4 / 31
クリスティアンの罪と罰
しおりを挟む
「ロージー!なんだその姿は!私を騙していたのか!?」
「あはは!本当に間抜けで馬鹿だねえ!元王子様!」
「なんだと貴様ぁ!国王である父上はともかく!たかが男爵令嬢がこの私をなんと言った!」
「間抜けで馬鹿って言ったに決まってるじゃない!アンタは猶予を与えられていたのに、全部自分で台無しにした大馬鹿者だよ。そうだよねえ?国王陛下」
「うむ」
国王は頷き、再びあの厳然たる覇気を纏った。
「四年前。貴様を廃嫡し、増長が過ぎる元第二側妃とガーデニア公爵一族を始末するはずだった。だが決め手にかけた。
貴様の廃嫡は、王族の数が少ないために諸侯から反対され果たせなかった。元第二側妃とガーデニア公爵の罪は、その時点では貴様の教育に失敗しただけだ。粛正するには弱かった。
第一側妃エスタリリーへの度重なる不敬は目に余ったがな」
(当たり前だ!)
クリスティアンは顔をしかめた。銀髪金眼の第一側妃エスタリリーは、ゴールドバンデッド侯爵家を寄親とする男爵家の出身だ。
下位貴族の産まれにも関わらず、国王の寵愛をティアーレから奪い第一側妃に収まった悪女だ。クリスティアンはそう教えられながら育った。
だから四年前の夜会でも、エスタリリーの子であるレオナリアンを公然と侮辱したのだ。
(農業政策だの治水だの交通整備だの!土臭い功績しかない下賎の女だ!)
クリスティアンは本気でそう思っていた。シルビアーナや教師たちから『第一側妃の功績がいかにエデンローズ王国を栄えさせ、どれだけ重要か』何度も何度も説明された。が、その度に鼻で笑って無視した。
たかが賤しい男爵令嬢よと見下していたのだ。
先ほどまで最愛と呼び、婚約者にしようとしたローズメロウも男爵令嬢なのだが、クリスティアンは矛盾に気づかない。どこまでも自分本位な考えしか持っていないのだ。
「加えて貴様は幼かった。だから四年の猶予と教育を与えた。その一環として結ばれたのが、シルビアーナ嬢との婚約だ。
エスタリリーとの縁戚であり、見目も似ているシルビアーナ嬢をどうあつかうか。王命による婚約者を重んじるか否か。また、シルビアーナ嬢と教師たちからの教育でどう成長するか。
貴様の成長次第では、王太子に指名するのもやぶさかではなかった。
だがこの四年の間、貴様がしたことと言えば、元第二側妃と共に国庫を貪り駄々をこねた。それだけだ」
その通り。クリスティアンと元第二側妃は怒り狂い、シルビアーナを蔑ろにし、あげくの果てに公の場で婚約破棄することにした。
さらに元第二側妃は『これ以上、男爵令嬢の下位に甘んじる屈辱には耐えられない』と言ってガーデニア公爵に泣きつき、今回の謀叛を企てさせたのだった。
「貴様たちのような愚物は生かしておけぬ。計画を把握した時点で、貴様の廃嫡が決まった。
王命に逆らい謀叛を企てた叛逆者よ。貴様と元第二側妃らガーデニア公爵一族は、一人残らず刑に処す。どのような刑になるかは議会で決定するが覚悟するのだな」
「しょ、処刑……そんな……嫌だああ!死にたくない!嫌だ!あんまりですぅ!どうかお慈悲を!」
クリスティアンは、恐怖で涙と鼻水を垂れ流して哀願した。だが、国王は冷ややかに見下ろすばかりだ。
「貴様に与える慈悲か。それは、この四年で尽きた」
「ひっ!ひいい!嫌だ!」
クリスティアンは必死に暴れるが、あっさりと騎士たちに押さえられてしまう。それでも、なんとか助かろうと暴れ、頭を働かせる。
(誰か私を助けろ!父上は駄目だ。母上も公爵も使えない!ローズメロウは裏切り者だ!誰か!誰かいないか?)
そして、自分を助けられるのはただ一人だと気づく。
献身的に尽くしてくれた婚約者だけだと。
「シルビアーナ!私を助けろ!私を愛しているのだろう!助けろ!結婚してやるから!私と結婚できるのだぞ!嬉しいだろう!」
「お断りします」
「そうだ!私を助け……な、なんと言った?」
「お断りしますと申し上げました」
シルビアーナはクリスティアンを見つめて繰り返した。眼差しも声も冷たくもないが温かくもない、路傍の石を見るがごとく何の感情も温度もなかった。
「私に課せられた王命はここまででございます」
「王命……だと?」
「ええ。要約すると、【クリスティアン殿下との婚約が継続する限り、クリスティアン殿下に対し教養と良識を教育する】ことが私に課せられた王命でした。殿下が婚約破棄を宣言した時点で終了です。
それに、私が貴方を愛したことは一度もございません」
「なっ!そ、そんなはずはない!貴様は私を愛しているだろう!」
「どうしてそう思われたのですか?」
「どうしてだと?あんなにも私に尽くしていたじゃないか!」
「いいえ。愛ではなく王命だったからです」
「いいや違う!私が何を言っても怒らなかった!それどころか表情すら変えずに尽くし続けたではないか!愛がなければ不可能だ!」
クリスティアンは笑ってそう言ったが、シルビアーナの眉がピクリと動き、端正な美貌に怒りが滲む。
「私はずっと怒っていました。表情には出さないようにしていましたので、鈍い貴方では気づけなかったのでしょう」
「なっ?!そ、そんなはず……」
否定しようとしてクリスティアンは思い出した。
(そういえばこの表情を見たことがある。シルビアーナの専属侍女を殴った時だったか)
一年ほど前の出来事だ。クリスティアンはシルビアーナに手を上げてしまった。
専属侍女が庇ったのでシルビアーナは無傷だった。だが、代わりに専属侍女が怪我を負ってしまったのだ。
『なんてことをなさるのですか!』
あの時、初めてシルビアーナが声を荒げた。
『たかが侍女が怪我をしただけだろう』
クリスティアンは吐き捨てて、その場から離れた。涙を含んだ声が聞こえる。
『リリ、リリ、ああ可哀想に。お医者様のところに連れて行ってあげるからね』
(あんな声を出せるのか?私は聞いたことないぞ!)
苛立ちのまま振り返ると、目が合った。
『ヒッ!?』
今のシルビアーナと同じ、凄まじい怒りに燃え上がる黄金色の瞳と。
クリスティアンは回想を振り切る。
(だ、だがそれでも!シルビアーナは私を愛しているはずだ!そうであるべきだ!)
「シルビアーナ!いいかげん素直になれ!君はローズメロウが私に近づく度に嫉妬していたじゃないか!
君の献身に気づくのが遅れたが、これからは私も愛してやる。だから私を助け……ひぇっ?!」
「この私が」
黄金色の瞳が剣の切先の鋭さでクリスティアンを睨む。クリスティアンはすくみ上がった。
「この私が貴方を愛している?どんなに諌めても言動を改めない、事あるごとに私を侮辱する無礼者を?
私の大切な方を傷つけた幼稚な愚か者を?
しかも貴方を愛しているから嫉妬したですって?
うふふ。ご冗談でしょう?」
侮蔑を込めた眼差しと声。クリスティアンの膨れ上がった自尊心を切り裂いていく。
「確かに嫉妬はしましたが、貴方を愛していたからではありません。
私の愛する方は貴方ではありませんし、これから先も貴方なんて愛しません。
貴方が私の婚約者だったなんて吐き気がしますわ」
「そんな……シルビアーナ……」
「話は済んだな。クリスティアンを【北の塔】に連れて行け」
クリスティアンは頭から麻袋を被せられて連行された。
◆◆◆◆◆
「な、なんだここは?」
クリスティアンが気づいた時には、石造りの部屋の中にいた。カビ臭く薄暗い。簡素な寝台、トイレ代わりの汚物箱しかない。
明かり取り用の小さな窓には鉄格子が嵌り、唯一の出入り口は鉄の扉だ。
その扉に刻まれている文字を見て戦慄する。
【罪深き汝。かつての王の子よ。己が罪を見つめ裁きを待て】
不勉強なクリスティアンでも知っている。
王都郊外にある、罪を犯した王族を収容する塔の扉に刻まれる文言だと。
この塔に入って、公開処刑される以外で出られた王族はいない。
「嫌だ死にたくない!」
クリスティアンは鉄の扉を叩きながら叫んだ。
「ここから出せ!出せー!私は王子だぞ!シルビアーナ!シルビアーナ!私を愛しているだろう!助けろ!私を助けてくれー!」
「あはは!本当に間抜けで馬鹿だねえ!元王子様!」
「なんだと貴様ぁ!国王である父上はともかく!たかが男爵令嬢がこの私をなんと言った!」
「間抜けで馬鹿って言ったに決まってるじゃない!アンタは猶予を与えられていたのに、全部自分で台無しにした大馬鹿者だよ。そうだよねえ?国王陛下」
「うむ」
国王は頷き、再びあの厳然たる覇気を纏った。
「四年前。貴様を廃嫡し、増長が過ぎる元第二側妃とガーデニア公爵一族を始末するはずだった。だが決め手にかけた。
貴様の廃嫡は、王族の数が少ないために諸侯から反対され果たせなかった。元第二側妃とガーデニア公爵の罪は、その時点では貴様の教育に失敗しただけだ。粛正するには弱かった。
第一側妃エスタリリーへの度重なる不敬は目に余ったがな」
(当たり前だ!)
クリスティアンは顔をしかめた。銀髪金眼の第一側妃エスタリリーは、ゴールドバンデッド侯爵家を寄親とする男爵家の出身だ。
下位貴族の産まれにも関わらず、国王の寵愛をティアーレから奪い第一側妃に収まった悪女だ。クリスティアンはそう教えられながら育った。
だから四年前の夜会でも、エスタリリーの子であるレオナリアンを公然と侮辱したのだ。
(農業政策だの治水だの交通整備だの!土臭い功績しかない下賎の女だ!)
クリスティアンは本気でそう思っていた。シルビアーナや教師たちから『第一側妃の功績がいかにエデンローズ王国を栄えさせ、どれだけ重要か』何度も何度も説明された。が、その度に鼻で笑って無視した。
たかが賤しい男爵令嬢よと見下していたのだ。
先ほどまで最愛と呼び、婚約者にしようとしたローズメロウも男爵令嬢なのだが、クリスティアンは矛盾に気づかない。どこまでも自分本位な考えしか持っていないのだ。
「加えて貴様は幼かった。だから四年の猶予と教育を与えた。その一環として結ばれたのが、シルビアーナ嬢との婚約だ。
エスタリリーとの縁戚であり、見目も似ているシルビアーナ嬢をどうあつかうか。王命による婚約者を重んじるか否か。また、シルビアーナ嬢と教師たちからの教育でどう成長するか。
貴様の成長次第では、王太子に指名するのもやぶさかではなかった。
だがこの四年の間、貴様がしたことと言えば、元第二側妃と共に国庫を貪り駄々をこねた。それだけだ」
その通り。クリスティアンと元第二側妃は怒り狂い、シルビアーナを蔑ろにし、あげくの果てに公の場で婚約破棄することにした。
さらに元第二側妃は『これ以上、男爵令嬢の下位に甘んじる屈辱には耐えられない』と言ってガーデニア公爵に泣きつき、今回の謀叛を企てさせたのだった。
「貴様たちのような愚物は生かしておけぬ。計画を把握した時点で、貴様の廃嫡が決まった。
王命に逆らい謀叛を企てた叛逆者よ。貴様と元第二側妃らガーデニア公爵一族は、一人残らず刑に処す。どのような刑になるかは議会で決定するが覚悟するのだな」
「しょ、処刑……そんな……嫌だああ!死にたくない!嫌だ!あんまりですぅ!どうかお慈悲を!」
クリスティアンは、恐怖で涙と鼻水を垂れ流して哀願した。だが、国王は冷ややかに見下ろすばかりだ。
「貴様に与える慈悲か。それは、この四年で尽きた」
「ひっ!ひいい!嫌だ!」
クリスティアンは必死に暴れるが、あっさりと騎士たちに押さえられてしまう。それでも、なんとか助かろうと暴れ、頭を働かせる。
(誰か私を助けろ!父上は駄目だ。母上も公爵も使えない!ローズメロウは裏切り者だ!誰か!誰かいないか?)
そして、自分を助けられるのはただ一人だと気づく。
献身的に尽くしてくれた婚約者だけだと。
「シルビアーナ!私を助けろ!私を愛しているのだろう!助けろ!結婚してやるから!私と結婚できるのだぞ!嬉しいだろう!」
「お断りします」
「そうだ!私を助け……な、なんと言った?」
「お断りしますと申し上げました」
シルビアーナはクリスティアンを見つめて繰り返した。眼差しも声も冷たくもないが温かくもない、路傍の石を見るがごとく何の感情も温度もなかった。
「私に課せられた王命はここまででございます」
「王命……だと?」
「ええ。要約すると、【クリスティアン殿下との婚約が継続する限り、クリスティアン殿下に対し教養と良識を教育する】ことが私に課せられた王命でした。殿下が婚約破棄を宣言した時点で終了です。
それに、私が貴方を愛したことは一度もございません」
「なっ!そ、そんなはずはない!貴様は私を愛しているだろう!」
「どうしてそう思われたのですか?」
「どうしてだと?あんなにも私に尽くしていたじゃないか!」
「いいえ。愛ではなく王命だったからです」
「いいや違う!私が何を言っても怒らなかった!それどころか表情すら変えずに尽くし続けたではないか!愛がなければ不可能だ!」
クリスティアンは笑ってそう言ったが、シルビアーナの眉がピクリと動き、端正な美貌に怒りが滲む。
「私はずっと怒っていました。表情には出さないようにしていましたので、鈍い貴方では気づけなかったのでしょう」
「なっ?!そ、そんなはず……」
否定しようとしてクリスティアンは思い出した。
(そういえばこの表情を見たことがある。シルビアーナの専属侍女を殴った時だったか)
一年ほど前の出来事だ。クリスティアンはシルビアーナに手を上げてしまった。
専属侍女が庇ったのでシルビアーナは無傷だった。だが、代わりに専属侍女が怪我を負ってしまったのだ。
『なんてことをなさるのですか!』
あの時、初めてシルビアーナが声を荒げた。
『たかが侍女が怪我をしただけだろう』
クリスティアンは吐き捨てて、その場から離れた。涙を含んだ声が聞こえる。
『リリ、リリ、ああ可哀想に。お医者様のところに連れて行ってあげるからね』
(あんな声を出せるのか?私は聞いたことないぞ!)
苛立ちのまま振り返ると、目が合った。
『ヒッ!?』
今のシルビアーナと同じ、凄まじい怒りに燃え上がる黄金色の瞳と。
クリスティアンは回想を振り切る。
(だ、だがそれでも!シルビアーナは私を愛しているはずだ!そうであるべきだ!)
「シルビアーナ!いいかげん素直になれ!君はローズメロウが私に近づく度に嫉妬していたじゃないか!
君の献身に気づくのが遅れたが、これからは私も愛してやる。だから私を助け……ひぇっ?!」
「この私が」
黄金色の瞳が剣の切先の鋭さでクリスティアンを睨む。クリスティアンはすくみ上がった。
「この私が貴方を愛している?どんなに諌めても言動を改めない、事あるごとに私を侮辱する無礼者を?
私の大切な方を傷つけた幼稚な愚か者を?
しかも貴方を愛しているから嫉妬したですって?
うふふ。ご冗談でしょう?」
侮蔑を込めた眼差しと声。クリスティアンの膨れ上がった自尊心を切り裂いていく。
「確かに嫉妬はしましたが、貴方を愛していたからではありません。
私の愛する方は貴方ではありませんし、これから先も貴方なんて愛しません。
貴方が私の婚約者だったなんて吐き気がしますわ」
「そんな……シルビアーナ……」
「話は済んだな。クリスティアンを【北の塔】に連れて行け」
クリスティアンは頭から麻袋を被せられて連行された。
◆◆◆◆◆
「な、なんだここは?」
クリスティアンが気づいた時には、石造りの部屋の中にいた。カビ臭く薄暗い。簡素な寝台、トイレ代わりの汚物箱しかない。
明かり取り用の小さな窓には鉄格子が嵌り、唯一の出入り口は鉄の扉だ。
その扉に刻まれている文字を見て戦慄する。
【罪深き汝。かつての王の子よ。己が罪を見つめ裁きを待て】
不勉強なクリスティアンでも知っている。
王都郊外にある、罪を犯した王族を収容する塔の扉に刻まれる文言だと。
この塔に入って、公開処刑される以外で出られた王族はいない。
「嫌だ死にたくない!」
クリスティアンは鉄の扉を叩きながら叫んだ。
「ここから出せ!出せー!私は王子だぞ!シルビアーナ!シルビアーナ!私を愛しているだろう!助けろ!私を助けてくれー!」
23
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
転生おばさんは有能な侍女
吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした
え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀?
転生おばさんは忙しい
そして、新しい恋の予感……
てへ
豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!
〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····
藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」
……これは一体、どういう事でしょう?
いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。
ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全6話で完結になります。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる