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第1部
番外編【帰還後の婚約者たち】3話
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「遅れまして申し訳ございません」
謝罪したのはシアンです。
「いいさ。馬鹿をやったのはナルシスだ。それに、流石のニトたちも旅疲れが出たのだろう」
「え?どういう……」
シアンが補足してくれます。彼らはナルシス様と同じ第三部隊の騎士様で、ニトたちが呼びに行ってくれていたそうです。
きっちり対応済みで、本当に慌てていたのは私だけと言うことですね……なんだか恥ずかしいです。
「いえいえ。団長閣下は内心大慌てでしたよ」
「うるさい。いきなり自害すると騒がれて平静で……」
「そっ!その件についてですが!」
ナルシス様以外の騎士様全員が、私とドリィに向かって口々に叫びます。
「団長閣下とプランティエ職人長のお怒りはごもっともですが、ナルシスにはどうぞ寛大な措置をお願いいたします!自害はあんまりです!」
「そうです!功績もあります!お二人が王都に行っている間の討伐で、ナルシスが大活躍しました!」
「魔獣を十五頭も屠りました!確認も取れています!」
「最初はどうしようもねえ貴族のクソ坊ちゃんでしたが、牢から出た後は真面目に勤めてます!」
「だ、だからその……お二人とも今もお怒りだとは思いますが、許してやってくれませんか?」
「私たちはすでに許していますし、自害も止めようとしていたのですが……。ドリィ?まさか貴方、牢から出た後もなにかしたの?」
ギクっと、肩を揺らして目を逸らすドリィ。
「出発前の訓練で、それなりに鍛えてやっただけだ」
『それなり』という言葉に引きつる皆さま。
「絶対にそれなりではないでしょう。やり過ぎは駄目です」
厳しく訓練するのは理由あってのことだとわかっていますが、私よりもそれを知っている皆様が怯えているのです。
ナルシス様が死を覚悟するだけの苛烈さがあったのでしょう。
「ドリィ、すでに罪を償った方を責めてはいけません。今後は配慮しなさい。わかったわね?」
「んんっ!る、ルティに叱られ……良い……!」
「ドリィ、ふざけないで。何が良いというの?」
「いや、ふざけてはいないよ。わかった。もうしないと君に誓う」
キリッとした顔で誓うドリィ。私とドリィに頭を下げて退出する皆さま。
一応、ナルシス様には「己を卑下するような言動は慎んでください。自害などもってのほかです」と、注意しましたがどこまで聞いて頂けるでしょうか……。
お義父様は苦笑して大丈夫だと言います。
「あの若造は二人、特にルルティーナに忠義を誓っているから言いつけは守るさ。忠義というか信仰に近いみたいだし」
「私を信仰!?なぜです!?」
「そりゃ命の恩がある上に、聖女みたいだからだな」
「え?命の恩というのはわからないでもありませんが、聖女とは?」
「やっぱり自覚なしか。……まあ、あの若造が思い込みが激しいということあるんだろうが」
よくわかりません。そして何故か、その場にいた全員から生暖かい眼差しが送られました。
仕切り直すように、アドリアン様が口を開きます。
「ともかく、もう馬鹿な真似はしないだろう。もしそうなっても同僚たちが止めるから心配ない」
「はい。ナルシス様が周りの方々と上手くいっているようで安心しました」
「ナルシスの過去の過ちは、奴らにとっても他人事ではないだろうからな
辺境騎士団が【あまり者の墓場】などと呼ばれていた理由の一つは、問題のある騎士の更迭に使われていたからだ。それを俺たちで叩き直しているから、ナルシスの事も他人事ではない。むしろ親近感があるのだろう」
さらに補足すると、ナルシス様が所属している部隊は、そういった過去を持つ方が多いのだそうです。
「そういうことでしたか」
納得しつつ、私が知る騎士の皆様は立派な方々ばかりなので現実味がありません。
それだけ、ドリィたちの指導が素晴らしいのでしょう。
たまにやり過ぎているのでは?とは、思いますが。
「ドリィは素晴らしい指導者でもあるのですね。尊敬します」
「っ!ルティ!」
「きゃ!ちょっとドリィ?」
ドリィが私を抱き上げます。いきなりのことで身動きがとれませんでした。
そんな私を愛おしそうに見つめ、ドリィが誓います。
「ルティに誓う。これからは更に奴らを叩き直して躾け……」
「ドリィ、やり過ぎは駄目だといいましたよね?駄目ですからね?あと降ろして下さい」
「……はい」
「手を繋ぐのも無しです」
私は辺境騎士団のこれからのため、しっかり釘を刺したのでした。
「躾が必要なのは団長閣下ですしね」
「だよなあ」
「忠犬になるか駄犬になるか……」
辛辣な言葉を聞きつつ、私たちは居住区域に向かいました。
他の方々にもお声がけを頂いたりと、なかなかすすみませんでしたが。
ともかく、私たちはミゼール城に帰ってきたのです。
◆◆◆◆◆
自室に入って一息ついて、お風呂に入りました。
今夜は久しぶりのミゼール領。お風呂に入ったら着替えて、ドリィとお義母様たちと晩餐会です。
ゆっくりお風呂を楽しんだ後は、シアンたちによる髪と肌の手入れです。様々な花のエッセンスが入った化粧水と香油。全身がしっとりとしていきます。
シアンたちの手つきも、いつも通りとても優しくて……。
「気持ちいい……」
急激に眠くなっていきます。
シアンが優しい声で「今日はもうお休みなさいませ」と、言って寝間着をきせます。
「旅と先ほどの騒動のせいで、お疲れが出たのでしょう」
「やだ……久しぶりの料理長の料理……ドリィとお義父様お義母様と晩餐を頂きたいのに……」
「皆様にはお伝えしておきますから」
「んんん……ねむくない……」
「ルルティーナ様、目が開いてないのに無理がありますよ」
抵抗むなしく、寝台まで運ばれてしまいました。
「皆様とは明日もお会いできます。それに、明日は大宴会ですよ?料理長も腕を振るいます。たくさん寝て体調を整えた方が楽しめますよ」
「大宴会……そうね……たのしみ……シアンたちも、参加するのよね?」
そう。明日から三日三晩の大宴会は無礼講。シアンたち侍女や侍従、衛兵、下働きの皆様も交代で参加するのです。
きっと楽しい時を過ごせるでしょう。
「ふふふ。ええ、もちろん参加させて頂きます。ですから今日はもう、お休みなさいませ」
「うん……シアン……わがまま……ごめん……おやす……み……」
「はい。おやすみなさいませ。ルルティーナ様」
明日への期待でワクワクしながら眠るなんて、とっても幸せね。
なんだか幸せすぎて涙が滲んだのでした。
◆◆◆◆◆
ストックここまでです。次の更新は間が開くかもしれません。
謝罪したのはシアンです。
「いいさ。馬鹿をやったのはナルシスだ。それに、流石のニトたちも旅疲れが出たのだろう」
「え?どういう……」
シアンが補足してくれます。彼らはナルシス様と同じ第三部隊の騎士様で、ニトたちが呼びに行ってくれていたそうです。
きっちり対応済みで、本当に慌てていたのは私だけと言うことですね……なんだか恥ずかしいです。
「いえいえ。団長閣下は内心大慌てでしたよ」
「うるさい。いきなり自害すると騒がれて平静で……」
「そっ!その件についてですが!」
ナルシス様以外の騎士様全員が、私とドリィに向かって口々に叫びます。
「団長閣下とプランティエ職人長のお怒りはごもっともですが、ナルシスにはどうぞ寛大な措置をお願いいたします!自害はあんまりです!」
「そうです!功績もあります!お二人が王都に行っている間の討伐で、ナルシスが大活躍しました!」
「魔獣を十五頭も屠りました!確認も取れています!」
「最初はどうしようもねえ貴族のクソ坊ちゃんでしたが、牢から出た後は真面目に勤めてます!」
「だ、だからその……お二人とも今もお怒りだとは思いますが、許してやってくれませんか?」
「私たちはすでに許していますし、自害も止めようとしていたのですが……。ドリィ?まさか貴方、牢から出た後もなにかしたの?」
ギクっと、肩を揺らして目を逸らすドリィ。
「出発前の訓練で、それなりに鍛えてやっただけだ」
『それなり』という言葉に引きつる皆さま。
「絶対にそれなりではないでしょう。やり過ぎは駄目です」
厳しく訓練するのは理由あってのことだとわかっていますが、私よりもそれを知っている皆様が怯えているのです。
ナルシス様が死を覚悟するだけの苛烈さがあったのでしょう。
「ドリィ、すでに罪を償った方を責めてはいけません。今後は配慮しなさい。わかったわね?」
「んんっ!る、ルティに叱られ……良い……!」
「ドリィ、ふざけないで。何が良いというの?」
「いや、ふざけてはいないよ。わかった。もうしないと君に誓う」
キリッとした顔で誓うドリィ。私とドリィに頭を下げて退出する皆さま。
一応、ナルシス様には「己を卑下するような言動は慎んでください。自害などもってのほかです」と、注意しましたがどこまで聞いて頂けるでしょうか……。
お義父様は苦笑して大丈夫だと言います。
「あの若造は二人、特にルルティーナに忠義を誓っているから言いつけは守るさ。忠義というか信仰に近いみたいだし」
「私を信仰!?なぜです!?」
「そりゃ命の恩がある上に、聖女みたいだからだな」
「え?命の恩というのはわからないでもありませんが、聖女とは?」
「やっぱり自覚なしか。……まあ、あの若造が思い込みが激しいということあるんだろうが」
よくわかりません。そして何故か、その場にいた全員から生暖かい眼差しが送られました。
仕切り直すように、アドリアン様が口を開きます。
「ともかく、もう馬鹿な真似はしないだろう。もしそうなっても同僚たちが止めるから心配ない」
「はい。ナルシス様が周りの方々と上手くいっているようで安心しました」
「ナルシスの過去の過ちは、奴らにとっても他人事ではないだろうからな
辺境騎士団が【あまり者の墓場】などと呼ばれていた理由の一つは、問題のある騎士の更迭に使われていたからだ。それを俺たちで叩き直しているから、ナルシスの事も他人事ではない。むしろ親近感があるのだろう」
さらに補足すると、ナルシス様が所属している部隊は、そういった過去を持つ方が多いのだそうです。
「そういうことでしたか」
納得しつつ、私が知る騎士の皆様は立派な方々ばかりなので現実味がありません。
それだけ、ドリィたちの指導が素晴らしいのでしょう。
たまにやり過ぎているのでは?とは、思いますが。
「ドリィは素晴らしい指導者でもあるのですね。尊敬します」
「っ!ルティ!」
「きゃ!ちょっとドリィ?」
ドリィが私を抱き上げます。いきなりのことで身動きがとれませんでした。
そんな私を愛おしそうに見つめ、ドリィが誓います。
「ルティに誓う。これからは更に奴らを叩き直して躾け……」
「ドリィ、やり過ぎは駄目だといいましたよね?駄目ですからね?あと降ろして下さい」
「……はい」
「手を繋ぐのも無しです」
私は辺境騎士団のこれからのため、しっかり釘を刺したのでした。
「躾が必要なのは団長閣下ですしね」
「だよなあ」
「忠犬になるか駄犬になるか……」
辛辣な言葉を聞きつつ、私たちは居住区域に向かいました。
他の方々にもお声がけを頂いたりと、なかなかすすみませんでしたが。
ともかく、私たちはミゼール城に帰ってきたのです。
◆◆◆◆◆
自室に入って一息ついて、お風呂に入りました。
今夜は久しぶりのミゼール領。お風呂に入ったら着替えて、ドリィとお義母様たちと晩餐会です。
ゆっくりお風呂を楽しんだ後は、シアンたちによる髪と肌の手入れです。様々な花のエッセンスが入った化粧水と香油。全身がしっとりとしていきます。
シアンたちの手つきも、いつも通りとても優しくて……。
「気持ちいい……」
急激に眠くなっていきます。
シアンが優しい声で「今日はもうお休みなさいませ」と、言って寝間着をきせます。
「旅と先ほどの騒動のせいで、お疲れが出たのでしょう」
「やだ……久しぶりの料理長の料理……ドリィとお義父様お義母様と晩餐を頂きたいのに……」
「皆様にはお伝えしておきますから」
「んんん……ねむくない……」
「ルルティーナ様、目が開いてないのに無理がありますよ」
抵抗むなしく、寝台まで運ばれてしまいました。
「皆様とは明日もお会いできます。それに、明日は大宴会ですよ?料理長も腕を振るいます。たくさん寝て体調を整えた方が楽しめますよ」
「大宴会……そうね……たのしみ……シアンたちも、参加するのよね?」
そう。明日から三日三晩の大宴会は無礼講。シアンたち侍女や侍従、衛兵、下働きの皆様も交代で参加するのです。
きっと楽しい時を過ごせるでしょう。
「ふふふ。ええ、もちろん参加させて頂きます。ですから今日はもう、お休みなさいませ」
「うん……シアン……わがまま……ごめん……おやす……み……」
「はい。おやすみなさいませ。ルルティーナ様」
明日への期待でワクワクしながら眠るなんて、とっても幸せね。
なんだか幸せすぎて涙が滲んだのでした。
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