【本編完結】不吉と蔑まれた黒狼獣人は、お人好しな戦友に求愛する【番外編更新予定】

花房いちご

文字の大きさ
2 / 15

黒狼獣人は戦友を想う②

しおりを挟む
 ルークの柔らかな笑みに、俺は見惚れた。

「戦争が終わったんだ。君だって自由の身だ。そうだろう?」

 深く納得する。ルークの言う通りだ。俺を縛るものは無くなった。俺を捨てた糞みたいな肉親とは縁を切ったし、今後の身の振り方も決まっている。

 俺は冒険者になる。

 そのための資金もバッチリ貯めた。あとは試験に合格して実績を積むだけだ。

 王都を拠点にすれば、獣人が差別される事も少ないという。その為の伝手もある。何もうれうことはない。

 ただ……ひどく寂しかった。何故だかわからないが。

「あれ?耳をらしてどうしたの?落ち込んでる?お腹すいた?僕がビスケットもらったせいかな?……んぐっ」

 ルークが食いかけのビスケットを差し出す。奪って口に突っ込んでやった。

「いらねえよ。お前の故郷までは遠いんだから、しっかり食っておけ。……確か、南の方だったか?」

「んぐむぐ……。うん。南部だよ。あ、そうだ!」

 ルークは自分の背嚢リュックに手を突っ込み、ごちゃごちゃとかき回した。

(整理整頓が苦手で物を探すたびに散らかす癖も、結局は治らなかったな)

 ルークのことはルーク以上に知っている自信がある。この五年間ずっと一緒にいたからだろう。
 だが、そんな日々も今日までだ。
 当たり前のことなのに、寂しい。胸に穴が空いたようだ。

(何故だ?クソったれな戦場とおさらばできるんだぞ?夢だって叶うんだ。何を寂しがる必要が……)

「あった!ダンにあげる!」

「は?おいルーク!これは大切な物だろう?」

「えへへ。そうだよ。覚えててくれたんだね」

 当たり前だ。そのくしゃくしゃの封筒を見間違えるものか。
 ルークの家族から届いた手紙だ。
 戦場では、手紙もまともに届かないし送れない。唯一届いたそれを、ルークは何度も読み返していた。

「中身はあげないよ。封筒だけあげる」

「は?」

「気が向いたら、封筒に書いてある住所に来てよ。僕はそこで暮らしてるから」

 心臓がどくりと鳴った。

「ダン。僕の村に来て欲しい。一緒に暮らそう」

 ルークと暮らす。俺はその誘いに驚いて、耳と尻尾をピンと立てた。
 そんな俺を見てどう思ったか、ルークは顔を赤らめて一生懸命話す。

「山あいの田舎だけど景色が綺麗なんだ。温暖で温泉とかもあるし、平和な頃は観光で栄えてた。名物の肉料理は君の口にもあうと思うよ。それに、魔獣が多いから冒険者の移住は大歓迎だ。君も暮らしやすいと思う」

 フッと、自分が笑って尻尾を振っているのがわかった。

「いいな。楽しそうだ。冒険者資格を取ったら行ってやる」

「本当!?やったあ!」

「ああ、本当だ。お前の村なら、狼が来たぞって騒がれないだろうしな」

 この国は、田舎に行くほど獣人への偏見が強い。特に狼や犬の獣人は嫌われ恐れられている。人間やドワーフの戦友たちの中にすら、いまだに俺たち獣人を蔑む者もいる。
 ましてや俺は、不吉の象徴と噂される黒狼の獣人だ。同じ獣人の中にも、俺を避ける奴は多い。
 だが、ルークの生まれ育った村なら大丈夫だろう。初対面で『君!格好いいね!黒曜石みたいな黒毛だ!』とか言ってたし。

「うん!みんな良い人だから大丈夫!安心して来て!僕が君の『衣食住と心身の安寧を誓う』から!」

「ん?なんだその言い回し?」

「あっ!こ、これは……」

 なぜかルークが真っ赤になった。

「こ、故郷の言い回しで『貴方の衣食住と安全を保障します』みたいな意味なんだ。おかしな言葉じゃなくって……」

「へえ。そうなのか。他にもあるのか?」

「え、えーと。『貴方の影に蛇が巣食いませんように』とかかな?旅の安全を祈る言い回しで……」

「面白いな。もっと聞かせてくれよ。お前の故郷の話。綺麗な景色の話も聞きたい」

「う、うん!君に一番見せたい景色は……」

 ルークは快く話してくれた。
 やがて部隊は目的地に着き、解散が宣言された。
 俺は王都へ、ルークは故郷の村へとそれぞれ旅立ったのだった。


 ◆◆◆◆◆

 俺は、過去から現実に戻った。

「あれから半年か」

 口にすると、時の流れを実感する。





◆◆◆◆◆



ここまでお読みいただきありがとうございます。
閲覧、お気に入り登録、ハート、エールなどの反応ありがとうございます。大変励みになっております。引き続きよろしくお願いいたします。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...