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24話 二つ目の報告とドレスの準備

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 アドリアン様が帰還して半月が経ちました。季節は爽やかな初夏へと移っていました。

 あれからミゼール城、いえ、ミゼール領全体が上へ下への大騒ぎです。

 新特級ポーションの効力については、王都の魔法局から宮廷魔法師様方が調査に訪れて、詳しく検証されました。すぐに実証され、より詳しい調査が進んでいるそうです。

 私はほとんど関与しません。宮廷魔法師の方々とお話したのも数回だけです。
 アドリアン様が配慮して下さりました。

『いや、囲い込みの一環ですよ。男がいる場合は自分も同席しなければ許さないとか言ってましたし』

『怖……。あれはルルティーナちゃんを一生離さない気だね』

 シェルシェ様とカルメ様のお言葉ですが、きっと考えすぎです。アドリアン様のお優しさに決まっています。

 こう言い聞かせないと、期待してしまいそうなのです。

 調査の経過にかんしては、アドリアン様が教えて下さります。
 本日も、私の隣の椅子に座るアドリアン様は、優しい顔でこれまでのおさらいをして下さります。

「一度、君の今回の功績を振り返ろう。ある騎士が討伐中に、新特級ポーションの瓶を地面に落として割ってしまった。すると、落ちた場所を中心に瘴気が浄化されていったんだ」

 さらに、宮廷魔法師様方の検証ではより効率のいい使用法を編み出してくださりました。

「新特級ポーションを水属性魔法で散布する。あるいは、光属性魔法の使い手に飲ませて《浄化魔法》を発動させれば、これまでの五倍近くの範囲を浄化できるとわかった。魔獣を討伐しなければいけないのは変わらないが、魔境の浄化と開墾が急速に進むのは間違いない。
 ルルティーナ嬢、君のお陰だ」

 ありがたいお言葉です。ですが。

「あの、それと今の状況は一体?本日は経過を聞くだけだったはずですが、こちらの方々は?」

 そう。ここは私の居住区の居間なのですが、この場に居るのは、私とアドリアン様とシアンたちだけではありません。
 対面に、ギラギラした眼差しの女性たちがいます。何人かは画帳と分厚い本を手にしています。また、彼女たちの背後には山のような衣装箱があります。

「もちろん、君の王都用のドレスを調整する者たちだ。安心してくれ。全員、一流のデザイナーとお針子だ」

 フッと、意識が遠のきかけました。
 そうです。半月前、アドリアン様が討伐から帰還した時に言っていた『報告したいこと』は二つありました。
 一つは新特級ポーションが瘴気を浄化したこと。もう二つは。

『新特級ポーションの威力は凄まじすぎる。ポーション査定の関係もあるので、君自身も一度は登城しなければならない。
 両陛下と王太子殿下もぜひにとのお仰せだ。君が人前に出るのが得意では無いと知っているので、俺としても遺憾だが……最低でも両陛下と王太子殿下との謁見と、宮廷舞踏会に出席した方が体裁もとれる。
 それに、実に都合よく全てを終わらせられる。君は俺が守るから、一緒に登城してくれないだろうか?』

 と、言うことでした。あまりにも大きくなり過ぎた話に呆然としていると、いつの間にか登城は決定事項となりました。
 一カ月後に出発です。

「せめて謁見で着るドレスと宮廷舞踏会で着るドレスだけでも、生地から作らせたかったが……流石に時間が足りない。
 だから、俺がすでに作らせていたドレスを調整することになったんだ」

 すでに作らせていた?私は幻聴を聞いているのでしょうか?いえ、その前に。

「あの、謁見と宮廷舞踏会なのですが、私も出席しなければならないのでしょうか?魔境の浄化も開墾もポーションの活用も、全てはアドリアン様のご配慮あってのことです。私ごときはいらな……」

「ルルティーナ嬢」

「っ!」

「俺にエスコートされるのは嫌だろうか?確かに俺は血生臭く無骨な……」

「アドリアン様は素敵です!ご立派な騎士様です!そんな風に仰らないで……」

「うん。君も素敵だ。だから自分を蔑むようなことは言わないでくれ。悲しくなる」

「アドリアン様……」

 胸がきゅうきゅう締め付けられます。顔が、いえ全身が熱いです。

「ごめんなさい。私、その、まだ自分を大切にすることが下手で……」

「わかっている。だから俺が、君を大切にして甘やかすよ。ルルティーナ嬢。この世で一番綺麗な君。君のドレスを用意してエスコートする栄誉を、俺に与えてくれないだろうか?」

「……はい」

 私は甘い言葉に頷いてしまったのでした。

「それでは、始めさせて頂きます」

 衣装箱から色とりどりのドレスが現れます。
 代表のデザイナー、サンティ様がキリッとした眼差しで述べます。

「ルルティーナ様、ベルダール団長閣下。まずは、謁見用と宮廷舞踏会用のドレスを先にお決めになられるべきかと存じます。
 謁見はこちらの三着、宮廷舞踏会はこちらの五着のいずれかがよろしいかと存じます」

 謁見用候補のドレスは、生地がそれぞれ白色、薄紅色、銀色です。
 三着とも、ふんわりとしたプリンセスラインのドレスです。装飾が控えめで肌を出し過ぎない、愛らしさと上品を備えたデザインです。
 また、私は出れなかったデビュタントを意識しているのか、私の髪や瞳の色に由来する色です。
 宮廷舞踏会用候補のドレスは、生地がそれぞれ青色、水色、紫色、薄紅色、黄色です。
 五着は、それぞれ全く違う形と雰囲気です。ただ、どのドレスも刺繍やフリルやリボンやレースなどが施され、華やかなことが共通しています。
 しかもダンスを踊ることを意識してるからか、とっても軽いのです!

「可愛い……綺麗……素敵……」

 私はうっとりしてしまいました。

「うん。君に似合いそうなドレスを見かける度に作らせていてよかった。全部捨てがたいな」

 本当に、私のために用意されたドレスなのですね……。視界が霞んでいきます。

「あの、アドリアン様、ありがとうございます。とても嬉しい……です」

「ルルティーナ嬢、感激してくれるのは嬉しいが、泣かないでくれ。君の笑顔が見たいんだ」

 優しい指がそっと涙を拭って下さります。私はその優しさに身をゆだね……。

「コホン!お二人とも、サンティ様がお困りですよ」

「「!」」

 私とアドリアン様は慌てて離れつつ、頭を捻ります。
 どれもこれも素敵なのです。

「ルルティーナ嬢、お願いがあるのだが……」

「え?ぜ、全部着てみるのですか?あら?シアン、サンティ様?目がギラギラ光っ……あああああ」

 こうして私は寝室に連行……案内され、全てのドレスを着ることになったのでした。
 それからはまるで戦場の忙しさでした。

「謁見用はこちらの白!この純白に花の刺繍のドレスが一番です!歩かれる度に花びらのように揺れる裾のフリルは至高!」

「流石だシアン!確かに一理ある!だがしかし俺は薄紅を押す!色はもとよりこの光の角度によって銀に浮き上がる刺繍!ルルティーナ嬢のプリムローズや野薔薇を思わせる可憐さと!麗しい白銀の髪を引き立たせるからだ!」

「私、サンティとしましては銀を推します!シルエットは可憐ですが落ち着いた色合いの銀が、成人をむかえた女性の魅力と気品を強調します!さらにはルルティーナ様の思慮深さと聡明さを表現するのです!」

「ぐっ!なかなかですわね!サンティ様!」

「ああ!やるじゃないか!強敵だな!」

「はわわ……」

 狼狽える私に反して、ニトとリルは生温い笑みを浮かべます。

「ルルティーナ様、お着替えお疲れ様です。お茶はいかがですか?ベリーのタルトとフルーツゼリーがございますよ」

「お三方はしばらくあの調子でしょう。落ち着いてから、ルルティーナ様のご希望を申されたらよろしいかと存じます」

「そう……ね?……とりあえず、ベリーのタルトを頂くわ。お針子の皆様にもお茶を出して差し上げてね」

 落ち着いたら……本当に落ち着くのかしら?
 私は遠い目をしながら、お三方の議論を眺めていたのでした。





 ◆◆◆◆◆




 数時間後、謁見用と宮廷舞踏会用のドレスが決まりました。私が恐る恐る希望を話すと、あっさり確定したのです。
 そのかわり、王都滞在中に必要なドレスやワンピースなどはお三方に完全にお任せすることになりました。

「ああ、どのドレスも花の妖精も女神もかくやの可憐さと美しさで捨て難かった……」

「ええ、実に有意義な議論でした。滞在用を選ぶ際に活かしましょう」

「私も勉強になりましたわ。幾つか新しいデザインとアイデアが浮かびましたので、後日ご覧いただけるよう調整いたします」

「フッ……シアン、サンティ、これからも頼む。共にルルティーナ嬢に相応しい装いを用意していこう!次は生地を織らせるところからだ!」

「「はいっ!喜んで!」」

「ルルティーナ様。お三方は放っておいて、選ばれたドレスの微調整をされた方が良いかと。このままでは、いつまでも終わりません」

「お針子様たちによると、少し調整するだけで大丈夫だそうです。半月もかからないとか。皆さま、寝室で待機されています」

「はい。せっかくのドレスですから、素敵に着こなせるようしっかり調整して頂きますね」

 なんだかとても疲れましたが、皆さまのお気持ちがとても嬉しかったのでした。


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