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RESTART──先輩と後輩──

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 ──さて、どうしよう。

 皿を洗いながら、僕は独り考え事に耽っていた。当然、先輩に関してのことだ。

 ……まあ、結論だけ先に述べるなら。僕と先輩は今日から

 とりあえず。まずはとりあえず、僕の言い分を聞いてほしい。いや、誰に対しての言い分なのかは僕自身もわからないが……。

 とにかく、こうして独り言でも言わなければ落ち着いていられないというか。緊張感やら罪悪感やらで押し潰されそうになってしまうというか。

 先輩は一人暮らしでアパートに住んでいたが、やむを得ない事情によりアパートに帰れず、宿に泊まろうにも今からでは流石に無理がある訳で。

 そして、今後についての諸々をこれから僕と定期的に相談するのであれば、もういっそのこと一緒に暮らしてしまった方が手っ取り早く楽なのでは────と、食事の席で僕が先輩にそう提案してしまったのだ。

 くれぐれも誤解しないでほしい。別に下心等があった訳ではない。……ただ、その場の気まずく重い、正に暗澹とした空気に僕がとうとう堪えられなくなり、何とかそれを変えようと、そしてできるだけ長く続けられるような話題を思案した末の、苦し紛れの結果なのだ。

 そんな僕の我が身勝手さで出した提案を、先輩は──────



「良いな、それ。んじゃあ今日から世話になるぜ、クラハ」



 ──────と、まあ何とも言えない気軽さで了承してしまった。

「…………」

 自分で蒔いた種だ。今さら退こうとも考えないし、思わない。そもそも先輩にああ言ってしまった手前、やっぱり止めましょうなんて口が裂けても言えない。言える訳がない。

 ……だが、それでも。それでもだ。

 先輩との同棲。いやまあ、せめて先輩が男のままであったのなら、別段何も問題はなかっただろうが────今、先輩は女の子になってしまっている。

 恐らく、道を歩けばすれ違う男たちがこぞって振り返ってしまうような、そんな『女』に成長する将来性を有した美少女に、されてしまっている。

 そんな先輩と同棲。そんな先輩と、一つ屋根の下。お互い良い年頃の男女二人きりで、いつ終わるかもわからない程長い間、寝食を共にする。

 そんなの、ふとした拍子でが起きても不思議ではない────そう思った瞬間、僕は頭を横に振った。

 ──いや。いやいや落ち着けクラハ=ウインドア。大丈夫だ何も問題はない。今先輩は女の子になっちゃってるから問題がある訳で、元の男に戻せば問題ないんだ。うん。

 その根拠なんてこれっぽっちもないが、こう、御都合主義的なアレで全部まるっとスルッと解決する。するはず。そうなるはずだ。そしてそうなれば先輩と同棲してても先輩は男だから何も問題はないのだ。ノープロブレムなのだ。

 ゴシゴシ──既に綺麗に洗い終わっている皿を何度もスポンジで擦りながら、言い訳がましく僕は心の中で呟き続ける。

 ──とすると、やはり最優先すべきは性別を戻すこと……けど、それこそ神の奇跡に頼らない限りは……。

 そもそも、この世界の最高神──『創造主神オリジン』が定めた事柄を変えてしまう方法など、それ以外に見当もつかなければ想像もできない。それ程、今回先輩の身に起こったことは異常中の異常事態なのだ。

 下手をすれば、もしかしたらグィンさんに頼まれたことよりも難しい────気がする。

 ──だとしたら、今は先輩の魔力をどうにかする方を考えるべきか……?

 先輩は言っていた。今の自分では魔力があまりにも弱過ぎて、鍵が反応してくれなかったと。

 ……確かに、理由としてはそれが正しいのかもしれないが、何もそれだけではないと僕は考えている。

 鍵が先輩の魔力に反応しなかった別の理由────それは恐らく、元の・・男の身体ではなく、別の・・女の子の身体だから、というのもあるのだろう。

 魔力には、『波長』というものがある。そしてこれは個々によって異なっており、この世界ではその波長を様々なことに利用している。先輩が言っていた鍵などもそうだ。

 今の先輩の身体は、厳密に言えば元の先輩の身体ではない。だから魔力の波長も、微妙に違ってしまっているのではなかろうか。しかしまあ、これもあくまでも僕の簡単な仮説の一つにしか過ぎないが。

 …………そんな理性的な考えで脳内を埋め尽くし、これから年頃?の女の子?と一つ屋根の下でしばらくは暮らすという緊張感やら何やらを、僕は必死に誤魔化していた。

 自慢ではないが、僕は異性経験など全くの皆無だ。

 ──……あれ?

 皿を洗っている中、ふと僕は気づいた。もし、もしだ。僕の仮説が正しいとして、そうなると今の先輩では銀行バンクからお金を────


「クラハー。ちょっといいかー?」


 ────が、僕のその思考は先輩の声に遮られてしまった。皿を拭きながら、半ば無意識に声がした方に振り返ってしまう。

「どうしましたか先輩?何かありましたか?」

 振り返って────僕の頭の中は一瞬で真っ白になった。





「髪洗うの手伝ってくんね?長くてよー、自分じゃ上手く洗えねぇんだ。……ん?どした?そんな面白い顔になって」





 言いながら、先輩が近づいてくる──────一糸纏わぬ、下着すらも上下共に身に付けていない、あられもない全裸姿の先輩が。

 一切羞恥することなく。一切隠そうともせず。むしろまるでこちらに堂々と見せつけるかのように。昼頃、不慮の事故にも近い不本意さで目の当たりにしてしまったその穢れ一つとない肢体が、ゆっくりと近づいて来る。

 先輩が歩く度、うなじから脹脛《ふくらはぎ》を完全に覆い隠すに至るまで、伸ばされた髪が揺れる。燃え盛る炎のように鮮やかなその赤髪が、部屋の灯りに照らされ煌めく。その様が────僕にはこの世のものとは思えない、とても美しい風景に見えた。

「おーい?聞こえてんのかー?」

 視界の映る、先輩の真白な肌が眩しい。それはまるで雪原のように綺麗で。触れずとも滑らかで柔い感触を有しているのだと、容易に想像できてしまう。

「クーラーハー?」

 そして髪を押し上げる、その低い背丈には少々見合わない大きさまでに育った二つの──────

「…………ッ?!!?」

 ──────そこで僕はようやっと、我に返り正気というものを取り戻した。





「服ッ!!先輩服ッ!!!」

「え?は?」

「服ゥゥゥゥ!!!!」
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