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43話 王家のお茶会 1
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本日は、両陛下とシャンティリアン王太子殿下とのお茶会の日です。
名目は「ミゼール領の様子をお話しする為の私的なお茶会」ということになっています。ご招待されたのは私とアドリアン様だけです。
私は、濃い桃色の生地に白い薄布のフリルやレースを重ねた薄紅色のドレス。
アドリアン様はいつもの黒い騎士装束です。
そしてここは、王城にある王家の居住区内です。国王陛下の侍従長様が、道案内して下さっています。
アドリアン様にエスコートされながら、私は緊張で胸が張り裂けそうになっていました。
まさか自分が王家の私的なお茶会に招かれるだなんて!夢見たことすらなかったのに!
【夏星の大宴】の時は、ある事を確信していた事もあり二つ返事で頷きました。
どうしても、アドリアン様にお茶会に参加していただきたかったのです。
ですが我に返った今は、緊張でどうにかなりそうです。
案内される場所が王族の私的な場ということもあり、謁見の時よりも緊張しているかもしれません。
王妃陛下の侍女だったお義母様は、そんな私を励まして下さりましたが……。
『貴女の礼儀作法には問題ないし、私的なお茶会だから臆することはないわ』
『は、はい……ですが……』
『ルルティーナ!もっと堂々となさい!【夏星の大宴】も立派に乗り切ったというのに情け無い!
そもそも貴女は、自らの功績でプランティエの家名と伯爵位を手に入れたのです!自信を持ちなさい!』
『お義母様ー!駄目です!身分を意識すると余計に緊張してしまいます!』
と、叫んでしまいました。
ああ、緊張でご挨拶の文言を忘れてしまいそう。お義母様、お義父様、お義兄様、お義姉様、シアン、ニト、リル……。ルルティーナはもう無理かもしれません。
アドリアン様と違って。
私をエスコートするアドリアン様は、私と違い平静なご様子です。
昨日も、いま着ているドレスを贈って下さったばかりか。
『ルルティーナ嬢、緊張しなくて大丈夫だ。君は素晴らしい人なのだから』
と、励ましてくださりました。
そんなアドリアン様に恥をかかせてはいけないと、余計に緊張しましたが……。
ちらりと、アドリアン様の横顔を見ます。
丁寧に整えられた金髪、はっきりとした雄々しくも凛々しい顔立ち、鮮やかな青い瞳……。
アドリアン様、今日も素敵……。いえいえ私ったら!こんな時に何を考えてるの!
別の意味でドキドキしてしまい、目線を下にずらします。
あ、嬉しい。
次はニヤニヤしかけて、慌て顔を引き締めました。でも、仕方ありません。
今日のアドリアン様は、いつもの黒い騎士衣装姿です。ただ、以前は無かったマント用のブローチをつけていらっしゃいます。
銀と青い宝石で出来たブローチは、私からの初めての贈り物です。
贈り物をどうするか。シアンとお義母様に相談しました。出来るだけ早く贈りたいことも添えて。
『ルルティーナ様が刺繍したハンカチに、ルルティーナ様が調合した身体を冷やす薬茶ですか。閣下はどちらもお喜びになられるでしょう。うらやましい』
『シアン、本音がダダ漏れ過ぎよ。どちらもいいじゃない。実用性重視なのもアドリアン坊ちゃん向きね。でも、どちらも今すぐは無理じゃないかしら?』
『確かにそうですね……』
ハンカチと薬茶はミゼール領に戻ってから用意することにして、今回は王都で購入できる実用性のあるものにしました。
そして昨日、お義母様行きつけの宝飾店でこのブローチに出会ったのです。
『アドリアン様にぴったりだわ!』
昨日の夕食の際、アドリアン様に渡しました。飛び上がらんばかりに喜んで下さります。
『ありがとうルルティーナ嬢!こんな素敵な贈り物は初めてだ!一生着けている!』
そんな風に言って頂けて……。
今朝、伝えそびれたから後で伝えよう。私こそ、さっそく着けていただけて嬉しいと。
そんな風に考えていると、応接間に着きました。
「こちらです。……アドリアン・ベルダール辺境伯、ルルティーナ・プランティエ伯爵、ご入来です」
内側から扉が開き、私達は入室しました。
応接間は、爽やかな早緑色と柔らかな白でまとめられていてとても素敵です。
中央にあるテーブルの一辺に、王妃陛下、国王陛下、王太子殿下が一列に並んで座っていらっしゃいます。
また、近衛騎士と侍従侍女がそれぞれ十数人、お三方の警護と茶菓子の給仕の為に控えています。
私とアドリアン様は、謁見の時のようにご挨拶しました。
豊かな金髪に緑の瞳、威厳と貫禄に満ちた国王陛下が頷きます。
「うむ。ベルダール辺境伯、プランティエ伯爵。よくぞ参った。着席を許す。楽にせよ」
青みがかった銀髪に鮮やかな青い瞳、高貴さと美貌を備えた王妃陛下は微笑みます。
「足労をかけましたね。こうしてお会いできる日を楽しみにしていましたよ」
国王陛下に良く似た色彩と、王妃陛下譲りの美貌を持つ王太子殿下の気さくな声が響きます。
「二人と忌憚なく話せる日を楽しみにしていた。私たちにミゼール領のことを教えて欲しい」
しばらくは、芳しい紅茶と宝石のようなお菓子と共にお話しましたが……。
「……お前たち、少し下がっていてくれ」
王太子殿下のお言葉に従い、近衛騎士と侍従侍女の大半が応接間を出ていきます。
残ったのは、近衛騎士と侍女一人ずつです。それ以外は私達と王族の皆様だけになりました。
一体何事かと構えていると、国王陛下の緑色の瞳が翳りを帯びました。
「ルルティーナ・プランティエ伯爵、長年にわたり苦労をかけた。全ては、ヴェールラント王家と司法局の責任だ」
「っ!?」
両陛下と王太子殿下が、【私に視線を合わせてから目を伏せ】ました。
身分差がはっきりとしている我が国において、両陛下は家臣に謝罪を明言することはありません。このように仰り方と仕草で示されるのです。
中でも【謝罪相手に視線を合わせてから目を伏せる】のは最大限の謝意を表します。
私は驚きのあまり声を上げかけましたが、テーブルの下でアドリアン様に手を握られ、何とかこらえました。
「恐れ多いお言葉でございます。ですが、全ての責は【夏星の大宴】で明らかになった通り、アンブローズ侯爵家にございます」
「うむ。表向きはな。……卿は聡明だ。ある程度は察しているだろうが、この度のこと……卿の保護が遅れた理由と背景を説明させて欲しい」
アドリアン様の手の力が増し、固い声が場を打ちました。
「国王陛下。恐れながら異議がございます」
「うむ。申せ」
「はっ。プランティエ伯爵は、忌まわしい出来事から解放されたばかりです。前触れもなく思い出させるというのは、浅慮というものではございませんか?」
国王陛下に向かってなんということを!
ギョッとすると同時に、鮮やかな青い瞳に怒りが浮かんでいるのに気づきます。
……お優しい方。私の心を心配して、怒って下さるのね。
アドリアン様。貴方はいつだってそうだった。私のためを想って怒り、私を守って下さった。
だけど私は。
アドリアン様の手をほどき、今度は私から握りなおします。ハッとした様子で私を見ます。
「ベルダール辺境伯閣下、私は構いません。私にとっては終わったこと。過去の話に過ぎません」
「しかしルルティ……プランティエ伯爵、君は……」
鮮やかな青い瞳が揺れます。なんて優しくて美しい人なのでしょう。
「私の傷は全て、ベルダール辺境伯閣下と皆様が癒して下さいました。傷つけられるばかりだったルルティーナ・アンブローズはもういません。
これからの為にも、私は真実を知りたいです」
「……そうだな。そうだった。昔から、君は俺よりもずっと強い人だった」
「いいえ。私は強くなどありません。アドリア……ベルダール辺境伯閣下がいて下さらなければ、今もあの小屋の中にいたままだったでしょう。けれどこれからは、貴方を守れるくらい強くなりたい」
「ルルティーナ嬢……!」
互いの指を絡めるように手を握りなおし、前方に向き直りました。
少し呆れたように口の端を上げた国王陛下、満足そうに微笑む王妃陛下、なぜか苦笑いな王太子殿下と目が合います。
「どうか、真実をお教えください」
「うむ。全ての原因は、元司法局局長アンビシアン・ルビィローズ公爵の野心だ」
名目は「ミゼール領の様子をお話しする為の私的なお茶会」ということになっています。ご招待されたのは私とアドリアン様だけです。
私は、濃い桃色の生地に白い薄布のフリルやレースを重ねた薄紅色のドレス。
アドリアン様はいつもの黒い騎士装束です。
そしてここは、王城にある王家の居住区内です。国王陛下の侍従長様が、道案内して下さっています。
アドリアン様にエスコートされながら、私は緊張で胸が張り裂けそうになっていました。
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『は、はい……ですが……』
『ルルティーナ!もっと堂々となさい!【夏星の大宴】も立派に乗り切ったというのに情け無い!
そもそも貴女は、自らの功績でプランティエの家名と伯爵位を手に入れたのです!自信を持ちなさい!』
『お義母様ー!駄目です!身分を意識すると余計に緊張してしまいます!』
と、叫んでしまいました。
ああ、緊張でご挨拶の文言を忘れてしまいそう。お義母様、お義父様、お義兄様、お義姉様、シアン、ニト、リル……。ルルティーナはもう無理かもしれません。
アドリアン様と違って。
私をエスコートするアドリアン様は、私と違い平静なご様子です。
昨日も、いま着ているドレスを贈って下さったばかりか。
『ルルティーナ嬢、緊張しなくて大丈夫だ。君は素晴らしい人なのだから』
と、励ましてくださりました。
そんなアドリアン様に恥をかかせてはいけないと、余計に緊張しましたが……。
ちらりと、アドリアン様の横顔を見ます。
丁寧に整えられた金髪、はっきりとした雄々しくも凛々しい顔立ち、鮮やかな青い瞳……。
アドリアン様、今日も素敵……。いえいえ私ったら!こんな時に何を考えてるの!
別の意味でドキドキしてしまい、目線を下にずらします。
あ、嬉しい。
次はニヤニヤしかけて、慌て顔を引き締めました。でも、仕方ありません。
今日のアドリアン様は、いつもの黒い騎士衣装姿です。ただ、以前は無かったマント用のブローチをつけていらっしゃいます。
銀と青い宝石で出来たブローチは、私からの初めての贈り物です。
贈り物をどうするか。シアンとお義母様に相談しました。出来るだけ早く贈りたいことも添えて。
『ルルティーナ様が刺繍したハンカチに、ルルティーナ様が調合した身体を冷やす薬茶ですか。閣下はどちらもお喜びになられるでしょう。うらやましい』
『シアン、本音がダダ漏れ過ぎよ。どちらもいいじゃない。実用性重視なのもアドリアン坊ちゃん向きね。でも、どちらも今すぐは無理じゃないかしら?』
『確かにそうですね……』
ハンカチと薬茶はミゼール領に戻ってから用意することにして、今回は王都で購入できる実用性のあるものにしました。
そして昨日、お義母様行きつけの宝飾店でこのブローチに出会ったのです。
『アドリアン様にぴったりだわ!』
昨日の夕食の際、アドリアン様に渡しました。飛び上がらんばかりに喜んで下さります。
『ありがとうルルティーナ嬢!こんな素敵な贈り物は初めてだ!一生着けている!』
そんな風に言って頂けて……。
今朝、伝えそびれたから後で伝えよう。私こそ、さっそく着けていただけて嬉しいと。
そんな風に考えていると、応接間に着きました。
「こちらです。……アドリアン・ベルダール辺境伯、ルルティーナ・プランティエ伯爵、ご入来です」
内側から扉が開き、私達は入室しました。
応接間は、爽やかな早緑色と柔らかな白でまとめられていてとても素敵です。
中央にあるテーブルの一辺に、王妃陛下、国王陛下、王太子殿下が一列に並んで座っていらっしゃいます。
また、近衛騎士と侍従侍女がそれぞれ十数人、お三方の警護と茶菓子の給仕の為に控えています。
私とアドリアン様は、謁見の時のようにご挨拶しました。
豊かな金髪に緑の瞳、威厳と貫禄に満ちた国王陛下が頷きます。
「うむ。ベルダール辺境伯、プランティエ伯爵。よくぞ参った。着席を許す。楽にせよ」
青みがかった銀髪に鮮やかな青い瞳、高貴さと美貌を備えた王妃陛下は微笑みます。
「足労をかけましたね。こうしてお会いできる日を楽しみにしていましたよ」
国王陛下に良く似た色彩と、王妃陛下譲りの美貌を持つ王太子殿下の気さくな声が響きます。
「二人と忌憚なく話せる日を楽しみにしていた。私たちにミゼール領のことを教えて欲しい」
しばらくは、芳しい紅茶と宝石のようなお菓子と共にお話しましたが……。
「……お前たち、少し下がっていてくれ」
王太子殿下のお言葉に従い、近衛騎士と侍従侍女の大半が応接間を出ていきます。
残ったのは、近衛騎士と侍女一人ずつです。それ以外は私達と王族の皆様だけになりました。
一体何事かと構えていると、国王陛下の緑色の瞳が翳りを帯びました。
「ルルティーナ・プランティエ伯爵、長年にわたり苦労をかけた。全ては、ヴェールラント王家と司法局の責任だ」
「っ!?」
両陛下と王太子殿下が、【私に視線を合わせてから目を伏せ】ました。
身分差がはっきりとしている我が国において、両陛下は家臣に謝罪を明言することはありません。このように仰り方と仕草で示されるのです。
中でも【謝罪相手に視線を合わせてから目を伏せる】のは最大限の謝意を表します。
私は驚きのあまり声を上げかけましたが、テーブルの下でアドリアン様に手を握られ、何とかこらえました。
「恐れ多いお言葉でございます。ですが、全ての責は【夏星の大宴】で明らかになった通り、アンブローズ侯爵家にございます」
「うむ。表向きはな。……卿は聡明だ。ある程度は察しているだろうが、この度のこと……卿の保護が遅れた理由と背景を説明させて欲しい」
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「はっ。プランティエ伯爵は、忌まわしい出来事から解放されたばかりです。前触れもなく思い出させるというのは、浅慮というものではございませんか?」
国王陛下に向かってなんということを!
ギョッとすると同時に、鮮やかな青い瞳に怒りが浮かんでいるのに気づきます。
……お優しい方。私の心を心配して、怒って下さるのね。
アドリアン様。貴方はいつだってそうだった。私のためを想って怒り、私を守って下さった。
だけど私は。
アドリアン様の手をほどき、今度は私から握りなおします。ハッとした様子で私を見ます。
「ベルダール辺境伯閣下、私は構いません。私にとっては終わったこと。過去の話に過ぎません」
「しかしルルティ……プランティエ伯爵、君は……」
鮮やかな青い瞳が揺れます。なんて優しくて美しい人なのでしょう。
「私の傷は全て、ベルダール辺境伯閣下と皆様が癒して下さいました。傷つけられるばかりだったルルティーナ・アンブローズはもういません。
これからの為にも、私は真実を知りたいです」
「……そうだな。そうだった。昔から、君は俺よりもずっと強い人だった」
「いいえ。私は強くなどありません。アドリア……ベルダール辺境伯閣下がいて下さらなければ、今もあの小屋の中にいたままだったでしょう。けれどこれからは、貴方を守れるくらい強くなりたい」
「ルルティーナ嬢……!」
互いの指を絡めるように手を握りなおし、前方に向き直りました。
少し呆れたように口の端を上げた国王陛下、満足そうに微笑む王妃陛下、なぜか苦笑いな王太子殿下と目が合います。
「どうか、真実をお教えください」
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