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ファルロの回想・七年前【2】
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ファルロら騎竜兵部隊が重々しく行軍し、街道を進む。補給物資も自ら運ぶ為大所帯だ。物資を守るかのように、騎竜兵らは大きな盾を手にしている。盾と馬具が擦れる音が夏空に響いた。
いま通っている街道は、ゴルハバル帝国とルフランゼ王国の交易が活発だったころ使われていたものだ。今は廃れているため、行進を阻む者はいない。
街道はやがて、ザルードと言われる岩山ばかりの地帯に差し掛かる。山を切り拓いて通された街道は、進むほど荒れてゆく。谷底を這うように行軍して三日。晴れた日の昼下がり。突然、その匂いがした。
魔法の匂いだ。
(来たか!)
「来るぞ!盾を構えろ!」
ファルロの声が響くと同時。雷鳴が響き渡り、谷底が雷と炎に飲まれた。さらに油の入った樽や袋も落ちてくる。熱波が吹き荒れ、雷は何度も落ち、破壊音と絶叫が響き渡り、谷底から天を焼く火柱が上がる。
時間にして半時間経った。雷と炎が落ち着いていく。
谷の上で音がした。足音からして歩兵だ。煙で目を傷めながら谷底に目を凝らし、耳を澄ませているらしい。
「煙でよく見えませんが、黒い塊と炎が……何か光っているが、あれは盾か?」
「いや見えた!奴らは黒焦げだ。ご覧下さい!一人も生きちゃいませ……」
谷底を覗きこんだ歩兵の一人が、安心して身を乗り出した。
谷底に蠢く者どもは、素直に喜ぶ様に笑いを堪えつつ狙いを定めた。
「放て!」
「ギャアアアアア!」
無数の槍が飛ぶ。歩兵たちを貫く。致命傷を受けた何名かが谷底に落ちてきた。
一人がファルロの頭上に落ちてくる。ファルロは頭上に掲げたままだった『氷晶盾』で、その死体を弾き飛ばした。
『氷晶盾』の分厚い氷の結界は砕け、盾そのものもヒビが入った。
(流石にあれだけの雷撃と炎を受ければ保ちませんか。しかし、思った以上に効果がある)
騎竜兵部隊の約半数に配布した『氷晶盾』の分厚い氷の結界は、雷撃と炎熱からファルロたちを守った。見た目はただの盾だ。体格のいい獣人の半身を隠せる大きさで、鈍い銀色の金属で構成されている。素材は氷晶龍の鱗や皮で、取手を握り込むと握った者の魔力を吸い上げ魔法が発動する。
ファルロはもともと魔法に興味があった。獣人は身体が大きく力が強い。魔法も使えれるようになれば、さらに強くなれる。ファルロは私財を投じ、魔法使いたちに研究させていた。
そして五年前、ラズワートとの戦いがヒントとなった。ラズワートは炎や雷を出すのではなく、自分や武器を強化していた。
ただ魔法を使うより自分たち獣人にあっているのではないか。ラズワートがしたように、自分たち獣人も武具を強化できないか。
また、魔道具はあくまで魔法を補強する道具だが、魔道具そのもので魔法を使えるようにならないだろうか。
そうした発想のもと生まれたのが、この新しい魔道具……後に戦場に革命をもたらす『魔法兵器』第一号『氷晶盾』の威力であった。
それでも、騎竜兵、騎竜、歩兵の二割以上が死ぬか戦闘不能状態になった。盾が上手く作動しなかったり、暴走を起こしたり、魔力不足で威力が上がりきらなかったり、魔力を吸われすぎたのだ。だが、あの煉獄から七百人以上が戦える状態で生き延びた。快挙だ。
(叔父上に良い報告が出来ますね)
あえて奇襲を受け、威力を確認した甲斐がある。ファルロは満足し、叫んだ。
煙と燃え残った炎で視界は悪いが、方角はわかっている。
「前進しろ!盾を構えたまま走れ!」
煙の中を走る。間もなく、矢が雨と降り注いだ。盾で防ぐ者、盾が壊れたため自らの身体や剣で弾く者。皆、適切な対応をした。しかし。
───ドカン!───
爆発音が響き、熱風が吹く。千切れた脚や手が飛んだ。
「なんだ!?なにが起こった!?」
「そんな!ただの矢だったぞ!それにちゃんと盾で弾いてた!」
その矢は、たった一本で盾と騎竜ごと数人を吹き飛ばした。大半はただの矢だが、刺さった瞬間爆発するとてつもない威力の矢が混じっている。
ファルロは不謹慎にも大声で笑いたくなった。
五年前には無かった武器だ。辺境軍もさらに強くなっている。
(ああ!ラズワート!貴方は素晴らしい!早く来なさい!また戦いましょう!)
いま通っている街道は、ゴルハバル帝国とルフランゼ王国の交易が活発だったころ使われていたものだ。今は廃れているため、行進を阻む者はいない。
街道はやがて、ザルードと言われる岩山ばかりの地帯に差し掛かる。山を切り拓いて通された街道は、進むほど荒れてゆく。谷底を這うように行軍して三日。晴れた日の昼下がり。突然、その匂いがした。
魔法の匂いだ。
(来たか!)
「来るぞ!盾を構えろ!」
ファルロの声が響くと同時。雷鳴が響き渡り、谷底が雷と炎に飲まれた。さらに油の入った樽や袋も落ちてくる。熱波が吹き荒れ、雷は何度も落ち、破壊音と絶叫が響き渡り、谷底から天を焼く火柱が上がる。
時間にして半時間経った。雷と炎が落ち着いていく。
谷の上で音がした。足音からして歩兵だ。煙で目を傷めながら谷底に目を凝らし、耳を澄ませているらしい。
「煙でよく見えませんが、黒い塊と炎が……何か光っているが、あれは盾か?」
「いや見えた!奴らは黒焦げだ。ご覧下さい!一人も生きちゃいませ……」
谷底を覗きこんだ歩兵の一人が、安心して身を乗り出した。
谷底に蠢く者どもは、素直に喜ぶ様に笑いを堪えつつ狙いを定めた。
「放て!」
「ギャアアアアア!」
無数の槍が飛ぶ。歩兵たちを貫く。致命傷を受けた何名かが谷底に落ちてきた。
一人がファルロの頭上に落ちてくる。ファルロは頭上に掲げたままだった『氷晶盾』で、その死体を弾き飛ばした。
『氷晶盾』の分厚い氷の結界は砕け、盾そのものもヒビが入った。
(流石にあれだけの雷撃と炎を受ければ保ちませんか。しかし、思った以上に効果がある)
騎竜兵部隊の約半数に配布した『氷晶盾』の分厚い氷の結界は、雷撃と炎熱からファルロたちを守った。見た目はただの盾だ。体格のいい獣人の半身を隠せる大きさで、鈍い銀色の金属で構成されている。素材は氷晶龍の鱗や皮で、取手を握り込むと握った者の魔力を吸い上げ魔法が発動する。
ファルロはもともと魔法に興味があった。獣人は身体が大きく力が強い。魔法も使えれるようになれば、さらに強くなれる。ファルロは私財を投じ、魔法使いたちに研究させていた。
そして五年前、ラズワートとの戦いがヒントとなった。ラズワートは炎や雷を出すのではなく、自分や武器を強化していた。
ただ魔法を使うより自分たち獣人にあっているのではないか。ラズワートがしたように、自分たち獣人も武具を強化できないか。
また、魔道具はあくまで魔法を補強する道具だが、魔道具そのもので魔法を使えるようにならないだろうか。
そうした発想のもと生まれたのが、この新しい魔道具……後に戦場に革命をもたらす『魔法兵器』第一号『氷晶盾』の威力であった。
それでも、騎竜兵、騎竜、歩兵の二割以上が死ぬか戦闘不能状態になった。盾が上手く作動しなかったり、暴走を起こしたり、魔力不足で威力が上がりきらなかったり、魔力を吸われすぎたのだ。だが、あの煉獄から七百人以上が戦える状態で生き延びた。快挙だ。
(叔父上に良い報告が出来ますね)
あえて奇襲を受け、威力を確認した甲斐がある。ファルロは満足し、叫んだ。
煙と燃え残った炎で視界は悪いが、方角はわかっている。
「前進しろ!盾を構えたまま走れ!」
煙の中を走る。間もなく、矢が雨と降り注いだ。盾で防ぐ者、盾が壊れたため自らの身体や剣で弾く者。皆、適切な対応をした。しかし。
───ドカン!───
爆発音が響き、熱風が吹く。千切れた脚や手が飛んだ。
「なんだ!?なにが起こった!?」
「そんな!ただの矢だったぞ!それにちゃんと盾で弾いてた!」
その矢は、たった一本で盾と騎竜ごと数人を吹き飛ばした。大半はただの矢だが、刺さった瞬間爆発するとてつもない威力の矢が混じっている。
ファルロは不謹慎にも大声で笑いたくなった。
五年前には無かった武器だ。辺境軍もさらに強くなっている。
(ああ!ラズワート!貴方は素晴らしい!早く来なさい!また戦いましょう!)
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