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四章 天上の青、地上の雫
天上の青、地上の雫 九話
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夕飯を終えて、セレスティアは眠りについた。
(ふかふかのベッド、いい気分)
ティリアの工房兼自宅には、空き部屋が幾つかあった。
セレスティアとジェドは一部屋づつあてがわれたのだが、何故かジェドは『俺は外で寝る!野営で充分だよ!』と主張した。ティリアは許さなかったが。
(ジェド様、生殺しがどうとか言ってたけどなんだろう?まあいいか。それより……)
セレスティアは、先ほどのジェドとの会話を思い出した。
セレスティアは明日、王都で旅の準備してルディア王国に戻りたいと言った。
ジェドは渋った。行きよりも帰りの方が困難だという。
『ルディアの結界は、出るよりも入る方が難しくなっているはずだ』
確かにそうだが、セレスティアには魔力の流れが見える【魔眼】がある。多少の時間はかかるかもしれないが、焦らずに見定めれば入れるはずだ。
他にも理由がある。
(理由を他国人のジェドさんに言うべきではないけど、現政権は信用ならない。父様たちも力さえあれば反旗を翻す気だった。なによりもルディアとフリジアが対立した場合、辺境軍に頼られているジェドさんが巻き込まれる可能性は高い)
セレスティアは、現政権への不信感もふくめて全てを話すことにした。
『ジェドさんには返しきれない恩があります。結界について、私が知っていることをお教えします。情報と私の見立てが確かなら、結界は不安定なまま安定することはありません。
むしろ、さらに不安定になるでしょう』
『っ!それは何故だい?』
セレスティアは顔を曇らせた。セレスティアの父が収集した話は酷いものだったから。
『あの結界は、大量の魔道具と魔法使いが維持しているのです』
魔道具と魔法使いたちは、国境沿いの塔に分けて入れられて働かされている。魔法使いたちは、魔道具の補強があるとはいえ、強力で巨大な結界を張れる優秀な光属性魔法の使い手たちだ。
『本来なら丁重に扱われるべきですが……彼らは虐げられていて、次々と命を落としているそうです。そして、その度に新しい魔法使いを追加しているのですが、だんだんと数も減って実力も下がっている。結界が不安定なのも当たり前ですね』
彼らは、現政権とは意見が異なる魔法使いたちだ。信じられない暴挙である。
『酷い話です。現政権は、彼らを闇属性魔法の【最上級洗脳】で従わせているらしいです』
『……そうか。噂は本当なんだな』
ジェドの琥珀色の目が強く光り、厳しい顔になった。
『セレスティア、教えてくれてありがとう』
その後は、明日何を買うかの相談になった。セレスティアにとっては、結界の中に入ってからの方が心配だ。ジェドはついて来れないのだから。
『食料と服と霊避けの護符は必要ですね。まあ、護符に関しては要らないかもしれませんが、念のため』
セレスティアは霊を闇俗世魔法の【忘却】で祓える。
ジェドは祓えないが、霊感があるので物や人に取り憑いた霊も見ることができる。
それにセレスティアは、一度倒れてから霊を全く見てない。国境から王都までの道のりでも、一体も見なかった。
「この辺りでも、大規模な霊討伐をしたのでしょうか?こんなに霊に絡まれないし見かけないのは初めてです」
一瞬、ジェドは複雑な顔になった。
『ああ、そうかもな。俺も戻ったばかりだから知らないけど。……それより、ティリアが君に古着を贈りたいと言っていたよ』
『え!助かります!お二人には、何から何までお世話になりました。いずれご恩返しをさせて下さい』
『とんでもない!ティリアの働きはともかく、俺のやった事なんて大した事ないよ。そんなことより、君が教えてくれた情報の借りは絶対に返すからね』
『そんな大袈裟な』
『いいや。当然の対価だ。君に心残りがないようにすると誓うよ』
ジェドの真剣な顔と共に話し合いはお開きになった。
色々と違和感が多い会話だった。その正体は掴めそうで掴めない。まだ考えていたかったが、明日も早いのだから寝なければならない。
(【ガニュメデスの水瓶】を、送り届けなきゃいけないんだから。それまで、私は……)
セレスティアは青空色の目を閉じ、眠りに落ちた。
◆◆◆◆◆
翌日。朝食の後、ティリアから服を渡された。
とても綺麗な刺繍が施された、青空色のフード付きローブだ。なんと、古着を天上釣鐘で花染めてくれたのだと言う。
「わあ綺麗!本当に頂いてよろしいのですか!?」
しかも、美しいだけではない。しっかり水属性魔法の力で染まっているので、魔道具として使える。
「もちろんです。私にはこんなことしか出来ませんが……」
「とんでもないです!宝物にします!」
ティリアは眩しそうに目を細め、羽織るようにすすめてくれた。セレスティアはローブを羽織り、外に出た。
朝の光の中でくるくる回る。ローブの裾が広がる。青い蝶が戯れているかのようだ。
「セレスティア!よく似合っているよ!」
「本当に。姿見でご覧になりますか?」
「いいえ!鏡なら自分で用意できます!」
(【ガニュメデスの水瓶】が無くても、このローブならきっと出来る)
セレスティアは動きを止めて集中した。
「水面よ水面、磨かれよ。水面よ水面、全てを映せ。水面よ、水面、真を写す鏡となれ【水鏡】」
セレスティアの周りを螺旋状に水流が巡り、正面で楕円形にまとまっていく。
(やった!こんなに水属性魔法が上手くいったのはじめて)
水の楕円は大きく縦長く薄くなり、くすみのない鏡となっていき……。
「……え?」
写った己の姿に、セレスティアは固まった。
「え?だ……誰?」
髪と目は青空色だが、顔立ちも背丈も違った。手で触って、その手の形や大きさも己のものとは違うと気づく。
「これは私の身体じゃない」
(ふかふかのベッド、いい気分)
ティリアの工房兼自宅には、空き部屋が幾つかあった。
セレスティアとジェドは一部屋づつあてがわれたのだが、何故かジェドは『俺は外で寝る!野営で充分だよ!』と主張した。ティリアは許さなかったが。
(ジェド様、生殺しがどうとか言ってたけどなんだろう?まあいいか。それより……)
セレスティアは、先ほどのジェドとの会話を思い出した。
セレスティアは明日、王都で旅の準備してルディア王国に戻りたいと言った。
ジェドは渋った。行きよりも帰りの方が困難だという。
『ルディアの結界は、出るよりも入る方が難しくなっているはずだ』
確かにそうだが、セレスティアには魔力の流れが見える【魔眼】がある。多少の時間はかかるかもしれないが、焦らずに見定めれば入れるはずだ。
他にも理由がある。
(理由を他国人のジェドさんに言うべきではないけど、現政権は信用ならない。父様たちも力さえあれば反旗を翻す気だった。なによりもルディアとフリジアが対立した場合、辺境軍に頼られているジェドさんが巻き込まれる可能性は高い)
セレスティアは、現政権への不信感もふくめて全てを話すことにした。
『ジェドさんには返しきれない恩があります。結界について、私が知っていることをお教えします。情報と私の見立てが確かなら、結界は不安定なまま安定することはありません。
むしろ、さらに不安定になるでしょう』
『っ!それは何故だい?』
セレスティアは顔を曇らせた。セレスティアの父が収集した話は酷いものだったから。
『あの結界は、大量の魔道具と魔法使いが維持しているのです』
魔道具と魔法使いたちは、国境沿いの塔に分けて入れられて働かされている。魔法使いたちは、魔道具の補強があるとはいえ、強力で巨大な結界を張れる優秀な光属性魔法の使い手たちだ。
『本来なら丁重に扱われるべきですが……彼らは虐げられていて、次々と命を落としているそうです。そして、その度に新しい魔法使いを追加しているのですが、だんだんと数も減って実力も下がっている。結界が不安定なのも当たり前ですね』
彼らは、現政権とは意見が異なる魔法使いたちだ。信じられない暴挙である。
『酷い話です。現政権は、彼らを闇属性魔法の【最上級洗脳】で従わせているらしいです』
『……そうか。噂は本当なんだな』
ジェドの琥珀色の目が強く光り、厳しい顔になった。
『セレスティア、教えてくれてありがとう』
その後は、明日何を買うかの相談になった。セレスティアにとっては、結界の中に入ってからの方が心配だ。ジェドはついて来れないのだから。
『食料と服と霊避けの護符は必要ですね。まあ、護符に関しては要らないかもしれませんが、念のため』
セレスティアは霊を闇俗世魔法の【忘却】で祓える。
ジェドは祓えないが、霊感があるので物や人に取り憑いた霊も見ることができる。
それにセレスティアは、一度倒れてから霊を全く見てない。国境から王都までの道のりでも、一体も見なかった。
「この辺りでも、大規模な霊討伐をしたのでしょうか?こんなに霊に絡まれないし見かけないのは初めてです」
一瞬、ジェドは複雑な顔になった。
『ああ、そうかもな。俺も戻ったばかりだから知らないけど。……それより、ティリアが君に古着を贈りたいと言っていたよ』
『え!助かります!お二人には、何から何までお世話になりました。いずれご恩返しをさせて下さい』
『とんでもない!ティリアの働きはともかく、俺のやった事なんて大した事ないよ。そんなことより、君が教えてくれた情報の借りは絶対に返すからね』
『そんな大袈裟な』
『いいや。当然の対価だ。君に心残りがないようにすると誓うよ』
ジェドの真剣な顔と共に話し合いはお開きになった。
色々と違和感が多い会話だった。その正体は掴めそうで掴めない。まだ考えていたかったが、明日も早いのだから寝なければならない。
(【ガニュメデスの水瓶】を、送り届けなきゃいけないんだから。それまで、私は……)
セレスティアは青空色の目を閉じ、眠りに落ちた。
◆◆◆◆◆
翌日。朝食の後、ティリアから服を渡された。
とても綺麗な刺繍が施された、青空色のフード付きローブだ。なんと、古着を天上釣鐘で花染めてくれたのだと言う。
「わあ綺麗!本当に頂いてよろしいのですか!?」
しかも、美しいだけではない。しっかり水属性魔法の力で染まっているので、魔道具として使える。
「もちろんです。私にはこんなことしか出来ませんが……」
「とんでもないです!宝物にします!」
ティリアは眩しそうに目を細め、羽織るようにすすめてくれた。セレスティアはローブを羽織り、外に出た。
朝の光の中でくるくる回る。ローブの裾が広がる。青い蝶が戯れているかのようだ。
「セレスティア!よく似合っているよ!」
「本当に。姿見でご覧になりますか?」
「いいえ!鏡なら自分で用意できます!」
(【ガニュメデスの水瓶】が無くても、このローブならきっと出来る)
セレスティアは動きを止めて集中した。
「水面よ水面、磨かれよ。水面よ水面、全てを映せ。水面よ、水面、真を写す鏡となれ【水鏡】」
セレスティアの周りを螺旋状に水流が巡り、正面で楕円形にまとまっていく。
(やった!こんなに水属性魔法が上手くいったのはじめて)
水の楕円は大きく縦長く薄くなり、くすみのない鏡となっていき……。
「……え?」
写った己の姿に、セレスティアは固まった。
「え?だ……誰?」
髪と目は青空色だが、顔立ちも背丈も違った。手で触って、その手の形や大きさも己のものとは違うと気づく。
「これは私の身体じゃない」
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