒後────水晶玉は、濃く黒い暗色に落ち着いた。
「「…………」」
僕と、アルヴスさんの間で沈黙が流れる。その色は、誰がどう見ても金運だとか恋愛だとかを示唆するものではないということは明白であった。
そしてようやっと、この沈黙をアルヴスさんが破った。
「あー……その、だな。落ち着いて聞いてくれないかウインドア」
「……はい。何です?」
きっとろくでもない結果を聞かされるのだろうと、半ば諦めたように僕がそう言い返すと。アルヴスさんは僅かに躊躇いながらも、続きを話した。
「お前、ここ数日の間に死ぬかも」
「へえー……こんな石っころが、本当に武器になんのか?」
「はい。なる……らしいですよ。話に聞いた限りだと」
変わらず日常通りの喧騒を繰り広げる、この街の街路を、僕はいつの間にか機嫌を直していた先輩と並んで歩く。
物珍しそうに手に持った魔石を眺める先輩の横で、僕は密かに思っていた。
──もう、あの店にはしばらく近づかないようにしよう。
「まさかこれ、『魔石』……ですか?」
「流石は《S》冒険者ご明察だ。そう、一見鉄の塊にしか見えんこれも魔石の一種なんだが、その中でも珍しい希少な逸品だぜ」
「まあ、確かに初めて見るものですけど……」
魔石────簡単に言えば、その名の通り空気中などの魔力が集まり、石のような塊となった物。主に洞窟の奥や潤沢な魔力が漂う特定の鉱山からしか採掘することはできない。
魔石には様々な用途があり、基本的なものは魔力の代用などである。他にも『魔法都市』マジリカで売られている魔石は特殊な加工を施しており、砕くとその石に応じた魔法が発動するようにもなっているらしい。
「聞いて驚けよこの魔石はな………何と、武器になるんだ」
「え……武器になるんですか?その魔石が?」
堪らず口から出た僕の困惑の声を聞き、得意げな表情のままアルヴスさんが頷く。
「おう。何でも話によるとだな、手に持った者の魔力を注ぐことによって、ソイツに合った最適の武器になる────らしいんだよな、これが」
「……らしいって」
正直言って、アルヴスさんの言葉は胡散臭かった。そもそも武器に変形する魔石など、見たこともなければ聞いたことすらない。
しかし、この男は商売関係の話で嘘を吐くような人物でないこともわかっていた。
……わかってはいるのだが、それでも彼に対して胡乱げな視線を向けられずにはいられない。
「……おいおい、そんな目で見んじゃねえよ。言っとくがコイツはモノホンの代物だぜ?今魔法都市にいる商売仲間に直接取引して仕入れたんだからな」
「別に疑ってなんかいませんよ」
──まあ、それがその魔石が本物だっていう証明にはなりませんけどね。もしかするとその商売仲間に騙されたかもしれませんし……。
口で否定しながら、心の中ではついそうと思ってしまう僕。しかし、最適な武器……もしそれが本当なら、悪くはない選択肢の一つである。
「一応尋ねますけど、値段は幾ら何ですか?その魔石」
「百五十万Orsだ。当然、前払いでな」
「…………百五十万Orsですか」
《A》ランク依頼数回分の金額である。そんな大金があれば、上等な剣の三、四本は買えるだろう。
しかし、とてもじゃないがこんな得体の知れない魔石に対してつけるような値段ではない。
それに前払いとなると……。
「効果は買ってから試せ、ということで?」
「おう。ソイツに合った武器になっちまうからな」
あまり、食指は動かなかった。しかし、先輩に合わない武器を買ってもそれこそ無駄になるだろう。
僕はその場で悩んだ末────そっと、魔法を発動させた。展開された魔法陣に、己の手を押し当てる。
すると、少し経ってから三枚の大金貨がカウンターに落下してきた。
「毎度あり~」
アルヴスはその金貨をすぐさま回収すると、僕にその魔石を手渡してくる。持ってみた感じ、他の魔石とはそう変わりはないように思える。
「これで偽物とかでしたら、覚悟しておいてくださいね」
「ああ、覚悟しておくさ」
魔石を持って、僕は踵を返す────直前、アルヴス呼び止められた。
「おっと待ちなウインドア。せっかくだから今日から始めることにした素敵なサービスをさせてくれよ」
「サービス?」
振り返ってみると、アルヴスはカウンターの下から台座に嵌められた水晶玉を取り出していた。
「……何なんです、それ?」
「よくぞ聞いてくれた。これはな、誰でもお手軽に占いができてしまう魔法の水晶玉だ」
──嘘臭っ。
そう思ったが、心の中に押し留めた。
「占い、ですか」
「おう!やり方は簡単、占うヤツの魔力をこれに注ぐだけ!するとこの水晶玉の色が変わるから、それで占えるって訳よ。その日の運勢恋愛楽しいこと嬉しいことなんでも占えちゃうのよねコレが」
──ますますもって、嘘臭い……。
アルヴスさんが、僕に対して訴えかけるような眼差しを向けてくる。こう、本能的に苛立ちが増してくる、そんな眼差しを。
……正直、占いなど別にしてもらわなくて結構なのだが。しかし先程助け舟を出してくれた恩もあることだし、ここは乗ることにしよう。
そう思いつつ、僕は嘆息しながら再びカウンターの方に近づいた。
「わかりましたよ。えっと……とりあえず、僕の魔力を注げばいいんですよね?」
「それでこそ《S》冒険者!よっ、この街一番の冒険者様!」
「世辞はいりませんから」
言いながら、仕方なく僕はその水晶玉に触れる。そして水を注ぐようなイメージで魔力を伝せる。すると、透明だった水晶玉の内部が渦巻いて、七色に輝き出した。
そして数秒後────水晶玉は、濃く黒い暗色に落ち着いた。
「「…………」」
僕と、アルヴスさんの間で沈黙が流れる。その色は、誰がどう見ても金運だとか恋愛だとかを示唆するものではないということは明白であった。
そしてようやっと、この沈黙をアルヴスさんが破った。
「あー……その、だな。落ち着いて聞いてくれないかウインドア」
「……はい。何です?」
きっとろくでもない結果を聞かされるのだろうと、半ば諦めたように僕がそう言い返すと。アルヴスさんは僅かに躊躇いながらも、続きを話した。
「お前、ここ数日の間に死ぬかも」
「へえー……こんな石っころが、本当に武器になんのか?」
「はい。なる……らしいですよ。話に聞いた限りだと」
変わらず日常通りの喧騒を繰り広げる、この街の街路を、僕はいつの間にか機嫌を直していた先輩と並んで歩く。
物珍しそうに手に持った魔石を眺める先輩の横で、僕は密かに思っていた。
──もう、あの店にはしばらく近づかないようにしよう。
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